表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
青春Double Side  作者: 南乃太陽
遭遇編
9/17

地球人の意地

 地球の衛星軌道上のジャガック基地のクドゥリの執務室にて、ガディとザリスとジェサムの三人が項垂れて座っていた。

「どうした妹達よ、そうして塞ぎ込んでいては何も分からないぞ」

 沈黙により生み出される重苦しい雰囲気は続き、耐えかねたクドゥリは溜息をついて彼女ら三人の隣に座り、三人は怯えるように身を震わせて場所を開けた。

「正直に何があったか私に説明してくれ。それだけでいい」

「お姉様……」

 勇気を出したザリスが口火を切り、他二人もぽつりぽつりと話し始めた。

「私達は失敗してしまいました」

「いかなる罰も受ける所存です」

「詳細を聞こうか?」

 三人はまずクインテットと一戦交え、全員を圧倒して戦闘不能にまで追い込んだことを話した。

「やったじゃないか! 散々我々を手古摺らせて来た奴らを圧倒したんだからな」

「ですが……」

「止めを刺そうと思ったまさにその時に……」

「奴が来たのです」

「……マグナアウルか」

「ええ、奴の使う銃にはどういう訳か我々の能力が効きません」

「それは本当か⁉」

 思わずクドゥリは立ち上がって声を上げてしまう。

「ええ、光弾を放ったため使えると思ったのですが、軌跡を曲げるどころか威力の軽減すら出来ませんでした」

「そうか……そうかそうか、貴重な情報だ。続けてくれ」

「一度はマグナアウルを追い詰めた我々ですが、奴の策略にしてやられ十数時間も閉じ込められることに……」

「マグナアウルは勿論、クインテットも殺し損ねました……」

「このような大失態、どうやって贖えば良いでしょう……」

 暗い顔で俯く妹達を見て、クドゥリは小さく微笑むと三人の肩を抱いた。

「お姉……様?」

「まず言わせてくれ。よく戻った」

「え?」

「そもそもマグナアウルと戦って生き残れただけで大したものだ。ジャガック初の快挙だぞ、もっと誇ってもいい」

「そうなん……ですの?」

 てっきり絞られると思っていた三人の顔には安堵よりも困惑が浮かんでいた。

「ああ、奴は遭遇した者全てを鏖殺(おうさつ)してきた。殺されなかった、いや殺させなかったのもお前達が強いことの証明なのだよ」

 重い雰囲気も解れてきて三人の顔も柔らかい雰囲気になって来た。

「それに良い情報も聞けたしな。よくやったよお前達は」

 三人は顔を見合わせて微笑み、礼儀正しくクドゥリに頭を下げた。

「ありがとうございます」

「このような言葉をかけていただき……」

「過分なる幸せです」

 クドゥリは頤に指を乗せると小さく呟いた。

「そろそろ私の出番か?」

 それを聞いた三人は思わず立ち上がって制止する。

「お待ちください!」

「まだ尚早ですわ」

「我々が意見するのも差し出がましいかもしれませんが、どうかあと一度だけ待ってくれませんでしょうか?」

 クドゥリは首を傾げ、三人の顔をじっと見る。

「もう一度奴らと戦いたいと?」

「はい、必ず結果を出します」

「クインテット、マグナアウル、両方とも倒す」

「完膚無きまでに叩きのめす、そのつもりで臨みます」

 感心したように頷いたクドゥリは立ち上がって告げた。

「分かった、三人でもう一度行くことを許そう。武器の改修が終わり次第、現地の輸送隊と共に地球に向かえ」

 三人は褒められた子供のように顔を見合わせて微笑むのだった。

 

