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第四章 それぞれの思惑14

「頑張りに応じて力を物にすることができる……? 何ですかその何でもありな設定は」


「いや、私もそう思うんだけどね……」



あの後、帰ろうとする狐を呼びとめてこの能力について聞いたのだ。

曰く、これは魔力のようなもので、使い方さえ覚えれば何でもできるチート染みた力であるらしい。想像の通り棘は指針であった。黄泉の悪魔に飲み込まれれば飲み込まれる程、この棘が私をしめつけて律する。これ以上、そちら側に落ちるなと。

羽がはえ変わったのは、単純に言えば魔力が上がったから。新しい羽と言うわけだ。目の色も体中の刺青のようなものもそれに同じ。



「いやーなんか……最近まで普通の女だったのに凄いことになっちゃったなあ」



困ったように笑えば、自虐過ぎたのか沈黙が落ちる。その沈黙を破って、空気の読めないルイが妙な発言をした。



「お前を信じていなかったわけではないのだ」


「は?」


「しかし、お前なら何かやらかすだろうなとは思った」



きっとサブリナのことだ。なんだそれ。しっかり疑ってるじゃないか。怒りがふつふつとわいてきて、思わず眉間にしわを寄せる。



「向こうも一向に尻尾を出さなかったものだから、確認を取るのに時間がかかったのだ。尻尾を出させるために、ミリアもニコラスも遠ざけて、完全に孤立したように見せかけた」



そうしたら尻尾を出すと思ったのか。見捨てられた哀れな黒い薔薇の君。その安堵感から尻尾を出すと。そんなに単純な話なのかよ、とかそのせいで辛い目にあったよ、とか、先に私にだけは言っとけよとか色々思い浮かんだものの、周りのみんなが申し訳なさそうな顔をしているので、大人の私はぐっと我慢した。

きっと、このバカみたいな作戦は子供のルイが立てたに違いない。

そのせいで城中の人の反感を買ったというのに。失われた信頼を取り戻すのは難しい。もともと信頼なんてなかったけど、0からマイナスになってしまったのだ。100から0になるより状況は厳しい。



「で、尻尾は出たの?」


「サブリナは家に戻した」



ポツリとつぶやかれた結果。何故か私はショックを受けた。

だから、自分でもよく分からないうちに力いっぱい叫ぶ。



「勝手なことしないでよ! 私は後宮を掌握してアンタを苦しめる算段だったのに、人数減らしてどうすんのよバカ!!」



みんなのポカンとした顔。ユンだけは腹を抱えて笑い転げ、呼吸困難になっている。

苦々しげな顔のルイが、頭を抱えてため息をつく。辺りには、いつものほのぼのとした空気が戻りつつあった。



「……あ、ああ……そうだな……すまない……その、あれだ。別の方法で俺を苦しめるというのはどうだろう?」


「別の……例えば?」


「そうだな……例えば……お前がどんどん話さなくなって、痩せていき、今にも死んでしまうんじゃないかという顔色になっていったのはなかなか堪えた。自ら立てた作戦ではあるが、途中で放棄したくなるくらいにはな」


「何それ……その状態を維持するには、私がまたハンガーストライキをしなくちゃいけないじゃない」



そう言えば、不機嫌そうな顔でルイが勢いよく顔を上げる。そして私を睨みつけると、忌々しげに鼻の頭にしわを寄せた。



「あれはハンガーストライキのつもりだったのか」


「そんなわけないでしょう!? あんたバカ!?」



一触即発といった空気の中、ニコラスが小さく手を上げて自己主張をする。それに気付いた私は、鼻息荒くニコラスの発言を許可した。



「結局どうしたいのかよく分からないのですが、スミレ様は陛下を苦しめるために狐様から頂いた力を自在に操れるようになる……という認識でよいでしょうか?」


「貴様、王である俺に喧嘩を売っているのか……?」


「いえ、そう言う訳では……!!」


「そうよ、それでいいわ」



フンっと鼻を鳴らす私。ガーガー騒いで私を怒鳴りつけるルイ。おろおろと彷徨うミリアとニコラス。残りは飽きたと言わんばかりに部屋を出ていく。

あれほどのことがあったにもかかわらず、いつもの日常が戻ってきていた。



「んもー……!! しつこいって言ってんのよ! ルイなんか大っ嫌い!!」


「な、なんだと……! それはこちらの台詞だ! 生意気な女め……喧嘩なら買うぞ! 大体な、少しは可愛げと言う物を見せてみろ!! 見せられもしない癖に!」


「酷い……なんなのあんた……! 喧嘩なら買う!? 望むところだってンのよ!! 取り敢えず出てけバカ! あ、待ちなさい! ここに宣言するわ!! 私はルイを敵と認識して、徹底的に追い込んで跪かせてやる!!」



かくして、私は黄泉の悪魔の能力を自分の物にするべく、よこしまな思いを胸に全力で訓練を始めることにした。

この痴話喧嘩が部屋の外どころか、セナの私に対する仕返しとして、魔法を用いた拡声器により国中に流されていたことを知るのは、翌日のモーニングティーを飲んでいる時だった。

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