そのⅪ
中は薄暗く、入り口のドアを閉めると足元も見えないくらいの暗さです。
「ねえ、美晴。もう戻ろう。私たちじゃ無理だよ…。」
「千紘?」
気がつくと、千紘は美晴の手を強く握って泣いていました。
「確かに私たちは周りより魔法が使えるかもしれない。でもそれだけ。赤ちゃんを助けたいのは山々だけど、誘拐犯二人に立ち向かうなんて…。」
「ねえ、千紘。」
美晴は千紘の手を握り返しました。
「私たちの魔法はね、人々を幸せにする力があるの。そして、それができる人は限られているんだよ。だから私たちはやらなくちゃ。みんなのためにも。」
すると千紘はひっくひっく声をあげながらも、
「そうだね、行かなくちゃ。」
と力強い声で言いました。
「さて、千紘。発光系の魔法が得意だったよね?」
千紘はこの一言で美晴が何を言おうとしているのかわかりました。
「オッケー美晴。」
千紘は杖を前に出し、
「杖よ、光を灯したまえ!」
魔法は思いの力です。なので本当は呪文が必要なく、頭の中でイメージをすればいいのですが、千紘は決まって呪文みたいなものを唱えます。
たちまち千紘の杖の先端は明るくなり、周りがよく見えるようになりました。
「あそこだ、千紘。あそこが中央の部屋だ。」
二人はダッシュで一番奥にあったドアのもとまで行きました。
「いくよ、千紘。」
「うん、美晴。」
ドアノブをまわし、その先にあったのは―
次回で完結です。




