表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Radon  作者: 川島瑞貴
3/3

3

 玲治が拳銃を下ろし、腰のホルダーに戻す。

 その手で再び無線機のマイクにふれた。


「生存者と思われる子供を発見しました。

 目立った外傷はありませんが意識を失っているため、このまま病院へ搬送します」


『早川、図に乗るな』

 黒田からすぐさま返答がある。


『お前の戦闘力は買っているが、身勝手な行動は許さん』


「……だから言っただろ」

 隼人は小さく舌打ちをする。

 子供を抱いて立ち上がった。

 一度手を差し伸べたこの小さな命を、奪わせはしない。


「どこに行く」

 抑揚に欠けた玲治からの問いが、背後から投げかけられる。

 

 振り返らないまま固い声で答えた。


「病院」


「待て」


 有無を言わせぬ強さで、肩をつかまれた。

 隼人は振り払おうと身をよじるが、肩にかかった一見華奢な指はびくともしない。


「お前が行けば連帯責任でおれが迷惑する」


「構うもんか。僕はこの子を助けるって決めたんだ」

 首だけ振り返り、頭一つ分背が高い玲治を睨みつける。


『早川、すぐに戻って来い』

 無線機から再三、黒田の声が響いた。

 肩をつかんだ手とは反対の指がマイクにのびるのを見て、隼人はその手首に噛み付いた。


「お前……!」


「病院に行かせてくれないんだったら、今度は指を食いちぎっちゃうよ」

 半ばはったりだった。

 玲治がその気になれば、彼の指を噛む前に隼人の体に銃弾が撃ち込まれる。

 それでも虚勢を張って食い下がったのは、ひとえに腕の中の温かさに感化されたためだ。


『早川!近藤を連れて戻れ!』


「……黒田指揮官」

 玲治は射抜くような視線で隼人を見下ろしながら、歯型のついた手で応答した。


「早川玲治、近藤隼人、両名これより警軍第十部隊を離脱します」


 黒田の返答を待たず、歯型のついた手は玲治の無線機、隼人の肩をつかんだままだった手は隼人の無線機のスイッチを、ぷつりと切った。


「ちょっと……」

 さすがの隼人も、唖然として口を開ける。


「……離脱、って……」


「その子供」

 ちらりとも表情を崩さず、玲治は力なく抱かれたままの子供を顎で示した。

 その動作につられて視線を落とすと、肩をつかまれて振りほどこうとした時だろうか、子供のまとう布が乱れ、骨の浮く首筋から肩口にかけてが露になっていた。


「え……?」

 隼人は思わず身をこわばらせる。

 子供の右肩の付け根に、見たことのない模様がある。


「これは……?」


「反逆者の焼印だ」

 玲治がぼそりと、呟いた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