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Radon  作者: 川島瑞貴
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2

 大木の根元には、腐敗のために開いた洞があった。

 その中に端切れが丸まっている。

 隼人にはそう見えた。


「これが、子供なのか」

 洞の前にしゃがみ込み、汚れた布をつまんでよけると、小さな手が現れた。

 指先で持ち上げたものが子供の身にまとう服の袖口だと気付いたとき、隼人は洞の奥まで腕を差し入れ、ぼろ布の塊のような小さな体を引きずり出していた。


「おい、大丈夫か」


 土によごれた子供はかたく目を閉じ、両手でしっかりと耳を覆ったまま動かない。己にふれる一切を拒絶する胎児のようだ。


「この子を病院へ」

 隼人はそばに立ったまま微動だにしない玲治へ声をかける。


「指揮官への報告が先だ」

 情に流される隼人を打つように言って、玲治は胸元についた無線機のマイクに触れた。


「警軍第十部隊、早川より黒田指揮官へ、応答願います」


「玲治」

 子供を片手で抱えたまま、隼人は玲治の戦闘服の裾をつかむ。


「報告前に病院へ連れて行く。

 指揮官が搬送の許可を出さなければ、この子は死んでしまう」


『早川、発言を許可する』

 玲治の腰についた無線機から、低い声が森に響いた。


「玲治」

 必死にたたみかける隼人の口を、玲治が片手でふさいだ。

 顔面の下半分をわしづかみにするような荒い仕草に、隼人の息が詰まる。


 たった五本の指で動きを封じられた悔しさと、生理的な苦しさに視界が揺れた。


「……何を泣いている」

 鋭い目をさらにすがめ、玲治は珍しいものを見るような視線を隼人にあてる。


『早川、どうした』


 無線機からの声が聞こえていないのか、聞くつもりがないのか、玲治はひたすら隼人を見下ろしている。そしてようやく思い当たったように、隼人の顔から手を離した。


「……窒息させる気か……!」

 荒い息をつき、隼人は玲治をにらみつける。


「玲治、僕はなんとしてもこの子供を助ける。

 もともと僕ら警察官は、人を守るのが仕事だろう」


「おれはもともと警察官ではないが」


「少なくとも僕は警察官だった」


「筋の通らない理屈だな」


「警察官だった僕が、僕の信念で行動しようとするとき、その相方に指名されたあんたも、僕と一緒に行動しなければならないはずだ」


「ならば」

 玲治の手元に、漆黒の筒が現れる。

 それが拳銃だと気付いたときにはすでに、隼人の眉間からわずかな距離を経て、銃口が据えられていた。


「ならばおれがおれの信念をもって行動するとき、お前はそれに従うんだな」


「……玲治の信念って、何だよ」

 ひるみながら、ようやくそれだけを口にする。


 その時、


『早川!』


 無線機から、怒号が響いた。

久しぶりに小説を書いたので、リハビリがてら、ゆるく文をつないでいます。

お付き合いいただきありがとうございます。

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