昨日の敵は今日の味方? ミカエルの愛と勘違い、いやいや、恐ろしきはゲイ鬼なりの巻
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古き良き昭和の香りを感じさせる六畳間、土壁も所々はげ落ちかかった、貧乏神も寄りつかないような貧しい部屋。
その六畳間の中央に鎮座する月に一回の廃品回収で拾ってきた、茶色がかったちゃぶ台の上には、につかわしくない、純白の封筒と雷マークのひびが入った平皿に黄色い三切れの大根の漬物と何処かの景品で貰ったとおぼしき紫がかった湯呑みに白湯がホカホカと暖かそうに湯気を立てている。
「ふーっ」
ピンク色のつぶらで可愛らしい唇から深い溜息がポロリっと零れ出た。
茶色がかったちゃぶ台に向ってブランケットで全身を包み込みどんよりと項垂れるようにアンニョイな体育座り……ブランケットの下は一糸まとわぬ美しい裸体が包み隠されていた。
右上には麻紐にぶら下がっている洗濯された学生服と下着が室内に干してある。
虚ろなミカエルの視線の先には薩摩ふぶきから力強く手渡された純白の封筒と中身。
軋んだ窓からの隙間風にぶるっと身体を震わせるミカエルは寒さをしのぐようにぐっと縮こまりブランケットから体温が逃げないように隙間を無くす。
――貧乏っていやだな……
一人ぼっちの寂しさと空腹で心が辛くなったのだろう瞳にうっすらと涙が滲む。
空腹をまぎらわす為、ミカエルはひょいっと黄色い大根の漬物を口に放り込む。
そして、口内に味が広がった時に湯呑みを手に取り、ちびちびと白湯を呑む。
白湯の暖かさが身体にしみる。
ミカエルは再び、純白の封筒と中身に視線を移す、その度に困惑した面持ちを浮かべてしまっている。
ミカエルはボ―っと虚空を見つめると「真意を知りたい」と無意識に言葉が零れる。
そう、本来であれば、ミカエルにとって一日の労をねぎらう、大好きな夕飯タイムなのだが、今日は困惑の色と甘い期待の色が混交し、滲ませた深い溜息をばかりついていた。
暖房器具などない寒さが浸透する一人ぼっちの六畳間。
余計に純粋なミカエルの心をむしばんでいるようだ……体育座りでまるまり、寒さを耐えしのぎながら、ぼへーっと虚空を見つめての溜息の繰り返しである。
純白の封筒の中に入っていた一枚の紙切れは、ミカエルの思考をフリーズさせるに充分な品だった、ただ、その真意を測りかねていた。
その紙切れは使い方によってはミカエルの人生の全てを敵に回してしまうほどの破壊力を持つ、リーサル・ウエポン級の品、ゆえにミカエルは想い悩んでいた。
再び、湯呑みを手に取ると行儀よく口元に運び、一口含む、その動作はとても優雅に感じ取れる、うまれ持っている品の良さが動作の一つ一つを美しく見せる。
口腔から喉を通り胃まで湯が届くと身体がホンワカと暖かくなる。
プルプルっと相貌を振ると「今週の学校新聞占い星座ランキング、思いがけない幸運が降り注ぐかぁ……」とまたまた、つぶらな唇から言葉が零れるように紡がれた。
再び吐いた息は先ほどとは少し違い何処か桃色がかっている。
――何だか色々ありすぎて疲れたかな。
――ガタガタガタ――
湯気がもんもんと立ち上がる。小さなケトルが沸騰の合図知らせる為、精一杯音をたてて『ご主人様、お湯沸きましたよー』と青年の主張なみの主張をしている。
『あははっ、以外と私も繊細だな……』と小さく呟くと、心で弱音を吐いた事に苦笑してしまう。
ミカエルは気分転換にちゃぶ台を隅っこにやって、ケトルで沸かしたお湯を洗面器にトクトクっと入れて、大きく湯気だった中に少しよれているフェイスタオルをつける。
ミカエルの部屋にはお風呂はなく、閻魔家で入る以外はこのようにタオルで身体を拭く。
身が凍える冷え込みに負けず、ミカエルはブランケットを几帳面にたたんで隅に置く。
ダチョウ倶楽部がリアクション芸に使うような熱々の湯を含んだフェイスタオルをぎゅっと絞り使いやすいように折った。
まずは上半身からゴシゴシと拭き始めたその時、うっかり鍵をかけ忘れた玄関のドアが勢いよく開き、ぐっと凍えるような冷気と血色悪く心まで凍えきった面持ちのふぶきが勢いよく転びこんできた。
驚いて一瞬時間が凍結してしまう。
はっと我にかえるミカエル……こめかみをピクピクさせて一歩さがるミカエル……豊満な胸のふくらみが張りのあるぷるるん感をより扇情的に演出している。
わなわなと小刻みに震える肩から息を呑むほどの黒い気炎が上がっている……ミカエルの攻撃色溢れる視線の先には。