 時は戻ってクインテットが回収された直後の事。

「なに? マグナアウルの映像が撮れた⁉」

 これまで財団が何度も映像に収めようとしてきたマグナアウルだが、その試みは彼特有の能力により幾度となく失敗に終わっている。

 だがどういう訳か今回の戦いはC-SUITのカメラにしっかりと記録されていたのだ。

「至急全スーツのデータを回収して映像を保存! 情報部にも回すんだ! 私もすぐに見よう!」

 急いで保存や転送作業を終えた技術班が白波博士と共に映像を確認した。

「……なんて力だ」

「この浮いている剣はサイコキネシスによるものでしょうか?」

「彼は超能力者である事が確定したな。後で超自然科学部門にも意見を求めよう」

 映像は進み、無数の銃器を生成した所で映像を見ている者全員が一斉に息を飲んだ。

「こんなのデタラメよ」

「桁違い。いや規格外だな」

 無数の光弾や光の矢が飛び交う中、この映像を見ていた一人の研究員がある事に気付いた。

「この光弾、一切クインテットの子達に命中していませんよ」

「なんと……少し戻してくれないか?」

 映像を巻き戻して詳しく見ると、確かにガディとザリスには光弾が向かっているものの、倒れているクインテットには傷一つ付かないどころか掠ってすらいなかった。

「これだけ無数の銃器を同時にかつかなりの精度で弾の軌跡も操れるようだな」

「このマントもとんでもない耐久力ですね。飛行に使うだけじゃないようです」

 数分経った頃、白波博士が少し巻き戻すように命じた。

「もう少し……そう! そこだ」

「再生します」

『それに私達の能力も通じない』

 博士はジェサムの言葉が気になるようだ。

「私達の能力? 何かしら使った形跡はなかったはず」

「……進めてくれ」

 更に進めると、マグナアウルが電気を逆流されている場面になった。

「電気の逆流?」

「これがこの三人の能力?」

「……電気じゃない、もっと巻き戻してくれ」

「はい、どこまで?」

「もっと前だ、マグナアウルが来る前!」

「はい……」

「もっとだ、奏音君によるオーバーチャージの所に」

 ミューズが斧の柄尻の刃を重ね合わせてビームを放ち、それが三姉妹に命中する。

「これ明らかに威力が減っていないか?」

 別角度から撮られていた映像を見ると、ビームが着弾の瞬間明らかに威力が大幅に減っていた。

「……そうか、これが三人の能力か!」

 まだ疑問が晴れない部下たちを放り出し、白波博士は急いで五人の元へ向かった。

「君達!」

「ヒィッ!」

「わぁぁっ!」

「ダァ! ビックリしたぁっ! んだよ、センセーか。痛って……今ので背中の痛みが……」

「んっん……すまない、楽にして聞いてくれ。良いニュースが入った、いや良いニュースなのか? とりあえず私は良いニュースと判断した」

「なんか微妙なのはわかったよ。それでお父さん、どんな内容?」

 白波博士は後ろに手を組んで口角を少し上げながら言った。

「あの三人の持つ能力が分かったんだ」

 療養のためベッドに横たわっていたり、試作品の治療椅子(キュアチェア)に座っていたメンバー含めた全員が思わず身を起こした。

「ホントですか⁉」

 立ち上がった皆を手で制してもう一度寝かせると、白波博士は更に続けた。

「ああ、だが同時にこれは我々の頭を悩ませることになるだろう」

「どんな能力なんです?」

「彼女らの能力はエントロピー……つまりエネルギーの操作だ」

「エネルギーの操作?」

「ああ、先程回収した映像を見た所、奏音君が発動したオーバーチャージによるビーム攻撃の威力が明らかに弱まっていた」

「確かに今思えばほとんど無傷だったのはおかしかったよね」

「それに映像を見進めた所、マグナアウルによる電撃を逆流させて隙を作っていた。よってエネルギーの操作が彼女ら三人の能力である可能性が高い」

「待ってお父さん、それって……」

「そうだ麗奈、我々と彼女ら三人は相性が最悪ということだ」

 確かに相手の手の内を知れたことは良い事かもしれないが、それは同時に対策が困難であることを意味していた。

「確かに良いニュースっちゃ良いニュースだったね。付随した情報がサイアクだったけど」

「うぅ……どうしよう、一朝一夕でスーツの出力が上がる訳でもないし」

 氷嚢を頭に乗せ、治療椅子(キュアチェア)に座りながら今まで上の空気味だった奏音が立ち上がりながら言った。

「博士、考えがあるんですけど、少し協力してもらってもいいですか?」

 皆の姿勢が奏音に集まり、奏音は少しだけ緊張する。

「奏音、何か作戦があるの?」

「作戦って言うか……まあ作戦だね」

「どんなのー? 聞かして聞かして」

「名づけるのなら……『連携を超えた連携』ってところかな」

 

