次女参戦、稀代の人形遣い、その名は閻魔りんの巻
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暖炉には火の精霊が煌々と燃え上がっている……あっ今、目があったような気がするぅぅぅ♪
応接室は身体の芯まで暖かくなるほどのしっかりと暖がとってあった。
俺は応接室の端っこでひよりが用意してくれた純白の巫女風の服(手作り感満載)に着替えた。
「むー、何故、私の邸を始めに選んだのですか?」
ゴクリっと一口、御茶をすすったひよりは神妙な面持ちで正座が辛そうなミカエルに問いかけた。
「一番近かったからです」と何処かつっけんどんに答えるミカエルのそっけない返事。むっ、足がプルプル震えてきていますよ。
あっ、会話が終わってしまった……何とも、ぎこちない中学生の初デートのような感じだ。
今いる場所、図書館のように大量の本に囲まれた応接間、中央に簡素な畳式ソファーと机が置いてあり、机の上には竹かごに置かれた煎餅と高級緑茶入りペットボトルが人数分置かれている。
使用人やメイドがいないひより……合理的な茶菓子とお茶ありがとー❤
あれっ?ミカエル何をしている……出された煎餅やペットボトルを丁寧に袋に入れてテイクアウトかぁ……って出来ればここでお召し上がりを♪(貧乏が染み付いているのだね(涙))
不意にひよりが立ち上がるとトコトコと俺の前に移動して膝にちょこんと座ってきた。
「むー、お兄様は私の夫。だから、全力で守ります」
薄ピンクの髪を愛でるとうっとりとしたひより……あれ、ミカエルの視線が厳しくなっている。
『おほん』と一つ、空咳をしたミカエル、言葉を発症とした刹那……玄関先から大きな爆発音が響いた。
ビクリ!と一瞬固まる俺とミカエル……ひよりもあまり見せない冷厳な面持ちを浮かべる。
「むー、」と唸ったひよりはトレードマークのグリグリメガネを外して胸元で一度抱きしめると大切そうに俺に差し出した。
「これは私、閻魔ひよりの宝物。大切に持っていてください、むしろ、私だと思って毎日、夜一人で眠るときのおかずにしてください」
……ひより……さん、献身的ですがキャラ変わっていませんかぁ♪
両手で大切に受け取り『こくり』と頷いた俺にペロッと舌をだして、はにかんだひより。
名残惜しそうにふぶきの膝からぴょいと舞い降りる。そして、ゆったりと部屋の入り口に向きなおす。
ゴゴゴゴコッ――と雪崩のような音が段々近づいてくる。
その刹那、外から圧力がかかったように扉が粉砕する。
俺は思わず視線をそらした。
神々しく金銀を輝かせる一個中隊……そう、ゲイおにぃが「おしりいや~ん」の大合唱とともに雪崩押し入ってきた。
そして俺達が腰かけていたソファをグルグルと取り囲む。
――あれ何だろう、規律正しく整列してる
売れっ子芸能人がファンに取り囲まれるの巻♪のようにゲイおにぃ達はこちらを(俺)を襲う事もなく一定の距離をたもっといる。
――何だか、こいつらまどろみのように虚ろだ。
困惑顔の俺とミカエルを気にする事なくひよりはすっと一歩前に出る。
「乗っ取りですか……閻魔凛……」
小さなつぶらな唇から威圧的にその言葉は囁かれた。
背筋がぞっとする圧力と冷気を含んだひよりの言葉。
――乗っ取りって何、あれっ、今、閻魔凛って?
