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第一章 行キツク先ハ05

「おや、気付かれましたか」



目を開けたら、薄ピンクの長髪が覗き込んでいた。



「意外と早かったですね」


「……はじ、め、まして……真宮スミレです……ど、どちら様で……?」


「セナ=ミレイ=ナスカですよ。この帝国で一等星魔術師をしています。一等星魔術師はご存知ですか?」


「いや……よく分かりませんが……」


「では……えー……一等星二等星……その、困りましたね。私は自分で分かってることを他人に説明するのが下手なのですが……星の呼び名というか名称はご存知ですか?」



それならわかる。

一等星は一番明るい星だ。



「一番明るい星……あ、一番凄い魔術師ということですか?」


「ええ、まあそういうことです。話の分かる方で良かった。他の人間は私のことを『頭のおかしい魔術師』といいますが、親しい人間は『セナ』と呼びますのでそう呼んで下さい」


「あ……はい……」


「お腹はすきませんか?」



そう言って差し出されたスープには毒としか思えないキノコらしきものがたっぷり入っていて、いかにも不味そうな色あいだ。



「毒ではありませんよ。こちらで食事を取るのは初めてですか? 向こうの世界とは文化が違うでしょうから、これからも驚くことがあると思いますが」


「……頂きます」



口に入れれば意外と美味しく、キノコと思われるものは何故か肉の味がした。



「……あれ?」


「どうしました?」


「いや、あの……体が……」


「ああ」



スプーンを取って気が付いた腕の太さ。あのガリガリだった体は、いつの間にか元の太さに戻っていた。



「私は魔術師ですから」



全然説明になっていないけど、恐らくこの人……セナさんが治してくれたのだろう。



「凄いですね。ありがとございます。まさかこんな短時間で治るなんて……」


「短時間? いや、スミレ様が寝始めてから1ヶ月は経ってますよ。それでも驚異的な回復力ではありますが。生命の底上げ術式が施されていましたね。初めて見る術式でしたので解読に時間がかかりましたが、あまりに精密すぎて、理解した所で私には真似できそうにないので、それが『生命の底上げ術式だ』と分かった時点で解読をやめました。それを施したのは貴女の国の魔術師の方ですか?」


「いや、私のいた所では魔術なんてなくて……」



なんか、当たり前に『魔術』と言う単語が出てきて、当たり前に受け入れてる私……こう言う時って動揺したり泣き叫んだりするのかと思ったけど、なんとなくまだテーマパークの遊び気分なのだ。

今食べてる物だって、アメリカのお菓子のようなカラフルさで、見たことないとは言え知識として知ってるのでそこまで違和感はない。



「魔術がないのですか! それは不便でしょうに」


「いえ、元々ないので不便と思うことはないですが……それにそれを補う技術が発達してますし」


「ああ、なるほど。興味深いですね。ぜひお話しを聞きたい所なのですが、ヴァンがそろそろ怒りそうだ」


「ヴァン?」



セナさんの指さす方を見れば、扉の傍で微動だにしない騎士。鎧を着ていて「今すぐにでも戦闘可能です」と言った厳しい表情でこちらを見ていた。



「ヴァン、陛下に連絡を」


「……分かっている。その前にいいか」


「争い事はよして下さいよ。ここには貴方が一生かかったって手に入れられない、とっても貴重な物が沢山あるのですから」


「女相手にそこまではしない」



物騒すぎる言葉を吐く騎士にビクつきながら後ずさりをすれば、さらに顔をしかめられた。



「俺はヴァン=コトウだ。お前はスミレだな」


「はい……真宮スミレです……あ、す、スミレが、名前です……」


「おや、そうだったのですか。とういことは、私は初っ端から女性の名前を呼んでいた訳ですね。失礼しました」


「いえ、構いません。友達とか……は……スミレと呼ぶので、どっちでも……」



セナは「ではお言葉に甘えて」なんて笑っていたけど、目の前のヴァンは表情を変えない。



「…………」


「…………」



見られている。ものすごく見られている。ずっとだ。気まずい。



「……あの、なんでしょうか」



いい加減気まずくなって聞けば、ピクっと片眉だけ上手にあげて不快感を示すヴァン。



「お前は……マミヤは本物の『黒い薔薇』か?」


「『黒い薔薇』ってなんですか?」


「…………」


「いや、まあそうでしょう。住んでいた世界が違うのですから。知らないでしょうねぇ。ヴァン、教えておやりなさい」


「……黒い薔薇は代々王家の妻として異世界から呼ばれる乙女のことだ。この世界には黒という色彩がない。空も夜の闇も濃紺であって黒ではない。逆に王族は全て純白。だから反対属性である貴重な黒を得る為に、小さい頃から黒い薔薇を召喚する為に励み、召喚できた時に妻として娶るということだ。例えそれが何歳でもな。子供が生めればそれでいい」



