1.inカフェ
前のを書き上げてからすぐに次のに取り掛かる予定でしたが、大幅に遅れてしまいました・・・スミマセン。ひとまず短編をUPさせてください。あと3話前後で完結予定です。
「とにかく色んなところに行こうね」
そう彼女が言うので自分も合わせることにした。
雲間から訪れた光は俺のさして広くもない部屋の一角に当たっている。
小奇麗にしているつもりではあるが、モノが所狭しと置かれているせいか、見る人によっては散らかっているという印象を受けるかもしれない。
まあ、ほとんど来客は無いわけだが。
たまの休日、それもめずらしく連休だ。
日曜と月曜祝日が続くタイプの休みは久しぶりで、その連休後半はサエコとの時間に当てたいと思っていたから、相談すると彼女も二つ返事でOKしてくれた。
普段の休みは1日だけとか、あるいは休日も出勤していたりと疲れが抜けないので彼女のほうが気を使ってくれて遠出などはしないことにしている。
まあその代わりに家でだべったり、近所に買い物に行ったりということはある。
買い物と言っても専ら俺が買い手であって、彼女は同伴者に過ぎないのだが。
着替えをし、外出の準備を整える。
「じゃ、出るか」
俺の問いかけに「うん」という返答があった。
カメラのレンズ越しに、サエコのやわらかい微笑が映る。
結構な美人だと思う。
人に話せば「普通の上」くらいらしいのだが、笑顔が綺麗だとやはり全体的にも美しく見えるものなのだろう。
カメラは今見てたほうの一眼レフと、もう一つコンパクトなデジカメを持っていく。
いつもちょっと出かけるときは2つのカメラを持つ。
日常の何気ない風景や、季節の移ろいをそれで切り取る作業に、最近の俺は魅了されていた。
テクニックのようなものは皆無。
カメラ自体も両方決して値段の張るものではなく、どちらかといえば安物だ。
プロでもないんだから、素人にはそれで十分だろう。
ただ、自分は撮影するのが楽しいのだ。
小春日和。
2月ももう間もなく終わる。
こないだまで雪もよく降り続いていたようだったが、しばらく見ないし、もうこのまま春になってくれればいいんだが。
「暖かい」
そう言ったサエコの声に俺は振り向いた。
「そうか?」
「いや、オサムさんに聞いたんだよ?暖かいかって」
「ん?・・・ああ、そうなんだ?・・・んー、そうだな、暖かい。もう冬じゃないみたいだな」
彼女は温度の変化に疎い。
ずっと前からそうだった気はする。
「ねー。もうちょっと近く」
隣で彼女の少し拗ねたような声が聞こえた。
「はいはい」
ショッピングモールに居る。
流行の衣類だとかが見たいんだそうだが、あまり男が来るような場所じゃない・・・
いや、相方同伴だったとしても、近寄りがたいオーラみたいなもんがあるのだ。
男子禁制!みたいな。
いや、まあそこまでじゃないのか・・・。
目の前を横切ったのもカップルだし、同じ店の前でなにやら話をしているし。
ああ、なんか買わされそうな雰囲気になっているんだな。男の方が。
「欲しいの?」
なんとなく、隣のサエコに聞いてみた。
「んー、欲しいというか、眺めてるだけでちょっぴり幸せってゆーか」
「そっか」
女子はウインドーショッピングというのが結構好きらしい。
俺からすれば買いもしないのに延々見てまわるだけというのも気が引けるんだが・・・。
サエコに言わせれば「あなたも実用的なものばっかりじゃなくもっとシャレッ気のあるもの買ってもいいのに?」である。
どういうのかよくわからんから、見積もってもらわんといかんなあ、サエコに。
もしそういうもんを買うんだとしたら。
「何か、お求めですか?」
店員風に彼女に語りかけてみる。
少しおどけた仕草にサエコの顔もやや綻んだ。
「あーでもぉ。私買っても今着れないし」
「まー、見てるのは春物だからなぁ。まだ寒いしなぁ」
「いやそういう問題だけじゃないんだけどねー」
ふうむ。
「喫茶店でも入るか」
「賛成!」
モールの中は何でも揃う。