 千道邸の自室で、京助は自分の左腕をじっと眺めていた。

「怖いなぁ、マジで」

 腕をこすり、握ってみたり開いてみたりして、あの一瞬の痛みを思い出していた。

『慣れませんよね』

「慣れじゃなくてさ、今回はマグナアウルの〝皮膚〟を破ったんだぜ。絶対ヤバいって」

 マグナアウルの装甲は非常に硬くありとあらゆる外部からの攻撃を弾くのだが、実はこれは皮膚なのである。

 動物実験場の戦いで巨獣をチェーンで引きずりおろした際に、装甲が筋肉質に盛り上がったのはこれが皮膚であるが故、硬さと変形しやすさを併せ持つからなのである。

 そんな皮膚をやすやすと破った電撃が左腕に襲ったのだ、いずれ来る反動でとんでもない事になるのは目に見えている。

『ではそこのみを先に反映させましょうか?』

「できるの?」

『出来るかはわかりませんが、閾値以上の怪我と判定されれば可能ですよ』

 京助は顎に指を乗せ、決意したように手を叩くと服を全部脱ぎ捨てて階下の風呂場へ向かった。

『判定が完了しました。電撃による火傷と手首の裂傷、反映可能です』

「よーし……ひと思いにやってくれ」

『カウントは?』

「十、いや五で行く」

『わかりました。五……四……』

 慌てて空のバスタブに左腕を突っ込むと、目を見開きながら自分の腕を凝視する。

『二……一』

 零。その言葉と共に手首の辺りが黒く焦げ、大量の血と共に左腕が縦に裂け飛んた。

「ああおおおおおあああああっ! 首! 首まで……ヤバイ目! 目まで来た! いでええええええっ!」

 右腕を翳して治癒能力を発動させると、バスタブどころか壁や鏡まで汚していた血が逆回しのように京助の体に戻り、四分割に裂けた左腕とばらばらになって吹き飛んだ指があるべき場所に収まった。

