マザーの心配
クルーが行方不明になった原因は解明できていない。
鯨の液体を飲んだ事は行方不明の一因ではあろう、死んだのなら死体がある筈、
野生の生き物に、研究所員は死体を持ち去られたとも考えられる
レッドアローの乗員が行方不明の原因は何だろう?
マザーは一人になって考えていた。
ハンク船長の記憶とスワンの記録を何度も繰り返し見ていた。
そして、クルーが行方不明になった日の、ハンクの記憶が気になった。
船長室を出た後、ハンクは通路に汚物や衣類、観葉植物が落ちていたのを見ている。
船内にこの様な物が落ちているのがおかしい、誰かが落とす筈がない。
マザーはハンクの記憶に残っている落し物の映像をよく見た。
この汚い衣類はクルーが着ていた衣類ではないのか?
そして、汚物はクルーの体内からでた物では、
観葉植物の様な物はクルーの身体から出て来たか、あの星の植物では、
何らかの原因で船内に入り込み、植物がクルーを食べたのでは、
ハンクは発見した物を掃除ロボットに片づけるよう命じている。
掃除ロボットに関する記録は残っていない、
掃除の記録などいちいち、誰も、何処にも残していない。
通路にあった物がまだレッドアローに残されていれば、大きな手掛かりになる。
マザーは急いでハンクに連絡を取り、その時のロボットを探し出し、
片づけた物のありかを確認する様命じた。
2日後、ハンク船長から連絡が入った。
「掃除ロボットは老朽化していましたので、既にスクラップされています。
ロボットのメモリーは一緒にスクラップされ、残っていません。
修理中のレッドアローの中を確認させましたが、汚物や汚れた衣類、
植物は残っていません、恐らく、掃除ロボットが捨てたものと思われます。」
手がかりを見つけたと思ったマザーは落胆した。
それでは、アンドロイドは誰に倒された、音も無く、痕跡も残さず。
ハンクの記憶、レッドアローに残されていたデータ、画像、スワンの記憶
その何処にも敵らしい者は写っていない、攻撃を受けた画像もない。
見えない敵か、それともアンドロイドを遥かに凌ぐ超高速の敵か?
いったい敵の正体は何なんだ。
姿が見えず、音も無く、超高速の敵だとしたら、
気配で相手を感じ、超高速で空間を移動可能なミネルウァ、彼女以外、
この敵に対応できる者はいない。
本当にあの静かな星にそれ程の恐ろしい敵がいるのだろうか?
クルーや研究員、アンドロイドは何処に隠された?
食べられたのか、埋められたのか、異空間か、それとも消滅させられたのか?
いずれにしても、植物のような動物は関係ないだろう。
何かと事件にかかわっている、動物の様な植物、こちらが怪しい。
植物が持っている危険な動物性のホルモン物質
植物どうしの会話能力、植物の知能、
異植物間の会話能力の有無、植物の生態、
植物を研究していたキムラはどこまで掴んでいたのだろう?
ハンクはキムラの記録を何も持ち帰っていない。
ハンク達を最初に向かわせるのはキムラの研究所が良さそうだ、
キムラの研究記録が相手を知るための、何らかの手がかりになる。
マザーは自分が考えた対策の全てをニュクスに伝えていた。
電波が届くのに20年以上かかる赤色矮星グリーゼ581gでは、
通信手段が無い、ニュクスの能力だけが頼りになる、
ニュクスは空間を超えて相手の心に入ることができる。
相手が生き物であろうと、アンドロイドであろうとニュクスには関係ない。
マザーはニュクスと友人だが、もし、ニュクスが敵だったら、
これほど恐ろしい相手はいないと思う、ニュクスは相手の心を支配できる。
ミネルウァとニュクスは私の味方だが、もし敵同士で戦えばどちらが勝つだろう、
戦闘能力はミネルウァが圧倒的に上だが、ニュクスは相手の心に入り込む、
考えただけでも恐ろしい、この戦いだけは有ってはならない。
二人とも美人で、美人同士仲はあまり良くない、何もなければ良いのだが。
二人は私が心配しなくても、
赤色矮星グリーゼ581gの事件を解決してくれるでしょう、しかし・・・。
マザーが一番心配なのは 女神と呼ばれる若い二人の人間関係だった。
その点オデットは安心だ、歌が上手なだけではない、
穏やかで、ジョークが好きで、誰とでもすぐ仲良くなれる。
普通であれば幾ら懇願されても、中年の歌手を危険な星に行かせはしない。
若い二人の接着剤の役割をオデットに期待して、マザーは同行を許可していた。
赤色矮星グリーゼ581gは生物の自己再生能力が非常に高い。
これが赤色矮星グリーゼ581gの最大の魅力だ。
足元の地球はホモサピエンスによる、史上6度目の生物大量絶滅に遭遇し、
荒れた気象、酸性雨、砂漠、強酸性の海、酷いことになっていた。
この壊れた星を、人類が誕生する前の姿に戻すのに、
最初のマザー以来、歴代のマザーが千年の時間を要した。
今の地球はこれ以上元の姿に戻すことはできない、再生可能な情報はもうない。
生命の種は人間が誕生する以前の僅か数%、再生可能な種は全て復元した。
破壊を受け付けず、自己再生するあの星はどの様な仕組みでできているのだろう。
星の大きさも、環境も地球とそれ程変わらない、
星が誕生した時期も近い筈だ、地球からの距離も他の生命いる星より近い、
その星がなぜ地球とはこれ程違う、なぜ動物と植物が入れ替わってしまったのか?
スワンが生存してくれていたら、スワンの研究が進んでいれば、
赤色矮星グリーゼ581gの地質学的な歴史が解るかもしれない。
星の地質学的歴史が解れば、生命入れ替わりの謎が解ける可能性がある。
赤色矮星グリーゼ581gへのマザーの関心も尽きることが無い。




