【第十三話】露見
翌日、電車で一駅の隣町で行われる夏祭りに向かった。列車の中は今から夏祭りに行く人ですでに込み合ってきているようだった。
「あっ!いろは先パーイ!」
「先輩、受験生なのにいいンすか祭りなんかに来て」
「気分転換も必要なの」
「うわぁっ!いろは先輩浴衣似合う!可愛い」
「小波ちゃんもとっても可愛いよ。あれ?桃山君は?」
「あそこです」
堀之内が少し離れた花壇を指差すと、甚平姿の桃山がそっぽを向いて石段の上に座っていた。
「あれなんか・・・桃山君、機嫌悪い?」
「ん~多分」
「小波先輩が俺たちのこと誘ったから怒ってるんですよ」
「えっまさか桃山君に言ってなかったの!?」
「だってぇ~」
桃山は重そうな腰を上げ三人の方へやって来た。いろはに「うス」と小さく挨拶をした。
「そろそろ行こうゼ」
「あっ、うん・・・」
ぎこちなく桃山の隣を歩く小波の顔は真っ赤だった。異様な空気感を引きずりながらも四人は周りと同じように祭り会場に向かった。ドンドンと盆踊りの太鼓の音が徐々に聞こえてきた。屋台の威勢の良い呼び込みの声と食欲を誘う匂い。桃山は屋台をみながら隣にいる小波に話しかけた。
「腹減ったなぁ~なんか食べるか?」
「うん。なにがいい?」
「焼きそばとか?たこ焼きでもいいな」
「かき氷食べたいな」
「かき氷ってお前それ最初に食う?」
「だって食べたいんだもん」
前を歩く桃山と小波。昨日の話ではあまりうまくいっていないと小波は言っていたがそんなこともないように思えたいろは。2人を見ていると堀之内がいろはの浴衣をひっぱった。自分より少し背の高い堀之内を見上げた。
「俺たちばっくれましょう」
「えっどうして」
「どうしてってどー考えても邪魔でしょ。俺たち」
堀之内の言葉に、いろはは二人を見た。最初は緊張しているように見えたものの、今は自然と楽しそうに話している。だがなにも言わずに去ってしまうのは抵抗があった。
「でも・・・黙って離れるのはよくないんじゃ」
「いいから」
そう言うと堀之内はいろはの手を握り人込みに紛れ二人から離れて行く。花火の時刻に合わせ人が徐々に多くなってきていた。汗ばみ滑りやすい手がはぐれないようにしっかりと握られている。堀之内の背中を見ながらいろはは小波が心配になり振り返ろうとするが人が多すぎて上手く振り返ることができなかった。後で連絡しておこうと、そのまま別行動を選んだ。
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「この辺りだと花火丁度見える位置だね」
「そうですね」
「堀之内君も来るなら別の子誘ってもよかったのに。ゴメンね先輩たちに着き合わせて。部活とかでも大変じゃない?大丈夫?」
「・・・別に」
周りはカップルで来ている二人組がたくさんいた。時計を見ながら今か今かと、まだ花火が始まらない空を見上げていた。繋いだままの手を離そうとすると強く握り直された。その行動にいろはは堀之内を見ると黙ったままなにもない空を見上げていた。
「あの堀之内君そろそろ手を」
「先輩は好きな人とかいますか?」
「えっどうしたの急に」
堀之内の抑揚のない話し方はいつものことだったが、その質問の内容に驚いた。そういった話はあまり好まないと勝手に決めつけていたからだ。だから動揺してしまった。いろはは頭に過った人物を慌てて消した。すぐに否定しようとすると堀之内はいろはに視線を移した。真直ぐに見つめられる視線はなにか見透かされそうだった。
時計の針が二十時を示すとヒュルルル~~~ドンッドドンッと突如暗闇に大輪の花が咲いた。空が割れてしまいそうな音と共に振動が伝わる。皆が夜空を見上げ大輪の花が咲く度に歓声も広がっていく。
「うわぁーキレイー」
堀之内に手を握られていることを、思わず忘れてしまうほどに見事な花火だった。次から次へと上がっていく花火に魅入っていた。なんとかはぐらかせれたと安堵したときだった。
「先輩」
堀之内に何度か呼ばれていたことに気付き花火から視線を外した。空に咲く青色の花火が堀之内を顔も染めていた。手を握られていたことを思い出し、離そうとしたが逃がさないように強く握られた。なにか話しているのに気が付いたいろは。花火の音がそれを遮るように邪魔をする。
「どうしたの?」
花火はどんどん昇り咲き消えていく。堀之内に顔を寄せると爆音に混ざり微かに声が耳に入って来た。そして唇が小さく動いた。
「先輩って桜羽先生のこと好きですよね?」
その時、一番大きな花火が上り歓声が湧き上がった。それは花火の大きな音で消されそうな声だった。けれどその意表を突く一言だけはいろはの耳に確かに届いていた。
今まで、自分が桜羽を好きだと言うことは誰にも話したことはない。同じ部活の白峰や友人の美鈴と世那にだって言ったことはない。もちろん気づかれていない自信もある。その秘めた想いが出会って間もなく、しかもあまり話したこともない後輩に気付かれてしまっていることにいろはは困惑した。
「・・・」
ラストスパートの花火はいつの間にか終わり辺りは静まり返っていた。それに合わせ、辺りの人々からは名残惜しむ声が零れていた。次第に離れて行く人々。気づくと心臓がドクドクと脈打ち首筋にねっとりとした嫌な汗が伝った。
「ご、ごめん・・・なんて言ったか聞こえなかった」
やっとのことで言葉を紡ぐことができた。堀之内は表情を変えずに「そうですか」と返した。繋いでいたいろはの手を離した。人混みに紛れ、引き返す堀之内の後を追ういろは。




