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1-10 痴漢釣り

 明里の為に僕は釣りに出かけた。

 釣りと言っても魚ではない、人を、土井隆を釣るのだ。

 土井隆は聖爛中学でラブマギカのマネージャーをしているが、見るからに仕事の出来なそうボーっとした顔のつくりが特徴だ。

 どうしてこの男を釣るのか。簡単だ。一番頭が悪そうで、エロそうだったからだ。

 願書をもらいに行くときに、男も受けていいかを確認するため聖爛中学校のラブマギカ担当者と一通り会った時に、こいつだけは段違いに駄目そうだった。立場の低いものには偉そうで、高い人には媚びる典型的な太鼓持ち。こんな奴がラブマギカ界のスターであるツバキさんのマネージャーと知ったときは絶句し、こいつの担当だけはごめんだと思ったけれど、今はいてくれてよかったと思えている。

 聖爛中学の最寄り駅、聖爛坂駅前のコンビニで立ち読みをするふりをして彼が来るのを待つ。

 一昨日は六時過ぎ、昨日は七時前。今日は……六時半を過ぎるころだから、そろそろ来る頃かもしれない。

 昨日も一昨日も、土井を見逃すことなく尾行し同じ電車に入れたのだけれど、他の男が連れてしまったので失敗に終わってしまった

 釣った男たちは警察に、なんてのは餌を撒いたこちらにも問題があるのでしないことにした。その代わりとして誘ったふりをして電車から降ろし、魔法を解いて徐々に男になる様子を見せて「次から男でも痴漢はダメだよ」と注意をすることにした。

 二人とも呆然と僕の顔を見たまま動かなかったから反省しているに違いない。

 一八時三十五分。改札を通ろうとする土井の姿を見つけた。

 今日こそはと気合を入れて僕は駅に向かう。

 土井の姿を見つけ電車に乗り込み彼の目の前に陣取り背中を向ける。

 この二日間で土井の弱点はお尻と太ももだと判明した。だからホットパンツで弱点を強調させて釣りやすくする。

 さあ、恋愛魔法で魅了させなければ。

 意気込んでみても、やっぱり不快なものは不快だ。触られようとしているけれど、実際、触られるのは気持ちが悪い。でもこれも明里のため、強いてはラブマギカの未来のためだ。

 気持ちを入れなおして太ももとお尻の魅力を引き出す。

 まずは太もも。一昨日と昨日に土井の好みを恋愛魔法によって感知した結果、細身だけれど張りがあり、白い肌が好みだとわかった。細身だけど張りがあるものと言えば……鳥、それもひな鳥。

 昨日食べた焼いたひな鳥は柔らかくそれでいて程よい弾力があり、噛むたびにあふれる肉汁がたまらなかった。

 そのひな鳥の弾力をイメージ、色は北欧の人達の肌を思い描く。

 魔力には限りがある。土井が電車を降りるまでの三十分間、ずっとは魔法を維持できない。

 棒の魔力では勝負出来る時間は五分。その間に魔力を下半身に注ぎ込む。

 注ぎ込むこと一分。土井の様子を見るために、少し顎を下げて後ろをチラリとのぞく。

 土井は僕のお尻と太ももの辺りをガン見していた。

 今日こそはいける。そう思った時だった。電車が大きく揺れる。

 そのタイミングで土井のモノと思しき手が太ももをさらりと撫でた。

 なるほどと僕は微笑する。

 あくまで土井は触ることを事故にしたいようだ。故意ではなく電車の揺れによる自然現象めいたことだと。中々に姑息だけれど、そういうやり口は嫌いじゃない。

 それならばと僕はわざと体を倒したり、揺らしたりして土井の体に近づく。

 最初のうちは三回に一回触れるくらいだったけれど、そのうちひな鳥のような感触に病みつきになったのか、近づくたびに触れるようになっていた。

 もうずいぶん触られているのだから、痴漢だと言えばどうにかできるかもしれない。でもまだ触れる程度では決定打とはいかない。 

 魚がえさをちょんちょんとつついているだけで、竿を上げてはいけないのと同じだ。

 しっかりと食いついてから。つまりはしっかりとお尻を掴んでからじゃないと。

 次がラストスパート。あと十秒すれば大きく電車が揺れる地点がくる。魔力を最大に注いで、より魅力を、よりひな鳥に近く、北欧の人のような白さに近づける。

 そして電車が大きく揺れた瞬間だった。

 手の甲ではなく撫でるようではなく、しっかりと手の平でお尻を触られた。

 誰の手なのか一応確認しておく。

 土井はお尻の方を見ずに窓に視線をそらし、しっかりと僕のお尻を揉んでいた。

 心の中でガッツポーズをするも、やはり触れるのは嫌なので次の駅で降りることにした。

 でもその前に。

 今度は下半身ではなく顔に恋愛魔法を施し、少女らしい愛らしい顔を作る。

 そしてお尻を揉む手を掴み、引きつった顔の毛利を蔑むような眼で見つめて、僕は満面の笑みを見せる。

「お話があるので次の駅で降りて頂けますか」

 声に性的な色気を引き出すためにメークとオーラの恋愛魔法を同時に行う。

「は、はい」

 頬を紅潮させ、獣のようなギラギラした瞳で土井は小さく頷いた。

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