オデットの決断
あと2週間もすればオデット帰ってしまう、永遠の別れが迫ってきた。
時間が過ぎるのが怖い、時を刻む音さえ残酷だとスワンは感じていた。
オデットは相変わらず陽気に振る舞って、スワンとの時間を楽しんでいた。
女性がこんなに強いとは思わなかった、僕は両腕をもがれるほどつらいのに
よくあれ程陽気でいられるものだ、スワンはオデットに感心していた。
地球に帰ると言っても、準備はアンドロイドやクルーがすべてしてくれる
オデットがすることは何一つない。
いよいよ出発の前日になった、夜が明ければシャトルに戻り出発する。
スワンはずっとオデットを抱きしめていた。
「夜が明ければ、永遠に会えなくなるね、
これからは星を見ながら、オデットを思い浮かべる事にするよ。」
スワンの眼に涙が滲んでいた。
スワンを抱いていたオデットの手が、力が抜けたように下に落ちた。
慌ててスワンはオデットを抱えようとしたが、
スワンの手をすり抜け、オデットはそのまま地面に倒れこんだ。
「オデット、オデット、しっかりして、オデット」
スワンは必死に呼びかけたが、返事は無かった。
少し痙攣したようにみえたが、
オデットはスワンの腕の中で、息を引き取ってしまった。
「オデットー、オデットー、オデット~」
スワンの叫びが夜空に響いて、星が泣いていた。
翌朝、ニュクスやミネルウァ、ハンクが駆け付けて来たが、
オデットはスワンに抱かれたまま、帰らぬ人になっていた。
「悲しい、どうして死んじゃったの、やっとスワンに会えたのに。」
ニュクスは涙が止まらない、ミネルウァも号泣していた。
レッドアローが軌道を離れる時間は決まっている、
1時間後、ニュクス達はオデットの亡骸に別れを告げ、飛び立った。
スワンはオデットを抱えたまま泣き暮れていた。
陽が沈み、植物達の時間がやって来た。
スワンはずっとオデットの亡骸を抱いたまま、泣いていた。
抱いていたオデットの身体がゆっくり縮み始めてきた。
スワンは死後硬直が始まったと思い、オデットをそっと地面に寝かせた。
腕や足が縮んで、服の中に納まって行った。
スワンは変だなと思いながら、オデットを見ていた。
今度はオデットの服が破れ、身体が空に向けて伸びていく、
オデットはやがて、ヤシの木になった。
「こう言うことか、だからオデットは陽気で、別れが悲しくなかったんだ。」
ヤシの木になったオデットを見ながらスワンはつぶやいた。
「ウ~ ワ~ ア~ ~」
慣れないヤシの木の口では、オデットは上手く話すことができない。
「オデット慌てることは無いよ、直に慣れる。」
スワンは顔の涙を拭った。
「オデットの勇気には負けたよ、死ぬと解っていたら僕には飲めないと思う
ヤシになれるとは限らないし、植物になって程なく死んだ人もいた。」
しばらくして、やっとオデットは声を出すのに慣れて来た。
「貴方を残して地球に帰ったら、私は心を患ってきっと死ぬわ
どうせ死ぬならスワンに抱かれて死ぬ方が幸せに決まっているでしょう。」
オデットに迷いは無かった。
「これでスワンの子供を産めるわ、私ほんとうに幸せ!」
オデットはスワンを力いっぱい抱きしめた。
「スワン、ヤシの木って何人くらい子供をつくれるの?」
「いっぱいつくれる、こんなにいっぱいだ。」
「やった~。」
スワンはオデットの勇気と天真爛漫さに圧倒されていた。
レッドアローに戻ってもニュクスとミネルウァの涙は止まらなかった。
「私の大好きなオデット、どうして死んだの、ウウウ・・」
ミネルウァは大きな身体から、大粒の涙を流していた。
「ミネルウァ、オデットは幸せよ、きっと幸せよ、スワンに抱かれて
この星に来て、スワンと同じ所で死ねて幸せよ
オデットの死顔を見たでしょう、とても幸せそうだったわよ。」
言葉にしてからも、ニュクスはまた泣きじゃくった。
「凄いロマンチックな死に方ね、私も素敵な彼の腕に抱かれて死ねたら幸せ!」
ミネルウァはオデットに自分を重ねて想像していた。
「貴方にはハンクがいるじゃない。」
ニュクスが余計な事を言った。
「なによ、あんなポンコツ、人の夢を壊さないで!」
ミネルウァはぶち切れた。
この日以来、ニュクスとミネルウァは地球に帰るまで一言も口を聞かなくなった。
レッドアローの船内は険悪なムードになり、ハンクは冗談一つ言えなくなった。
行きはあれ程和やかで楽しそうだったのに、帰りは険悪ムードでピリピリだ、
地球まで3ヶ月もかかる、勘弁してくれよ、とハンクは思った。
予定時刻になり、レッドアローはダークホール地点に向けて発進した。




