むー、お兄様・・・未亡人幼女ひよりはあくまで強者なのですもん
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そこはおとぎ話に出てくるような煉瓦張りのとても小さな家……そう、幸せと言う灯火が色濃く溢れている小さな家。
それは結婚一年目の大切な記念日に起こった。
大好きな彼を見ると胸のドキドキ感が止まらない。
玄関で行ってきますと笑顔で優しく私を抱きしめてくれる……暖かい温もり、とても幸せ。
頬をピンク色にそめて大好きな彼の唇に少女は自分の唇を重ねた。熱い想いの籠ったキスを受けて照れる彼、この一年ずっと繰り返している幸せの一瞬……彼は今から仕事……そう、裁判官補佐としての仕事行く。
一人ぼっちのとても寂しい時間……私は彼以外に心は開かない……彼は罪人だった私を擁護して守ってくれた……だから私は身も心も彼に尽くす、私は彼の物。
寒い冬の後は必ず暖かな春が来る、彼が帰ってきて「ただいま、ひより」って頭を撫ぜてくれる、春の始まりまで懸命に私の出来る事をする。
華やいた笑顔と幸せ溢れながら炊事・洗濯などの家事をすませて、今日、彼にプレゼントをする服の制作にとりかかる。
純白をベースにした巫女っぽい衣装。
彼の喜ぶ顔を目に浮かべながら少女は一針、一針、感謝の想いを込めて一生懸命縫っていく。
運命の岐路……私の幸せを奪っていった出来事は突然やってきた。
電話が鳴り……聞き覚えのある声、そう、私を……私の魂を裁いた、裁判官の声。彼のお父様、閻魔様の声。
閻魔様の言葉はとても理解が出来なかった……彼が……悪魔に殺された……少女は昔ながらの黒電話の受話器をポロリと落とし、焦点の合わない瞳で白色の壁をぼんやりと見た。
その後の事は記憶が錯乱してはっきり覚えていない……彼の骸が棺の中にあり、私は漆黒の喪服を着て茫然と彼を眺めていた。
少女は愛しむように彼の血の気が無くひんやりとした手に手を添えた。
私だけのお兄様、愛している……目を開けてよ、いつものように、抱いてくれないの……少女が握ったその手は冷たく精気の片りんも流れていない。慟哭する心、嗚咽して言葉にならない悲憤する姿に回りの者は言葉もかけられない。
直ぐにも瞳をあけて『ただいま、ひより』と声をかけそうな、そしてせきをきったように抑えていた感情が込み上げてくる……その魂の抜けた形骸した身体に少女は覆いかぶさり泣きぐずれる。
「むー」
暖かな陽光がさんさんと降り注ぐ陽だまりの中、ひよりは眠ってしまっていた。
何度も何度も繰り返し見る悪夢……頬には涙の伝った跡がくっきりと残っている。
うっすらと目を開けると……そこに……ああっ、お兄様?
夢うつつの世界から意識が戻ってくると膝枕をされている感触が温もりと共に伝わってくる。
とても心配そうに彼は頭を撫ぜてくれた、とても気持ち良い。
――ああっ、おにいさ……違う……彼はふぶき……薩摩ふぶき……
お兄様のように優しく撫ぜてくれる……暖かく大きな優しさ……私は寂しい迷い小猫のように甘えて頬をすりよせた。
頬をすり寄せられた俺は少し戸惑っていた……何だか無意識に頭を撫ぜてしまった、俺はただいま絶賛美少女に膝枕を堪能中である。
ひよりの元に転がりこんではや三日目……今日も朝食の後に館に戻り、一休憩してひよりに連れられて館から少し離れた庭に御散歩、途中、館の中を高速で走るひよりを三人ほどみかけた(あのひよりはいったい?)