なるほど。あのルイとかいう男は本当に王様だったわけか。なんかうそ臭いと思っていたけど、本当に本当の話だったのか。



「当然、私に拒否権はあるんですよね。別の人呼べばいいし」


「ない」


「は?」


「召喚は何度でもできる。ただ、それは黒い薔薇が現れるまでだ。それ以降は召喚そのものができなくなる。だから、どんな女が出てこようが、黒い薔薇であれば王は娶る。王家は黒い薔薇以外娶れないからな。まあ……子供が生めない場合はその限りではないらしいが……」


「1発でその黒い薔薇がでるわけじゃないんですよ。金髪の方や茶色の方……色んな方が出てくるわけです。違う色の人が出てきた場合は元の世界に戻しますが……」



なんだそれ。それでは本当にこちらの都合じゃないか。

こちら側にはなんのメリットも無い。むしろ私にしたらデメリットしかないわけだ。嬉しいことなんか何一つ無い。



「ふーん……100歩譲ってそちらの都合と提案を飲んだとして、嫁の方には何か利があるんですか?」


「……きっ……貴様」


「まぁ、落ちついて下さい。これだから野蛮な騎士は嫌なんですよ。普通に考えたら女性側には何の利益もありません。突然家族や友人、もしくは恋人と引き離された人もいるでしょう。中には喜ぶ方もいらっしゃったようですが……ともあれ、歴代の女王達は誰一人として嫌がった方はいらっしゃらなかったようですよ。何せ莫大な富と権力がついてきますからね。もちろんそういう物に興味のない方もいたようですが、大抵は結婚するまでにお互い引かれあって結婚していますし」


「じゃあ、私には無理そうですね。あの人、初対面なのに私のこと鳥ガラって言ったし」


「……!!」



何かを言おうと口を開いたヴァンを押し止め、セナは困ったように笑いながら私の頭を撫でた。



「そう言えば『時の壺』を通って来たのですね。あそこまで痩せ細ったのは初めて見ましたが……生命の底上げのお陰で助かったようです。是非術者にはお会いしたかったのですが……」


「……ああ、多分、狐のことですね。でも偶然会ったというか……まあ、会えないと思います」


「なるほど……まあ、結婚までにはまだ日があります。ゆっくり陛下のことを知って頂ければ良いかと」


「それ、本当に決定事項なんですか? 嫌過ぎて自殺した場合は?」


「しませんよ。貴女は。必ず陛下に惹かれます」



随分な自信だ。ただ、気の強い私にはそれが鼻につく。



「そう言われると本気で逃げたくなるのですが」


「……それを聞いてますます大丈夫だと思いましたよ。貴女は陛下と気が合いそうだ。白の塔……この塔のことですが、そこであれば自由に動き回って良いと許可を貰ってますので、元気になったら陛下の相手をしてやって下さい。陛下にあんな態度を取るのは、貴女が初めてですから」



そう言って笑いながら、「陛下は貴女が気に入ったようですよ」とうすら寒いことを言った。





* * * * * * * * * * * * *





「別に気に入った覚えはないが」



扉を出た瞬間、壁に寄り掛かって腕組みをしていたルイが不機嫌そうに吐き捨てた。



「おや、気付いてないのですか?」


「気付くも何も鳥ガラに特別な感情は抱いていない」


「おやおや……我が主は純情でしたか……」


「誰が……!」



怒鳴ろうとしてスッと柔らかい表情に戻す。その瞬間、数ある扉の1つから太った男が出てくる。



「これはこれは陛下。ご機嫌如何ですかな?」


「ロレン殿、お久しぶりです。父と話でも?」



ルイは今までの粗暴な態度が一変して、表情も柔和な好青年に変わる。



「ええ、まあ……丁度いい。我が娘をぜひ陛下にとお話ししていた所で」


「ロレン殿、私は黒の薔薇以外娶る気は……」


「ええ、ええ、もちろんです。ただ……後宮は広いでしょう?」


「妻は1人で十分ですよ」


「……まあ、気が向いたら声をかけてくれればいい。頼みますよ」



角を曲がるまで笑顔で見送り、見えなくなってから般若のような顔に戻る。



「あのクソ親父。欲に囚われた強欲な男め」


「聞えますよ。それに誰がいるか分からないのですから。いつものように『笑顔を絶やさない柔和な純白の王』を演じた方がよいのでは?」


「構わん」



フンッと鼻息荒く舌打ちをし、この場にいないヴァンを探した。



「ヴァンでしたら中ですよ。貴方の命令通り見張ってます」


「そうか」


「彼女と彼は仲が悪いようで」


「……そうか」



ルイは深いため息を吐くと、部屋へ入っていった。

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