端正な相貌を歪めて歯を食いしばったミカエル、苦虫を噛んだような面持ちだ。
「乗っ取りってなに?」俺はそっとミカエルに耳打ちすると、その表情が少し曇った。
「すまない、まさか閻魔凛が来るとは……お前にはふぶき側のルールしか説明してなかった。鬼側のルールで実力行使で捕まえたら煮るなり、焼くなり、好きに出来る……と言う大した事のないルールだ」
――完全に人権無視ではないですかぁぁぁ(涙)
上司に命令された従順なサラリーマンのようにゲイおにぃ達が中央を開けていく……その先の廊下から見覚えのある人物が。
形の良いバストを強調するような胸元がV字に開いた金色のフリルが幾重にも重なった豪奢なドレスに身を包み、ピコピコと動くトレードマークのアホ毛を存分に揺らしながら、元気いっぱい快活そうな美少女『閻魔凛』が手を振りながら近づいてくる。
「よっ、お久♪お姉さまの邸って図書館だね」
物珍しそうにキョロキョロと好奇心旺盛な子供のように見渡し『すご~い♪』と声を張り上げた。
「むー、私とお兄様の愛の巣……いいえ、邸に下賤な者を土足で踏み込むとは、ルールとはいえ度がすぎます」
あれっ?ひよりの額に怒りのマークが浮き出ている感じ……お怒りモードフラグあがりましたぁぁ。
澄んでいて抑揚のない機械のような声音……俺と話している時と違い感情が一ミクロンも含まれていない。
「だってぇ、ひよりお姉さまはそいつの事をかくまうでしょ。だ・か・ら❤いっそうの事、そいつ、私の人形コレクションの一つにしようかなって思ったの♪」
――に、人形コレクションって……俺ってフィギュアなのかよ……蝋人形を想像(涙)
「兄弟仲良くする為に、素直にその、男の子を渡してくれないかな❤」
えへへっと笑みをこぼして、腕を前に出して『ちょうだい』と可愛くおねだりする閻魔凛にそっけなく仏頂面のひよりは軽く腕を振った。
一瞬、灰色がかった鈍い輝きが部屋全体に広がると俺は魂がはがされそうな気分の悪さを感じる……隣に立つミカエルは苦痛そうに軽く瞼を閉じてこめかみを押さえている。
プルプルと軽く首を振る……俺は目の前で展開した光景に茫然と立ちすくんでしまった。
ソファを取り囲んでいたゲイおにぃ達が紅茶に入った角砂糖のように身体が粉塵となって砂埃のように宙に舞った。
「もう、ひよりお姉様」何故かプンプンとアホ毛を揺ら灰色がかった鈍い輝きして怒り始める。
ドレスをふわっと膨らませて一歩前に出る閻魔凛。
「私の大切なお兄様に手を出すなら私が相手になる」
その声音は脅しにも似た圧力が色濃くでている。
ひより……あれっ……ポケットから青いクスリを取り出してお茶で口腔に流し込む……突然へんな光に包まれて何だかみるみる成長している……急速な成長期?
「あららっ、ひよりお姉様……本気で私とやるつもりなんだ……」
その声音は何処か快活に好奇心がふんだんに含まれている。
閻魔凜の視線の先には……すらっと伸びた足、引き締ったウエストを強調するような大きく形の良い胸……そして何より大人のフェロモンが妖艶と放たれている、ミラクルに蠱惑的美女が。
漆黒の闇を連想させる大きな黒い瞳、聡明さを感じさせる相貌……もう、抱きたい女性ナンバー1だね♪
『むしろ、抱いてください❤』そんなエロ思考を看破したのか?突然、ミカエルが不機嫌そうに俺の肩を掴み、グイグイッと壁際まで引っ張る……ひぃぃぃぃ、おっぱいを見ていた俺が悪かったです、いじめないでぇぇ(涙)。
「稀代の人形遣い……閻魔凛とかつての冥界神の一神……閻魔ひより。いいか、何があっても私の後ろにいろ」
真剣な眼差し……ミカエルの声に冗談成分が1%も含まれていない。
――な、何だ……二人を取り囲むこの異様な雰囲気は、人形遣いって何?冥界神って神様やん!
あまりの突飛な事にのみ込めない俺。
ミカエルが両腕を突き出して真剣な面持ちが『ブツブツ』と念仏のような何か得体のしれない言語を口ずさんでいる。
張り詰めていた空間の均衡は崩れた、閻魔凛……ひよりにめがけて指でチューリップの模様を描くと溢れかえるほどのゴールドに輝く魔法陣が空間に浮き出てくる……魔法陣のリアル感は3D映画をみているようだ。
その輝きの中から粒子が集合するように顔は銀色の鬣のライオン、身体は大熊の五メートルはあろう巨大な神話の化け物が浮かび上がり『バォォォォ!』とひと吠えすると、大きく開口した口元から唾液をたらし太ももほどの牙をむいて、悠然と佇む。
鋭い視線でひよりを見据える。
名刀よりも鋭く、大きく伸びた牙がひよりに襲いかかろうと全身をバネのように撓めて、劈く咆哮と共に飛びかかった瞬間……。
ひよりの瞳の色に死の香りが宿る。
部屋全体に再び、灰色がかった鈍い輝きが空間を蹂躙した。
化け物は断末魔を上げる暇もなく、全身の肉が削ぎ落され、身体が白骨化し骨も砕かれた粉塵化して大気中に散らばっていく。
