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小鳥のフィアンセ・ミカエル参上って・・・えっ、もしや百合なのですかぁーっ

     ◆

深いまどろみに包まれたように記憶の波にのまれたように俺は存在しているようで存在していない。

そこは白く輝く粒子が満ち溢れた聖域のような空間。

うっとりと陶酔するほど弦楽五重奏を彷彿させる神秘的な音色が俺を包んでいた、いや、俺ではない俺……俺は花……一つの魂が咲かせる美しい花。

深淵で尊い空間。

俺でない俺の傍らにそっと寄り添ってくれている……きみは誰?

問いかけても薄ピンクの麗人は柔らかに微笑んでくれるだけだ……そして、ぽんっと背中を押してくれる……もう、その扉から帰りなさいって。

あれ?扉の向こう、誰か呼んでる。

その先の扉に……やがて靄がかかり意識が肉体に戻るように空間は消えていく。

「ううん」

清潔な肌触り、凄く良い香り、ふかふかで暖かい感触。

ゴージャスなき・ぶ・ん❤

う~ん、幸せ、などと夢うつつのまま俺はうっすらと瞼をあける。

瞳に飛び込んだ風景は滑らかな大理石で造られたような天蓋付きのベットに極上にふっくらしたマット&シート……アラブの大富豪かよってまたまた突っ込みたくなる。

身体を巻くようにチェリー柄の少女趣味なブランケットに包まれて、シルクのような心地よさを感じている。

思考のレスポンスが鈍い、ぼんやりとする意識の中、首をまわしながらゆっくりと部屋を見る。

モノクロに整えられたシンプルな二十畳はあろうパーソナルスペース。

部屋の主であろう小鳥が俺が意識が戻った事に気がつき、とても心配そうにこちらを覗き込みながら手をずっと握っている、時折、白いタオルで額の汗を拭いてくれていたような形跡もみえる。

「びえぇぇぇん(涙)ふーちゃん生きてた❤息してる、ちゃんと鼻でも息してる。ほんに良かった。うち、三日間も起きへんから、ほんまにふーちゃん死んだかと思って、地獄の鬼達にふーちゃんの魂見つけたら届けるようにウオンテッドの張り紙配ろうとしたぐらい心配したんやけん……うち、うち……めっちゃ嬉しいわ」

溢れるほど瞳いっぱいに涙を湛えて心配そうに俺の頬に手をのせて、安堵の吐息をもらす。

小鳥と視線が交差するだけで何故か気恥しさが内側から込み上げてくる……が何故かこの気持ちを邪魔する音が聞えるような。

おや?やはり異音が聞える……隣の部屋だろう、求愛に失敗した孔雀のようなとてもヒステリックな声。


――きみも一緒に耳を澄ましてみよう……ほら聞えないかい?