そう、俺がいた……
ああっ、何て素敵なおっぱいなのだ♪清純で豊満、張りがあり形の良い巨乳おっぱいに三千点です❤
おっぱいにくぎ付けの俺が「コホン」と空咳を一つ…点何事もなかったようにペタンっとドアを閉めて、ニッコリ微笑んでみた。
「刀の錆になりたいのか!この変質者、貴方はマナーを知らないのですか。ノックもせずに、そのような行いでは黒くて羽があってかさかさ動く奴と同レベルですよ!」
怒気をふんだんに含んだ声音が六畳間に響く。
黒い奴ってもしかして黒い三連星などではなく……ゴキ様では……た、助けていただけるのならゴキでも簿記でも何とでもお呼びくださいませ……などと心の中では土下座状態である。
相貌がピクピクと引きつるミカエルは直ぐに使い古したバスタオルを身体に巻くと可愛らしく『クシュン!』とくしゃみをする。
はっと気がついた俺は冷気が入ってくる立てつけの悪いドアを再び閉めて「突然すまん。ミカエル、頼れるのはお前だけなんだ。助けてくれ」と六畳間の畳の上で懇願するように頭をさげた。
金髪の髪をかきあげて『こいつ死ね!』的要素が含まれた半眼ジト目のミカエル……ああっ、かなりご立腹のようす、やはり、おっぱいを見てしまったからだろうか……と考えてしまう事自体、俺、余裕があるのかも。
ふぅ、と嘆息をしたミカエルはお湯を沸かして湯呑みに入れてちゃぶ台に置くと座るように綿が出ている座布団を手渡してくれる……ミカエル♪なんだかんだ言っても、ううっ、優しさが心にしみる。
お湯を口に含んだ俺、ああっ、暖かい……思わず目から涙が零れそうになる。
懇願しきった俺のキュートな眼差しでミカエルの瞳を刮目しながら必殺の土下座をかましてみる。
結果…かなりの渋面……可愛い顔が台無しですよっと言いたいが、お口チャック。
「協力を求めるにはそれなりの代償をいただきたい」
――だ、代償って、も、もしや金?
少しきょどった俺を察してだろう、ミカエルは「私は矜持をもって動きたいので。一つだけ変質者殿の真意を聞きたい」と蒼く輝いた真剣な眼差しを俺に向ける。
――俺の真意?こくりっと大仰に頷いた俺にミカエルの口元が綻ぶ。
「では、私にくれた、封筒の中身意味……純粋に受け取ってよいのですか、返答によっては犬馬の労もいとわない」
六畳間に凜とした雰囲気が漂う。
まるで言葉を丁寧に紡ぐようにミカエルは自分にも言い聞かせるように俺に問う。
――封筒と言うと……ああっ、小鳥から貰った封筒か、確か報酬と言っていたからお金が入っていた奴か。
再び、コクリっと頷き「ああっ、あれは俺からの気持ちだ。渡した以上はどう使おうがミカエルの自由だ」……お金返してなんて言わないから♪
あれっ、ミカエルが顔を真っ赤にして俯いてしまった……も、もしや、俺のせいで風邪をひいたのでは。
少し心配した眼差しを向けるとミカエルは恥ずかしそうに俺を見て「わかりました。立派に役目を果たします、私とふぶきの未来の為に」と力強い言葉もくれる……俺の未来の事まで考えてくれるなんて、良い奴だ、本当に誤解していた過去の俺が恥ずかしい。
そして、俺はすがるように難局を乗り越える為の作戦をミカエルに乞う。
その姿は可愛らしい小動物のようだ。
「あいつらを倒す手段を教えてください」
土下座から下げようがないほどペコペコと頭をさげて平身低頭。もう、助かる為なら何でもします。
「ゲイおにぃにそういう不毛な事は禁止です。思いつく手段は一つしかありません、私を信じてくれますか?」
頭を下げている間に着替えたミカエルは色々な生地が縫い合わさったお手製のパジャマ姿しなだれかかるように俺に身体を寄り添わせ、悩ましげに唇に人差し指を当てる、暖色の色を含んだ眼差しが心まで俺の事を信じ切っている想いをのせている。
コクリっと頷く俺に「言葉で言ってください」と耳元で囁いてくる……あううぅぅ、どうしたのだ?不思議と扇情的な雰囲気が♪
「ミカエルの事を誰よりも信じる。その絆は生涯の伴侶レベルの強い絆だど俺は信じている」
――そう、それぐらい強い絆でないと……確実にゲイおにぃにお尻を掘られてしまう(涙)
そんな俺の思惑など知ってか知らずか、ミカエルは感極まったようにウルウ
ルと瞳に涙をためる。
「くすっ、ああっ何て魅惑的で甘美な言葉なのでしょう♪私はもう、身も心も貴方の虜ですわぁぁぁ♪」
ぷしゅ―と蒸気でも吹き出す錯覚が見えたような(茶碗蒸しでも作れそうな♪)……うっとり陶酔するように真っ赤になって美しい指を畳にもじもじさせる……ってどうしたのだ?先ほどからの様子がおかしい。
