キムラ研究所の遺留品
ハンクたちは夜明けとともに、キムラ研究所が有った場所へ飛んだ。
研究所の周辺は草や木に覆われていたが、建物はそのまま残っていた。
移動用の車や資材は埋められる事もなく、痛んではいるが原型を残していた。
事故の時は行方不明者捜索を優先した為、研究資料は手付かずのままだった。
研究所の近くの草地に4人は降り立ち、草や木を掻き分けながら進んだ、
研究所の玄関ドアは開いたままになっていた。
室内は砂や葉が舞い込み、積もっているが、荒らされた形跡はない。
キムラ達が研究していた時の状態がそのまま残っている。
古びて破れた衣類が床に散乱しているが、人影や死体は何処にもない。
「研究員の机は資料が置かれたままです、実験中の機材は出したままです、
食事をしていたのでしょう、食器やスプーンがテーブルの上にあります。」
ニュクスが様子を確認しながら、ハンクと話していた。
「研究や食事を放り出して、全員どこかへ行ったのだ、いったい何があった?」
「マザー、聞こえますか、少しよろしいですか?
マザーも部屋の様子をご覧になっていらっしゃると思いますが、いかがですか。」
「ニュクス、部屋の様子は貴方のお陰で、よく見えています。
気になるのはその落ちている衣類ですね、
研究所の人たちが着ていた服ではないでしょうか、確認してください。」
マザーの声がニュクスの心に帰って来た。
「おい、ニュクス、何をブツブツ独り言を言っている?」
ハンクはニュクスの様子が変なので声をかけた。
「マザーに状況を見ていただき、指示を伺いました。」
「嘘だろう、地球とは20光年も離れている、通信が出来ない事は俺でも解る。」
「私は心の中で、宇宙の何処にいる人とでも話ができます。
船長、すみませんが、落ちている衣類を丁寧に調べて下さい。
マザーが研究所の人たちの着ていた物ではないかと仰っています。
船長は玄関付近の衣類を調べてください、私はこちらを調べます。」
「ミネルウァとニュクスはやる事が普通じゃないからな、解った。」
ハンクは返事をしながら、衣類を調べた、引きずって外にも出ている、
下着がら、ソックス、靴、上着まで揃えていくと、所員の人数と一致した。
状況から見て、事故当時研究員が着ていた衣類に間違いない。
「ニュクス、私の思っていた通りです、
研究所員の身体から樹が出てきて、服を破いたのでしょう。
所員が樹に成ったか、樹が所員を食べたかまではわかりません。
異変の原因は、鯨から取り出した液体を彼らが飲んでいたためです。
ハンクの記憶とスワンのロケットが話した内容から確信していました。」
マザーがニュクスの心に語り掛けて来た。
「研究員は樹か草に変身して、研究所から出たと言うことですか?」
ニュクスはマザーに問いかける。
「その可能性もあります。」
「なんですって、研究者が樹に成って生きているんですか?」
ニュクスの会話を聞きつけ、オデットが研究所の中に飛び込んできた。
「まだ、確信はありませんが、植物の姿になって生きている可能性はあります。」
落ちている衣類を触っていたニュクスはオデットを見上げながら言った。
「きっとスワンも生きていますね、樹になって、変な気分ですが、
嬉しい、スワンに会えるなんて夢みたい。」
生きている可能性があると解っただけで、オデットは大喜びだ。
「レッドアローに残っていたクルー達は絶望です。
これで解りました、ハンクがお掃除ロボットに捨てさせたのがクルー達です。
彼らはゴミとなって宇宙をさまよっています。」
マザーがニュクスの心に話しかけた。
「マザーがレッドアローに残っていたクルーは絶望ですって、
ハンク船長の命令でお掃除ロボットがゴミと間違え処分していたようです。」
「ええ~、何もかも俺のせいか・・」
ハンクはショックで床に座り込んでしまった。
「罪深いですね、船長、済んだことは仕方ありません、前を向きましょう。」
ニュクスが落ち込んでいるハンクの肩をポンと叩いた。
研究所の周りには何も見つからないので、ミネルウァは上空を
ゆっくり旋回しながら、範囲を広げ手がかりを探していた。
地上の3人は研究員の机やロッカー実験記録などを調べていた。
「キムラドクターは植物が動物みたいで、随分困惑されていたようです。
ドクターの日誌にはいかに研究がやり難かったか詳細に書かれています。
研究資料や記録は全て持ち帰りましょう。」
ニュクスがハンクに言った。
「凄い荷物になるぞ、どうやって運ぶんだ。」
ハンクが言うと、
「大丈夫です、大型コンテナが残っています、そこに詰め込みましょう、
ミネルウァなら大型コンテナなんて、ハンドバック程度です。」
「ワッハハ、ハハハ、違いない、ミネルウァならハンドバックだ、ハハハ・・」
ハンクは膝を叩いて、大笑いしながら外に出た。
足元が急に暗くなったので、見上げると、ハンクの真上にミネルウァがいた。
「聞こえてますよハンク、海水浴に行きたいですか?」
ミネルウァは50歳と言っても、彼女の種族ではまだほんの乙女だ
強い、大きいと言われることが大嫌いで、乙女心は傷ついていた。
「ごめん、ニュクスが笑わすからだ。」
海まで蹴り飛ばされると思って、ハンクはとっさに両手で頭を覆った。
「また、気にしていることを言ったら、次は許しませんから。」
そこまで言って、ミネルウァは空へ昇った、
方々見て回ったが、それ以上手がかりは無かった。
「凄い荷物ですし、今日はここまでにして、シャトルへ帰りましょう、
荷物の調査はレッドアローでできます、アンドロイドに手伝わせましょう。」
ニュクスが言うと、ミネルウァも研究所に入り、運び始めた。
4人は資料などを大型コンテナに積み込めるだけ詰め込んだ。
ミネルウァはコンテナを空中に浮かせ、その下に潜り込んで、
コンテナを背負う格好でシャトルへ向かい、3人はその跡を追った。
「ミネルウァは凄い、信じられない、まさに戦女神、神様だな。」
ハンクは蹴られないように、距離を開け、小声で独り言を言ったつもりだが、
コンテナがミネルウァから離れ、猛スピードでハンクに向かってきた。
「ワァー、助けてくれ。」
ハンクは悲鳴を上げた。
衝突寸前で、ミネルウァはコンテナを捕まえ、元の方向へ戻った。
「ビックリした、死ぬかと思った。」
「忠告したでしょう、今度やったら、海の底に沈めます!」
ミネルウァはまだ怒っていた。
「楽しそうですね、ミネルウァとハンクは良いコンビです、本当に。」
オデットが笑っていた。




