赤色矮星グリーゼ581g
赤色矮星グリーゼ581gは地球から僅か20光年の距離にあり、液体の海
と大気を持ち、生命の生存に適した星と古くから推定されていた。
最も早くに探査されるであろう惑星と思われていたが、従来の航法では行く
だけで30万年以上かかってしまう、近くても航行可能な手段は無かった。
赤色矮星グリーゼgの質量は地球の3倍程度、中心星の質量は太陽の3割程度
ダークホールを使う現在の航法では、太陽系から近すぎることが災いして探査が
後回しになっていた。
探査計画のテーブルに上がったのは、30世紀の後半になってからだった。
レッドアロー500人の乗員は誰もが、今回は近くて楽なミッション、
長くても2~3年で太陽系に帰れると信じていた。
長旅を終え、ダークホールを抜けて、レッドアローはゆっくり減速しながら
赤色矮星グリーゼ581gの静止衛星軌道に入った。
「この星は実に美しい、星の青さは地球以上だ、人類が誕生するまでの地球は
多分この星のような姿だったのだろう。」
窓から見える星を見て、ハンクは感動していた。
「家族を連れてくれば良かった、今回は観光ですね、船長。」
家族思いなバッハは上機嫌だ。
「調査に行かせてください、この星は美しい、一大リゾート星にできる可能性
が十二分にあります、g星がこれほど綺麗な星とは思いませんでした。」
観光資源を調べているポンドは早速上陸の許可を求めてきた。
「美しい女ほど危険な者は無いと言うぞ、滅多なことはないと思うが、調子に
乗らない方が良い!」
ベテラン航海士のケンイチがポンドの肩を叩いて、冗談だよと笑っていた。
「レッドアローは静止軌道に船を止め、30日間の機関点検に入る、
着陸シャトルを最優先で点検しろ、3日後に発進させる、リーダーはバッハだ、
先発メンバー選びはバッハに任せる。
長らく宇宙を飛び回っているが、これ程穏やかな星の調査は初めてだ。灯台
下暗しと言う諺があるが、このことを言うのだろう。」
ハンクは手短に指示を出した後も、しばらくg星に見入っていた。
g星は青い、広大な海がある、陸地には緑が多い、この環境なら、様々な
種の動物や植物が生息しているだろう。
上空から人工的な建造物は見当たらない、航空機は飛んでいない、高い
文化を持つまでには、生物は進化していないのかもしれない。
持っていたとして、精々石器程度だ、重装備を持っていく必要ない。
三日後、バッハは10名の調査員と20名の警備兵、装甲車を兼ねた調査車両と共にレッドアローを離れ、シャトルで赤色矮星グリーゼ581gへ向かった。
最初の3日間は低空で飛行し、上空から惑星の精密な撮影を行う、調査対象
場所を選んで、優先順位を決め、着陸し現地調査を行う。
動物が沢山いる、陸にも海にも大型動物がいる、まるで1億年前の地球を見
ている様だ。調査地には大型動物が少ない、安全そうな草原を選んで、シャトル
は着陸態勢に入った。
「ワクワクするなあ~」
生物学者のフィシュマンは興奮が収まらない。
草原には4足歩行の大小様々な動物がいる、フィシュマンは相手を刺激させ
ないように気を配りながら、鹿くらいの大きさの動物に近寄った。
その動物はフィシュマンが近づいても無関心だ、全く反応が無い。
フィシュマンは動物の背中に手を置いた、動物は逃げる気配もない。
「少し拍子抜けだな、大人しいと言うか、警戒心が無い、なぜ逃げないんだ。
ここには肉食獣がいないのだろうか、動物まで平和な世界だ。」
フィッシュマンは笑いながら警備兵のロイドを振り向いた。
「調査が楽で良いじゃないか、結構な話だ、野生ではなく、まるで動物園の
調査だ、これだけ安全では俺たちの出番は無さそうですね。」
ロイドはヘルメットを外し、安全が確認できた草原の大気を吸い込んだ。
フィシュマンは調査機材が入ったバックを開け、ハンド型スキャナーを取り
出した。この機材は動物の骨格や臓器を生きたまま調べることができる。
手始めにネズミくらいの大きさの小型動物をスキャンしてみた、
フィッシュマンの顔から血の気が引いた。
「なんだこの動物は、骨格はあるが、脳も臓器もない、ズンべらぼうだ!」
鹿は口が開かない、いや口が無い、目と思っていたのは模様で、実は目もない。
フィッシュマンは動物を片っ端からスキャンし始めた。小さな差異はあっても
動物の基本的な構造は似通っている、内臓も脳も無い。
これでは襲われない、動物は安全だ、聞きしに勝る平和な星だ。
最初の着陸調査を3時間で切り上げ、上空から大型陸上動物をシャトルを
使ってスキャンしてみた、フィッシュマンはモニターを見ながら頷いた。
「同じだ、やはり思った通り、この星の動物には共通した特徴がある。
彼らの祖先は恐らく共通、進化の過程で枝分かれを繰り返し、形は違うが、
同じ祖先に行き当たる、脳や臓器はどの動物にも存在しない。」
この星で生物学的な大発見ができそうだ、フィッシュマンは抑えようがない
程大きな胸の高鳴りを覚えていた。




