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冤罪と贖罪の羽ばたき

  ◆

「ねぇ、貴方が生きてきた楽しいおとぎ話を聞かせてよ。美味しそうな花……魂に宿る、魂花の色って知っている?」

静謐な雰囲気に包まれた地下室に囁くような、少女の声が響いた。

その声は……とても幼く……そして艶やかさがと寂寥感が調和した不思議な声音だ。

「太陽の神様って不公平だよね。もう、維持できないなぁ……舐めていい……新鮮なお肉が食べたいな……その白い肌のした……幻想的な柔らかいお肉が……」

唇の端から滝のように溢れ出るキラキラとした唾液、与えられた玩具をもって喜ぶような嬉々とした雰囲気。

少女の瞳は爛々と輝き、乾いている上唇ぺろりと舌を舐めた。

想念が入り混じり混沌とした闇から生みだされた小さく淀んだ言葉は嬌声と狂気を感じさせる。

巻きつき浸食していく憎悪、光の残滓も感じられない地下室に響く背筋に走り抜ける絶対零度が宿る凍える声音。

死の宣告とも思える言葉……もう一人の少女は柔らかな自分の肉体に食い込むほど両腕で自分自身の身体を抱きしめて、ピクリっと身体を震わせた。

微弱な電気信号が走っているように身体の震えが止まらない……深淵の恐怖に揺れ動く彩られた瞳……小動物のように小刻みに漏らす嗚咽、端正な相好は複雑な感情が出入りする、抱えきれない怯えを灯していた。

「まがいものの身体って不便なんだよ。見て、この右手、呪いって恐くて醜いでしょ。ふふっ♪」

ゆっくりと揺れ動く右手は怯える少女に差し出される……それは、朽ち果て爛れた右腕……蛆が湧き、吐き気を催すほどの悪臭が鼻腔に苦しみを与えている。

「ふふふっ、寂しいなぁ、だから、食べたい。貴方の柔らかな新鮮なお肉……腐食した身体から次につくられた私はどんな魂花が入るの?ああっ、麗しい……溢れんばかりの魂と新鮮で若い肉体の融合。キラキラ綺麗だよね……私、貴方の魂花も摘みたいな……小鳥」

恍惚とした眼差し、憎悪と悲哀の入り乱れた瞳は怯えきった少女を射抜く。

激しく腐敗した右手が砂時計の砂のようにゆったりと少女の首元に迫る。

背中に伝わったヒンヤリとした感触、それは怯えた少女の退路が絶たれた事を意味していた。

ドクリと心拍が上がり、拍動のスピードが速まる……心に絶望を色濃くするアラートが鳴り響く……腐敗した右手が少女の黒水晶の輝きとみまがうほどの美しい黒髪を撫でた。

「不公平だよね……貴方の全てを呪ってあげる。だから、私を忘れないで。綺麗な瞳、健康的な四肢。脳髄から指先まで……呪ってあげる。私の前で永遠に苦しんで……こ・と・り」

乾ききった小さな唇が動いた。

その唇がいやらしく、にんまりと微笑む。

なぞる指先、なぞられる頬、幼い声の持ち主は柔らかな黒髪を弄び、小気味に震える白い頬に指を這わせ顎をぐっと強く握りしめる。

――ドクリドクリと拍動が高鳴り、闇にのみこまれそうな沈黙した意志は諦めと恐怖に突き動かされる。

涙腺が末路を知るように……とめどなく涙を排出する……こ・と・りと呼ばれた少女は身じろぎが出来ないほど、固まり、恐怖と絶望の虜になっていた。

「貴方は何番目……私……私自身の……」

黒き淀みに溢れた憎しみ、呪文のような言葉が枯れた唇から囁かれる。

ピクリと動く蛆を落とし、腐食した右手で小鳥のか細く白い首筋に触れると真綿でしめるように優しく徐徐に締めあげられていく。

「た、助けて……」

かすれる声、懇願の言葉は何処にもとどかない。

深い闇に吸い込まれるように小鳥の声はか細く空間に消えていく。

「柔らかくて……美味しそう……大丈夫、次の貴方が待っているから……新しい貴方になる為に……次の貴方が待っているから」

嬉々とした幼い声は混沌の意識に引き入れるように黒髪の少女の首筋に唇をなぞらせ、ざらざらの舌で舐める。

青ざめた相貌、生気を失ったように静かに黒髪の少女は瞼を閉じた……

狂気を宿し、愛おしむように頬を撫ぜる手、猟奇的な微笑みが静謐な空間に苦い色を濃く残していた。


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