つかの間の休戦? 赤髪のメガネっ娘、閻魔りん親衛隊長座敷わらしのヒナナはココアがお好きの巻
◆
「と言うわけなの……」
まじまじと俺の顔を見ながら閻魔凛は屈託のない真顔で一指し指をラオウが如く天に向ってピシッと立てて熱弁をふるう……あっ今聞いた熱弁はボーイズ・ラブと薔薇の花土下座理論についてだ……どうでもいい話しだ(涙)
にしても、今はとても良い雰囲気に一同は落ち着いている。
テーブル置かれたポテチをつまみ、ふぶきは閻魔凛と真正面に向き合っていた。
「むー凜は何故、私の邸に攻め込んできたの?」
膝の上にチョコンと可愛らしく座るひより……マグカップに入った暖かなココアをチョビチョビと飲みながら(ひよりは猫舌なのだろう)小首を傾げて質問する。
同じくココアを喜色満面にうっとりと幸せそうに飲むミカエル……桃源郷からかえっておいでぇ。
「もう」と両手を軽く上げてめんどくさそうなポーズをとり、ひよりを見ると渋々といった感じで答えた。
「だって、お姉様と小鳥の婿争奪戦でしょ。私は関係ないけど、茶化した方が絶対に面白いじゃない❤まぁ、お姉様の邸に来たのはたまたまかな。日頃、あまりお目にかかれないから、たまにはご挨拶にね♪」
『ケタケタッ』と笑いながら何ともケロッとあっけらかんに説明する。
挨拶って一歩間違えたら俺は死んでいるぞ――ぎゃぁぁぁぁ。
突然、スターウォーズのライトセイバーが刺さったような激痛が俺の首筋に……瞳に炎を宿した学級委員のバッチがキラリっと光る、赤髪のメガネっ子座敷わらしがプンプン怒りながら金色の針をずっぷりと突き刺していた。
「にははは♪今、私の事で良からぬ事考えたでしょ。その子はヒナナ、心の機微を敏感に読みとるスキルをラーニングしてあるから。私に忠実にね」
額に青筋たててプンプンと怒るヒナナはヒョイと大ジャンプして閻魔凛のふくよかな胸元にがっしりと抱きつく。
俺は痛みの元凶、首筋に深く刺さった煌びやかな金の針を抜きとる。
「こら!粗末に扱わない!!大切に持つの!それが私、閻魔凛の宝、雨蜘蛛の剣。小さいから持ち運びが便利でしょ」
引き抜いた金の針が『雨蜘蛛の剣』……イメージが違う。
「よっ、色男!労せずに雨蜘蛛の剣とお姉様のお宝ヤタの鏡のメガネの二つが手に入るのだから幸運だね、お姉様に守られて……昔から色男、金と力はなかりけりって言うもんね♪」と閻魔凛が感慨深げに腕を組んで得心している。
――た、確かに俺……ゲイおにぃにお尻刺された以外なにもしていない(数時間前の闇の歴史白書より)
「さて、私からの質問なんだけど」
悪戯っぽく微笑んでいた閻魔凛が少し尖らせた唇に指を当てる。
あれっ、急に閻魔凛が神妙な面持ちを浮かべる。
「なんで、ミカエルがいるの?さっきもお姉様の瘴気から愛する人を必死に守っているみたいだったけど?何かあやしい❤とっても気になるなぁ♪」
その話に乗りかかるように膝の上のひよりもジト目で食い入ってミカエルを見る。
二人の圧力に「えっえっと」てんぱりながら、しどろもどろになるミカエル……ここは助け舟をださねば。
「おほん」と咳を一つ……二人の視線が俺に集まったところで、俺はここまでの経緯を懇切丁寧に話した……何故かゲイおにぃに刺された話で閻魔凛は大笑い(こいつ絶対にドSだ、嗜虐思考のドSだぁぁぁぁ(涙))
「絶望からの旅立ち……それが私とふぶき、共に戦いに身を投じた理由。それ以上も以下もない。失うものなどもうない、ただ、私にはふぶきがいれば充分」
突然、俺の話しの腰を折るようにミカエル、あれっ、ひより……その殺意溢れるジト目は……どん底の貧乏と同じぐらい怖いですよぉぉぉ。
そんな俺達を見て閻魔凛は幸せそうに微笑む……やがてその口元から困惑に彩られた言葉が呟かれた。
「狂った狂気に祈りをささげる本来の小鳥の姿……それを見てふぶきちゃんは正気をたもてるかなぁ」
何気なくこぼした凜の言葉にひよりは心配そうに俺を仰ぎ見る。
「むー、お兄様、ルールで私は凜とやり合ったからもう手は貸せない……う、うぇ、ごめんなさいぃぃ」
『びぇぇぇぇん』と突然滂沱の涙を流し始めたひより……俺は直ぐに膝の上のひよりの触りごごち良い頭をナゼナゼして慰める……ミカエル、何故、ジト目で俺をみる……凜、ニヤニヤ笑ってないで手伝えぇぇ!
