1-11 強請れ土井隆
人がまばらな駅のホームのベンチに土井を座らせた。
僕は座らず、土井を見下ろす。
「お久しぶりですね、土井さん」
土井は眼のギラツキはそのままで、誰? というキョトンとした表情を浮かべる。
恋愛魔法の効果を無くした素の顔ですら気づいてくれないとは少し残念だ。
ボブのウィッグを取って見せてもまだ気づいてくれない。こいつは本当に一週間前に願書の手続きをしてくれた土井隆なのか疑問になる。
「十二月の十三日編入試験を受ける予定の佐々木誠です」
「ささ……ってあの女装の佐々木誠!」
「はい、その節はお世話になりました」
セーラー服で願書を持っていったのだけれど、男子だと明かした瞬間に土井は手のひらを返した。明かす前まではかわいいねー、のびしろあるねーなどと言うことを気色の悪いねこなで声で言っていたくせに。
女装はダメというスタンスを崩さなければ、彼はラブマギカに対し何か信念があるのかとちょっとした共感覚えるのだけれど、そうではなく直感的に嫌っていたようで、上司であるプロデューサーが僕の受験を許可してくれるや否や、また手のひらを返し「女装でラブマギカって発想面白いね、大賛成!」などとぬかしたのだから、いけ好かないその節を思い出す。
「じゃ、僕は女装した人のお尻を触ったってこと?」
「はい。周りにいるそれなりに若いオフィスレディよりも中学生の女装男子のお尻の方が魅力的だったようですね。すんごいフェチズムですね」
僕は嫌みを笑いながら言う。
「ちちちちちちっち違うんだって。偶然だよ! そう偶然」
「偶然そこに揉み心地のよさそうな?」
「そう、おいしそうなぷりっとした太ももとお尻があったから……はっ!」
「今のぜーんぶ録音してますからね」
土井はベンチから飛び上がって地面にデコを付けて土下座を繰り出した。これがいわゆるジャンピング土下座というモノだろうか。
生で見ると中々に勢いがあって驚いてしまい、謝罪をする方法としては適切じゃないアクロバティックさをもっている。周りの人達も何事かとちらりと僕らの方を見るけれど、構わず続けることにした。
「別に土井さんの職を奪ったり、金銭をねだったりしようとは思いません。ただ一つ、望みをかなえて頂けるだけでいいんです」
「なんでもします! なんでもしますからこのことは内密に! 合格かい? 合格が欲しいのかい?」
こんなダメマネージャーにそんな権限があるのか疑問だ。
「いえ、受験は公正にお願いします。お願いというのはルビーオーラの友人がいるのですが、その子の編入試験を受けさせてほしいのです」
僕は鞄から明里の願書の入った封筒を取り出し、土井に差し出す。
土井は封筒から願書を取り出して読み始めた。
「光崎明里……このままでも勝負できそうなくらい整った顔をしている」
「でしょ? しかもダンスも歌も得意で恋愛魔法のセンスも大アリ」
「でもなあ。一年のルビーにはひかりちゃんがいるしな」
聖爛中学は一学年に各色、つまり赤、青、黄、緑、藍、橙、紫の七人が定員と決まっている。たまたま青の一年が退学したことで僕が編入試験を受けられるようになった。しかもこの一年はみんなレベルが高い。ツバキさんの後輩になるべく、ツバキさんに憧れる恋愛魔法使いがたくさん受験したからだ。
その中でも一年のルビーオーラを持つ暁ひかりのレベルはずば抜けている。将来的には第二のツバキさんになるだろうという人もいるくらいだ。
「それはわかってる。でも明里が暁さんよりもラブマギカとして上ならいいんでしょ?」
「佐々木君。君は何を言っているのかわかってるのかい?」
「はい。もちろん」
「ひかりちゃんを辞めさせてその明里ちゃんを入学させろってことだよ」
「まあ、できれば共存できればいいんですけど」
「共存……か。プライドの高いひかりちゃんがオッケーしてくれるかだけど」
「土井さん、何か勘違いしてませんか? 明里の受験は絶対です。それで何かあったらすべてあなたが対処してください」
「えー。そんなー」
「どっちを選びますか? 女装男子中学生を痴漢した罪で警察に行くか、恋愛魔法を見破られずまんまと誘惑に乗って痴漢したラブマギカのマネージャー」
「どっちもダメじゃん!」
そう。触った時点でアウトだったんだ。ラブマギカのマネージャという自覚をちゃんと持ってほしいものだ。
「授業料と思えばまだましでしょ。頼んだからね、毛利さん」
半べそで小さく頷く土井を背にし、帰りの電車に向かう。
やっとこれで自分の勉強に専念できる。受験まであと二日。並み居る恋愛魔法使いから聖爛中学のラブマギカの座を勝ち取らなければならない。男子というハンデがあろうとも。
それに明里だけ受かって僕は落ちるなんて展開はごめんだ。
明里のオーラはサファイアオーラではなく、ルビーオーラです。
サファイアに間違えていましたので訂正しました。すみません。