「わ、私は貴方にとって天使のようなお姉さまになります」
――た、助けていただけるのなら。姉でも妹でも男の娘でも☆
思わず綻ぶ俺の相好を見て、ミカエルは弾けるような眩しい破顔一笑を浮かべる(ううっ、うっとりしてしまうほど可愛い……)
ぼーっとした俺の前髪をしなやかにかきあげて、ミカエルは耳元で囁き始めた。
「少なくともゲイおにぃは誰しも合体するのではないと聞いています。好みが激しく、気にいった相手にフォーリン・ラブと。もう、ふぶきを追ってくるゲイおにぃの追撃原因の一翼はになっていますね」
こくりと一人、怜悧な相貌を小さく頷きながら納得している……ああっ、耳にかかる甘い吐息がぁぁぁ、保て俺の理性。
「ところで……大切な事を確認します」
少しだけ同情の雰囲気の滲んだ言葉づかいだが、突然、視線が鋭くなり真剣な相貌をこちらに向ける。
「ゲイにぃにお尻を襲われたりはしていないですよね」
その声音は低くとても迫力が……俺はたじろぐように訥々とお尻にフィットした暗黒の時間を説明すると、ミカエルの顔がすっと青くなっていく。
ミカエルは六畳間に唯一ある家具(古びた木の箱)の中身をガラン!とひっくり返す……出てきたアイテムは小銭とフリフリフリルの下着の上下、そして金色に輝く浣腸だ。
「お尻を貫かれたと言う事は、とてもセンシティブな問題です、直ぐにこれを」
ミカエルの真剣な面持ちが事の深刻さを表している、俺の手にぐっと握らされた浣腸……おや、中で何かが動いてますよぉ♪
戸惑う俺、ミカエルは特番救急医療室二十四時のような一刻も猶予もない雰囲気が六畳間を満たす。
「うむ、仕方がないです」と囁いたミカエル――あれっ、ちょっと、ああっお代官様おやめになって☆
山賊や追剥のように容赦なくズボン&パンツをはぎ取られる……あっ、ミカエル、頬が朱色にそまってますよー。
「多少痛いですが我慢してください」
羞恥心は消滅しました。下腹部の象さんがプランプランしながらお尻を突き出している俺……真っ赤になりながらミカエルは渾身の力を込めて浣腸解毒剤(お尻浄化錠剤)を持って、覚悟を決めたように何かをブツブツとつぶやきながらぶすっと俺の後ろの穴にチェックイン……ひやぁぁぁぁぁぁぁ!!
ジュ―っと焼ける様な音がするとお腹がグリグリと音が鳴る……ぐおぉぉぉぉぉ。
その音はアラート!下腹部ダム決壊まで時間が無いと知らせる。
その瞬間、俺から重力磁場の存在が消えたように高速がスパークして長屋の隅にある共同トイレに駆けこんだ。
……五分後……
トイレでの下腹部世界大戦は俺&ミカエル連合軍の勝利で終わった。
金色の蟯虫をジャジャーと水で下水に流した、虚ろな瞳で学校の水飲み場のような共同洗面所でしっかり手を洗い、部屋に戻る。
よほど、俺が憔悴していたのだろうか?蒼い双眸でじっと見つめてくるミカエル、とても心配そうだ。
俺はミカエルの白亜のような白い手をぐっと握りしめてうるうるした瞳で心から感謝している事を精一杯伝えていた。
もし、ミカエルがクスリを持っていなければ、俺は間違えなく天国の扉を開けていた。
「ふぅ、危なかったです……あれは、卵をお尻から植え付けて、卵が孵化すると虫は脳に巣作りして、人生をゲイの道に進める、とんでもない奴らです」
本当にとんでもない奴らだ……俺がゲイの道(想像中♪)……ひいぃぃぃぃぃ。
「何かをやり遂げる為……成就させる為には、必ず同等の対価が必要になります。私は全面的にふぶきの為に働きます。その対価は閻魔家との断絶になっても……」
決意の色……心強く、力強かった。
握ってきたその手から必死の決意と俺に対しての不思議な感情が伝わってくる。
「ふぶき……私はもう一人じゃないから」
綻んだ微笑み、今まで見た事のない素直な感情……神話の暁の女神アスタルテを彷彿させる清楚で麗人の微笑みに俺は魅入ってしまった。
「ところで、今更ながらなのですが、何故、ゲイおにぃに追われている?あれは閻魔家の地獄の子飼いのはず」
ミカエルは前髪を少しはらうとキョトンと小首を傾げて不思議そうに俺を見つめてくる。
「実は……」とここまでの経緯を話すとミカエルはドン引きしたように「はぁぁ」と溜息を一つついて苦笑を浮かべる。
そして、顎に指を当てながら何かを考え始めた。
「私に考えがあります」と閃いたようにぱぁぁぁと笑みを輝かせた。
ここは一つ、ミカエルに全てを託してみよう。
耳を澄ませば『お尻いや~ん』と言う声と男性の断末魔が辺りに響いていた
――俺は心の中で街中に土下座していた。