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現実は真実よりは奇なり

  ◆

――そこのキミには申し訳ないが、冒頭から一言神様に言わせてください。チャンスは最後までグッドエンドでお願いします(涙)


いやはや……デンジャラスだよ☠……とても運が無い事だ(涙)

逃走をはかった俺は古典的なすずめを捕まえるような単純な罠(うううっ、砂漠に落ちていたペットボトルを取ろうとしたら、上から大きなざるがおちてきました(涙)喉が渇いただけなのに)にはまってしまった。

今度は背負っていた少女はもぎ取られ、小型機関銃などで武装した何処かの金持ちの私設部隊の方々に捕まってしまった……参りましたな。

そして、まさかのデジャビュ(既視感)の体感が始まる。

砂漠の真ん中で取り押さえられ、黒いハイヒールの女王様に「ほら!どこがいいの!」などと罵倒されながら踏まれるのが好きのマゾが喜びそうなほどぎゅうぎゅうに食い込む両手足の拘束☠……なぜかオプションで猿ぐつわまで❤流行りなのだろうかSМチックな扱いが(そんな趣味はありません♪……私に人権をください)

担ぎあげられた俺は装甲車のようにでかい輸送用の軍用車に放り込まれ、どんぶらこーっと揺れております。

デルタホースかよ!と突っ込みたくなる筋骨隆々な屈強な男達(先ほどお尻を触ってきた一人はホモっぽいです☠)の異様な緊張感に囲まれて外界の実温度を体感できるひんやりとした鉄板の床にお好み焼きのように転がっていた。


キキキッ―


ストップ・ザ・ブレーキ、堪える事の出来ない慣性が働き、俺は鉄板の上のタコ焼きのようにコロコロと転がる。

狭い車内にてご機嫌斜めのこわもて顔兵士の足元に転がると、不機嫌を右足に込めてサッカーボールのように蹴られてあっという間に元の位置(痛いですぅぅぅ(涙))

ヒンヤリとした鉄床が俺の体温をじょじょに奪っていく。

おや?……ガチャ!と響く音と共に後ろの大きなドアが開き、吸血鬼なら一瞬で灰になりそうな強い陽光が差し込んでくる。

陽光を背に浴びた女神のようなシルエットがぼんやりと俺の瞳の中に映し出される。

ふわりと舞う光沢のある黒髪、眉目秀麗な顔立ちの少女がこちらを見ると、リスのようにウルルンとした瞳で申し訳なさそうに、そして、物凄く心配そうに変態チックな姿の俺に駆け寄り傍らに来る。

「かんにんしてぇ!痛いとこない?うちを助けてくれたのに、こんなめにあわせてしもてかんにんやでぇ~」

やんごとなき御身分なのか?少女の悲鳴にもにた声色を聞いた兵隊達は互いに顔を見合わせて幾ばくかの動揺がみえる。

焦ったようにバタバタと黒のボンテージ並みに変態チックに拘束された俺の身体をぐいっと正面にむけて、夜の営みが始まりそうな勢いで抱きしめて覆いかぶさってくる。

このシチュエーションって売れていない低予算B級映画のエンディングみたい♪

――どうか、可及的速やかに猿ぐつわを外してください❤

おろおろと当惑する兵士を尻目に、瞳ウルルン度200%増量の凄く涙を貯めた懇願テレパシー的眼力で黒髪の少女に訴える。

しばしの沈黙……『はっ!』と気がついた黒髪の少女は俺の意図をくみ取ってくれた♪猿ぐつわが外される(人権は守られました♪)

そんな俺達の喜劇的なやりとりの最中、何か聞いた事のない言語で声をかけた部隊長らしき人物に黒髪の少女が怒り心頭の瞳で『キッ!』と鋭く睥睨する。

振り返った黒髪の少女は聞いた事のない言語でおろおろする兵士達を一喝すると、当惑顔をしながらしぶしぶと兵士達は武器を持って外へ出ていく(あっ、ホモっぽい兵士だけは名残惜しそうに俺をみてるきがするぅぅぅ♪)

