えんま家の秘密、小鈴は変態ぺったんこメイドなのですよ、ふんす☆
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何だか、この屋敷に来てから初めての静寂が続いているのかもしれない。
小鳥のふぶき奪還計画の日から数日たった。
今日も窓から見える夕日は水平線の彼方へとゆっくりと沈んでいく。
窓からぽーっと夕日を眺めていた、ここは二十畳近くある客室、閻魔小鳥の屋敷の一室。
「ぼーっとして、どうされたのですかぁ。ふぶきさまぁ?」
後ろから間の抜けた小鈴の声が聴覚に響くと溜息一つ振り返った。
部屋はシンプルなモノトーンで整えられており家具もベットとソファーと机のみ、天上にぶら下がっている豪奢なシャンデリアが中世ヨーロッパのお城みたいな雰囲気を醸し出している。
無言のままのふぶきにキョトンと可愛らしく小首を傾げた小鈴は赤と紫の瞳をパチクリさせて服の裾を少しひっぱった。
「わかりましたぁ♪エッチな事考えているのですねぇ。もう、小鈴は絶世の美少女ですが貧乳ですからおっぱいスリスリは出来ないですぅ。もう、まだ、小鈴は濡れてないですよ!ふぶきさまぁ、ロリコン男爵ですぅ」
頬に顔を当ててイヤンイヤンとメイド服をパサパサと振り、腰をくねくねさせる……小鈴、思考のベクトルちがいますよぉぉぉ♪
――にしてもそもそも何故、俺はこのような立場になったのだろう。
まぁ、あのまま列車に乗っていても地獄を見るのは関の山だからなぁ。小鳥は何故、列車に乗っていたんだ?絶対に何かがおかしい……
胡散くさい臭いを感じる。
少し思案顔になっていたのだろう、気が付いたら心配そうに小鈴が俺の顔を覗きこむ。
「うぅぅん、どうされたのですぅ?そんなに悩んだら頭ツルツルピカピカになりますよぉ。私は閻魔大王様から勅令を受けた、ふぶきさまぁの専属メイドなので、何でも相談してください。もしかして、うんこ漏らしたのですかぁ?」
ぽてんと俺の隣に座り、悪戯っぽいチャーミングな笑みを浮かべて、腕を俺の腕に絡ませて、ぴったりと腕にしがみついてくる。
――聞いてみるか……
小鈴の頭を撫ぜながら瞳をトロンとして「う~ん♪ゴッドハンドですぅぅ」と気持ちよさそうに懐いてくる小鈴に問いかけた。
「俺さぁ、急に婿だの言われたけど、そもそも、閻魔家って何?」
スライムのようにとろけてしまっている小鈴がわかりやすいように簡単で核心のついた質問をぶつけてみた。
僅かに思案したように小鈴は唇に一指し指を乗せて「う~ん」と唸ったが、
「私の立場で言えるところまでいいますぅ」とメイド服のスカートをぐっと握りながら向き直って言ってくれた。
ソファーに腰掛ける俺に小鈴はメイドらしくティーポットを掴むとてなれたようにお茶を入れてくれる。
注がれるお茶からホッとするミントの香りが気分を落ち着かせてくれる。
小鈴はそっと俺に前にお茶が入ったティーカップを置くと「えへへ」と微笑みながら「閻魔家はですねぇ、この世とあの世を結ぶ全ての関所を取り締まっていて収入源にしていたり、代々、とっても偉いお方から魂を裁く最高裁判官の世襲を許されている、格式の高い家柄ですぅ。その上、超裕福な家ですぅぅ。確か閻魔財閥といわれていますぅ」
何故か、エッヘンとふんわりとしたメイド服ごしに貧弱な胸を張りながら説明してくれる小鈴。
「小鈴、あのじじ様とか言われている、でっかい爺さんも裁判官なのか?」
俺の問いかけに小鈴は両手をかさねて頬に当てると『ぷるぷる』と首を一振りして「じじ様は前任の閻魔大王ですぅ、とっても怖かったらしいですよ♪今はこの島で悠々自適にお過ごしですぅ」と軽く答えてくれた。
そして「ふぶきさまぁに質問ですぅ」と大きく右手をあげてアピール。
「ふぶきさまぁは何故、閻魔小鳥さまぁの婿なのですかぁ?閻魔ひよりさまぁとは愛人関係なのですかぁ?」
無邪気に聞いてくる小鈴……何て好奇心がダイレクトにキラキラした瞳で見上げてくる。
いやはや返答に困る……実際は俺が聞きたいぐらいだ、う~んと困った顔を見せると、小鈴は更に微笑みをふかめて「じゃあ、質問かえますぅ。私はふぶきさまぁが大好きですぅ、ふぶきさまぁは小鈴の事は好きですかぁ?」
な、何と無邪気だが時限爆弾を色濃く含んだ質問だ……数日前に会ったばかりなのに大好きと言ってくれる心遣いが嬉しいが真意はいかに(ドキドキ)
俺は小鈴の心遣い?に答えるように社交辞令的に「好きだよ❤」と言った。
あれっ、笑顔だった小鈴の顔がみるみるうちに険しくなっていく……どうしたのだ?
急に憤慨したように腕組んだ小鈴は眉間にしわをよせて、ジト目で突き刺すように俺を射抜く。
「あううぅ、ふぶきさまぁは、女の敵です!すけこましですぅ。チンコ魔神です。歩く生殖器ですぅぅ!誰にでも好きと言うから誤解を生むのですぅ。だから二股になるのですぅ。本気なら抱くですぅ。私を抱くですぅ。ああっ、スケベな御主人に手籠にされるですぅぅ、可愛そうですぅぅぅ。うぇぇぇぇぇん(涙)」
――何だ、そのストーリー!
両目から滝のようにじゃーじゃーと涙を流す小鈴……どこまで妄想突っ走ってんねん!
仕方なくメイド服の裾でチーンと鼻をすする小鈴をなだめながら俺は『はぁ~』と嘆息する
あれっ……突然だった、不思議な映像が脳裏によぎると、身体が拒絶するように足元が揺らぐ、閉ざすように視界が歪む、身体のバランスが崩れて重力にかれるようにソファーに倒れ込んでしまう。
そんな俺の鼻先に人差し指をピシッとつきさし「ふぶきさまぁ、お外に行くですぅ。私と一緒にお散歩にいくですぅ。三日目のカレーぐらい煮詰まっている顔をしていますぅ。お外に行って探検ゴッコですぅ♪」
――疲れるのはお前のせいだろうがぁぁぁ!
パシッっとメイド服ごしのつるぺったんこな胸に手をそえる。その仕草は『私が案内します!』と力強く感じられる……ありがとうの意味を込めてコクリっと頷くと自分に気合いを入れるように俺は頬を叩いた。
「ふぶきさまぁ、見込みありますよ♪やっぱりドMですぅ❤」とニヤニヤ顔で小鈴は触れ合いそうなギリギリまで相貌を近づけてくる。
――やっぱりこいつ……良い奴かも……
俺は小鈴の心遣いに感謝しながら、服の袖をぐいっと掴む、小鈴に引っ張られて屋敷の玄関へと向かっていった。