第五章 我、黒イ薔薇ノ君哉。10
体をあげる。
そう呟いてからは早かった。
「……っ」
辛うじて保っている意識が、どんどん薄れていく。遠くでニコラスの叫び声がするが、それもどんどん聞えなくなっていっていた。
「ただあげるだけは嫌なの。アンタを最大限に利用したい」
羽は禍々しい色に染まり、体中から瘴気を放っている。少し動くたびにきしむ体を叱咤して、ゆっくりと歩き始めた。今にも持って行かれそうな意識。命が削られるとは、このことなのだろう。体の中から何かが抜けていくのが分かる。それと同時に、どす黒い何かが体中を支配していくのも。
「ああ、凄い。赤が……赤い光が……はっきり、見える……」
ヨロヨロと歩きながら、その赤い光に向かって歩く。周りにいた人間は、誰も私を止めようとはしなかった。
――どのくらい歩いただろうか。
赤い光が近付いてきて、私の目の前に飛びだした気がする。しかし、次の瞬間にはコマ切れになって地面に落ちた。気にしていても仕方がないので、赤い光が密集するところへ歩いていく。
それからしばらく歩いて行くと、ようやく赤い光の密集する地帯に出ることができた。
「なんだ……あれは……」
訝しんで私を見る赤い光たち。
それを次々に棘で絡め取っては動けなくしていく。そうしていてようやく気付いたけど、やっぱりこの赤い光は敵ということで間違いがないようだ。
「早く、赤い光を……減らさないと……」
ふと、自分が置いてきたニコラスのことが気になった。辺りを見回すが、目がかすんでニコラスの姿が見えない。
「ニコラス……?」
「ここに……! ここにおります!! スミレ様、どうか目を覚まして下さい!!」
近くにニコラスがいることが分かって安心した。
でも、やっぱり陣地を離れるべきではなかったかもしれない。だって、あそこには青い光が密集していたもの。あそこを守らないと。
「棘……棘の檻を……」
スッと手を向けると、その方角が黒く染まる。バキバキと音がするから、無事に棘をはやすことができたようだ。相変わらず目はみえない。
再び歩きだして赤い光を消していく。
その時だった。
「スミレ!!」
嫌にハッキリ聞えた声は、聞き覚えのある音。
「ルイ……?」
そちらの方を見ると、目がかすんでいたはずなのに、やたらくっきりとルイの姿が見えた。
「生きていたの?」
「スミレ、やめろ! もういい! 敵将は落ちた!! 早くその力をしまえ!」
しまえと言われても……あの時と同じでどうすればいいのか分からないのだ。
「ねえ」
「早くしまえバカ者!」
「ルイ、聞いて」
びっくりしたことがあるんだけど。
私、貴方が生きていてくれて嬉しいみたい。