最後の兵士が出ていき……パタンッ……と大きなドアがしまる。

ああっ、全身がもう少しで開放❤やっとフリーダム感❤❤

俺は頭にかぶった砂をパサパサとおとして改めて車内を見渡す。

閑散としたこの狭い閉鎖的空間に二人きりになってしまった。

同時に待ってました♪と言わんばかりに軍用車は動き始めた。

「怒ってへん?うちの事怒ってへん?怒ってたらうちは泣くからね」

そんな事言いながら俺の瞳を食い入るように真摯な眼差しで見つめてくるので怒っていない事を笑顔でアピール。

――何だか納得してくれたようだ♪

黒髪の少女は傍らにあったサバイバルナイフを手に取り、『しばっていたら、うちのおっぱいさわれへんもんね』と微笑ましくクスっと笑いながら、慣れた手つきで器用に俺の手足の拘束具を切ってくれる。

――ああっ、女神様です、貴方様は女神様です♪俺に自由を与えてくれた(身体中の血管に血が回る素敵な感覚が全身に駆け巡る)。

「ほんにごめんなぁ~うちをさらった組織の一味と勘違いして拘束したみたいやねん……ほんにごめんなぁ」

パン!と両手をあわせてゴメンナサイのポーズ。

そして、改めて黒髪の少女は俺の顔をジ―と見ると、突然、俺の頬に手を当ててニッコリと微笑んでくる

「お兄ちゃん、ごっついうちのタイプじゃけん❤」

まじまじと見られたら(ポッ❤)おほん……軽く空咳をして少女を見つめる。

「ここ……何処……」

黒髪を揺らすように軽く小首を傾げた少女は柔らかそうな唇に人さし指を当てて悪戯っぽい微笑みを浮かべる。

「今はパパの私設軍隊の車のなかやからごっつい安心していいんよ。お兄ちゃんはうちを助けてくれたから、今度はうちが助けてあげるんじゃけん」

ポン!と薄型液晶テレビのようなペッタンコの胸を叩いてえっへんといったご様子。

――今更ながら気がついた、この子……いろんな地方のなまりが交じってる?

「名前は何ておっしゃるん?うちは小鳥って言うんよ」

可愛らしく腕を後ろで絡ませて、少しはにかみながらペロッと舌を出す……め、めっちゃ可愛いやん❤顔面美少女偏差値があれば一流大学ストレート合格なみだな。

――この美少女キャラ小鳥が主人公のエロゲ―なら間違いなく買っているな❤

などと心の声を隠しながら、身体のあちらこちらが痛いが、ここは一つ佇まいを直して。

「ふぶき……薩摩ふぶき」

そんな俺の名前を聞いて「あはっ♪なんやぁ~焼酎の名前みたいやわぁ」などと突飛で高度なエキセントリック率叩きだしやがる。

「ところで、ふーちゃんは何処から来たん?家まで送ってあげるさかい、言うてみて」

『なんでふーちゃんなんだ?』と考える俺の思考回路を司っている脳内小人達がたっぷり詰まったキュートな頭に小鳥は手を添えると、『良い子良い子♪』と撫ぜながら子供を諭すように問いかけてくる……保母さんと園児みたいな。


――本当の事を言うべきだろうか?


どうも馬鹿正直だな俺は……頭をかきながら困惑を色濃く宿した相好になっていたようだ――

振り仰ぐように上目使いで覗きこむように俺を見る小鳥。

純粋無垢で扱いにくい美少女だな――う~む、どのように答えるべきか?非常にむずかしい❤俺には故郷もなければ帰る家もない……天涯孤独の身の上に借金のかたに人身売買で売られてしまった身分だから。


――さぁ、キミも一緒に叫ぼう!人生辛い事だらけさぁぁぁ!涙がこぼれそう(涙)


おやおや……自分のバックボーンを思い出しただけで込み上げるものが……

多少なりとも心に煮詰まる感情もあるが……この美少女、小鳥の純粋無垢なキラキラの眼差しで見つめられるとよけいに言いづらい。

軽く目を背けて車内を見渡す。逡巡しながら言葉はしどろもどろ……対人恐怖症かい!と突っ込みたくなる、俺の挙動不審な行動に小鳥は黒い瞳でぶれる事無くジ―っと見つめながら怪訝な面持ちを浮かべる。

「……………」

「……………」

二人の沈黙を打ち破るように突然『はっ!』頭の回転が速そうな小鳥はすぐに何かを閃いたように一指し指をこめかみに当てて怜悧な表情をつくる――もしや答えが見つかったのでは!


