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5.最後の日

 随分の時をサエコと過ごした。

 以前、一緒に過ごしたときと同じくらいの時を、ファインダーを隔ててともに語らい、ともに笑い、同じ時間を共有した。


 傍から見ればさぞや気持ちの悪い光景だったことだろう。

 いつも何時でもカメラを手放さず、サエコが髪を結わえるときに使ってた白いお気に入りのリボンまでカメラのひもにくくりつけて独り言を喋る男。

 町内でもそれ以外の場所でも変わり者呼ばわりされて忌避(きひ)されているような気もしたが、面白い人と言ってくれる者もあった。





 それから、俺は病気になった。


 かなり深刻な部類のものだ。

 悪性の腫瘍といえば、まあ癌らしい・・・それも末期か。

 発見が遅く、もう治らないらしい。


 

 


 「まだお若いのに・・・」


 そう周囲の皆は言ってくれたが、若者だろうと老人だろうと、死は避けることの出来ない厄介な存在だ。

 老いも若きも人はみないつか亡くなる。

 たまたまその運命が、自分に早く訪れただけのこと・・・。


 ああ、これ、こんな光景をいつか見たことがあったな。

 今度は俺が、その立場になったのだ。


 なあ、サエコ。

 これって、お前のこれまでをなぞってるんじゃないか?




 入院してすぐにホスピス病棟に移された俺は、もう回復の見込みもなく、ただ残された余生を静かに過ごすのみだった。

 サエコはどんな気持ちで最後の日を迎えたのだろう。

 同じ身になってみて、思う。


 心配そうに見つめるのは俺の両親だ。

 最後に何かしてほしいことはないか、父が訊いて来る。

 そう、こういうとき何と言えばいいかは過去の経験から知っている。

 このカメラを捨てずに取っていて欲しい、できれば形見にと両親に語っておいた。

 そしてそのカメラで自分を撮影しておいて欲しいということを伝える。


「じゃあ、撮るぞ・・・」


 声がした。

 最後に薄れゆく意識の中で、焚かれたフラッシュを背景にして、涙ぐんだ彼女が俺のもとに飛び込んでくるのが見えた。


「いらっしゃ・・いや、おかえりなさい、かな・・・」

「ああ、ただいま」



 なあ、これで俺たちは同じ場所でいつも一緒だ。

 そうだろう?サエコ。




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