蛙は空に
僕は空が飛びたいんだ。
ピョン、ピョーン。
青く澄んだ空が好きだから。そこに浮かんだ雲が愛しいから。そこから落ちる、雨の雫が美しいから。
ピョン、ピョーン。
鳥はとても気持ち良さそうに飛んでいる。
僕は羨ましくて、必死で跳んでいる。
『飛ぶ』・『跳ぶ』
翼に憧れて、飛翔にあこがれて。
青空は気持ちいいんだろうなぁ。雲は近くで見たら迫力だろうなぁ。雨は少し冷たいのかな?
ピョン、ピョーン。
―――ある晴れた夏の日。僕はいつものように、友達と一緒に空を見ていた。
「今日の空は、一段と凄いな」
友達が言った。彼は毎日、空を見るたびに同じ事を言うんだ。
「今日の空は、一体どこが一段とすごいの?」
僕は彼が同じ事を言うたびに、決まってこう返した。すると彼は満面の笑顔になり、今日の空の説明をはじめる。
「この突き抜けるような、青さ!燦々と注ぐ太陽!ずっとずっと彼方に見える入道雲!この空の、どこが凄くないと言えるんだい?」
彼はそう言うと、思いっきり体を膨らませて空気を吸い込んだ。
「ほら!今日のような日には、空気にまで太陽が染み込んでいるよ。」
僕は頷いて、彼みたいに空気を吸い込んだ。
なるほど。たしかに空気に暖かみがある。
僕は、澄ました顔をしている彼に向かって、
「それと、空の青さも溶けているみたいだね」
と言った。彼は少しだけ驚いた顔をして、それからまた笑った。
やがて、太陽が真上に達した。僕はこの時の空が一番好きだった。彼は、夕焼け空が一番好きで、そこだけが二人の気が合わない、唯一の所。
何も言わずに空を見ていると、何だか少しだけ空に近付いた気がして、僕は嬉しくなって、思わずジャンプした。
色々と考え事をしている内に、人間が近くに来ていることに気が付いた。
僕は怖くなり、
「ねえ、人が来たよ。そろそろ帰ろう。」
と、彼に言った。
すると彼は、
「ちょっと待って!」
と、僕を引き止める。
「どうして?」
と僕が言うと、彼は
「お父さんから聞いた事があるんだ。人間はたまに、俺達蛙を空に連れてってくれるんだって」
と言った。僕は瞬時に興味が沸いて来た。
「どうやって?」
「なんでも、空に打ち上げる装置があるそうなんだ」
少しだけ、沈黙が流れた。
僕は、溢れ出てくる空への好奇心を抑えて言った。
「でも、やっぱり人間は怖いよ」
すると彼は、
「そうか………。でも、俺は行く。空を飛ぶ事こそが、俺の夢だからな」
そう言って跳びはねた。
そうしたら直ぐに人間がやって来て、彼を捕まえた。
彼は連れて行かれる途中、恐怖で物陰に隠れていた僕に、
「まあ、夕焼け空じゃないのが残念だけどな」
と言って微笑んだ。
それからしばらくして、彼が連れて行かれた方向から、パシュッ!という音がした。
慌ててそちらに目を向けると、数本の棒のような物にくくりつけられた彼が、青空へと飛び立っていた。
シュシュシュという音と共に、不思議な放物線を描いて青空に向かっていく彼。
少しだけ僕を見て、笑った気がした。
やがてそれは、僕がいくらジャンプしても、全然届かない位の高い所まで飛んで行って、
そして、
『パーンッ』
という音と共に、弾けて消えた。
そうか。彼は、鳥たちを通り越して星になったんだ。
「空はどうだった?」
という質問が出来ないのは残念だったが、僕は彼が、凄く羨ましくなった。
青空と、鳥たちと、星になった彼に憧れて。
ピョン、ピョーン。
僕はまた、跳びはじめる。
* * *
「な、面白かっただろ?」
「うん………。でもいいのかな?ロケット花火に蛙を結びつけて飛ばすなんて………。死んじゃったのかなぁ?あの蛙」
「ああ、そりゃそうだろ。だって最後、爆発したし」
皆さんお久しぶりです。来々です。今回の作品は、いかがでしたか?『童話』というジャンルには、多少合ってない感がありますが、それでも『教訓』を与えるという点において、多少は満足が出来るかなぁと思っています。それでは、次回作にこそご期待下さい。