スワンが残したロケット
スワンが残したロケットには、スワンの研究内容、研究データ、日誌、
オデットへの思いが詰まっていた。
ロケットの記録は、パスワードを知るスワンでないと開けられないが、
マザーにパスワードロックは通用しない、オデットの承諾を得て、
マザーはオデットに関する部分をロケットから抜き出し、
別のメモリーへ移して、オデットに渡した。
オデットが手に取り、記録を移したメモリーを開くと、
懐かしいスワンがオデットの前に現れた。
「随分若いわね、貴方を待つ間に、私はおばさんになってしまいました。」
「ごめんね、オデット、この様な姿で君と再会できるとは思わなかった。」
スワンの記録と思いが残ったメモリーは
スワンの身代わりとなって、オデットに答える。
「スワン、貴方は生きているの、それともその星で死んだの?」
「それは僕には解らない。
ハンク船長や皆はこの星の生き物を非常に恐れている。
何度か事件があって、行方不明者が出ている。
僕はそれほど心配ないと思っている。
僕はオデットが忘れられなくて、このロケット以外、
オデットに関するものはすべて、出発する前に地球へ置いて来た、
めそめそして、研究に取り組めないと思ったからだ。
それでも、オデットへの思いは僕から離れた事は無い。
僕は星が見える日は何時も外に出て、星を眺め、遠くから君を見ていた。」
「私も同じですわ、貴方が出発してから、スワンを思わない日はありません。
もう貴方に愛された綺麗な時の私ではありません、私は歳を取りましたが、
今でも私を愛してくれますか?」
「オデット、僕の思いは永遠に同じです。」
映像のスワンとオデットの会話は、何時尽きるともなく続く、
マザーが二人の会話に割って入った。
「ごめんなさい、オデット。
貴方に失礼だとは思いましたが、
このロケットは赤色矮星グリーゼ581gで起きた事件の重要な証拠品です、
私はスワンの全ての記憶と、データを見ました。
結論から言いますと、スワンは生きている可能性が高いと思います。
スワンは赤色矮星グリーゼ581gの植物達と友達になっていたようです。
ハンク船長も危害を加えられていません、島に取り残されてからは
島の生き物たちと交流していたようです。」
「スワン、貴方はクルー全員が行方不明になった原因は何だと思いますか?」
マザーが空間に浮かんでいる映像のスワンに聞いた。
「確かな事は解りません。
ただ、一つだけ気になることがあります。
地球から持参した食料が全て無くなり、
我々はサイヤが中心になって、星にある材料を使って食料を作りました、
詳しい事は何も聞かされていませんが、
私達研究者の間では、食品は鯨に似た生き物から作ったのではないか、
と噂していました。」
「ええ、その鯨の様な生き物から作った食品です、
ハンク船長の記憶にはっきりと残されています。」
「やはりそうでしたか。」
スワンの映像は少し間をおいて、ゆっくりと話し始めた。
「あの鯨の肉には未知の物質が色々含まれていましたが、
私たちの研究では、特に危険と思う物は有りませんでした。
問題はヤシの木達が吸っていた緑色の液体の方です。
あの液体には未知のホルモン物質が数多く含まれていました。
我々はあの液体をジュースと偽って飲まされたのですね。
あの液体はホルモン物質以外に、数多くのミネラル成分や栄養素を含んで
います、たぶんその効果で我々は以前より元気になったのでしょう。
分析の途中で、結論を出すまでには至っていませんでしたが、
あの液体は非常に危険です。
あのホルモン物質は鯨の物ではなく、鯨の上で生活していた植物の物です。」
「植物のホルモンだと何が問題なのですか?」
マザーは映像のスワンに聞き返した。
「赤色矮星グリーゼ581gの植物は我々が知るところの動物、
あの星の動物は我々が知る植物に近い存在です、
考え方をひっくり返して考えなければなりません。
我々は未知の動物の生血や生のホルモン物質を体内に入れてしまいました。
植物の成分であれば特段心配はいりませんが、動物だと問題があります。
我々の細胞やDNAに未知のホルモンがどのような影響や攻撃をするか解りません。
私たちが生きていたとしても・・
研究途中でしたので、それ以上は私には解りません。」
そこまで言うと、スワンの映像は消えてしまった。
「見たでしょう、オデット、スワンは生きている可能性があります。
但し、貴方が愛していたスワンかどうかは解りません。
鯨の液体を飲んで、何十年も前に死んでいるかも知れません。
オデット、貴方はそれでも赤色矮星グリーゼ581gへ行きますか?」
「ありがとうマザー、ご心配をおかけして、
私はあの星へ参ります、そしてスワンを探し出します。
スワンがいる星で、たとえスワンが亡くなっていても
赤色矮星グリーゼ581gで、私が死ぬことになっても本望です。
私をスワンのもとへ行かせてください。」
オデットはマザーにすがった。
「いいでしょう、行きなさい、そして、スワンを見つけなさい。」
オデットはマザーとの会話を思い出していた。
スワンの記憶は生きているとも、死んだとも答えてくれなかった。
考えれば、スワンの記憶が答えられないのは当然のことだ、
スワンが死ぬ前後の記憶はロケットに残されていない。
スワンが歳を取らず、映像のように若いままだったらどうしよう、
私はあの頃の様に若くてきれいではない、オデットは不安になった。
私と赤色矮星グリーゼ581gへ一緒に行く二人は若くて、
信じられない程綺麗だったわ、あれ程の美人は今まで見たことがない。
心配ないわ、スワンや私とは種族が違うし、二人はとても背が高い、
スワンがあの二人に心を奪われる心配はないわ。
ハンク船長があの二人にビビッていたけど、
あの二人の美しさは尋常ではない、何者なのかしら?
オデットもまた、星へ行くにあたって、心配が尽きなかった。