「もぉ~、ふーちゃん……黙って、そんな事考えてたんやぁ、エッチじゃけん」


ポシューっと今、温泉のような湯気が上がったね♪……顔が明石のゆでダコのように真っ赤になって突然顔を手で隠し「もぉ~いやんいやん」などと口走りながらクネクネと身体をくねらせている。

――こいつ……考えているベクトルが違う方向に行っているとみた!

あまりに豊かな表情&感情の化学反応に頭をかきながらキョトンとしてしまう俺……まだまだ修行がたらぬ。

「うち……ふーちゃんとあったばかりやから……まだ、早いよって……」

ああっ、ついに、その場に屈み込んでもじもじしながら全身真っ赤になってしまっている……もう、完熟トマトよりもハバネロの赤みだな。

揺れる車内でうずくまってしまった小鳥……六畳程度の広さはある車内は天使が舞いおりたようなほんわか感に包まれていく。

この子……もしかして超ざんねん系では――俺の直感がそう言っている!絶対に何か勘違いをしている、確定しました、小鳥の思考ベクトルの方向が真っすぐにあさっての方向に向いている確率が百%です。

揺れる車内でたじろぐ俺の心の叫びを知ってか知らずか、小鳥は黒髪をふぁと揺らして立ち上がり手を口元に当てて可愛らしく「おほんっ」と空咳を一つ鳴らす。

もじもじしながら小鳥が瞳は俺をはなさない、つかつかと俺に急接近すると顔を唇が触れ合いそうな程近づけて吸い込まれそうな純粋な瞳が食い入るようにジ―っと見つめてくる。

その視線は揺れる車内であっても微動だにせずに俺がみじろぎ出来なくなるほどの熱い何かが含まれている。


「もしかして……帰るところがないん?」


きたぁぁぁぁぁ――!その言葉のダメージを具現化するなら心に頭に三本の矢が突き刺さるほどの衝撃がはしるだろう……(毛利元就さん……三本の矢の折りかた教えてください(涙))

両手を胸にあて、うるるん❤と小鳥の可愛らしい好奇の色を含んだ瞳でまじかに見つめられると不思議に卑屈な返事ができなくなる。

いやはや……ずけずけと曇天がかった俺の人生の痕跡にふみいりやがる!

ふぅと溜息まじりに息を吐く、こんな可愛い瞳で見つめられると(ぽっ❤)おもわずコクリっと頷く――言いたくはないが今、この場所での立場的アドバンテージが小鳥にあるから(涙)

「俺はかなり安値で人身売買で売り飛ばされた身だからな。適当に降ろしてくれ。今の俺は天涯孤独の空が布団で大地が寝床の自由人だから」

――言葉はカッコ良いですが、平たく言えば宿なしです……イッツ・ホームレス(涙)

何処か哀愁が漂う……ぷいっと素っ気なく語る俺――おや?小鳥さん?うるるんとしていた大きな瞳から沢山の水分が溢れて来ているような?

突然せきをきったように「びぇぇぇん(涙)ふーちゃん、可愛そうすぎ」とその場に屈みこむと脱水症状になるのでは?と思うほどの滂沱の涙を流す小鳥。

もう、車内に水たまりができますよ❤

ちょっとどん引きしてしまいそう――それは泣き過ぎですよぉ~♪と俺の思考を司る脳内小人達がいっせいに合唱をしているが、ここは真摯的に。

「ほら、これ使え」と泣きじゃくる小鳥に肩をすくめながらクシャっと丸まったスカイブルー色のハンカチをポケットからひっこ抜きそっと渡す。

「…………ぐすん」

一度、こちらを見上げてハンカチを受け取る小鳥。

おおっ、キラキラと頬を伝い床に落ちていく双眸から流れる涙を拭きとると、そのまま流れるような仕草で『チーン』と鼻までかみやがった!

