ドラキュラ伯爵の手下
持ち帰ったヤシの木の根を囲む研究者達
「根を切り取ってから3時間になるが、植物のように腐っては来ないな。
暫く暴れていたが、死んだようだ。」
フィッシュマンが研究者の口火を切った。
「根ではないですね、根元は3センチほどの太さがありますが、
細い毛根が無数にあります。
毛根の先は鋭利な注射針か蚊の口、そのようなところでしょうか。」
キムラが続ける。
「わたしの研究室で調べましょう、見かけは植物ですが、
生物学的には動物の分類に入ります。」
フィッシュマンは調査を引き受けた。
「スワン、鯨の血液と根の分泌物を分析班に回してくれ、
サンプルの一部をサイヤにも同じように送ってくれ、
彼は栄養学や医学生理学にも詳しい、血液成分を取り込んで、
どう栄養素に変えているのか、何かわかるかも知れない。」
「どちらが動物で、どちらが植物か、ややこしい。」
スワンは愚痴をこぼした。
「血液を吸っていたのですか、ヤシの木はドラキュラ伯爵ですね。」
フィッシュマンから報告を受け、サイヤは納得したように答えた。
「サイヤドクターもジョークが好きですね、私は蚊だと思いましたが、
なるほど根の生えたドラキュラ伯爵、面白い。」
「ヤシの木が鯨に乗っているのは何かあると思いました、
鯨の血液にどの程度の栄養素があり、もし人間が食べても問題なければ、
肉は食べられなくとも、鯨は我々の食料にできる可能性があります。」
「これを聞いたらヤシの木が怒りますね。」
「フィッシュマンドクターもジョークがお上手ですね。」
「あなたほどではありません。」
「取りあえず、サンプルをレッドアローの研究室へ電送してください。」
「了解です、直ぐ送ります。
分析と安全性の確認には時間が掛かりそうだ、
他にも食用が可能な動物がいないか、サイヤは部下に、
手分けして探すように指示を出した。
スワンが鯨の祖先で近親者の、カバがいないか資料に残していたが、
水辺で暮らすカバの大きな群れが見つかった、
3本の鼻を持った象の様な動物もいる。
「食用にできる可能性が高いのは血液だ、
余り小さい動物は無理、数が多い大型動物を見つけたら、
可能な限り血液サンプルを取ってくれ。」
全ての部下にサンプルを取るよう、サイヤは指示を追加した。
「私たちは皆、吸血鬼になるのですか、まるでドラキュラ伯爵の手下だ。」
サイヤの部下が返事を返した。
「ああ、そうなるかも知れん、まだ決まったわけではないが。」
冗談を言うやつが増えた、この星に慣れてきた証拠だとサイヤは思った。
1週間が過ぎて、徐々に分析の報告が上がってきた。
「鯨の血液にはミネラル成分は豊富にあります、脂質、ビタミン類もあります、
たんぱく質も一部あります、炭水化物は含まれていません。
他にも解らない成分が何種類かあります、毒性検査はまだ時間が掛かります。」
「そりゃそうだろう、炭水化物ならレッドアローに積んである、小麦の種を
植えれば良いのだ。この星で育てばの話だが。」
報告を受けて納得顔でフィッシュマンが口を挟んだ、」
「何を言っているのですか、今から植えても間に合いません。」
サイヤは怒鳴ってしまった。
「仕方がない、飯抜き、おかずだけで皆頑張るとするか。」
「フィッシュマンドクター、貴方は気楽で良いですね。
食べるものがなくなれば、鯨の血を吸っていただきますよ。」
「サイヤ先生、ご勘弁を、何か代わりを見つけてくださいよ。」
鯨の血液以外、食料になりそうなものはなかなか見つからず、時が過ぎていった。