ミネルウァ生誕の秘密
レッドアローは1年ぶりに赤色矮星グリーゼ581gの静止軌道へ戻って来た。
豊かな緑と海、この星は実に美しい、砂漠が無い、気候は地球より穏やかだ。
星の調査に関してはマザーの指示で、キムラ研究所から始める事になっている、
ハンクはその前に行方不明のアンドロイドを探したいと思っていた。
「ニュクス、マザーの指示は理解しているが、
その前に例の島に寄ってもらえないか、少し探し物をしたいんだ。」
「ハンク船長、時間はたっぷりあります、よろしいです、
あの島に行きましょう。」
ニュクスは快く承諾した。
4人はお世話係の乗員10名をレッドアローに残し、シャトルで島に向かった。
ハンクがレッドアローに回収され、島を離れてから1年が経っていたが、
島は変わりなかった、緑に覆われ、破壊される以前の姿を取り戻しつつある。
万一に備え、シャトルは上空千mでホバーリングさせておくことにした。
オデットをシャトルに残し、ハンクとニュクスは反重力飛行スーツを着用した。
ミネルウァは持参した動きやすそうな服に着替えているが、
飛行スーツを着ようとしない。
「ミネルウァ、島は危険だ、移動には空を飛ぶ、
飛行スーツを着用してもらえるか?」
ハンクは島に降りるのが待ちきれなくて、ミネルウァを急かした。
「私には必要ありません、自分で飛べます。」
「羽が生えているように見えないぞ、本当に飛べるのか?」
ミネルウァはシャトルのドアを開け、そのまま飛び出した。
「大怪我しても知らんぞ。」
ハンクとニュクスは慌ててシャトルを飛び出し、ミネルウァを追った。
ミネルウァは真直ぐ島に落ちていく、落下速度が速すぎてハンクは追いつけない。
「あんな速度で島に落ちたら、島にめり込んでしまうぞ。」
地面に衝突する危険を感じてハンクとニュクスは減速し、
ゆっくり島へ降りて行った。
ミネルウァは先に島に着いていた、直前で急停止し、そのまま宙に浮いていた。
「なんて奴だ、化け物か、見ている方が怖かった。」
やがて、ハンク達が到着した。
「ミネルウァ、脅かさんでくれ、地面に激突するかと冷や冷やしたぞ。」
「いつもの事です。」
ミネルウァは平然としていた。
「ニュクス、ミネルウァ、聞いてくれ、
ここは俺が以前、ガンマ線バーストで焼き尽くした島だ。」
「解っています、ここは私の両親が亡くなった島でもあります。」
ミネルウァの鋭い視線がハンクを突き刺した。
「両親がこの島で亡くなっただと?」
ハンクは悪い予感がした。
「ええ、貴方のガンマ線バーストが原因で、両親はこの島で亡くなりました。
私の家は代々お金持ちで、両親は宇宙を旅する探検家でした、
貴方がガンマ線で島を焼いた時、たまたまここの島を訪れていました、
そして、私は母のお腹の中にいました。」
「俺が両親を焼き殺してしまったのか、それは申し訳ない事をした。
しかし、あのガンマ線バーストから、どうしてミネルウァだけ助かった?」
「事故に気付いて、アンドロイドが直ぐにシャトルから駆けつけて来ました、
着いた時には、両親はガンマ線バーストの直撃を受け、即死していました。
アンドロイドは、母の身体に弱い生命反応が残っているのに気付き、
母の身体をスキャンしたそうです。
そして、小さな私がお腹の中にいるのを発見しました。
私はその時、数ミリの大きさでしたが、母の胎内で生きていました。
アンドロイドはその場で死んでいる母の身体を帝王切開し、
私を取り出し、持ち帰りました。
妊娠後ほどない状態で、通常であれば、死んでいるはずですが、
その後も、私は生き続け、人工保育器の中で成長しました。
ガンマ線バーストが妊娠直後の私の身体に突然変異を起こしたのです。
私は一般の子供より身体が大きく、強い子供の育ちました。
貴方のガンマ線バーストが作り出した化け物なのです、私は。」
ハンクはミネルウァに殺されるのでは、っと言い知れない恐怖を感じた。
「両親の敵である私を殺すためにここへ来たのか?」
「ハンク船長を殺したい気持ちが無いと言えば嘘になりますが、
そんな子供じみた事はしません、私は私の役目を果たすだけです。」
「私はミネルウァに殺されて当然の事をした、
私を殺したくなったらいつでも殺すがよい、それまではよろしく頼む。」
ハンクは自分の愚かな決断が招いた、島とミネルウァの家族、
二重の悲劇に胸が締め付けられる思いだった。
「ミネルウァ、ニュクス、聞いてくれ、
私がこの島に来たのは、行方不明のアンドロイドを探したいからだ。
何の手がかりも無いが、君たちは特別なようだ、君たちなら何とかできるか?」
「上空から下りる時、アンドロイドの存在は確認できています、
私は戦士ですから、隠れていてもアンドロイドの居場所くらい解ります。」
ミネルウァは即答した。
「本当か、私には何も見えなかったが・・。」
ミネルウァはゆっくりと両手を広げ、そっと眼を閉じた。
島が揺れ始めた、ハンクは地震かと身構えた。