そのハンカチごしに見える表情気のせいだろうか?一瞬、小鳥が少し勝ち誇った顔をしていたような……

残念すぎる美少女小鳥……俺のアルカイックスマイルが引きつっています(怒)

「ううっ……」

口からでた溜息と交差するように手首にズキン!と神経を蝕むように鈍痛の自己主張を始める。

今更ながら両手首や両足の締め付けられていた部分が血でうっすらと朱色に染まっている。

うむ……今まで痛みを感じていなかったのに、安心して緊迫感が和らいだ為だろうか、身体のあちらこちらから悲鳴があがりはめている

運動会のリレーのように痛みが身体の神経を駆け巡っていく――どうか、私に鎮痛剤をお恵みください☠と言う心の叫びが思考回路内を反芻する。

涙目で車内を見渡すと常設されている救急箱を発見!痛い身体に鞭打って薬箱をとると、中には打ち身・ねんざ用の塗りクスリと痔のクスリ……そして、お目当ての傷クスリ♪(鎮痛剤はありませんでした)薬をお借りして、俺は手首などの傷の手当てをしはじめるが……先ほどまで兵隊が座っていた固いソファーに座り顎に指をあてて俊英な面持ちで小鳥は訥々と独り言を念仏のように唱えている――ちょっと呪術がかっているような(怯)。

ちょっとドキッ❤とする横顔はしとやかでしおらしく思える。端正で精緻な作りの顔立ちが和の麗人の雰囲気を醸し出している。


「売り飛ばされた身……☆」


何やら不穏な言葉が零れたような。

何か閃いたように可愛らしい唇から子犬のようにペロッと舌をだして得心したように小鳥はふむふむと頷き、決意したような視線でチラリとこちらをみる、柔らかな光が差し込んだような眼差しを向ける。

ペロリと舌で唇を舐めると唾液でぬれた唇はルージュの艶めきと錯覚させる。

そして、いかにもわざとらしく………

「それはあかんわぁ~、なら、うちが買い取る☆、ふーちゃんはうちが買う。それに、こんな所で降りたらしんでしまうでぇ、すぐにハチの巣やさかい」

――ハチの巣とは?などと俺の疑問などそっちのけで、じんわりと熱を帯びた言葉が小鳥の感情を熱くさせる、その熱さ、やがて顔から全身にひろがり白亜の肌が朱色に染まっていく。

小鳥の瞳はうるるんとさせながらもその双眸には慧眼の色が帯びている。

「死んでしまう?」

疑問は確かめなければ❤ちらっと俺は小窓ごしに揺れ動く外の景色を見ると砂塵飛び交う砂漠のド真ん中……すみません、カッコつけて降りるなどと言ってしまいました。

もう少し水のある所まで乗せてください。

――というか、ハチの巣って何?――などと気持ちがしぼみながらも心の中で叫んでしまう……外はどうみても砂塵が舞っている砂漠?いったいこの軍用車、何所に向っているのだ?

困惑の色をおびて疑問を浮かべる俺。

『ぐすりっ』と鼻をすすりながら、涙目でこちらを一瞥するとおもむろにピンク色の可愛らしい?ゾンビのストラップが光る携帯電話を取り出して、何処かに電話し始めた……あっなんか、口元めちゃにやついてる。

俺は小さな格子状の窓から覗き込むように再び外を見た。

……えっ、何かでっかいスコーピオンやカンカンと照る太陽を背にプテラノドンが群れをなして飛んでいる……もしかしてハリウッド?っていったい何所に向っているんだ!

夢をみているわけではない!大スペクタクル特殊撮影のような外界……頭を抱えて素直に混乱する俺……これはドッキリカメラでは♪。

夢中に外の世界を見る俺の背後に忍び寄る気配……軽くポンっと肩を叩かれる。


次の瞬間……これが運命の分岐点の一つになった。


そう、外界のファンタジー的な風景に思考がパニックしていたせいだ……と主張したい、驚き『くるりっ』と勢いよく振り向いた俺にふわりっと黒髪が揺れた可愛らしい顔が目の前に❤そして不可抗力に正面衝突!薄いピンク色の柔らかな唇感触が俺の唇ごしに伝わってくる。

――これは……もしや接吻――


ああっ♪感触は天使の肌触り……唇触りだな……初めて奪われました(テヘ❤)って、な、何が起きたのだ。


「ム―――!」


ぽふぅっと――あっ蒸気が上がったかな?日本の赤字国債よりも真っ赤になる小鳥……すみません、完全なイレギュラ―です、役得ではありますが……勢い余って目測を誤って完全に奪うような形でキスをしてしまった。

