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1-9 猿でもできる恋愛魔法

「そう。じゃ、同じ要領で戦闘魔法、アクションと呼ばれるものもやってみようか」

「アクション? 動く?」

「これもメークと似てるんだけど違いはメークは変化で、アクションは作るってことかな。この間のツバキさんがライブの最後に出してた剣や月がアクションだ」

 僕は占い師が水晶に手をあてるような感じで両手を作る。

「手の先に魔法を集める感じにして、ボールをイメージする」

 徐々に、じわじわとグラデーションのように白い靄のようなボールが手の間に浮かび上がってくる。

「すごいすごい!」

 テンションを上げて手をたたく明里。

 両手の間に出来た球体を作って一息つく。まだまだなめらかさはなく少し凸凹で、それに少し楕円形だ。けれど質感はイメージ通りだ。ボールを叩きつけるように投げると店の中を跳ね回る。けれど所詮は幻覚。跳ね回るだけで当たったものに影響は与えない。

「うわーピョンピョン跳ねてる! よーし、わたしも!」

 意気揚々と明里は僕と同じように占い師のように手を構える。

「球体は特に難しいよ。正確な丸を作るには正確なイメージ必要。そしてどういう材質でできているのかイメージしないとただの幻になるから……」

「できた! どうかな。もしかして誠よりもまんまるじゃない?」

 作ったボールを僕の目の前にかざす明里。

 確かに僕よりも丸い。けれど問題は質感だ。指先でちょんとつつくと想像以上にふわふわとしていて、何回もつついてみたくなる気持ち良さだ。それはまるで。

「マショマロだよ。ふわふわで気もちいいでしょ」

 ……僕は枕のような感触だと思ったけれど、気持ち良いってことは共通しているので合格としよう。むしろ僕はあそこまで気持ち良いボールを作れる気がしない。

 飲み込みが早い人のことをスポンジに例えることがあるけれど、明里の場合はスポンジ以上だ。スポンジ以上の何か。スポンジ以上に吸収できるものを思いつかないけど、とにかく明里はスポンジ以上の吸収力を持っているのは確かだ。うん。

「次は内面魔法、オーラを発する方法なんだけど。これは体からやかんみたいな湯気を出すみたいな感じと言えばいいのかな? 少し説明が難しいけれど、頭の中でこう思われたいってイメージしながら、湯気を出す感じでやってみてくれる?」

 こんなよくわからない説明なのに、明里は素直にうなずき、目を閉じて大きく息を吐いてから「バッ」と言って両手を掲げて万歳みたいな格好をし、目と口を大きく開いた。何かを放出するイメージだろうか。

 僕の言ったことを忠実に再現してくれたけれど、オーラの発生は見られない。やっぱり説明が下手過ぎたのかもしれない。少し悔しい気分と申し訳ないという気持ちで明里に謝ろうと目を合わせた時だった。

 僕の頬はとろりと緩んだ。あんなに強張っていたのに。目を見た瞬間に蕩けるように緩む。

 この効果は明らかに恋愛魔法だ。それに中々の効力を持っている。ただ目を合わせないと発揮できないのが難点だけれど、これから練習をしていけば瞳以外からもオーラを発することはできるだろう。

「はじめてにしてはすごいよ明里は。今やった三つはラブマギカの基礎なんだけど、僕は明里ほどになるまでに一か月はかかった」

「そうなんだ。でもなんだかさ」

 言い辛そうに明里は目を伏せたり合わせたりとちょっと挙動不審だ。

「言いたいことがあるならいいなよ」

「うん……。なんだか、ぽくないかなって」

「ぽく?」

「うん。さっきから誠の説明ってほわほわしてて、イメージすることだけしか言ってない気がするんだ。誠の性格からすると、もっと細かい説明とかしてくるのかなって。もしかしてわたしに合してくれてるのかな?」

