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ミカエルの真実、バカ正直と貧乏は恋の始まり?

 ◆

赤茶色の煉瓦が敷き詰められた道、ノスタルジアが溢れだしそうな心に染みる遊歩道をキュートな純白のフリルがいっぱいのメイド服姿の小鈴がぴったりと抱きつくように俺の腕を絡みとり、見る者が見れば嫉妬の対象になりそうなリア充爆発ラブラブな恋人にみえる。


何故だろう……何だが先ほどから『あんな可愛い子と……死ね』や『うぉぉぉぉ!小鈴様ぉぉぉぉ!』などと小鈴の親衛隊?から殺意満点の恨みの眼光が(涙)

にしてもきゃぴきゃぴと騒ぐ小鈴のメイド服越しに伝わる体温と柔らかな感触が俺の心をほっとさせてくれる。


「ふぶきさまぁ、ほら、見て見て!興奮して乳首のように屹立した前のでっかい建物が時計塔ですぅ」


ひょっこりと俺の顔を覗きこみながら「にへへ」と微笑みながらぺろっと舌をだす、小鈴、発想が残念すぎます。

それはさておき無邪気で警戒心のない行動がとても蠱惑的に見える――小鈴……可愛いなぁ。と言うか時計塔に立っている人が何故か俺達を睨んでいるような……また小鈴のファンかな。


ああっ、何だか肩で風をきりながら苛立ちバロメーターマックスでこちらに歩いてきてるような……っても、もしかして……俺の脳内シナプスが記憶群と連なっていく。

ジトーと背筋の汗腺から体温を奪うほどの冷や汗が浮き出てくる……

蜃気楼ほどに揺れ動く神々しい金髪……貫くほどに鋭い視線を向けてくる碧眼、高貴なオーラがにじみ出ている雰囲気……ひぃぃぃ(涙)見間違えるはずなし!ミカエルさんですねぇぇぇぇ。


あの朝の約束が脳裏を過ると高橋名人の十六連射を彷彿させる拍動のスピードが赤い彗星が如く当社比三倍程のハードな動きをかます。

もうヘビメタ調だぜぇぇぇ!

先ほどまで物影に隠れながら、呪いの念を俺に送り続けていた小鈴の親衛隊?達が危機本能全開なのかミカエルの俺への威圧感を感じ取り、海岸のフナ虫のように両手をあげて可愛さアピール?しながら全力で逃げていく後ろ姿がみえますよぉぉぉ。


ミカエルの鋭すぎる眼光……蛇に睨まれたカエルのように両足の筋肉が委縮して立ち止まった俺に腕を絡めていた小鈴は「どうしたのですかぁ~小鈴の腕にエクスタシーを感じて勃起して歩けなくなったのですかぁ?」とキョトンと小首を傾げて俺と俺の視線の先のミカエルをキョロキョロと首をふりながら見くらべる。

距離にして二十メートルほど……でもはっきりわかる鬼のような危機迫りくる威圧感……ミカエルさん、かなり嚇怒されているご様子ですね(驚)


神々しく風をきり優雅にこちらに闊歩して来るミカエルを見ながら小鈴はいやらしい微笑みを浮かべて「ふぶきさまぁ。もしや逢引ですか?小鈴をだしに使って同伴ですか?もう、どうしようもないエロチカです!勃起魔神ですぅぅぅ」と右わきにげしげしとひじ打ちしてくる……とんだ誤解です(涙)

俺の目前で黒が基調のセーラー服姿のミカエルは立ち止まった……その顔色は少し青く目の下のクマも出来ている、見たところ調子が悪そうだ。


「貴方は宮本武蔵ですか……何日も遅刻してくるなんて、いいえ、その程度では私をだまし打ちできませんよ!」


寝不足と栄養不足だろうか一人地震ゴッコのように揺れながらヨレヨレっと指を指すミカエルだが、身体に切れはなく、何処かフラフラしている――もしや本当に馬鹿正直に数日間待っていたのでは?


「私が勝利をしたあかつきには閻魔家から手を引きなさい、もし、私が敗北したならどのような璃辱も受けましょう。まぁ、私に勝てる事など万が一にもありませんが」


と言いながらミカエルは白目をむいて、重力に引かれるようにその場に倒れて気を失ってしまった。


――えっ、し、勝負はいずこへ……


とりあえず、安全確認❤倒れたミカエルをつついてみる、うむ、マジで気を失ったみたいだ、隣では「エロですぅ、よだれをたらしながら、うへへ、パンツの色、何色、とか想像しながら無力な女性を突くなんて……ふぶきさま、鬼畜の中の鬼畜ですぅ」と何故か悦に入りながら拍手喝さいの小鈴……俺はあなたがクイーン・オブ・ザ・鬼畜だと確信しています♪


このままほっておく訳にはいかないな、いやはやなどと思いつつもセーラー服がはだけて少しエッチな姿のミカエルを背中に担ぐ……女性特有の柔らかな感触が背中全体に広がる……ああっ、その魅惑の果実……かなりバストボリュームを感じる♪