これは、嬉しいハプニングなのです♪神様、ありがと―❤

吸い込まれそうな小鳥の漆黒の瞳がぶれる事無く、まっ直ぐにふぶきを直視する。

冷静になってみれば……もしや、準強姦罪では……ここが日本なら警察にお世話になっているかも。

やがて、悪戯っぽく瞳を輝かせた小鳥は小刻みに震えながらもしなやかな指で唇をなぞり、愛らしく整った相貌に驚きの色が走り抜ける。

カランっと音が鳴る。

握る力を失った右手からニュートン力学に従いこぼれおちた携帯電話から男性の叫び声がピーピーと発せられている。

いやはや……これは申し訳ない……

鉄板板に転がった携帯電話を前かがみになり拾い上げる俺。

世界の果てを見ているようにポカーンと茫然自失といった様子で俺を見つめる小鳥……いやいや、魂抜けちゃったかな、と形容できそうな小鳥の手に渡そうとした刹那。


「うぎゃゃゃ!」


俺の悲鳴が……突然、口の形が変わるほど小鳥にほっぺをわしづかみされて(目茶苦茶痛いです(涙))――あ、あれ、小鳥の両肩から込み上げているような重苦しいオーラは(驚)

「おに……いえ……ふーちゃん……今……接吻しましたね……人生……初めての接吻……」

唇をギュッと一文字に結んだわなわなしながら小鳥は俺を見据えて、消え入りそうな言葉を零す。

ただ、その身体からドドドッと込み上げてくるその迫力は獰猛な虎の如く……

拾い上げた携帯を握っている手がマナーモードよりも天然で震えてしまいそう。

今までにない押し迫る真剣な眼差しで決意を秘めた顔が俺の鼻先までがぶりよる。

秘かに発生した想いと懐かしい想いが急速にふくらんで変化していく小鳥の心……熱のこもった手は意志を伝えるようにぐっと俺のほっぺをわしづかみ(涙)

それにしても華奢なわりに膂力が強い……女性の域を越えているような力強さを感じる。

「うち……決心しました。初めての唇奪われたんやから……うちはふーちゃんを絶対に買う……魂も肉体も……うちとねんごろ(結婚)するか、うちの大きな悲鳴をあげたらやってくる、外におる、とと様の私設軍隊にハチの巣にされて、殺されるか……どちらがよろしいですか❤うち的にはねんごろをお勧めをいたしますよ」

いやぁ~とても、小鳥のとても力強くまっすぐな瞳、慇懃な脅しの語り口調……勝ち誇った喜びの笑みを浮かべながら俺にお伺いを立ててくる。


――と言うか結婚断ったら本当にころされちゃうのですか!(それに買うって、もう、完全にし・な・も・の・扱い❤)


いくら見渡しても車内に隠しカメラはなさそうだ……と言う事はドッキリではないのだな(涙)

俺は蛇に睨まれたミジンコのように弱者的視点で瞠目してしまう……あまりにも非現実的なお誘い(結婚or天国行き)に胸が躍るどころか……蜂の巣には失禁しそうである。

俺は落胆したようにソファーに座りほっぺを握りしめたままの(痛いです……)小鳥を見る。俺の心を覗いているような視線がまじかで交差すると「はっ!」とした驚きを見せて小鳥。

突然、弄んでいた俺のほっぺを開放して肩まで届く黒髪をテキパキと確認、もじもじと指で絡め始めた。

「もうぅぅ、意地悪せんといてぇ。雑に扱われていたので、少し髪がいたんでしもうた……屋敷に帰ったらしっかりケアせんと……嫌いにならんといて……」

よそよそしく照れくさそうな笑顔を作る。

そこよりも、もっと核心部分で嫌いになりそうな心境です。

髪の毛を指に絡ませながら、小鳥は突然『シュン』といじけた雰囲気を出す。

……えっ、気づきのベクトルの方向が違う事に驚いてしまったやん!

「ちょっとまて、そのフロンティアスピリッツ的な気持ちで私を開拓していけ的要素は!

