巨木が歩いた
連絡を受けてまだ1時間余りだが、流石にマッハ5は早い、
スワンをリーダーに、3人の研究者が建設予定地の100キロメートル
手前までやってきた、
「ここからマッハ0.8まで落とそう、
もし何者かに連れ去られたのなら、超音速では衝撃波で気づかれる。」
初期のプロペラ機より少し早い程度だが、
反重力飛行スーツはエンジン音が無いので、音速以下だとほぼ無音飛行になる、
目的地が近づくと、更に速度を落とし、いよいよ、上空まできた、
高度500メートルで3人はホバーリングに入った。
「ハンク船長、到着しました。」
「ああ、ご苦労、君たちの眼を通して、船内で下の様子を見ている。
このままの高度を保って、手分けして、半径10キロで良い、ユックリ飛行し、
下の様子を送ってくれ、兵士がいないか、危害を加える者が潜んでないか、
此方でも画像を分析していく。」
「了解です。」
10キロの範囲を3等分し、スーツ任せで3人はゆっくりホバーリングを続けた。
30分が経った、危害を加えそうな物も、兵士も見つからない。
「200メートルまで下げて、1キロ圏内の映像を送ってくれ、
今度は3つの重なる円を描くように、ユックリと・・」
「了解です。」
更に20分スワンたちはホバーリングを続けた。
「大丈夫なようだ、危害を加えそうな者はいない、降りても大丈夫だ。」
「船長、先ほどから気になっていたのですが、
昨日、飛行場や道路を造成した筈ではなかったのですか、
造成は終わったと聞きましたが?」
「その通りだ、造成工事が終わり、今日は建設資材を運ぶ予定だった。」
「飛行場も道路もありませんよ。」
「なに、そんな馬鹿なことがあるか。」
ハンク船長は食い入るようにモニターを見た。
「無い、確かに無い、作った筈の飛行場がどこにも無い。」
ハンクは大声で叫んだ。
「重機も、兵士も資材も、一切なくなっています。」
高度を50メートルまで下げ、飛行場のあった筈の場所でスワン達は静止した。
「今、工事前の映像と現在の映像を見比べています、
造成をした痕跡があります、地形が変わっています、
滑走路だったのでしょう、以前より平らになっています。
それだけではないですね、樹木の位置がおかしい、比べると変です。
樹木の並び具合は良く似ていますが、全体に位置が微妙にずれています。」
「此方でも確認させる。」
暫くして、
「確かに違う、似ているが微妙に、全部位置がずれている。
大きい木は、高さが100メートル以上あるぞ、
あんな大きな樹木が勝手に歩いて、場所を変えたと言うのか。
スワン、危険だ、もう少し上空へあがれ、地面には絶対近づくな。」
「了解しました、お~い、みんな高度を200メートルまで上げろ。」
「200メートルより下には絶対に近づくな、ご苦労だが
3人手分けして、半径20キロ圏内に兵士がいないか、
後1時間で良い、捜索してくれ、
特に何も見つからなければ、研究所に戻ってくれて結構。」
「了解しました、捜索を続けます。」