「神話の英雄でも七日七晩戦い続けてやっと倒せる神話の遺物なのに。あじもださずに一瞬で、ほぇぇぇぇ、やるなぁ。ひよりお姉さま」
感心する閻魔凛は口とは裏腹にその目はシニカルである。
「次はそうはいかないよ」
再び、指先に何かの絵を描くと金色の魔法陣が現れ、赤髪のメガネっ子の小人が埋め尽くすように召喚された。
「さぁ、ひよりお姉さま。私の最精鋭の不良っ子座敷わらしのメガネ部隊。とてもつよいですよん♪」
ざわざわして落ち着きがないメガネの小人達……あっ、なんかリーダーみたいなのが『ピー』と笛を吹いて仲間を注意してる……胸元に学級委員って名札が(笑)
おおっ、何とか学級委員の小人が皆をまとめたみたいだ……あれ、みんな小さな針みたいな物を持って頭の上にかかげているぞ。
ひよりの表情が変わる……圧倒的な威圧感が部屋全体を呑み込む……結婚したら絶対にかかあ天下だろうなと思ってしまう。
「つまらない戦いは終わりです……凛、貴方とでは神格が違い過ぎます。素直に貴方の宝、雨蜘蛛の剣を薩摩ふぶきに渡しなさい……姉妹とはいえ鬼ごっこのルール知ってるよね。殺すよ」
その瞳は真剣である……とても殺意がある波動、俺でも失禁した……いや、してしまいそうになる(すみません嘘です……少しだけ失禁してしまいました(涙))
ひよりの太陽が放つフレアのような波動に室内の家具が微粒子まで分解されたように散っていく……なぜか……俺は大丈夫っぽい♪
ぼんやりとした光の膜が幾重にも……ミカエルを軸にして包み守られている♪グッド・ジョブ☆ミカエル。
『かかれぇ』チビッ子の可愛らしい声が響くと赤髪のメガネっ子座敷わらし達が運動会の徒競走のようにいっせいにひよりに向って突撃していく(ああっ、数体転んで泣いていたり、仲間に踏みくちゃにされて口からエクトプラズムがでている……何て残念な奴らだ)。
『うひょう』と掛け声を上げた一体の赤髪のメガネっ子座敷わらしがスーパージャンプを見せてひよりに飛びかかるが、一瞬に高熱に接したマグネシウムのように青く光ると身体が炭になり、粉が宙に舞う。
怒涛の如く攻めよせようとした赤髪のメガネっ子座敷わらしが息をあわせて立ち止まり整列の姿勢……おや、何か相談をはじめた。
服のポケットからハンカチと小さな裁縫袋を出して針にくっつけている……何をしているのだ?
中央にいた学級委員のバッチをつけた赤髪のメガネっ子座敷わらしがまたもや、皆を整列させて不器用なメガネっ子座敷わらしをフォローするように隣同士がペアーを組むように指示を出してる。
『ピー』と再び笛を鳴らすと、皆一斉に針を上に掲げた……あれっ、針の先に皆、白いハンカチをつけてフリフリと全力で振っている……って白旗上げて降参しているやん。
あまりの可愛らしい動作が微笑ましい……思わずはしゃいでいた閻魔凛も肩をすくめて呆れたように『キャハハ』と大笑いしている。
再び、音もなく黄金の魔法陣が空中に現れると赤髪メガネっ子座敷わらし達は整列しながら閻魔凛に一礼、そして俺達に名残惜しそうに手を振りながら魔法陣に消えていく……あれっ?最後尾の学級委員の名札をした子だけ残っているぞ?
「愛情……ああっ、何て素敵な想いですの、私にも注いでほしいものです」
大仰に腕を組み呆れるように仕方ないなぁといった雰囲気で閻魔凛はアホ毛をピコピコと揺らす。
『パチッ』と軽く指をならすと床にパープルの新たな魔法陣が現れソファーと長机が浮き上がるように召喚された。
射抜くような冷厳な視線……警戒心を解かないひよりを尻目に『ケタケタ』と快活に笑いながら閻魔凛はソファーにどっぷり腰を落としてスラリっとした足を見せつけるようら足を組む。
「お~い、薩摩ふぶき。何もしないから安心して。ミカエル、そんなに睨まない!あんまり睨むと朝食時に着る、ドレス貸してあげないよ♪」
予想外の暴露話にミカエル『ぽっ』と少し紅潮して恥ずかしそう。
バツが悪そうに目をそらせるミカエルは「今のは忘れろ」と俺に囁く……そう言えばミカエルの部屋、服なんてなかったもんなぁ、貧乏って切ない(涙)
ひよりがこちらを一瞥する。そして軽く天に腕を掲げると一瞬、突風が部屋全体にふきあげた。
風が止むと同時にひよりがいつもの可愛らしい姿に戻っていた……タプン♪と揺れる大きなおっぱいも素敵だったのに❤
「むーもう大丈夫。凛、降伏した」と俺に向って微笑んで可愛らしく手まねきをして呼ぶ……しかも、ひよりさん❤直ぐにこいオーラがバンバンでてますよぉぉぉ。
そして、触り心地よさそうな頭を俺の胸にピコっとひっつけてご褒美に愛でろと催促のポーズ。
「ニャハハハ!」とソファーにどっぷり腰をおろして高笑いの閻魔凛に横にてジト目のミカエル……そして、愛でられて『うにゃ~』と子猫のようにうっとりしているひより……皆、仲が良いやら悪いやら……とりあえず、鬼ごっこ・イン・姉妹喧嘩の軍配は閻魔ひよりに上がった事にほっとする俺であった。