季節感溢れる極彩色豊な薔薇園、鼻腔をくすぐる優しい花の香り……といっても俺は花はまったく興味がない、知っていてもチューリップやひまわりが関の山だ……ただ、さきほどの食事で、ひよりが孤独でとても寂しそうに見えたから付き合ってる。
ぽかぽか太陽に照らされてひよりは眠くなったのだろうか可愛らしい小さな欠伸をしたのでヒョイっと抱えあげてベンチに座って膝枕をしてあげた……まぁ、お世話になっているちょっとしたお礼も込めて、すると安心するように直ぐに可愛い寝息をたてて眠ってしまった。
――数日前にあったばかりなのに信頼?されているみたい。
眠たそうに目を擦ったひよりはふぶきの顔を仰ぎ見ながらトロリっとした瞳を向ける――め、めっちゃ、可愛い……さわりごごちの良い芳潤な薄ピンクの髪に幼さは残っているが超ド級の可愛らしい相貌、身長が140センチ程の小柄な身体……とても後家には見えない……ちょっとだけドキッとしてしまう。
「むー寝てた」
口元からよだれを垂らして少し恥ずかしそうに呟くとひょいと起き上り、俺の肩に寄り添い体温を感じ取れるほど身体をあずけるようにすり寄ってくる。
「……お兄様」
不意に真剣に俺の顔を見つめる。
つぶらな唇から甘い吐息を零す、お兄様とは俺の事らしいので「どうした」と言わんばかりに見つめ返す。
「なぜ、私を襲わないのです?昔なら……早く抱いてほしいです……ぽっ」
何故か白い内太腿に両手でぐっと押さえつけて恥ずかしそうにぷいっと顔をそらすが頬が赤くなっているのがわかる。
――抱いてほしいだって!ま、まぁ、結婚していたのだから……い、営みはあるだろうが……ひぃぃぃぃぃ、俺には罪悪感が先だってしまう!
どうみてもひよりの見た目はお子様だ……その手の好きな人には欲望のまま突っ走るかも知れないが……俺はノーマルだから……と自分に言い聞かせてみる。
「むー、もしや、小鳥を抱きたいのですか?」
あれれ?少しドスのきいた声、とても干渉力の高い魔力をおびていますよぉぉ。
心配そうな色を含んだ双眸。
握りしめられたその手は力がこもっている。
俺は即答で「それはない」と答える、安堵したのかひよりが破顔一笑、華やかな笑みを浮かべた。
――小鳥……あの和風のとびっきりの美少女と思っていたが、頭のネジが三本は抜けている男の娘だった風呂場の衝撃……ファンタスティック♪
突然、曇天模様の木の下に覆われたように大きな影が俺とひよりに覆いかぶさる……はっとして見上げると……うぉぉぉぉ、きょ、巨人がぁぁぁ。
そこには凶悪そうな人食いゾンビやオークみたいな巨人が二体、俺を見てよだれをたらしている。まさしく、おおっ、美味そうな朝食発見のフラグが立っています。
「ぐるるるるっ」と呻き声をあげる。
生臭い口臭がひろがると怖ろしげに裂けた口から尖っている舌を出して俺をターゲットオンしている……ひ、ひぃぃぃぃ、ちびってしまいそうです。
怯えている俺を庇うようにひよりが小さな身体で精一杯両腕を広げて俺の前に立つ。
こちらからは見えないが、ひよりは辺りの気温がぐっと下がるほどの憤激の色濃くした鋭い眼差し巨人を睨めつける。
その刹那、キンっとした金属がぶつかり合ったような異音が脳に直接響く。
「むー、こ・ろ・す・よ」
その声が死神の招き声にも似た脳に直接びびく声……汗腺がどっと開き、脂汗がにじみ出る。
いつものひよりとは違う、とても大人びた声が……怖い、恐怖を煽り、恐慌を発動させそうな声音……魂を狩るような強制力や干渉力を持と合わせた言霊……本能が怯えてしまう。
俺は必死に両足に力を入れて立つ……目の前の巨人は明らかに狼狽している。
怯えた……苛められた子犬のように怯えきった目。
きょろきょろと巨大な眼球は後悔の色を強くしている。
やがて、圧力に耐えられなくなった一体が「ぐぉぉぉぉん」と恐れ戦いた声で発狂しながら森へ逃げていく、そして残った一匹はその場に膝から崩れ落ちて泡を吐き、気を失った。
――な、何が起こったんだ?
驚愕する俺に振り返ったひよりは「てへへっ」とパショっと何事もなくいつものように抱きついてきた。
「む―、お家に帰る」
そして、小さな手で俺の手を取り、風に靡いた薄ピンクの髪をゆらゆらさせて先導するようにテコテコと歩き始めた。
俺は、チラリと振り返り巨人を見つめた……巨人の身体が少しづつ灰と化して朽ち果てて風に舞っていた……いったい何が起こったのかわからない。
ただ、閻魔ひより……この絶世の美少女は、のれんに腕押しのように掴みようがない行動と性格……今は素直につき従おうと俺自身に言い聞かせるのであった。




