1-7 わたしがラブマギカになったら
明里は首を縦に中々振らなかった。
僕らはライブが終わった後、ライブの感想を興奮して話しながらその勢いでモール内のカフェに入ることにした。
そしてライブの話を中断すると途端に不機嫌なふくれっ面で店外の買い物客を眺めたり、メニューをみつめたり、ため息をついたりと中々に忙しそうな態度に変わった。
明里が一番みつめていた甘いココアを注文し、僕は先に注文していた薫り高い紅茶を口に含む。
「明里はラブマギカになるべきだって」
「さっきも言ったけど、今のままでいいかなって」
「それがどれだけもったいないかってわかってる? ルビー……つまり赤オーラを持つことがどれだけの希少性なのか。一%しか持たない激レア中の激レアでプレミアムレアで、さらに明里にはアイドルとしての素養も――」
「もう同じことを二回言ってるよ」
呆れ顔の明里は運ばれてきたココアを口に含み、熱いと舌を少し出す。
「大事だから二回言ってるんだよ! 僕と一緒に聖爛中学の編入試験を受けよう」
「せっかく久しぶりに会ったのに。もうだか――」
「学費が免除になるんだ」
ラブマギカに対し心が離れかかっている明里を惹きつける言葉を言ってみた。
イライラとしていた明里の表情がその言葉で案の定素に戻る。
明里は中学生なのに親戚の店で手伝いをしていた。それはただの親戚の手伝いではないはずだ。商店街のアイドルになるほど認知されるにはかなりの日数を手伝わないといけないだろう。
親戚の店を手伝うその理由。きっと家庭の経済状況にある。並の家庭の中学生なら休日の昼間は、友人との交友やクラブ活動をしているはずだ。
家族が少しでもマシな暮らしをするための手伝いを明里はしているに違いないと僕は推理した。
「どういうこと?」
「学費免除だけじゃない。寮代も食費もタダ、それ以外の雑費も学校が出してくれる」
「えっ。どうしてそんな貴族みたいな感じなの?」
「ラブマギカは学校の広告塔なんだ。少子化に困った学校が、学校の広告になるために生徒に芸能活動させるんだ恋愛魔法を使って。だから入学すれば普通の勉強だけじゃなくって学校の為に芸能人の勉強をしないといけないし、仕事もしなくちゃいけない。それにもし芸能活動が上手くいかなければ退学だってあり得る厳しい世界なんだ」
「そうこうことなんだ。じゃあみんなわたしと一緒なんだ」
どういうことだろうかと一瞬思ったけれど、生活のために精肉店を手伝っている明里と学校に通いながら芸能活動をしているラブマギカは同じと言えば同じかもしれない。
「確かに似ているかな。あとは明里が芸能活動をしたいか、からあげ売りたいかの問題だろ」
華やかな芸能界と小さな町の精肉店、どちらを選ぶかなんて迷うわけないと思っていたけれど、まさに人の思想とは十人十色のようで明里は腕を組んで俯き悩みに悩んでいた。
もうひと押しあれば明里がなびくかもしれない。でもその言葉が思いつかない。
「明里はどうしてそこまでこの町にこだわってるんだ?」
「……商店街の人達はあたしにとって家族なんだ。いつも声かけてくれて元気なかったら励ましてくれるし、相談にも乗ってくれる。お野菜やお肉もおまけしてくれたり……で、その感謝の気持ちを返せるのがお肉屋さんのお手伝いなの。みんなに声をかけると嬉しそうにしてくれたり笑顔になってくれる。それに最近は商店街から少し離れたところからもお客さんがわたしのお店にきてくれるようになったっておばさんも言ってた。少し傲慢かもしれないけれど、わたしがいなくなることで商店街のみんなが寂しがったりお客さんが減らないか不安なの」
「明里はどうなんだ。商店街の人、お客さんを抜きにして自分の正直な気持ちを聞かせてよ」
その言葉に触発されたのか、バンと机を強く叩いていきなり僕の顔の近くまで顔を持ってき勢いよく言った。
「ラブマギカってすごい面白そう! それにツバキさんすごかった! かっこカワイイ!」
「正直、あんな風になれたらって思うだろ」
「うんうんうん。憧れるよ、憧れちゃう!」
明里のキラキラした瞳はやはりアイドルになるべく瞳をしている。ツバキさんという憧れがさらに光を与えているのだろうか。
「じゃあさ、やっぱりなるべきだよラブマギカに」
「だってそうすると商店街の人が寂しくなるよ」
「明里がツバキさんみたいにテレビにたくさん出れば?」
「みんなに観てもらえる……かな。でも商店街の、お肉屋さんのお客さんが減っちゃう」
「ツバキさんの住んでた町やいきつけのお店って気にならない?」
「気になる。気になっちゃう……ってことはわたしのファンを増やせば、みんな商店街やお肉屋さんに来てくれるってこと?」
僕がゆっくり深く頷く、明里の顔はさらに明るく輝いた。悔しいけれどその顔は、僕がラブマギカによって作り上げたどの表情よりも魅力的で愛らしかった。
「なるしかないね、ラブマギカに」
「ああ。それじゃ一週間後の試験に向けて勉強しなきゃな」
「いっしゅうかん?」
唖然とした明里もこれまたギャップがあって魅力的で愛らしい。