隣では『にしししし』と笑いながらこぶしをつくり口元に当てて「欲情しますぅ、艶やかで扇情的です、絶対に荒れくれた長屋に連れ込んで金髪の少女は乳を揉まれて初めてをうしなうのですぅ」などとよだれを垂らしながら瞳を細める小鈴……もう、変態おやじの域を超越した妄想族です。


「小鈴、ミカエルの家の場所しっているか?」


無意識にジト目になりながら妄想街道爆走中の小鈴に訪ねる。

唇に人差し指を当ててしばし思考回路を働かせた小鈴はぱっと華やいた笑顔をつくり「まったくわからないですぅ♪てへ」などとおどけてみせた。

うむ~と悩んだ俺は一つ名案を思いついた……そうだ、生徒手帳を見よう。

背徳感はあるが……俺は意外に貧乏じみたミカエルの鞄から一冊の生徒手帳をとり、眺めた。



そこは街はずれの寂寥感漂う貧困層が集まるスラム街……生徒手帳に書いてあった住所を手掛かりに小鈴と歩いてきた場所、それは江戸時代末期にも出てきそうな今にも崩れそうな貧乏長屋。


「ここですぅ。ドアあけるですぅ」


ガラガラガラ――


鍵もかかっていないボロボロの木製のドアをスライドさせる……不用心だなぁ。


中は六畳一間の畳部屋に中央にちゃぶ台が一つと隅っこに古ぼけた木製の小さなタンスが一つ……何とも質実剛健的な人物が住んでいそうな、ミカエルが住んでいるなどまったく欠片も感じられない。

とりあえず、破れて綿の出ている座布団を二枚連ねて布団代わりにしてミカエルを寝させた。


――本当にここはミカエルの家なのか?違っていたら不法侵入で逮捕ものだな。


軽く嘆息した俺の肩をポンポンと叩く小鈴、振り向くより早く小鈴はにっと口の端をあげながら開口する。


「ふぶきさまぁ、そろそろ、帰宅しないと小鳥さまぁが心配しますぅ。あっ、今、帰ったらはぐれメタルひよりさまぁが屋敷に乗り込んできてるかもですぅ。ちっちゃくて人見知りなのに後家パワーはこわいですぅ、モエエロパワーは並みじゃないですぅ」と貧相な胸の辺り両手を広げて仕方がないなぁとポーズをとっている……俺はそんな発想をする小鈴の思考の方が並みではなくこわいですぅ♪


「と言うわけで、わたしはいったんお屋敷をみてくるですぅ。ふぶきさまぁ、ここで待っていてください、あっ、わたしがいないからってミカエル様のちち揉んだり、吸ったり、ラジバンダリをしたら駄目っ子ですよ……あっ、これは前振りですぅ芸人ならその意味ご理解してください❤」


俺に人差し指をピシッと指すと踵を返して「いってきまぁす♪」とメイド服をひらひらと靡かせてトテトテと駆け足で勢いよく出て行ってしまった……

太陽のような小鈴がいなくなり急に室内が静まり返る……気を失っているミカエルと二人っきり、しかも、スカートが弾けていて白い太腿がエロチックに……

俺はむき出しになったふとももを凝視しつつも理性をフルに稼働させるために脳内小人達が必死に円周率を数えている。


「ううっ」


眉間にしわを寄せて苦しむような寝息をあげる……それにしても本当にミカエルは綺麗だなぁ♪ああっ、何を聞いてもエロチックに思えてしまう……俺のばかぁぁぁ。


ブルブルと首を振ってパンパンと頬を叩く……冷静に考えれば俺が約束どおりに行かなかったからミカエルは馬鹿正直にずっと待っていた疲労で倒れた……というか、何故ずっと待っていたのだ?普通、家に帰るだろ。

俺は瞼を閉じて美しい眠り姫のように深い眠りについているミカエルをじっと見つめながら軽く頭をかいた――まぁ、一方的に決闘を申し込まれたとはいえ、俺も悪い所があったからなぁ――っと素直に反省しよう。


