それは行方不明と言うのでは・・
「ハンク船長、長い間ご苦労でした。」
「ご期待に添えず申し訳ありません、クルーは私を除いて、全員死亡しました。
クルーを死なせた全ての責任は私にあります。
いかなる処分も受ける覚悟はできております。」
「時間がありませんので、ハンク船長が持っている赤色矮星グリーゼ581gの
全ての情報を私に転送してください。処分は内容を確認した上で決めます。」
赤色矮星グリーゼ581gで起きた記録、ハンクが知っているすべての知識
映像、ほぼ50年分のデータをハンクはマザーに転送した。
数秒後、
「良い知らせを期待していましたが、残念です。
赤色矮星グリーゼ581gは、私たちが想像していた星ではありませんでした。
星の様子、クルーが帰ってこない原因は大体解りました。
ハンク船長、貴方は赤色矮星グリーゼ581gをこの後、
どのようにしたいと考えておられますか?
報告だけであれば、上層部に出せば済みます、
わざわざ私を訪ねて来たのには、それなりの訳があるからでしょう。」
「ご推察の通りです。
赤色矮星グリーゼ581gはとんでもない星ですが、
私はあの星が好きになりました。
一見何もかも銀河系の常識を外れていますが、
赤色矮星グリーゼ581gは地球にとても良く似ています。
あの星は植物が、実は地球で言うところの動物、動物が植物、
つまり、地球の逆だと考えれば、何もかも理解し易くなります。
植物は草も樹木も知能が高い、賢いだけであれば言うことないのですが、
問題は植物の性格です、
彼らは地球を滅ぼしたホモサピエンスにとても似ています。
彼らを知れば、知るほど地球を思い出し、考えさせられます。」
「それを言うために、わざわざここへ来たのですか?」
「いいえ、私はマザーのお知恵をご拝借するために参りました。」
「これば済めば、赤色矮星グリーゼ581gに戻るつもりですか?」
「ええ、私はそのつもりです、生きてさえいれば、
何年先であろうと私は戻ります。
不幸にしてクルーを全員亡くしましたが、私はあの星を愛しています。」
「ハンクは簡単に死ねませんからね、解りました、
今日は予定が混んでいますので、後ほどヘレナに次に会える日を連絡させます、ゆっくり休養を取ってください、ご苦労様でした。」
ハンクは敬礼し、マザーを見送った。
「マザーの予定は2週間先まで一杯です、次の謁見は2週間以上先でしょう、
地上に降りますか?」
「いや、それ程時間は無い、調べたいことが山ほどある、
このまま静止軌道ステーションにいる、連絡を待っている。」
「マザーの予定が決まりましたら連絡します、
ステーションのデータベースにはハンク船長を認識させてあります、
ご自由にお使いください。」
「ありがとう。」
謁見室を出ると、ハンクは休養を取る時間を惜しんで、何かを調べだした。
やがて2週間が過ぎ、ヘレナから連絡がきて、
3週間目の朝ハンクは再びマザーに謁見した。
「ハンク船長、確認のため、お尋ねしたいことがあります。」
「何でしょう?」
「最初に、貴方から、船長以外全員死亡と報告を受けましたが、
記録映像に死体が全くありません、死体は確認していますか?」
「いいえ、死体は1体も確認できておりません、
帰還する前まで捜索しましたが、死体は1体も発見しておりません。」
「それは、行方不明と言うのではないですか?」
「お言葉ですが、行方不明になってから何十年も経っています、
生存はありえません、ですから私は死亡と申し上げました。」
「途中から地上の建物、機材の映像がありませんが、
地上に下ろした、クルーが使っていた建物、機材はどうしました?」
「クルーと同様、捜索しましたが、何も見つかっておりません。」
「機材の置いてあった場所は、機材が無くなってからどうなりました?」
「元の森に戻っています。」
「・・・」そこまで聞いて、マザーは黙ってしまった。