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第五章 我、黒イ薔薇ノ君哉。13

「スミレ、お前はこれで俺達の魂を盗ったと言ったな。そのおかげで、誰も死ぬことなく生き残ったのかもしれないが、少し困っているのだ。というのもだな、結局ここに閉じ込めた魂を解放する方法を教えぬまま……お前は……」



鎮魂歌が流れる中、スミレが入れられた硝子の棺の前でルイがボソボソとスミレに語りかける。

城内は大きな悲しみに包まれており、どんよりと重い空気が漂っていた。



「そうだ。いじくっていたらな、お前の魂が閉じ込められているのを見つけたのだ。お前はバカだから、自分で自分の魂を閉じ込めたのであろうな」



そう言って鼻で笑う。

ルイの手に握られた携帯の中には、スミレが何度も撮り直しをした自分撮りの写真が映っている。



「なあ、ここにお前の魂がある。これが何年分の魂か分からないが……戻っては来られんのか?」


「え、なに……バカ? その話、まだ信じてたの? あんなの嘘にきまってるじゃない」


「バカだと!? じゃあ言うがな、お前のその耳に付けたピアス。まだ信じているようだから言うが、無理矢理取ると脳を傷つけるというのは嘘だ。そんなことが出来るわけがなかろう! ド阿呆! 大体お前は――」



響いた声。反射的に怒鳴り返したルイ。

先程まで鳴っていた音楽はやみ、辺りには静けさが広がった。



「なっ……おま……」


「嘘ですって……!? 信じられない……視神経と脳はつながってるから本当に――とか余計なこと考えちゃったじゃない!!」


「いや、お、お……お前……なぜ……」


「……なんかピーピー泣き言が聞えるから、戻って来ちゃったじゃないの。どーすんのよ。私、あの狐からこっちに戻ったら二度と元の世界に帰れないとか言われたんだけど」



腕を組んでルイを睨みつけるスミレ。

口をパクパクさせるルイを見て、スミレは小さく吹き出した。遠くでミリアの泣き崩れる姿を見て、スミレは困ったように笑う。



「戻ってくる予定とか無かったんだけどなあ」


「な、なぜ……なぜ、ここに……」


「知らないわよ。ふっと迷ったら、こっちに引っ張られちゃっただけなん――やだ、その時計、つけてたの?」


「あ……ああ、その、お前に……貰ったからな。一応、な」


「女々しい奴」



困ったように笑うスミレをルイがきつく抱きしめると、苦しいと怒りながら抗議の拳骨を貰う。

痛そうな音がしたのに、ルイはスミレを離さないでその肩口に顔を押しつけた。



「あんた、私のこと殺したんだから、ここでの面倒見なさいよ。あんたがどれくらい私に尽くすかによって、結婚してやるかどうか考えてあげるわ」










――数日前。遠くの地で戦争が行われていた頃のお話。

王も黒い薔薇の君もいなくなった城を、謎の黒い棘が覆っていた。その棘はどうやっても消えることがなく、多くの使用人が外に出られないと戸惑っていたが、どこからともなく聞えた『スミレ様のお守りに違いない』との声から歓喜の声が沸き上がる。最初のそれは、棘に見覚えのあった騎士があげた声であった。

そのおかげか、戦争が行われているだろう間は一度も城は襲撃を受けることなく、その棘が消えてからは城だけでなく国全体が棘に覆われていた事実を知り、城内の人間は大層驚くはめになる。


棘が消えてから、ようやく戦争が無事に終わったのだと察した民は状況を知らせる早馬を待つ。

そして、戦は勝利に終わったと知って一瞬沸いたが、それに続く訃報を聞いて一気にどん底へと突き落とされた。



王の帰還後に行われた葬儀は粛々と進められていたが、その最中に黒い薔薇の君の復活。

誰も予想しなかった事態に、城を始め国内は大混乱におちいる。

しかし、前代未聞の黒い薔薇の君の噂を聞いていた人間たちは、口をそろえて『あの人ならありうる』と納得し、大慌てで葬儀から生還祝いへと切り替えたのだ。



その数年後、いつまでもくっつくことなく逃げ回る黒い薔薇の君。

もはや城内は諦め気味となっていたものの、難攻不落と思われた黒い薔薇の君の心は、1人の王によってようやくおとされることとなる。

そして、歴代史上最悪の女となるという本人の宣言とは裏腹に、歴代史上最高の女としてその歴史に名を刻んだ。



― FIN ―

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