ベビー誕生
「ニュクス、ホモサピエンスの移住計画は順調なようだな、君はマザーに近いので
差支えなければ教えて欲しいのだが、俺は地球に帰った時とんでもない物を見た、
一つはこの冷凍ホモサピエンス、もう一つ、軌道エレベーターを何基も増設し、
何かを運んでいた、エレベーターは引っ切り無しに動いていた、ホモサピエンスの移住には多すぎる、あれはいったい何を運んでいるのだ?」
ズッと気になっていたことをハンクはニュクスに聞いた。
「その件はホモサピエンスの移住計画ほど重要ではありません、お話しましょう。
軌道エレベーターで運んでいる物は2種類あります。 一つはホモサピエンスの
負の遺産、高レベル放射性廃棄物、核爆弾、未処理の使用済み核燃料などです。
ホモサピエンスは原子力発電所を世界中に作っていましたが、絶滅したため、
未処理の核廃棄物が大量に残されました、また、処理済みとして地下に埋めてあ
った分は、施設も老朽化し、最近の地殻変動で非常に危険な状態になりました。
原発から出た高レベル放射性廃棄物は現在の科学でも無害化はできません。
放射性物質の無害化する技術も無いのに原子力発電などすべきではなかったのです。
これら原子力関連のゴミは軌道エレベーターでシャトルに運び、トリトン宇宙
基地から老朽宇宙船を再利用して銀河の中心にある、巨大ブラックホールへ宇宙
船ごと捨てています。」
ニュクスは差し障りの無い範囲で疑問に答え始めた。
「もう一つは・・」
ニュクスが話し始めた所にアンドロイドが割って入った。
「ニュクスさん、ビッグニュースです、星のホモサピエンスに赤ちゃんが出来
ました。」
「エエ、それは嬉しい、この星には病院がありませんのに、良く頑張りましたね。
産んだのは誰ですか?」
「クリスです、赤ちゃんは女の子です。」
アンドロイドの報告を聞いてニュクスとミネルウァは両手を合わせて喜び合った。
「赤ちゃんの映像を見ることはできますか?」
ミネルウァがアンドロイドに聞いた。アンドロイドが部屋の真ん中に立体映像
を映し出した。
「クリスは草原で自力で出産したのですか、まだへその緒が切れていませんね、
出産が解らす、死ぬのかと思ったでしょう、可哀想に苦しかったでしょうね。
あっ、クリスが赤ちゃんを抱きました、その拍子にへその緒が切れた。
お乳を与えてます、ホモサピエンスに野生動物の本能が残っているのですね。
ショーンと言いましたね雄の方は、ずっと寄り添って心配そうにしてます。
良かった、ホモサピエンス移住計画を初めてから最初の赤ちゃんです。」
ニュクスの眼は涙で潤んでいた。
「他にも妊娠している雌がいます、この星はベビーラッシュになります。」
アンドロイド兵の厳つい顔が微笑んだ、奇妙な光景だとミネルウァは思った。
「画像をそのままにしてください、私からマザーに送ります。」
程なくしてマザーからニュクスに話しかけて来た。
「ニュクスやりましたね、ありがとう、私が思った通りです、ホモサピエンスは
g星に適応して、永住できそうです、g星は共存性が強いですから、幾ら
ホモサピエンスが進化しても、共存を簡単に打ち砕くことはできません。
ホモサピエンスは他の種との共存がいかに重要かを、この星から学ぶことに
なると思っています。スワンに私からのお礼を申し上げていた伝えてください。」
マザーは常に冷静だが、いかにお喜びかニュクスには解っていた。ニュクスは
直にこの喜びを伝えたくて、スワンの所に飛んだ。スワンは鯨の上で相変わらず
オデットと一緒だった。
「スワン退屈でしょう、貴方ほど優秀な方がヤシの木のままでは、好きな研究も
出来ませんし、マザーも惜しい人材と仰っていました。」
二人の間には、入り辛い雰囲気だったので、ニュクスは思わず心にも無い事を
言ってしまった。
「ニュクス、今日はわざわざそんなことを言うために来られたのですか?」
スワンは少し気を悪くして返事をした。
「失礼しました、余りお二人の仲が良いのでつい、申し訳ありません。そんな事
を言うために来たのではありません、良いお知らせです。スワンにご教授
いただいた方法でホモサピエンスを星に放しました。
11ヶ月で半数余りが死にましたが、残りは生存しています。そして、先ほど
初めての女の赤ちゃんが産まれました。」
ニュクスが言い終わるや、オデットが二人に割って入った。
「赤ちゃんですって!羨ましい、私もスワンの赤ちゃんが欲しい!」
「オデット、よしてくれ、僕はヤシの木だ、無理だよ、そんなの。」
スワンはオデットの本心を垣間見た思いで狼狽した。ニュクスもまた、二人に
余計な事をしたのではないかと気にやんだ。
「マザーから、スワンにお礼を言って下さいと、伝言されましたのでお伝えします。
マザーは赤ちゃん誕生をとてもお喜びです。」
「ニュクス、私に気を使わないでください、貴方が頑張ったからですよ。
ホモサピエンスはg星に環境適応できそうですね。」
スワンはニュクスを慰労した。ニュクスはそれ以上二人から飛び火しないように、
一礼して飛び去った。
「スワン、赤ちゃんが欲しい、貴方の赤ちゃんを産みたい。」
オデットの気持ちは収まらなかった。
「僕だって欲しいよできる事なら、でも幾ら科学者だって、不可能なものは不可能
なんだ、解っておくれ、僕はヤシの木なんだ。」
スワンが幾ら慰めても、オデットの気持ちは変わらなかった。




