第四章 それぞれの思惑11
「――と言うことで、本日は首をもがれた小鳥が」
「……もう良い」
ニコラスはこっそり、全てを、逐一、スミレに内緒でルイに報告していた。誰に言われたわけでもないが、内緒とは言え万が一の時の為にと独自の判断でそうしたのだ。スミレにバレたら怒られそうではあるが、これも主人を守るため、と拳骨の1発くらいは覚悟しているつもりだ。
そしてルイは、その報告を聞くたびに、気が重くなっていた。何故スミレは自分から相談しに来ないんだと思いつつも、もしかしたら迷惑をかけまいと……なんて少し感動していたが、楽しんでいるらしいという報告を受けてからは真面目に聞くのをやめた。
とは言っても、いじめの内容は日々悪化していっている。恐らく普通の女であれば即座にくじけてしまうような内容だ。やはり、ある意味スミレを選んだのは正解だったと思い知る。
とはいえ、今は贈り物より出会った時の嫌味が凄いらしい。この間なんかはニコラスと恋中ではないのかなんて言われたらしく、それを報告している時のニコラスの笑顔が妙に癇に障って思わず殴ってしまった。
「それでですね、本日の予定なのですが……午後から庭園を見てまわることになっておりましたので――」
「探したぞ小僧」
突然聞えた声。少しだけ遠い位置から声をかけてきているらしいが、それがどこから聞えて来たのか分からない。ただ、確実にこちらに向けて放たれた言葉であることは分かった。キョロキョロと辺りを見渡すが、一向にその人物は見当たらない。
「ここだ早く扉を開けろ」
扉の向こう。そこから声は聞こえてくる。
嫌な予感がしたルイは、そっと近づいてトイレの扉を開けた。
「狐……」
「我が呼んでいるというのに、随分と時間のかかったことよ」
怒っているらしい狐は、一睨みするとトイレにはまったままため息を吐いた。
そして、ルイの後ろで青ざめた顔をするニコラスに向き直る。
「小僧、あの小娘が予定を変更して午前より庭園を見てまわるとのことだ。すぐに来いと言っておったわ」
「えぇ!? もしかしてスミレ様のことでしょうか……! あれ、なんか嫌な予感が……」
「であろうな。小娘はとうに出掛けた」
「うわ……やっぱり……! どうしてお一人で行くんだあの方は……!!」
頭を抱えて暴言を吐いたニコラス。ルイはスミレがどれほどお転婆なバカ娘かをよーく理解していた為、その暴言は聞なかったことにしてため息を吐き、頭を抱えるニコラスに早く行くように伝えた。
礼を取ってニコラスが部屋から飛び出していく。それを見送って狐に向き直ると、狐はルイを見てから少しだけ口角を持ちあげてぼそりと呟く。
「なにやら面白いことになっておるな」
「ちっとも面白くない。あれはいじめられても弱音を吐かないから楽だが、何をしでかすか分からないという意味では普通の女の方がよかった」
「そちらではない。現在起こっていることの話だ」
「何……?」
その瞬間、出て行ったはずのニコラスが物凄い勢いで戻ってくる。その顔は真っ青で息は荒い。
ルイは嫌な予感がした。そしてニコラスからの報告を聞いた瞬間、床に崩れ落ちる自信があった。だからニコラスの目から視線を外さぬようにしながら、手探りで近場の椅子を引き寄せる。
「ススス……スミレ様が……ノスタルジニア様を階段の上から突き落としたとのことです」
激しいめまいを感じながら、ルイは椅子に崩れ込んだ。ぐるぐると世界が廻る。頭を抱え込んで、どうしたらよいかを必死に考えた。しかし何も思い付かず、ルイは大きなため息を吐くとヨレヨレのままスミレの部屋へと向かった。
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