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1-2 商店街のアイドル

 晴れわたる空。枯葉を舞わせる肌寒さから本格的な冷たさに移行し始める十二月の風。

 青をベースとした大きなチェック柄のお気に入りのワンピースを着ていることで、膝とわずかに覗いた太ももが冷たい。ロングブーツを履いても隠し切れない膝は悩みの一つだ。ストッキングでしのぐ手もあるけれど、このワンピースの色は素肌がもっともあっていると僕は思うから逃げ道は使いたくない。

 僕の思う最高のカワイイを表現できるのなら少しくらいの寒さは障害にもならない。

「へっくしゅん!」

 なんて粋がっていても寒いものは寒い。マフラーのもこもこを触りながら寒さを紛らわすけれど、しのげるレベルじゃない。

 地元から約一時間かけて田舎方面へ電車に揺られあったかくなった体を、山の空気が電車から降りた体を急速に冷やす。山の寒さと十二月の風が恨めしい。

 けれど僕は歩みを進めなければならない。なんたってあと三十分もすればラブマギカのスターであるツバキさんのライブが始まるのだから。

「はああっくしゅん!」

 これからって時におっさんのような大きなくしゃみをしてしまった。

 心に乙女、心に乙女、心に乙女。心がおっさんが迫ったとき、こう念じずにはいられない。

 ずるると鼻水をすする。

 駅からライブ会場のショッピングモールまでは徒歩十五分。アーケードのある商店街を通って風に当たることなく半分は進むことができるけれど、それでも会場に着くまでには鼻水でずるずるになるだろう。そんなみっともない姿をツバキさんに晒したくはない。

 そうならないためにも体を温める何かを食べながら向かうのはいい案かもしれない。

 僕は商店街にそういったものがないか探しながら進むことにした。

 商店街は最近できたショッピングモールに客を持っていかれたからか活気はあまりなく、お昼時というのに商店街の半分はシャッターが降ろされていた。歩いている人もほとんどいなくて、駅までの道路として使うような人ばかりで店で何かを買おうとしている人はほとんど老人で、若い人はいなかった。

 僕の住む町ではないから関係ないけれど、それでも少し寂しい気持ちになってくる。

 そんなSSS。さびれたさびしい商店街とは不釣り合いな可愛らしい声が聞こえてきたので耳を澄ます。その声は五十メートル先で客寄せをしている女子のものだった。

 肉屋の前にいる彼女は天真爛漫な元気いっぱいで、あどけなさの残る舌足らずなカワイイその声の主は、黄色いメガホンを片手に持って振り回し、学校のジャージにエプロンというフェチズム溢れる服装で机の上に積まれたパックに入ったからあげを売ろうとしていた。

 からあげは好きだけれど体が温まりそうなものじゃないからここは買わないでおこう。看板娘と目を合わせないようにして通り過ぎようとする。目を合うと断りずらくなってしまうから。

「お嬢ちゃん、からあげどうですかー」

 僕と同じ年齢くらいなのにお嬢ちゃん呼ばわれだと少し鼻にかかるけれど気にしちゃだめだ。

「お嬢ちゃん、どう? あれ、あ、お嬢ちゃんじゃなくてあんちゃんだ」

「えっ!?」

 僕はついからあげの売り子の方に振り返ってしまった。

 だって僕を男だと見抜いたのだから。

「ど、どどどど、どうしてわかったの?」

「からあげ好きってこと?」

「違くて。僕が男だってこと」

 服装は完璧女子、ボブくらいの長さのウェッグもつけているし、何より恋愛魔法でメークをしたのだから気づかれることはまずないはずだ。現に女装をして街に繰り出すようになってから四か月経ったけれど、ずっと女子として扱われてきた。男子と気づく人なんて……このからあげ嬢が初めてだ。

 見破った理由なんて一つしかない。ついパニくって当然なことを聞いてしまった。

「あんちゃんだってわかった理由? だって雰囲気が友達にいていたらからなんとなく」

「な、なんとなく? そんなわけないですよね? ごまかしたって無駄です。恋愛魔法でしょ?」

「ごまかす……? 恋愛? って? ああっ! 誠だ。まことだ―!」

 からあげ嬢はいきなり僕の名前を呼ぶとメガホンを投げ捨てて僕の体に抱き付いてきた。どうしていいかわからない僕は拒否することも出来ず、ただただ彼女の体の温かさを受け入れた。

「そのリアクションからすると生き別れの兄妹かな?」

「ええ。違うけどそのレベルだよ。誠、覚えてない? 明里だよ明里」

「あ、か……り?」

 呟いてみてやっと僕は体を抱きしめてくる少女のことをやっとを思い出した。

 小学五年生の頃に転校していった友達の光崎明里だ。

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