何故、結婚なんだ。普通はこんなの女の方が嫌がるだろ、通過儀礼や古式所縁のいいなづけでもあるまいし……それに何故、俺は断ったら殺されるのだ、どうし……むぐぅ!」

思考回路がオーバーヒート気味に支離滅裂にせきをきったように必死に訴えかける俺。

一瞬、艶やかな色合いの秋波が送られると小鳥は絹のようにふわりっと鼻先三寸に迫ってくる。

ドキッとしそうな陽だまりを照らすような笑みを浮かべて小鳥は茶色の紙袋からおもむろにごそ

ごそと何かを選び、ほいっと俺の口に饅頭を放り込み「うちの大好きな栗饅頭なんよ、美味しい?」と喜び溢れる言葉を囁いた。

この子、空気を読まない依存率の高い残念さんやん。

そして、もごもごと咀嚼する俺に、何だか険しい表情を浮かべ嘆息すると突然、凄く困ったような顔をして、しなやかな手と手を可愛らしくあわせてお願いのポーズをとる。

この豊かな表情百面相はいったい……ふ、普通に可愛らしい……ぽっ♪。

「えーと、ふーちゃん……うちを……うちを助けると思って結婚して……うち、精一杯尽くすから……朝から夜まで……」

夜までという辺りの響きが妖艶で悩ましく聴覚に響く。

身体の痛みもなんのその!どきっとする言葉に俺の男性の尊厳の一部分が反応してしまう……ああっ、俺って禁断の妄想族なのかぁ。

そして、有無を言わせず青春ドラマのように俺の胸に飛びつき、柔らかな感触が服ごしに温もりとともに吹き抜けると小鳥は耳元で熱い吐息をもらす。


――な、なんだ、この仕組まれているようなドラマな展開は?


何故か、潤んだ大きな瞳から涙がはらはらと頬を伝い俺の肩に流れ落ちる。

考察していた俺の首に、絡みつくように柔らかな腕を回して、いとおしむように抱きつく……その全力の姿勢には、まぎれもない必死さがヒシヒシと伝わってくる。

「ふーちゃん……大好きになるから、お願いやわ……うちを……うちをもらって……」

耳元で囁かれる朝霧で霞むような儚さを宿した声音。


――っと流れについていけない俺。そこのきみ、きみならこの状況を体感したら冷静でいられるかい?俺は無理っぽい☠


衣擦れの音、わなわなと震える振動が熱をおびてこすれるように肌の感触ごと服越しに伝わってくる。

クレバーな面持ちに懇願の色を深くまとった言葉……完全に情に流されてしまった。

拍動が早まる……鼻腔をくすぐる脳髄まで浸透しそうな魅惑的なパフィーム、ああっ、抱いてしまいたい、心の警報が身体中に鳴り響く

欲望に勝てず、俺は『コクリッ』と一つ頷いてしまった……たぶん、俺って人生損するタイプの人間だよな(笑)

一瞬、ぱぁ!と光彩陸離を彷彿させる破顔を湛えた面持ちの小鳥はナイアガラの滝のようにド―と涙を流しながら小声で「ふーちゃん❤」と何度も何度も耳元でかすれた声音で囁いてくる。

刹那……俺の脳裏にノスタルジアな映像が断片的に広がる……白亜の壁、赤いじゅうたんが敷き詰められたエントラスホール隣に薄ピンクの髪の美女……誰、この黒髪の小さな子、涙を湛えながら俺にすがりついてくる……そんなに泣かないで。

ただ、一瞬、ディジャブのような感覚が脳裏にフラッシュバックする……小さな子供が泣きじゃくり口元は『お兄様』と動きすがりかかってくるビジョン。

「ふーちゃん?」

心配そうに俺を呼ぶ声が記憶の邂逅を遮断する、直ぐにふぶきは現実世界へ意識が戻る。

清廉な想いがこもった小鳥の笑みが瞼をあけた真ん前に現れる。

反則である、その無邪気で清らかな微笑みは反則である。

恥ずかしくなった俺は再び、軽く瞳を閉じて、意志を伝える為に、小さくコクリと頷いた。

安心したように小鳥は俺の手を握り胸元に運ぶ。

柔らかい身体が俺の手に強く押しあてられる、形を変えるほどの豊かさはないが「どう?ふーちゃんが電車で言ってたおっぱいの感触は?」とはにかみながらの小鳥の言葉に俺は今更ながら赤面してしまう。

そして、太陽の輝きを彷彿させる笑みを湛えた小鳥は「僅かやけど、うちの気持ちじゃけん」とファンシーな黒ネコ柄のバックから純白の封筒を大切そうに俺に差し出した。


――そこのきみ、運命の岐路って体感した事あるかい?


この封筒が、運命の岐路のパーツある事を全く気が付いていなかった俺……のちにわかる事だが、俺の魂の生い立ちと価値観の根底を揺るがす事件の始まりだった事を。


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