罵詈雑言といった感じでののしっている大きな声がこちらまで響いてくる。

まだ、ぼんやりと意識がはっきりしない俺の視線がとなりのドアに行ったのに気がついた小鳥はそっと涙をぬぐった。

小鳥は小さく顔を横に振り、くすくすと微笑みながらしなやかな指でふぶきの頬をなぞり、安心させるようににっこりと微笑ましい笑顔を浮かべる。

「隣は大丈夫やから、ふーちゃんごめんね……うち……うちの問題にまきこんでしもて、後、何か思い出した事ある?」

「思い出した事?」

キョトンむとした俺に小鳥は一瞬だけ目を細めたようにみえたがすぐにいつもの笑顔に戻る。

「なんにしても、ふーちゃんがここに戻ってきてくれて嬉しいんよ」

申し訳なさと安心感が同居したような言葉のニュアンス、その雰囲気をまとったように唇をぎゅっと結んだ。

ベットにて腕を動かそうとした刹那、身体中の神経が繋がったように徐々に現実世界の痛みが神経を浸食していく。

身体のふしぶしに鈍痛(全身打撲といったところかな☠)俺は上半身を起きあげると小鳥は助けるようにすっと俺の背中に腕をまわす。

「無理はあかんよ……剛腕で名高い、自称ラオウと言い張るジジ様の拳をまともに受けたんやから。普通なら魂とんでるか砕けてるんじゃけん」

背中をゆっくりとさすりながら、恋人同士のように身体を密着させて肩ごしに頬をあてて吐息がかかるように耳元で囁いてくる。

意識がはっきりしてきた俺は小鳥をじっと見る。

「一つ聞きたい事がある」

凛とした声――俺は小鳥に向き合うとわざとらしく小鳥は微笑みながら小首をかしる。

「そうやねぇ、うち、無理矢理ふーちゃん買い取って連れてきて訳わからんまま、演じてもらったもんなぁ。ほんに、ふーちゃんの事、昔からごっつい大好きなんよ❤信じてる。一緒にいてたら、絶対にふーちゃんにうちの事好きになる自信あるよて、うちも沢山言いたい事はある、だけど今は深い詮索はせんといて」

俺の唇に人さし指をそっとをそえる小鳥。

「ふーちゃんにはうちの婚約者を演じてほしいねん……演じるんじゃない、もう、本当の婚約者じゃけん。そやから何があってもうちを愛してると言い張って。そうでないとうちは……うちでいられなくなる……ふーちゃんとは縁があるんよ。列車で一緒やったし……昔からうちの事……助けてくれたし……」

小鳥は照れたように寄り添い微笑む。

「魂花、色がとてもピュアやし……絶対にふーちゃんは悪い人やない」

確信しているように小鳥はコクリッと何度も何度も深く頷く。

――魂花ってなんだ?オカルトチックな……

俺の疑問がふっと表情にでたのか、小鳥は「どないしたん?」と顔をあげて吐息がかかる程近づけてきたその時。


ドカァァァァン!


爆音とともに勢いよく室内に飛び交う木片、埃がぐっと巻き上がる。

ベットの上でしばし茫然とする俺の隣で小鳥が軽く舌打ちしたような。

そんな俺の視界にゆっくりと優雅な足取りでとても豪奢でフリルの可愛らしい深紅ドレスを来た金髪の美少女が飛び込んでくる。

あれっ?額に怒!みたいな……青筋浮かんてせるし。

ただ、とてつもなく綺麗な人だ、たとえるなら……うううっ、発想が貧困すぎでたとえが思いつきません(涙)

そんな俺はふと、小鳥を見ると。

おおっ、黒髪を少し掻き分けた小鳥の表情から笑みが消えて急に強張ったぞ、修羅場でも起きそうな雰囲気。

「閻魔小鳥……いったいどういう事なんだ!しっかりと説明していただきたい」

怒髪天をつくといった声が部屋中に劈く!

空気を含みふわっと舞う艶やかな金髪、青磁を連想させる滑らかでハリのある白い柔肌に透き通っている碧眼と彫刻のように整った顔立ち、見事なメリハリのあるスタイル……年齢は十代中頃だろうか、その瞳は小鳥をロックオンして放さない。

溜息まじりの小鳥は俺に向けて決意を秘めた瞳を見せると少しだけ口角を上げた。

そして、くるっと機敏に俺を守るようなかたちで金髪の美少女に向きあう。

「おひさしぶりですねぇ、ミカエル様」

スカートの裾を掴んで優雅に可愛らしく挨拶をする小鳥に凄い剣幕で金髪の美少女ミカエルはがぶり寄る。

「閻魔小鳥、婚約解消とは納得がいかない。聞けば、とんでもなく鬼畜で小悪で豆腐の角で頭をぶつけて死ねばいいのにと言われるほどの悪い男に引っ掛かったとの噂を耳にした。そんな事、私は絶対に許さない」

――わ、悪い、男ってもしかしてオレかいっ!