「ううっん」


良く見るとうっすらと汗をかいている、ふぶきはミカエルの枕元でかがみ、そっとポケットに入っていたハンカチで汗を拭きとるように撫ぜた。

「ううっん……」


ふぶきが汗を拭きとる為に肌を撫ぜる事に反応するようにうっすらと瞳が開く。


「……………」


視線と視線が微かに交差すると沈黙の色が濃くなっていく。

ミカエルの開きたての瞳は徐々に驚愕の色をおびる。

俺の顔を見て茫然とするミカエル、自室で俺がいる……この現状が読み込めないのだろう少しうろたえたミカエルの額を優しく撫ぜるようにハンカチで汗を拭きる。


「……わ、私……負けたのか……」


小さな呟きが聞えた。

乾いた唇からか細く呟かれた声……とても深い悲哀の色を滲ます。

そこには傲慢な金髪の面影はまったく見えなかった、ただ弱弱しく、俯いて、辛そうでいまにも消えてなくなりそうな。

俺は首を横に振り事実を話そうとした刹那、涙腺が崩壊したようにミカエルの瞳から大粒の涙がハラハラと頬をつたい顎かに滴り落ち、ささくれた畳へと吸い込まれていく。

戸惑う俺をよそにミカエルは両手で顔を隠し「うっうっ」とむせび泣く……殺風景な部屋と重なって寂寥感たっぷりの状況にかける言葉が見当たらない。


「あの~ミカエルさん……きみは負けてないよ。ずっと俺を待っていて疲労で倒れたんだ。ごめん、全て俺が悪い。本当にごめん」

とにかく今できる事、それは精一杯の想いを込めて頭を下げる事。

ミカエルは少し上目使いで俺を見た、その瞳は滂沱の涙溢れている。

「何故、敗者である私に頭を下げる……何故、優しくしてくれる……そんな事をされたら……私は……」


身体を抱くようにミカエルは体育座りをしながら顔を太腿に埋める。


「本当に俺が悪かったから……」


――申し訳ない気持ちでいっぱいになる。


「私はどうすれば……小鳥は私の……私はどうすれば……落ちこぼれの私は……」


突然、すがるようにミカエルは俺に抱きついてきた、小刻みに震えた身体……小動物のようにひ弱に感じ取れる。

俺の服をぐっと握りしめて、悲哀に満ちた眼差しが俺に向けられる。


――非常に困った


「お前さえ……お前さえ、現れなければ、私は……私は……」


支離滅裂な言葉、震える手の振動が服を媒体にして俺に伝わってくる……本当の悔しさだ。


そっと綺麗な金髪に手を添えた、きめ細やかな髪を優しく撫ぜる。


――めっちゃ、悪い事をしたような。


こんなにミカエルは真剣に……慙愧の念が俺の心を圧迫していく。


「ミカエル、きみは決して落ちこぼれではない」


――俺に比べれば……(苦笑)


俺の言葉に過敏にミカエルは反応するが酷く諦めの色がにじみ出た生気の無い表情が張り付いていた。


「私はどうしようもない落ちこぼれだ!この住まいを見ろ……家から勘当され、一人行くあてもなく、身寄りもない。逃げるように閻魔のじじ様の島来て、こんな、みじめな生活をして……ご飯すら食べられない……私なんかが……乞食と一緒だ、全てから見捨てられたクズだ!」

ミカエルの投げ捨てるような叫び声、沈痛な想いが溢れ出る。

どよ~んと今までにないほどの淀んだ雰囲気が室内を覆う。

――な、なるほど、食費をうかす為に、閻魔家の朝食に参加してるんだ、納得。


「親をみかえすには、いいなづけの小鳥と結婚するしかなかったのに……はぁ……何だか疲れた……お腹もすいた……もう、生きる事に疲れた……もう、堕天して身体を売ってお金を稼いだほうがどんなに楽だろう」


疲れ切った淀んだ瞳……ふっと俺から視線をそらすと身体を抱くような仕草を見せる。

突然、俺の胸に顔を埋めるとミカエルの瞳から再び滂沱の涙が流れ始める……とても辛く助けを求めている純粋な涙。


「なぁ、買ってくれないか私を……私は誰からも愛されない惨めで魅力も色気もない女だが……」


透き通る碧眼でチラリと扇情的な眼差しで見上げてくる、一直線に見つめてくる強い眼力を感じる碧眼がミカエルの実直さを伺わせていた。

不謹慎だが凄くドキドキする……心のアラートが鳴り響く……とても端正で魅力的な顔立ちに見事なプロポーション、仄かに乱れた金色に輝く髪の柔らかな芳香が心まで溶けてしまいそうになる。


脚色なしで真実を伝えたわけだが、それが余計にミカエルの重しを強くしたのかもしれない。

俺は思いだしたように胸元に入れていた唯一の俺の備品である、小鳥から貰った純白の封筒を出して、泣きじゃくるミカエルの女性らしい手にがっしりと渡した。

俺を見上げてキョトンと小首をかしげるミカエル……今出来る、俺の精一杯の事。


触り心地の良い金髪を優しく一撫ぜして俺は立ち上がるとわざとニッコリと微笑んでみた……鏡でみたらさぞかし気持ち悪い笑顔だろうなぁ。


「その封筒をミカエル自身の為に役立ててくれ……生きているから何かができるんだ。あまり、自分を卑下するな。俺が見ても凄く魅力的な女性だよ」


せ、背筋がかゆい……うぉぉぉぉぉ、柄にもない、俺らしくない言葉に心で悶絶してしまいそうになるがミカエルは封筒と俺を交互に見ながら少し頬を朱色に染めてコクリっと一度だけ頷いた。

ふぶきは軽く手をあげるとドアを開けて部屋から出て行った。

外の風が冬の足音を運ぶように淡雪が混じっている。

ふと、空を見上げるとどんよりと覆われた雲が太陽を遮断して本格的に雪をふらすぞーと叫んでいるみたいだ。

この雪が本降りになる頃……俺は大変に追い詰められる出来事の真っ最中になる事を今は知るよしもなかった。


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