昼休みの窓際
昼休み、同僚の上園が弁当を持って話しかけてきた。
「なあ日下部、今日、外で食わね?」
「いや、今日はいいや」
「えー? 珍しいな。弁当忘れたとか?」
「まあ、そんなとこ」
実際は違う。弁当はちゃんと持ってきていたが、なぜか今日は社内の食堂に行きたかった。
理由はひとつ。朝のあれから、砂原がどこで昼を食べるのか気になって仕方なかった。
案の定、食堂の隅、窓際の席に彼が座っていた。
カレーライスを前にスマホをいじっている。
気づいたら、俺はそのテーブルに向かっていた。
「ここ、いいか?」
「あ、日下部さん。どうぞどうぞ」
近くで見ると、やっぱり髪を切っただけで印象が違う。
整った顔立ちがはっきり見えるし、表情も明るい。
食堂の窓から差し込む光が、やけに似合っていた。
「いつも食堂?」
「気分ですね。今日は無性にカレーが食べたくなって」
「わかる。カレーは急に食べたくなるやつだ」
「そうそう」
そんな他愛もない会話なのに、胸が軽く弾む。
不思議なことに、話が途切れない。
気づけば昼休みの終わりのチャイムが鳴っていた。
「じゃ、また」
「うん。また」
その「また」が、妙に嬉しかった。
俺は食堂を出ながら、自分でも信じられないくらい、口元が緩んでいた。