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第五章 我、黒イ薔薇ノ君哉。09

「届いたかなあ……?」



こっそり地面を這わせていた棘。青い光を持つ人には取り敢えず棘の種をくっつけておいた。万が一の時には何か役に立つかもしれない。

しかし、どれがだれだと判別が付かなかった為、肝心のルイ達にその種が届いているのかが分からないのだ。



「…………」



ニコラスの言った通り、あの時のめまいがは嘘のように消えているし動機もない。本当に自分の毒が進行中なのかもわからない。でも、確実に爪が色付き始めていた。



「はぁ……早く終わらないかなあ……戦争ってどのくらいで終わるんだろう」


「そんなのはその戦争次第だろうが。強さに歴然とした差があれば一瞬で終わる」


「そっか……」



フッとため息を吐いて天幕の隅まで行き良く駆けだす。

どこから声がした……? いったいどこから――



「まあ、そう逃げるな」



パッと目の前に現れたのは1人の若い男だった。

その男を、他とは比べ物にならないほど強烈な赤い光りが取り囲む。どうみても、ラスボスクラスの男である。



「どうやってここへ……?」


「魔法で」



なるほど……確かに棘を斬り裂いて入ってくることはほぼ不可能。しかし、魔法でパッと現れるのはできるらしい。そこまで考えていなかった自分に嫌気がさす。

表が騒がしくない所を見ると、目の前の男は誰にも気付かれずにそれを成し遂げたようだ。



「用件は?」


「黒い薔薇の君の奪還。しかし参ったな。毒を飲まされたのか?」



戦場だというのに軽装の男は、手をポケットに突っ込んだまま真顔でこちらを見ている。狂気じみた目が私の不安を煽った。



「どう逃げ出すかは考えなくていい。助けは来ないからな」



そう言いながら床に落ちている解毒剤に手を伸ばす。2日程眠ってもらえると都合が良いと呟きながら、男は私の方を見て鼻で笑った。



「バカ? こんな敵陣の真ん中に来て。すぐルイが来てあんたを――」


「死んだ」


「……は?」


「王は死んだ。術が発動したから間違いない」



バラの花は付いている。それに、種を植えたはずだ。もしかしたら植えられていないかもしれないけど、それにしても周りにはユンもセナもヴァンもいるのだ。あのゴキブリよりしぶとそうな生命を持った綺麗な男が死ぬわけがない。



「そうだ。お前のところの王にな、妙なゴミがついていたから取っておいたぞ」



ピンと指ではじいた何かが私のおでこにあたって地面に落ちる。それは、私が必死に味方の人間に植えつけていた棘の種だった。

ヒュッと喉の奥が鳴る。



「……何をしたの」


「ゴミを取ってやった。ついでに命も」


「……何をしたの? あの綺麗な男に、何をしたの?」


「綺麗……? よくわからんが、あの男――」


「あんた、死ぬ?」



意識ははっきりとある。しかし、制御が利かない。

あっと言う間に黒い霧が天幕内に広がって、棘が意思を持ったかのように男へ襲いかかる。私の意思とは無関係に、次々と男へ襲いかかる棘。男はしばらくそれをさけたりしていたものの、その足をからめ捕られてからようやく表情を崩した。

ギリギリとしめつけていく棘には鋭いとげが付いており、しめつけるたびに男が苦痛に顔を歪める。



「どうやって? どうやって殺したの?」


「知りたい……か? 魔法陣で……呪いをかけてやった……強豪がそのそばを離れた瞬間、呪いが発動するように……してな。地面から浮かんだ光りの矢が……その身に襲いかかる呪いだ……」


「へぇ? じゃあ串刺しってわけ」



ボソッと呟いて思いっきり男の頬を張る。手につけた篭手のせいか、男の口の端が切れて血が流れ出した。



「王の鉄の仮面をはがした黒い薔薇の君の噂は本当だったようだな。そんなにあの男が好きか?」


「好き? 私が? そう見える?」



もう一度男の頬を張る。ぐるぐると全身を棘にしめつけられていく男は、苦痛に顔をゆがめながらも口の端を上げた。



「あいつが最後に何を思って死んでいったか知りたいか? あいつはな、お前に呪いがかけられたと思ったんだ。それでお前を助けるために――」


「おしゃべりが過ぎるわ。おしゃべりは身を滅ぼすってことを覚えておきなさい」



男の頬を殴る。何度か殴った所で、ぐったりした男は上目遣いに私を見てニヤリと笑った。



「気は済んだか?」


「済むなんてことあると思ってる?」


「ないだろうな。でもこれ以上殴られるのはごめんだ」



そう言うと男はスッと姿を消して私の後ろに回り、床に押し倒すと私の首にダガーをあてた。



「俺はな、相手の大切な人を殺す時、自分を気が済むまで殴らせてやることにしているんだ」


「だったらもっと殴らせなさいよ」


「殴られるのは好きじゃない」


「なら、それは自己満足というのよ」



ニヤリと笑った男は、一番でかいバラの花を引きちぎると、それをつかんだ手で私の頬を思いっきり殴った。

口の中に血の味が広がる。

ルイは、本当に死んでしまったのだろか。あの綺麗な男は――



「ニコラス、手伝ってくれる? すごくムカつく奴がいるの」



スッと手を動かすと棘から解放されたニコラスが天井部分から降ってくる。

一瞬反応の遅れた男は、剣を下向きに構えたまま振ってきたニコラスによって串刺しにされた。男はピクリとも動かない。会話が聞こえていたであろうニコラスが、泣きながら荒い息を吐いている。



「何を泣いているのよ」


「陛下……は……」


「その話は後。今は、この陣地と国民を守ることが先よ。ルイには強い仲間が3人もいるんだから、大丈夫に決まっているでしょう?」



そう言って天幕の棘を全て取り払うと、私は外へ出た。

外にいた兵士は「お戻りください!」焦ったように言う。私の為を思っていってくれているのは分かる。



「ごめんなさいね。でも、もう誰かに任せておくのは嫌なの」



棘でその兵士の動きを封じると、怒りのせいで姿を現し始めている黄泉の悪魔に意識を向けた。



「ねえ、私の体……あげるわ」

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