僕の心の支え
休日の駅前、雑貨屋のゲームコーナー。
棚に並ぶパッケージを見つめながら、砂原がぽつりとつぶやく。
「これ、発売日から気になってたんですよねぇ……」
「じゃあ、買えばいいじゃないか」
「いや、今月ちょっと厳しくて……それに、そういうのは自分で買わないと」
「俺が買ってやるよ」
「いやいや、それは悪いですよ」
「悪くない。俺が欲しくて買うわけじゃないんだから」
少し押し気味に言うと、彼は視線を落としたまま数秒黙った。
やがて、諦めるように笑う。
「……じゃあ、お願いしてもいいですか」
「ほらな、その方がいいだろ」
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最初は何度も「悪いですよ」と拒まれた。
でも一度受け取れば、その後は同じやり取りが繰り返される。
遠慮は消えないが、それ以上に「欲しい」という気持ちの方が勝つのだろう。
俺はその弱さを、利用していた。
映画のチケット、テーマパークの入場料、新作ゲーム、小物、食事代……。
一度きりのつもりで出した財布は、気づけば週末ごとに開くようになっていた。
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ある日曜の帰り道、居酒屋を出た彼が言う。
「日下部さん、ほんと俺なんかに使わないでくださいよ」
「俺が使いたくて使ってるだけだ」
「でも……そういうの、あんまり良くないじゃないですか」
「じゃあ、もう奢らない方がいいか?」
「……いや、それは……嬉しいですけど」
笑ってそう言う彼の横顔に、ほんの少し罪悪感が浮かんだ気がした。
でも、それ以上に俺は、その「嬉しいですけど」の言葉を手放したくなかった。
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給湯室で上園に呼び止められたのは、その週の火曜だ。
「お前さ、最近砂原とよくつるんでるな」
「まあ、たまに」
「たまにねぇ……。週末も一緒だろ?」
「……まあ、そういうときもある」
「……利用されんなよ」
利用されている?
俺が、利用してるんだ。
でも、それを口に出すことはできなかった。