俺の服の裾を掴み鼻をあてて勢いよく『チーン』とかむ、ひより……そんな形での自己主張的な臭い付けは止めてください(涙)
「えぐっ……むーお兄様、優しい❤愛してる♪」
ゴロゴロと俺に懐くひより……ミカエル、何故、閻魔凛の赤髪のメガネっ子の座敷わらしのヒナナに金の針を返す?……あれっ……ぎゃぁぁぁぁぁ!(金の針再び首元にリバース♪)
「まぁ、真実ほど正しく哀しいものはないものね♪」
チョコレートをかじりながら虚空を見る、閻魔凛の言葉は何処か物悲しい感じがした……あっ、ミカエルがホクホク顔、丁寧にそのチョコレートをしまって、またテイクアウトかいぃぃ!(驚)
「ふぶきちゃん」
閻魔凛の呼びかけに俺はひよりをあやしていた手を止めて振り向く(ひより……物足りないって指でお腹をグリグリするのは止めなさい♪)
「一つだけ、ルールではない頼み事。聞いてくれるかな♪」
ちらりっと赤髪のメガネっ子座敷わらしのヒナナが『凜様の話し聞かないと刺す☠』と俺の首筋に脅しをかけている。
脅しに屈した俺はオーバーに何回も頷き、閻魔凛を食い入るように見つめる……ああっ、ヒナナ、ひと仕事やり遂げたおっさんのようにドヤ顔してるぅぅぅ♪
「私の大切な妹……小鳥のどんな姿をみても驚かないで、冷静に接して……心を温めてあげて。命を救ってあげて。ふぶきちゃんなら出来る……だって、私や小鳥が大好きだったお兄様の魂ですもの♪」
その言葉にはとても穏やかで信じる心が色濃くにじむ。
凄く信頼の色を宿した瞳で見つめてくる……暖かな眼差し。
のけぞってしまったひよりは驚いたように「むー何故知ってる」と飛びあがり、閻魔凛に問いただしているが『べーっ』とイタヅラッぽく舌を出して凜は空ぼけて茶化している。
そんな暖かな状況から、ほどなくして俺とミカエルが二人に見送られて小鳥の邸に向う事にした。
閻魔凛……まったく、のれんに腕押し的要素たっぷりの奴だった……ぎゃゃゃゃゃゃ!
ポケットから針でブスリ!
俺のポケットから顔を出した赤髪のメガネっ子座敷わらしヒナナ……あっかんベーって……ポケットの中に隠れやがった。
そんなやりとりにクスッと微笑むミカエル……
「お尻いや~ん」の咆哮と男性の断末魔、雪が舞い散る夜空に響き渡っていた。
俺達は全力で小鳥の邸に向うべく赤煉瓦の遊歩道を駆けて行った。