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1-6 赤い光

 ショッピングモールの一階にあるイベントホールに着くと、たくさんの人が押し掛けていて、ステージ上のツバキさんの姿は見ることができず、しかたなく二階に上がって上から見ることにした。

 二階からでも人と人の合間を縫って親指ほどの大きさのツバキさんしか観ることができない。残念だけれど、時間に遅れたんだから仕方ない。歌声が聞こえ、ちらりと踊りがみえるだけマシだと思っておこう。

「すごい人だね。この町にこんなに人っていたんだ」

 この町だけじゃなくって各地方から集まってきているんだけど、そんなツッコミをしている心の余裕はない。僕はショッピングモール内のスタッフからレンタルしたラブマギグラスを明里に渡した。

「これなに?」

 補聴器のようなものがついたメガネを好奇心旺盛なキラキラした瞳で明里は見つめる。

「本来恋愛魔法って、恋愛魔法使いか魔法を使う人が好意を向けた相手にしか効果のない魔法なんだけど、それを誰にでも効果があるようにできるのがこのラブマギグラスさ」

「これも誠の七大ラブマギカグッズの一つ?」

「違うよ。これはもっとすごい人が作ったガチな発明品だよ。ほら、あそこでスタッフの人が配ってるだろ」

 かごを持ったスタッフの女性がティッシュ配りの要領でライブを見に来た人たちにラブマギグラスを配っている。自分用のマイグラスを持っている人もいれば、その場でレンタルする人もいる。

「ただかけるだけでいいから」

「じゃ遠慮なく見させてもらうね、ありがとう!」

 そう言うと明里は人垣の方に向かって駆けていき、人の壁から少しでもツバキさんを見ようとピョンピョンと跳ねる。無理やり連れてきてしまったと少し危惧していたけれど、ノリノリのようで安心した。

 明里は人の隙間からチラチラとしか見えないツバキさんを見ようとステージの方向をジッと見つめている。ちらりと見えるツバキさんは侍のような和服を着ていた。おそらく現在主演をしているの月9ドラマ『頼朝独奏曲』のキャンペーンとしてその番組の衣装を着ているのだろう。

 何も明里が特別ツバキさんに惹かれたわけではないだろう。

 買い物客は音楽につられてやってきて、ラブマギグラスをスタッフから手渡されると足を止めてライブを見つめ、光を求める虫のようにステージの方へと自然に体を進めていた。初めての人でも魅了するその魔力に尊敬もするし、そうなりたいという憧れもある。

 自分が彼女のようになれる確率がわずかにでもある可能性が嬉しい。直にツバキさんを恋愛魔法を浴びるとそんな気持ちがさらに高まる。

 人が十人立てるか立てないかくらいの小さなステージから、赤毛を揺らしながらツバキさんは千人近い人々を楽しませる魔法を送っている。

 恋愛魔法で高めた歌唱力とダンス、それだけではなく時には手や足を三本四本と増やして幻想的な世界を作る。

「あれって手をシュパシュパってすんごい早く動かせているの?」

 明里は興奮して腕を伸ばして上下に動かすけれどそんな孫悟空や桜木花道的なことではない。

「全部恋愛魔法さ。でももちろん、基礎となる歌とダンスも上手じゃないとここまですごいステージはできない」

 曲がサビにくると、ツバキさんは体の周りに赤い霧状のものを発し、それはステージ周りの一階から二階、さらには三階まで広がっていく。そしてそれは二階の中空で急速に集まって、両手で抱えきれないくらいの大きさの大きな球体……赤い月が浮かんだ。

 そしてその赤い月は客席の中空に舞い、赤紫な妖艶な光を放つ。

 それをツバキさんは自分の体ほどの光の塊でできた大剣を手から踊りながら繰り出す。そして恋愛魔法による効果なのか五メートルほど飛び上がって中空の月と対峙する。

 そして華麗に踊るように切り付けた月は見る見るうちに小さくなっていく。そして曲が終わると同時に塵になった月の辺りでツバキさんがくるりと周ると、その塵は赤い宝石のような輝きを放ちながら、流れ星のように客席に飛んでいった。

「きれえ」

 とろんとした表情でその様子を見つめる明里にを見つめ、僕はうんうんと頷く。これできっとラブマギカに興味を持ってもらえたに違いないと。

 うんうんと上下に首をうごかしていると明里の手元が赤く光っていることに気が付いた。

「明里、なあ明里」

「ちょっと、ツバキさんがお別れの挨拶するんだから聞こうよ」

「それどころじゃない、手、手」

 僕は明里の持つオーラボールを指さす。

 明里は僕の指をなぞって自分の手を見つめた。するとマンボウのような抜けた表情をして、気の抜けた声で言った。

「あれ? わたしもラブマギカ?」

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