第四章(6)
「今日は、イヤに騒がしいな……」
腕を広げれば両方の壁に着くほど狭い部屋で、彼女は、レミナは静かに呟いた。
頑丈な壁に四方を囲まれた牢獄。その天井は、高々と空へ伸び、満面に星が輝く夜空を切り取っている。が、いかに吹き抜けの天上とはいえ、そこには何重にも結界が張り巡らされている。下手に飛べば、悪戯に身体を傷つけるだけだと、文字通りレミナは身体で学んできた。
「……ふ、醜いな」
自分の手に視線を落とし、レミナは自嘲気味に微笑んだ。
もちろん、何度も逃げようとした。レミナは真祖の吸血鬼だ。その力は、並みの魔物の比ではない。
が、逃げられなかった。レミナが逃げるのを知っているかのように、奴らは罠を張り、レミナをこの牢獄に縛り続けた。
時間が経つにつれ、この牢獄はレミナから力を奪う。今はもう、次元を渡る力は愚か、空を飛ぶ余力すら残っていない。
ふと、再びミラが切り取られた闇夜を仰ぐ。
「和馬……」
零れるような呟きと共に、レミナが浅く目を閉じる。
瞼の裏に浮かぶ、恋人。和馬の顔だけが、レミナの安らぎだ。
だが、どんなに思い出に浸っても、もうレミナは和馬に会うことができない。和馬に会わせる顔がない。
再び、レミナが瞼を開く。心に残る虚しさ。
レミナの身体は弱り切った。処刑まで、おそらくもう日はない。
「どうせなら、早く殺せ」
背中を冷たい壁に預け、レミナが呟く。
その声は、今の今まで吐き続けたようにしわがれていた。




