告白と結末
その日、俺はもう決めていた。
言わなければ、この関係はずっと中途半端なままだ。
そして、言った瞬間にすべてが変わるかもしれない。
それでも、もう変わらない方が苦しいと思った。
仕事終わり、砂原を呼び止めた。
「少し、時間いいか」
「はい、どうしました?」
人通りの少ないカフェの奥の席。
テーブルの上には温め直されたコーヒーが二つ。
俺はマグカップを両手で包みながら、少しだけ息を吸った。
「……お前のことが、好きだ」
砂原は瞬きもしなかった。
ただ、ゆっくりと視線を落とし、口を開く。
「……ありがとうございます」
「俺は、ずっと……お前と過ごす時間を、大事にしてきた」
「わかってます。でも……そういうことには、答えられません」
言葉は静かで、優しさすら含んでいた。
だが、その優しさは俺の欲しいものじゃなかった。
心臓の奥で、音がひとつ鈍く響く。
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それからの時間は、何を話したのか覚えていない。
気づけば店を出て、夜風を吸い込みながら駅へ歩いていた。
砂原は、少し前を歩いている。
距離は二歩分。それ以上、近づけなかった。
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数日後。
社内ですれ違ったときの彼の笑顔は、ほんの少し形が違っていた。
真嶋と並んで歩く姿も、もう珍しくなくなった。
同僚たちの視線が、時折俺に向く。
それは好奇心でも憐れみでもない、もっと乾いたもの――冷たさ。
休憩室で缶コーヒーを開けたとき、背後から聞こえた笑い声に振り返ると、
砂原と真嶋、それに上園が並んでいた。
目が合った瞬間、砂原の笑顔がほんの一瞬だけ固まった。
その後、すぐに彼は真嶋の方へ視線を戻した。
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デスクに戻り、モニターを見つめる。
メールの文字は頭に入らない。
代わりに、胸の奥に穴が空いたような感覚だけが広がっていく。
それは痛みというより、何かを失ったあとの空虚だった。
俺はキーボードに手を置き、呼吸を整えた。
――もう、彼の笑顔を、自分のために向けさせることはできない。
視界の端で、窓の外の空がゆっくりと暗くなっていった。
その色が、俺の中の何かと同じに見えて仕方なかった。