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玲治が拳銃を下ろし、腰のホルダーに戻す。
その手で再び無線機のマイクにふれた。
「生存者と思われる子供を発見しました。
目立った外傷はありませんが意識を失っているため、このまま病院へ搬送します」
『早川、図に乗るな』
黒田からすぐさま返答がある。
『お前の戦闘力は買っているが、身勝手な行動は許さん』
「……だから言っただろ」
隼人は小さく舌打ちをする。
子供を抱いて立ち上がった。
一度手を差し伸べたこの小さな命を、奪わせはしない。
「どこに行く」
抑揚に欠けた玲治からの問いが、背後から投げかけられる。
振り返らないまま固い声で答えた。
「病院」
「待て」
有無を言わせぬ強さで、肩をつかまれた。
隼人は振り払おうと身をよじるが、肩にかかった一見華奢な指はびくともしない。
「お前が行けば連帯責任でおれが迷惑する」
「構うもんか。僕はこの子を助けるって決めたんだ」
首だけ振り返り、頭一つ分背が高い玲治を睨みつける。
『早川、すぐに戻って来い』
無線機から再三、黒田の声が響いた。
肩をつかんだ手とは反対の指がマイクにのびるのを見て、隼人はその手首に噛み付いた。
「お前……!」
「病院に行かせてくれないんだったら、今度は指を食いちぎっちゃうよ」
半ばはったりだった。
玲治がその気になれば、彼の指を噛む前に隼人の体に銃弾が撃ち込まれる。
それでも虚勢を張って食い下がったのは、ひとえに腕の中の温かさに感化されたためだ。
『早川!近藤を連れて戻れ!』
「……黒田指揮官」
玲治は射抜くような視線で隼人を見下ろしながら、歯型のついた手で応答した。
「早川玲治、近藤隼人、両名これより警軍第十部隊を離脱します」
黒田の返答を待たず、歯型のついた手は玲治の無線機、隼人の肩をつかんだままだった手は隼人の無線機のスイッチを、ぷつりと切った。
「ちょっと……」
さすがの隼人も、唖然として口を開ける。
「……離脱、って……」
「その子供」
ちらりとも表情を崩さず、玲治は力なく抱かれたままの子供を顎で示した。
その動作につられて視線を落とすと、肩をつかまれて振りほどこうとした時だろうか、子供のまとう布が乱れ、骨の浮く首筋から肩口にかけてが露になっていた。
「え……?」
隼人は思わず身をこわばらせる。
子供の右肩の付け根に、見たことのない模様がある。
「これは……?」
「反逆者の焼印だ」
玲治がぼそりと、呟いた。