オデット
「ハンク、ずっと右手に何か握りしめていますが、何を持っているのですか?」
「ああ、これですか、死んだ友人、スワンの形見です、
彼はこのロケットに研究内容や論文、日誌を記憶させている筈です、
恋人の写真もあります、パスワードが掛かっておりまして、
データは見ることができません。」
「渡していただけますか?」
「ええ、どうぞ。」
ハンクはマザーにスワンのロケットを手渡した。
ロケットの蓋をそっと開けた、マザーは
「この方はオデットと言うのではないですか?」
「確か、オデットと聞いています、ご存知ですか?」
「ええ、歌の大変上手な方ですから、すぐ似ていると思いました。
ロックを掛けた、個人の所有物を開けるのは気が引けますが、
g星で起きた重大事故の物証の一つです、何か手がかりになる物が
残されている可能性があります、見せていただきます。」
ロケットを乗せたマザーの手のひらが、ぼんやりと数秒光って、やがて消えた。
「全ての記録を見せていただきました。
この事件はハンク船長の手におえるレベルでないのが良く解りました。
私の友人を呼びます、遠方からですのでここに来るのに2ヶ月かかります。
こられたら連絡しますので、近くで待機してください、
地球に降りてもいただいておられても結構です、
レッドアローは何時でも発進できるよう、整備しておいてください。」
「了解しました、レッドアローは整備中です、間に合わせます。
ところで、そのロケットはまだ必要でしょうか?」
「いいえ、必要ありません。」
「スワンの形見ですので、オデットを探します、
オデットが見つかれば渡したいと思います。」
ハンクはマザーからロケットを受け取り、敬礼して部屋を出た。
静止軌道上の空港ホールまで歩いてきたところで、
ハンクは大勢の報道陣に取り囲まれ、身動きが出来なくなった。
50年前に出た切り、連絡が途絶え、消息不明だったレッドアローが帰還した、
帰還の情報が地球にまで届いていた。
ハンク船長が一人で帰ってきた、500名のクルーが全員帰還していない、
クルーが全員死亡の情報もある、噂は憶測を呼び、地球は大騒ぎになっていた。
「ハンク船長はクルーを見殺しにしたのですか?」
「クルーは全員死亡したのですか?船長が見捨てたのですか?」
「赤色矮星グリーゼ581gで一体何があったのですか?」
「なぜ50年も戻らなかったのですか?」
途中までは聞こえたが、後は何を言われているのか騒がしくて解らない。
「解った、解った、上層部に会見を開いてもらうよう相談する、
詳しいことはその時全て話す、聞きたいことはその時聞いてくれ。」
吐き捨てるように言って、護衛に報道陣を押しのけてもらい、
やっとのことでハンクはその場を逃れた。
許可がおり、3日後にハンクの記者会見が開かれた。
「帰って来たのはハンク船長だけですか、他のクルー達は死亡したのですか?」
「帰って来たのは私だけです、死体は一体も確認できていません、
遺体が見つからない以上、クルーは全員行方不明です。」
「宇宙最強と言われた、強力なアンドロイド兵まで倒されたのですか、
敵はそれ程強い相手だったのですか?」
「アンドロイド兵は全員行方不明です、誰に倒されたかは全く解りません。」
「ハンク船長は事件の時、一人で船長室で昼寝をしていたのではないですか?」
容赦のない辛辣な質問攻めが続いた、
一人だけ帰還したハンクは無能で卑怯者のレッテルを貼られてしまった。
顔を覚えられ、何処を歩いても、子供にさえハンクは罵られた。
「仕方がない、全て俺の責任だ。」
記者会見から2日が経って、ハンクを中年の女性が訪ねて来た。
「ハンク船長、お忙しいのに申し訳ありません、オデットと申します。」
女性は探していたスワンの恋人だった。人間なら40歳くらいの年恰好だ。
「もっとお年を召した方だと思っていました、本当にオデットさんですか?」
「オデットです、私たちの種族は他の種族と老い方が違います、
私たちの種族は200年ほど生きられます、私は今80歳です。」
「驚きました、ズッと探しておりました、お会いできて光栄です。
赤色矮星グリーゼ581gではスワンに大変お世話になりました。
困った時はいつもスワンの知恵を借りていました、
スワンはとても優秀です、本当に申し訳ありません。
このような事になり、お詫びのしようもありません。
何度か小さな事故はあったのですが、あの星に着いて1年半ほど経った頃
大事件が起こりました。
何の前触れも無く、アンドロイド兵以外のクルー全員が、
一度に行方不明になりました、
アンドロイドと手分けして方々を探し回ったのですが、
何の手がかりも掴めませんでした。
「スワンは死んだのですか?」
「死体は有りませんでした、私も探したのですが、見つかりませんでした。
ただ、スワンが使っていたデスクに、このロケットが残されていました。
スワンの遺品です、お受け取り下さい。」
ロケットを受け取ったオデットは蓋を開け、若い時の自分の写真を見た、
「私が彼に渡したロケットです、間違いありません。」溢れた涙が止まらない。
スワンはオデットの思い出は全て捨ててg星に来ていたが、
オデットのロケットだけは捨てられず、肌身離さず持っていたのだった。
「私を赤色矮星グリーゼ581gへ連れて行ってください。
スワンを探します、スワンを見つけるまでは諦めません。」
「50年も経っています生存の可能性はありません、無駄です、
クルーが全員行方不明になった星です、女性の行く処ではありません、
危険すぎます、スワンを見つけるなど絶対に無理です。」
「マザーにお願いします、私は絶対にあの星に行きます。」
ハンクはそれ以上答えることができなかった、
ロケットを渡し終えてホッとしたハンクは、その場から静かに去って行った。
オデットは結婚もせず、スワンの帰りを一人で待ち続けていた、
オデットのスワンへの思いも、スワンと同じだけ強かった。
やがて、マザーが告げた2ヶ月が経ち、ハンクはマザーに呼び出された。