島の彼方此方で地割れが起こり、
地面から緑色の物体が勢いよく、空中に飛び出してきた。
百を超す塊が島中からハンクのいる方向へ集められてくる。
「何だ、あの緑の塊は?」
百を超す塊がハンク達前に集められ、地面に落ちた。
塊りの表面には緑色の小さな生き物がうごめいている。
「ハンク船長、この汚い塊が、貴方が探しているアンドロイドです。
この小さな緑色の生き物に内部へ侵入され、電源が落ちたのでしょう。
アンドロイドを元に戻します。」
言い終わり、ミネルウァが両手を上にあげると、緑の塊が再び浮きあがった。
ミネルウァが海の方へ、投げる様な仕草をすると、
緑の一団は海に向かって飛んでいき、500mほど先で落ち、海底に沈んだ。
「何をするんだ、ミネルウァ、折角アンドロイドを回収したのに。」
ハンクが叫んだが、兵士は全て海中深く沈んでしまった。
「心配いりません、緑の生き物を取り除くだけです、じき飛び出してきます。」
海中に沈んで20分ほど経つと、兵士が一人、
勢いよく飛び出してきた、あのスタローンが生き返った。
「誰だ俺を海に沈めた奴は!」
怒鳴るが早いか、スタローンは島の上空にミネルウァを見つけ、
銃を構えようとした、その瞬間、ミネルウァの姿が消えた、
スタローンの上にはミネルウァがいた。
ミネルウァはスタローンの背中とポンと蹴った。
バコ
「ワァ~ァ~」
ズバァーン
金属が凹む音がして、スタローンの悲鳴と共に、大きな波しぶきが立ち上った。
スタローンは背中を蹴られ、態勢を立て直す間もなく、海へ蹴落とされた。
「頭を冷やしてきなさい、飛び込みが下手ね。」
ミネルウァはスタローンがいた空で笑っていた。
「ミネルウァは何時あそこに移動したんだ、一瞬の事で何も見えなかった。
ミネルウァには悪いが、奴は本物の化け物だ。
マザーからアンドロイド兵が千人同時にかかっても敵わないと言われたが、
確かにこれでは敵いそうにない、早いだけではなく、動きを読み切っている。」
ハンクは信じれれない光景を見ていた。
程なく、スタローンとアンドロイド兵が一斉に海中から舞い上がって来た、
スタローンの指示で全員銃を構え、ミネルウァを取り囲んだ。
「待て、落ち着け、この方は味方だ、味方だ、銃をおろせ、俺だ、ハンクだ。」
ハンクの声を聴いても、兵士は銃を構えたまま、ミネルウァを睨んでいる。
「銃を下ろせ、殺されたいのかお前たち、お前たちが勝てる相手ではない!」
ハンクは大声でスタローンを怒鳴りつけた。
スタローンはハンクを本人と確認し、渋々兵士に銃を下ろさせた。
スタローンとアンドロイド兵がハンク達の処へ集まって来た。
「2回も海に叩き落とすことは無いだろう、
見ろ、さっきのお前の蹴りで俺の背中が陥没してる、
背骨も曲がったぞ、何者だお前、最新型のアンドロイドか?」
スタローンがミネルウァに捲し立てた。
「壊れないように手加減しましたよ、軽く押しただけです、大袈裟ですね。」
ミネルウァは笑っていた。
「このお方はマザーの友人ミネルウァさんだ、
失礼の無いようにしろ、少し強よ過ぎるのが欠点だがな。」
ハンクは可笑しかった、
負けたことがないと自慢のスタローンが、ミネルウァに子供扱いされている。
泣く子も黙るアンドロイド兵がミネルウァには唯のブリキの玩具か。
「上にシャトルがホバーリングしている、シャトルでレッドアローに戻ってくれ。
俺たち3人は島に残って、もう少し調べてからシャトルに戻る。
スタローン、まだ状況が呑み込めていないとは思うが、
お前たちアンドロイドは50年近く、この島の地面に埋まられていたんだ。
足元に緑色をした小さな生き物がうごめいているだろう、
お前たちはその子達にやられ、島に埋められていたんだ。
レッドアローに戻って、故障が無いか入念に点検しろ、
地下の湿気で錆も出てる、正常に機能しない部品は全部交換しろ。
スタローン派手に壊されたな、お前はボディごと全部だ、
仕事を手伝ってもらうのはそれからで良い。」
ハンクがスタローンに命令を下した。
スタローンは自身の時刻修正をして、驚いた。
「本当だ、50年も経っている、
俺たちは全員あんなチビ達に倒されたのか、情けない。」
スタローンは恥ずかしい、もう一度、穴が有ったら入りたい気分だった。
「下にいるだろ、その緑色の奴だ、油断したなスタローン、ハハハ。」
ハンクはスタローンを見て、大笑いした、
緑色の生き物その場で、殆どイビキを掻きながら昼寝をしている。
「嘘だろう、俺たちがこんな小っちゃいのに負けるなんて、
このチビ、イビキを掻いて寝てるぞ。」
スタローンはなぜ負けたのか、まだ信じられなかった。
「お気を付けて船長、我々はレッドアローに戻ります。
ミネルウァのせいで背中が曲がったままだ、クソ!
全員、ダークエンジンを始動しろ、飛べるな?
全隊、俺に続け、シャトルへ向かう!」
スタローンはアンドロイド兵を引き連れ、上空のシャトルへ消えた。