ちょっとだけ胸がドキドキしちゃった❤

優雅に腕を組み、のけぞるような尊大な態度で小鳥に迫るが、軽く目を伏せてとても残念そうな面持ちで小鳥は横に首を振る。

そしてミカエルの威圧に小鳥は頑として応じない。

形の良い眉を寄せてその黒水晶のような瞳でミカエルを射抜く。

「ミカエル様……うちはもう……薩摩ふぶき様に初めてを捧げてしまいました。もう、うちは傷物じゃけん……」

ポカーンとおでこをハリセンで叩かれたように、よれよれっと三歩後ずさりをするミカエル。

ふわりっと捲れ上がった深紅のスカートの下にお目見えした白い太腿が目に眩しすぎる♪

血の気が引くようにミカエルの顔色が青ざめていく――て言うか俺、初めてってもらってないやん!まだまだ、絶賛童貞中。

「捧げただと」

捧げたと言うフレーズに殺意がてんこ盛りのような(汗)とんでもない怒り成分を含んだその声音はとても重低音サウンド♪

その憤懣やるかたない怒りは地を這うように部屋全体を浸食している……指をさして、どいかりや長介と言ってやりたいきがするぅぅぅ♪

形の良い唇をかみしめて、悔しそうに身体をぷるぷると小刻みに震わせる……おや、キッと俺を睨んできた。

「……そこの男が閻魔小鳥の初めてを奪った男か」

握りしめられた怒りの拳!

ブルブルと頬の肉が分身するほどのフラワーロックばりに全力で首を振る俺の自己主張……まるっきりみてないやん(哀)

ニトロでも爆発させたようなエネルギーを宿したミカエルの怒気、完全に怒り心頭だ。

もはや、仇討ちにでも来たような怒りを飛び越えて殺意さえ感じる。

投げかけられた小鳥、あれっ役者だなこいつ、神妙な面持ちから幸せそうな笑顔を作りコクリッと深く……とても深い頷く。

あれっ、今、プチって何か切れた音がしたような……

当然、怒りの……もう殺人でもやりそうな、モクモクと上がる深紅のオーラの矛先が俺に向けられる……その鋭すぎる眼光、オーバーキルですよ、物理的法則があれば即死してますよぉぉぉ☠

「ふぶき、死ね、遠慮なく死ね。即座に刹那に瞬間に死ね。お前が死ねば問題は解決だ。お前は小鳥が閻魔小鳥と知って手を出したのだからとにかく死んで私に詫びろ、許すつもりはないが」

碧眼に宿る怒りのバロメーター……ビックバンでも起こりそうなほど完全に振りきれている。この状況は戸惑ってしまう。

俺はヘルプ・ミー的要素いっぱいで小鳥の顔をチラリッと見る。

そこには祈るように両手を組んで懇願するような表情で俺を見ている小鳥……そんな小動物みたいな瞳でみられたらぁぁ(ぽっ❤)

ピリピリとした雰囲気……深い深呼吸で心を整える……覚悟を決めた刹那。

俺の身体を司る全ての細胞がハッキングを受けたように全神経の感覚が消える。

そして全神経にウイルスが入り込んだよう感覚が走る……あれっ、あやつり人形のように勝手に口が……。

「閻魔小鳥は俺のすべてだぁぁぁ、小鳥と俺は二人で一つ、シュークリームに入っているカスダードとパイ生地のような関係だ。どちらが無くてもシュークリームは完成しない!」

ビシッとキョンシーのように立ち上がったのかよ!と突っ込みたくなるほど直立に不自然に起き上った俺は天上に向い渾身の声量で咆哮していた。

意志とはまったく無関係に。

一瞬、光が頬に走った……あまりの速さに痛みが後からやってくる。

頬の肉が吹っ飛んだかと思えるミカエルのビンタが……ひぃぃぃぃ、めっちゃ痛い!

しかも、怒り狂うミカエルは真剣な眼差しでもう一度手をかざす。

……がその手首が振り切られる前にがっしりと手首がもたれる。

「やめなさい、ミカエル」

僅かに振り返ったミカエルは「チッ!」と舌打ちをして苦虫を噛んだように表情を歪める。

「……閻魔凛」

活発そうな雰囲気を宿した美少女閻魔凛が場にそぐわないピカァーと輝く満面の笑みと悠然とした態度でミカエルを引き離した。

「バーカ。そんなのだから小鳥ちゃんに振られるのよ。負け犬はお家に帰って部屋の片隅でリスと一緒にドングリでも食べてなさい」

突然、コミカルに馬鹿にしたような動きをしながら引き締ったウエストに手を当てて、人指し指をピシッとミカエルにむける。

バツが悪いのだろう、悔しそうに相好を歪めるミカエル。

「ふん、今日は引きあげる。私は小鳥を……閻魔小鳥を諦めるつもりはない。正式な婚約者候補の一人としてそんな、人間界で拾ってきたゴミに負けるわけにはいかん!」

じたんだを踏みながら踵を返すと、ミカエルははっきりと目に見えそうな怒りのオーラをまとい部屋を出て行った。

『ケタケタ』と楽しそうに甲高く笑う閻魔凛。

凛が指をパチリッと鳴らすと俺の身体の自由が元に戻る。

「お―ごめんね、ミカエル追い返すのにキミの身体を借りたよ。おや?キミが薩摩ふぶき君かい?クスッ❤私のタイプだな。おめでとう合格だよ、どう、今日の夜はお姉さんとSで始まる営みしてみない」

