再会
ハンクはレッドアローのコンピューターに指示し、
偵察衛星を使い、赤色矮星グリーゼ581gに生息する鯨を調べさせた。
「5万頭はいる、衛星から見るだけで星に5万頭いる、潜っているのも含めると、
これは大変だ、ここからスワン達をみつけるのか、気が遠くなる作業だ。」
「心配いりません、それ程手間はかかりません、
スワンが生きてさえいればオデットさんの力を借りれば探せます。
オデットさんはここから何でも良いですからスワンに呼びかけてください、
私はこの星の全ての植物の心にあなたの声を伝えます。
スワンが生きていれば、何らかの強い反応をするはずです。
その方角を辿って行けば、多分見つかります。」
ニュクスはオデットを向いて言った。
「そのような事ができるのですか、解りました、スワンに呼びかけます。」
「その前に、ハンク船長は私が指し示す方へシャトルを移動してください。」
ニュクスが言うとハンクは、
「お安い御用、いつでもどうぞ。」
オデットはスワンを呼びかけ始めた。
「スワン、オデットよ、スワン、貴方を探しに来ました、
スワン、聞こえていたら返事して、私はズッと貴方を待っていました、
スワン、お願い返事して・・・」
オデットは必死に何処にいるとも解らないスワンに呼びかけ続けた。
「ハンク、東北東に1万5千キロほど移動して。」
ニュクスが突然声を出した。
「い、生きているのかスワンが!」
ハンクは大声を出し、シャトルを東北東へ向かわせた。
「本当ですか、ニュクス、嬉しい、スワン、スワン、私よ、オデットよ・・」
「間違いありません、スワンです、スワンの声を聴かせます。」
ニュクスはスワンの声をオデットの心に伝えた。
「オデット聞こえるよ、何処にいるか解らないけど、聞こえる。
なんて無茶をするんだ、探しに来るなんて、でも君の声が聴けてうれしい。」
「スワン待ってて、今そちらに向かっているから・・」
オデットは胸が詰まって暫く声が出なくなってしまった。
ニュクスはシャトルが到着するまでスワンとオデットの会話を中継していた。
やがて大きな鯨の群れが見えた、その群れの何処かにスワンがいる。
オデットとニュクスは飛行スーツを着て、シャトルを飛び出した。
「あの鯨だわ、あの上にきっとスワンがいます。」
ニュクスは一頭の大きな鯨を指さし、オデットと向かった。
鯨の上で一本のヤシの木が風も無いのに揺れていた、スワンが手を振っている。
「あなた、ヤシの木になったの?」
オデットが木を撫でながら言うと、
「ごめんね、見ての通りだ、昔の僕ではない、こんな姿になってしまった。」
スワンは申し訳なさそうにオデットへ返事した。
オデットはヤシの木のスワンを抱きしめ、キスを繰り返した。
「愛しているわ、スワン、ヤシの木も中々可愛いじゃない。」
「何を言っているんだい、オデット、僕は昔の僕じゃない、化け物だよ。」
「姿かたちは別でも、スワンはスワン、私の愛するスワンよ。」
オデットは大粒の涙を流しながらヤシの木になったスワンを抱きしめた。
しばらく待って、二人が落ち着いたころニュクスが切り出した、
「スワン、取り込み中悪いんだけど、教えて、
フィッシュマンドクターや他の研究員の消息をご存じない?」
「同じ研究所にいた他の研究員は色んな植物に変わり、
研究所の近くで亡くなりました。僕とドクターだけヤシの木になり、
海に飛んで、この鯨とズッと生活を共にしてきました。
しかし、ドクターは半年前体調を壊され、亡くなりました、
研究所の生き残りは僕だけです。他の研究所の方は解りません。」
スワンが申し訳なさそうにニュクスに答えた。
「困ったわね、二人は結びつきが強いから、強い反応で解るけど、
多少はどんな生き物も呼びかけに反応するから、
他のメンバーは木やと草と区別できない、同じ方法では無理だわ」
他の行方不明者の手がかりがなくて、ニュクスは頭を抱えた。
二時間ほどで二人は鯨を離れ、上空のシャトルへ戻った。
シャトルに戻ってからニュクスは、星中の生き物に探しに来たと
呼びかけたが、予想通りこれといった反応は無かった。
「ニュクス、これからどうする、もう何も手がかりが無いぞ。」
「明夜から他の研究所周りの木を当たってみます、
手がかりが見つかるかも知れません。」
ニュクスとミネルウァは他の研究所周辺の木に聞いて回ったが、
手がかりは何も無かった。
オデットは毎晩鯨の上に降り、スワンと一緒に過ごした。
オデットの昼と夜は逆さになってしまった。
「オデット、こんな僕でも愛してくれるのかい。」
「当たり前でしょう、愛しているわ
また何か飲んだら人間に戻れるんでしょう?」
オデットがスワンに聞いた。
「いいや、それは無理だ、そんなことはできない。
僕が研究していた動物のホルモンは特殊だ、
僕はヤシの木のホルモンに取り込まれてしまった。もとには戻せない。」
オデットは凍り付いた。
「死ぬまでそのまま、嘘でしょう?」
「嘘じゃない、オデット、僕はズッとこのままだ。」
スワンはオデットの肩を押しのけるように言った。
「いやよ、そんなの、私はこの星で生きていけないわ。」
「もう、僕の事は忘れてくれ、君を不幸にするだけだ。」
「スワンがヤシの木になれるんだったら、私だってなれるわ。」
「何を馬鹿な事を、自分から木に何かなったらだめだ。」
スワンは止めたが、オデットには考えがあった。
翌朝、オデットは一人でハンク達が造った食品工場に来ていた。
ラインは止まったまま、スイッチを押すと電気が付いた、電源は生きている。
肉はコンベアの上で乾燥し、石の様に固く成っていた。
更に奥に入って行くと、冷凍保管庫が有った、鯨の体液が保管されている。
オデットはその内の3本を冷凍保管ケースに入れ、こっそり持ち帰った。




