【第十一話】夢想
「あっ」
「ブッ!部長、早っ!!アハハハ」
「もう落ちたの?あ、やだ。私も落ちちゃったわ」
いろはと白峰の線香花火の炎が地面にピタリと落ちた。六つの線香花火が四つになり辺りが少し暗くなった。
この合宿が終わればいろはと白波は引退だった。パチパチと爆ぜる火の玉がゆっくりと離れそうになっている。終わらないで欲しい。終わらなければ桜羽の隣にいられる。そばで笑うことが出来るのに。けれどいろはの想いとはうらはらに止まない雨はなく、終わらない夏はない。
「うぉぉおおヤバイヤバイヤバイ!俺のも消えそうっ…」
「うるさいなぁ静かにしなさいよっあっ!!!」
「あっぁああ!!落ちたっっ」
「あ~僕も落ちちゃったな、残念」
ぽたぽたと、また三つの火の玉が地面に落ちた。そんな中、小さく燃える1つの線香花火にみんなの視線が注がれた。
「まじかよ、堀之内すげぇ」
「・・・」
最後まで燃え尽きる堀之内の線香花火を静かに見つめていた。
花火が終われば合宿ももう終わる。明日はもう帰るだけ。夏休み、いろはが桜羽と会うことは出校日以外ない。
「ちぇーじゃ部長が堀之内にジュースおごりだ」
「えっ!?あれ本気だったの?しょうがないなぁ」
「いいですよ。別に俺ジュースいりませんから」
「ハハハせっかくだから僕がみんなの分買ってあげるよ」
「まじ!?やったー!!」
「でも先生それじゃ勝負にならないー」
「それはまた今度ってことでね」
桜羽は立ち上がると宿の前にある自販機に向かった。一目散に桃山が桜羽の後ろに着いて行き真剣にどのジュースにするかを悩んでいた。ズボンの後ろポケットに手を入れ財布を取り出す桜羽。
「全く桃山ったらー遠慮って言葉を知らないのかしら」
「桃山君らしいけどね。花火楽しかったね」
「本当ね、いい思い出になったわ」
「白峰先輩見てただけで楽しめました?」
「私は見る専門なの」
花火が終わった後の、煙がどこか寂しさを演出していた。桃山は片付けも忘れまだ自販機の前で悩んでいた。桃山の隣にいる桜羽が片付けをしていた、いろは達の方を見た。
「片付けありがとうね。終わったらおいで」
「はーい」
「はい」
いろはは視線を感じ振り返ると、まだ座り込んでいる堀之内と目があった。
「どうかした?」
「・・・別に」
堀之内は立ち上がるとそのままサンダルを引きずるように歩き販売機の方へ向かった。堀之内にどこか違和感を抱きかけたが、気のせいだと思い片付けを続けた。
□□□
セミの大合唱が日に日に強まる中、合宿が終わった夏休み後半は文字通り勉強漬けとなった。多くの生徒が塾や夏期講習、学校で開催される強化課題に参加していた。
「信じらんないわ。夏休みなのに学校来るなんて」
「受験生だからね。みんな通る道なのかな。あれそういえば世那は?」
「世那はヒデ君と海だって~ったく呑気なもんよ」
「そうなんだ。期末も惨敗だったって言ってたけど大丈夫なのかな」
「明日からは来るって言ってたけどね」
いつもと違う教室に入ると「強化課題 数学」と黒板に大きく書かれていた。教室には既に何人か生徒が集まっている。いろはと美鈴は空いている席に座った。
「最悪、一番前しか空いてない」
「本当だ・・・もう少し早く来ればよかったね」
カバンから教科書やノートを出し、昨日解けなかった問題に目を通しながら数学の先生が来るのを待った。しかしチャイムがなっても教師が来る気配がない。次第にザワツキながらも各々教科書を読んだり問題集を解き始めた時だった。ガララと慌てた様子でドアが開いた。
「ごめんっごめん
予想外な人物の声。顔を見なくてもそれが誰なのかすぐにわかった。教室にいた生徒がその人物の名前を呼んだ。
「あれ桜羽先生どうしたの?」
「数学の宮越先生が急な体調不良で来られなくなってね、今からプリントを配るから1時間目はこれをやって質問は後日宮越先生が受け付けてくれるから」
桜羽は少し慌てた様子でプリントを配っていく。いつものYシャツにグレーのスーツ。クールビズと巷で流れていても桜羽は授業の時はいつもネクタイを締めていた。今日は少し明るめのベージュに柄の入ったネクタイだった。
「あっ小鳥遊さんも受けてたんだ」
「はい。数学苦手で」
「そっか、難しいよね。頑張って」
桜羽はいろはにプリントを渡した。緩みかけた口元を隠すいろは。プリントを見ながらその向こうにいる桜羽をこっそり見た。隣では美鈴がプリントの難易度に頭を抱えている。夏休みはもう会えないと思っていた。休みの日に学校など憂鬱と先ほどまで美鈴と話していたのに、今日はいろはにとって嬉しい日となった。
授業が終わると桜羽はいろはに声をかけた。貴重な休憩時間は気分転換に教室をでたり時間を無駄にしまいと参考書を直ぐ出したりとそれぞれ異なっていた。
「小鳥遊さんは卒業制作終わってる?」
「はい。だいたいは仕上がってますけど、あと少し付け足したくて」
「時間があったらでかまわないんだけど、文化祭用になにか準備してもらえないかな」
「文化祭用ですか?」
「小鳥遊さんと白峰さんが抜けて美術部の展示が少なくてね。白峰さんはまだ卒業制作完成していないからそちらを優先させてあげたくて。描きあがっているものでも構わないから用意してもらえると助かるんだけど」
「わかりました。準備しておきますね」
「悪いね、受験生なのに頼んでしまって」
「いえ、絵を描くのも気分転換にもなりますし」
「そう言ってもらえると気が楽になるよ。ありがとう」
桜羽はいろはに礼を言うと教室から出て行こうとした。その途中、ドア付近にいた女子生徒数名に声を掛けられていた。友達のようにはしゃいで話す女の子たちにどこか羨ましさを感じるいろは。