もちろんカフェもあるから買い物客も多数居る。
サエコと俺は高校以来の付き合いだ。
俺はバスケ部に在籍し、彼女はマネージャーをしていた。
その前の中学校からも一緒だった。
家が近所だったのだ。
近くだから、出会うと挨拶程度はしたことがあったが、あまり交流らしきものはなかった。
が、学校が中学、高校と続くと何かしら運命的なものを感じる。
しかも選んだ部活も一緒だ。
あー、これはいわゆる、思春期の男女が陥りやすいナントカだ、こう一緒が続くと”運命の星の人”だとか感じてしまう病みたいなやつだろうか。
などと思っていたらとある日の部活の帰りに彼女が急にそんなことを口走りだす。
思っていたことは同じで、しかも惹かれあっていたとはお互いに知らず。
交際はそんなところから確か始まったような気がするなあ。
年齢は俺の方が1つ上。
つまり先輩後輩の間柄になる。
彼女は在学中ずっと俺のことを”~先輩”呼ばわりしていたが、付き合い始めてからは”~さん”に呼び方が替わっていた。
実際、タメ口で全然かまわないのに、高校の頃からそうだとどうも彼女のほうが一歩引いたような喋り方になってしまう気がする。
あ、いや、名前の語尾に”さん”が付いてるだけで、あとは同等に喋れてるはずだけど。
体育会系の呪縛みたいなものだろう、きっと。
先輩後輩の間柄って、きっちり線引きされてて不可侵、みたいなもんあるからなあ。
ある程度馴染んだ関係になると返って邪魔になる気がするんだけど。
彼女は今の呼び方が気に入っているらしく、俺も敢えてそれを変えてくれとか強制もしないのでまあ、いいのかな。彼女がいいならそれで。
昔のことをふと思い出しているうちにウェイターの持ってきた銀色のトレイが目に入った。
「お待たせいたしました、コーヒーセット、1人前でございます」
「あっどうも」
「ご注文は以上でよろしいですか?」
「ええ」
ウェイターが下がるのを見てマグカップを脇に寄せる。
白い磁器の皿には可愛らしい花の模様がちりばめてある。
買い物帰りの主婦や学校から直行してくる女子学生ら御用達の店だけある。
店内もどことなく装飾が女性向けな印象は否めない。
極めて、綺麗なフロアである。
ただ、店内に居る客層を見ても分かるように男女比はほぼ1:9とか2:8。
ああうん、いいよな別に。
男と言う人種があまりショッピングモールのカフェでお茶しないだけだろう。
いやまあ、喫茶店もそんなに頻繁に出入りしない。
ああ、俺だけかも知れないが。
気にしたら負けなのだ。
「いま、このレアチーズケーキ、うまそう!とか思ったろ?」
コクコク、と彼女が頷く。
「食べる?」
訊いてみた。
「ずるいぞ、私が食べられないの知ってて~!」
「ダイエット中でしたかな」
「ちっがーう!」
「あはは、ごめんごめん」
俺の笑い声が大きかったのかどうか知らないが、付近の主婦ズが振り向いた。
そして、怪訝そうな顔をこっちに向けた。
まあ、最近はいつものことだ。
さっきも言ったが、気にしてたら負けなのだ。
「ここの店も、よく来たよな」
「だねぇ・・・」
そう答えた彼女の声。
何かしらの憂いを秘めたような響きをこちらへもたらした。
「今さ、”ふたりの思い出の場所”めぐりしてるんだよね」
「だよな」
「このモール出来たのって私たちが高校に来はじめたころだから、もう・・・」
「んー。10年くらい?」
「経たない経たない!」
「8年くらいだよ」
「そっか。・・・近いじゃん」
「2年も違うよ」
「正確なんだな」
「性格ですから」
「ふぅん」
談笑。
「ねえお母さん」
不意に近所の子供が帰り際にだろうか、清算前に俺の席の前を通りかかって、止まった。
男の子は俺の横に立ち不思議そうに屈みこむ挙動を取る。
「この人、おかしいよ」
おお、おかしい、ときましたか。
「指さしちゃいけません!」
「だって、おかしいんだもん!」
ほう、何か気付いたのかな?
「この人、誰と喋ってるの?」