クリスの恐怖
クリスは5歳の女の子、彼女の家からは海が見える、そこは温かい南の島だ。
浜辺に行けば綺麗な貝殻がたくさん見つかる、
すでに絶滅したはずの貝の殻が、この海岸にはたくさん落ちている。
貝殻の螺旋、怪しい光、これが彼女の宝物、この海岸は彼女の宝石箱だ。
ウミネコの鳴き声が聞こえるが、人が話す声は何処からも聞こえない。
人影はない、そもそもクリスは人の声を聴いたことも見たことは一度もない。
いつも一人、一人で遊ぶことの上手なクリスは寂しいと思ったことがない。
朝から晩まで飽きることもなく、一人で海岸にきて遊ぶ。
気候は穏やかで、島には四季がない、嵐も雨の日もない。
空は晴れ、日差しは適度に優しく、裸で過ごしていても日焼けはしない。
景色は同じではない、昨日とはいつも少し違うが、違和感も飽きも来ない。
南国の何と言う名前の島だろう、クリスの島は何処にあるのだろう。
悪戯好きウミネコが、クリスの遊び相手になってくれる、
海にはお魚が沢山いる、クリスが近づくと沢山集まってくる。
入っておいでよと魚たちはクリスを海に誘う、クリスは泳ぎが下手だが、
泳いでも、水を飲んでも溺れたはしない、魚たちが助けてくれる。
沖に出ると、イルカやクジラが、サメだって近寄ってくる、目つきは凶悪だが
サメはクリスを食べたりしない、背中に乗せて遊んでくれる。
クリスと同じ生き物はいなくても、周りの生き物はみんな友達、親切だ、
この平和な世界がクリスは大好きだった。
12歳になって間もなく、クリスの身体に変化が始まった。
股間から大量に血が出ている、血は止まっても、日が経つとまた同じことを
繰り返す、教育を受けていないクリスは死と言うものが解らないが、
この出血はまともではない、彼女は出血に死の恐怖を感じいた。
恐怖は決まって28日周期で訪れ、股間を誰かに触られている夢を見る。
触られている気がして目を覚ましても、誰もいない。
眠りに着くとまた股間を触られている。
変な夢、こんな夢は嫌だ、彼女は夢を見るたびに思った。
28日経つとまた悪夢を繰り返す、嫌な夢が続いた。
「もう、うんざりだ」
悪夢から覚める度に、クリスが思った。
そして、クリスが20歳になった朝が来た。
「あれ、ここは何処?」
クリスは辺りを見回したが、見慣れた家も、海も、島も無かった。
あるのは幅3メートルあまりの白い空間、空間に穴が開いて来た、
穴は次第に大きくなり、クリスがくぐれるほどになった。
穴の向こうには明かりが見える、風が大好きな潮風の匂いを運んでくる、
きっと穴をくぐれば元の家に帰れる、そう思って、クリスは穴に足を踏み入れた。
奥に進んでも、なかなか穴は先に付かない、戻ろうかと思って振り向いたが、
振り向いた先は真っ白な空間があるだけだった、しかたなくクリスは穴の奥へと
進んだ。
やがて、長い穴の終わりが見えて来た、そこは見慣れた家の中だったが、
部屋の中は片づけられ、真ん中に椅子が一つ置いてあった。
クリスは何も考えず、椅子に座った、首筋に何か冷たい物が振れた気がしたが、
それが最後だった、クリスは深い眠りについた。