 僕は小さく笑う。

「確かに明里がわかるようにとは思っているけれど、これが僕の今の限界だよ。少し過大評価してるんだよ明里は」

 そう言って鞄から本を一冊取り出して机の上に置いた。タイトルは『猿でもできる恋愛魔法』。

 まだ恋愛魔法の歴史は十五年しかない。しかも男性への偏見が強かったので最近までは男性が使うことを嫌う風潮ができていた。なので余計に指導者は少ない。確立した指導をするための教科書もまだ発展段階。なので教科書を読んでもイマイチ理解できなかった。

 きっと恋愛魔法の強化に関してわからないことが多いのだろう。だからこそ僕は自分で作るしかなかった。この教本を。

「主にイメージ法っていう不知火つくしさんが作った方法を元に僕が書いてみたんだ」

 全百頁少しで恋愛魔法指南書として適切なのかどうか僕にはまだわからない。

 パラパラと本をめくる明里の表情は真剣そのものだ。

「今のところ理論派の僕が見つけた最良の方法が感覚で掴めってことだったんだ。でもこの方法が最良だとは思っていない。もっと知りたいんだ恋愛魔法を。だからこそ僕はラブマギカのいる聖爛中学に行きたい」

 明里はまるで僕の話を聞いていないようで、真剣な表情のまま本とにらめっこをしている。まあ、僕としても独り言みたいなものだったから気にはしていない。気にしていないのだけれど、喫茶店のマスターが目が合った時にクスリと笑ったのが気に入らない。あくまで独り言なんだよ、今のは。

「すごいよ、すごいね誠!」

 おもちゃ屋のショーケースを見つめる子供のように『猿でもできる恋愛魔法』を読んでキラキラと瞳を輝かせる明里。

「これ読めばきっとどうにかなるかも。頭の中にそのまま入ってくる感じ」

 こんな実験的な教本でどうにかできる明里の方が凄いと思うんだけど。

「どうして明里はそんなに素直に信じられるんだ? 本当はこうじゃないかとかさ、疑問とか思わないの?」

「だって誠の言うことなんだもん」

 それは答えになっているのかわからないけれど、受験まで一週間を切った今、変に疑問を与えるのはよくないだろうから盲目的に信じてもらうことにしよう。

「それは安心だ。実技の方は問題ないだろうな。あと筆記テストは暗記だから教えることはない。じゃ、あとは明里自身で頑張ってくれ」

「えっ? もう帰っちゃうの?」

 時刻は五時過ぎ。確かに少し早いかもしれない。けれど、僕だって暇じゃない。受験勉強もしないといけないし、それ以外にも忙しいのだ。

「片道一時間かかるんだ、わかってくれ。それと受験の日までもう会う時間はない」

「えー、それは困るし寂しいし」

「ケータイがあるだろ。困ったら連絡してくれ」

「ケータイなんてないよ。パソコンもないし。電話は商店街の人に貸してもらえるだろうけど」

 各家庭の電子端末所持率九十九パーセントのご時世なのに。まさかその一パーセントに当たるとは。もしかするとこういう境遇が赤の希少色を生むのかもしれない。……ないか。

「それにさ、今日ね。学校でパソコンの授業があってその時に聖爛中学の編入試験のことをみたんだけど、オーラが青の募集はしていたけど、赤の募集はなかったよ?」

「大丈夫。僕にはコネがあるから明里が試験を受れるように頼んだんだ。いわば特別枠」

「そうなんだ、やっぱり誠はすごいね」

 ごまかしてはみたものの、明里が試験を受けられるかどうかはまだ決まっていない。数日中にどうにかしなければいけないことの一つだ。

 カップに残った紅茶を一気に飲み干し、明里の分も会計をして僕は駅に進む。マスターの恨めしさのある鋭い視線が脳裏に焦げ付く。明里は本当に商店街の人々に愛されているようだ。

 そんな明里のこれからは僕の恋愛魔法にかかっている。

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