悪戯な含み笑い、閻魔凛はまじまじと俺を品定めするように見ながら『うんうん』と何か得心して、キュートな前髪をかきわけた。

「凜姉さま、ふーちゃんはうちのものやし……そのぉ……夜の営みはうちだけやから……」

はにかみながら両手を頬に当ててぽっと顔を真っ赤にする……って俺の意見全くないやん!

そんな小鳥が眼中にないようすの凛はすっと前に出る。

「まぁ、のろけはいいから。まずは自己紹介するよ!あなたも聞きたいでしょ❤わ・た・しのな・ま・え♪私は閻魔家の次女、超ド級に可愛らしい閻魔凛ちゃんだよ。あそこからちらちらと覗いているのが、長女のひより姉さん」

凛が促す方に視線を向けると一瞬だけドアから覗く、薄ピンクの髪がふわりっと舞った小さな女の子が見えたが目があった途端、ピシューと物凄い勢いで走って逃げてしまった。

「ふーちゃん、ひより姉さまは閻魔家のはぐれメタルの異名をとるほど対人関係が苦手でめったに人前に現れないスペシャルなお姉さまなんよ。うちも年に数回しかみてないけん、話したりした時はご利益あるんよ」

などと言って小鳥はひよりが覗いていた場所にありがたそうに両手を合わせて拝みながら感謝の言葉をのべている。

ポカーンとしてしまう俺の膝に悪戯っぽい子猫のようにニヤっと笑った凜は柔らかで形の良いヒップをのせて腰をかけ「ほらほら、美少女の凜様のお尻、気持ちいいでしょ♪もう、欲求不満のエロスケベな青春真っ盛りのふぶき君❤」からかってくる。

凛は「ふへへ」と残念な笑いをこぼしピンとたったアホ毛をピコピコと揺らしながら興味深々といった雰囲気で俺の顔を覗き込む。

「うぁぁぁ、綺麗な、キラキラして透き通った魂花の色をしている、とても懐かしい❤」

しなやかな指が淫靡に思えるような仕草で俺の前髪をかきあげるとそのまま首の後ろに手をまわして軽くハグをしてくる、仄かに漂うバニラの香りが心まで魅了されそうになる。

「凜姉さま、うちのふーちゃん誘惑せんといて!」

プンプンと抗議の意志をあげる小鳥に『にしししし』と口元に手を当てて凛は笑った。

「小鳥が結婚しても、子供は出来ないだろ。その時は私がかわりに産んであげるから。だから、ふぶき君の所有権は私にもあるよね」

太陽のようににっこりと微笑む凛とは対照的に少し闇に覆われたように暗くなる小鳥……も、もしかして、小鳥は何かの病気で子供が産めない身体とか。

俺は心配そうに小鳥に視線を移す。

それに気がついた小鳥はぺろっと舌をだしてスカートの端をもってくるりと一回転して『えへっ』と精一杯のつくり笑顔を浮かべた。

凄く切ない気持ちが溢れた笑顔。

そんな空気をかき消すように「さーて、私もじじ様と逢う時間が迫ってきたから、ちょいっと行ってくるよ」とひょいとベットから降りて立つとくるりっと俺の方を振り向く。

「ふぶき君、じじ様と逢って殺されてないと言う事は、じじ様も認めているのかもね。小鳥が連れてきた魂花の色を」

意味不明な言葉を残すと軽く手をふって凛はそそくさと行ってしまった。

まったく、不明な点だらけだ、突然身体は不自由になるし、勝手に言葉はでるし……そして、なにより、ここ、浮世離れしすぎている。

『ふぅ』と一つ溜息をついた俺は大きな窓から外を眺めた。

優しいオレンジ色の夕日が山の谷間に沈んでいく、これから迎える夜。

今まで生きてきた世界とはまた、違う緊張感がまとわりついていた。


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