「あ~……あ~……俺何回死んだ?」

『零回です。恐らくは』

「これでダメージが六割カットなんだろ? ホントおっそろしいわ、どうにかならんかねこの副作用」

 右手で左目を擦り、先程の激痛を思い出しながら京助は自室に戻った。

「あ~痛かった……そういや助けるため仕方なかったとはいえ、あの三人殺せてないよな」

 超能力防壁に閉じ込めて中に暴風雨を叩き込んで放置してみたが、あれほどの実力を持つ三人がこのまま死ぬとは思えない。

『そうですね、彼女達は明らかにこれまでの敵よりも強い。あなたの腕に流れた電気は、あの時あなたが流していた電気量の実に六倍でした』

「多分エネルギーを操作する超能力を持ってたんだろうな。だから俺の銃撃をまともに喰らった」

『初見じゃあれは見抜けませんよ。勘違いもやむなしですね』

「今も俺の銃弾の正体見抜けてないんじゃないか?」

 ベランダに繋がる窓の外に向けて親指と人差し指と中指を伸ばして銃の形にした手を向けて小さく「バン」と言ってニヤリと笑った。

「次会った時があいつらの最期だ」

 この後の戦いが予想外の方向に向かうことを知る由もなく、京助は次の戦いに思いを馳せるのであった。

 そして翌日の授業中の休み時間の時の事。

「どうしたよお前、なんかずーっと辛気臭い顔してるけど」

 この日ずっと浮かない顔をしていた奏音を気にかけた京助がやってきて、頬を手で包んで引っ張った。

「むぐぅ……やぁーめぇーてぇー」

「そんなカオしてたって、なんかあったら言わなきゃ分からんぞよ」

 頬を揉み込みながらもち肌を堪能していた京助だが、奏音は京助の腕を掴んで自分の肩に置いた。

「ちょっと緊張してるの」

「何に緊張してるの?」

「うーん……そのー……」

 奏音が悩んでいるのはクインテットの事である、それを京助に言うのは非常にまずい。だが折角の心配を無下にするのもそれはそれで心苦しい。

「ちょっとぉ……説明が難しいんだけど……」

 京助が首を傾げ、白い髪が小さく揺れる。

「うーん」

 上手い言い訳が中々思いつかず、色々と思考を巡らせていると京助が口を開いた。

「難しいんだったらさ、なるだけ詳細省いていいから説明してみてくれないか?」

「うーん……わかった」

 掴んだままだった京助の腕を自分の机に乗せ、苦し紛れの言い訳を捻り出した。

「友達と競う事になってさ、その様子を何人かの前で見学されるの」

「競う? 何を? ああ聞かない方がいい?」

「そうね、まあ説明がものすごく難しいから」

「モジャモジャの犬ぐらい?」

「よく分からないけどそう、スターウォーズのオープニングロールが一時間続くぐらい長くなっちゃうよ」

「そりゃ長いな」

「まあその相手の友達もさ、けっこうやり手だからさ少し緊張してる……の」

 ふと前を見ると京助の顔はニヤリと崩れていた。

「何よそのヘンな顔は」

「何だヘンとは。このGODから授かりし美貌を前に何という」

「ヘンよそのぐなぁ~って顔」

「いやさぁ、相変わらず勝負事の前は緊張するの変わってねぇなって思ってさ」

 そんな風に言われると途端に気恥ずかしくなってくる。

「ぶぅー」

「まあ大丈夫だろ、お前はいつもなんだかんだ上手くやって来たんだし。俺がそれを一番知ってる」

「……」

「気楽に行けよきっと大丈……いててて」

 京助の頭の側面を奏音は拳で挟み込んでぐりぐり攻撃を仕掛けた。

「いてーな人がせっかく元気付けてるのに」

「……ありがと」

「礼を言いながら人を攻撃すんなよ」

 若干ムカつきながらも奏音はしっかりと元気をもらったのであった。

 

 そしてその日の放課後、奏音は動きやすい服に着替えると送迎車を呼び、財団の基地へと向かった。

「フゥ……落ち着け落ち着け!」

 頬を叩くと待機所に入り、皆が揃うのを一日千秋の思いで待つ。

「早かったね」

「まあね、私が言い出しっぺだし」

「まあ今回は観察させてもらって、後学の為に活かさせていただきますよ~」

「やめてー、緊張するー!」

「大丈夫だよ奏音、リラックスリラックス」

 そのうち全員が揃って別エリアに移動し、奏音と麗奈のみが別室に向かい、後の三人はモニターのある部屋に向かった。

「こういう試み、何気に初じゃね?」

「そうだよね、いずれ私達もすることになるのかな?」

「そうなったら誰と組むんだろ、私普通にヤダ」

「サキちゃんこういうのヤなんだ」

「みんな強いじゃん? だからあんまりやりたくはないね」

「サキちゃんつえーじゃん」

「私だけ遠距離攻撃の手段ないじゃん。奏音は斧投げれるし、明穂は高火力ビーム、林檎はそもそも銃メインで、麗奈は弓としても使える」

「でもそれは強さには関係しないんじゃない?」

「ンなこと言ったらウチだって近距離で戦えないよ。それぞれの強みがあんのよ」

 三人が話している間、仕切られた部屋の中で奏音と麗奈は職員に補助されながら特殊な装備を体の各部に取りつけられ、最後にVRゴーグルが付属しているヘルメットを頭から被せられた。

「始まったら前に相手が見えるようになるからね、部屋は広く取ってあるから自由に動いても構わないよ。この装備は一見ペラく見えるけど、基本的にスーツと同じ働きをしてくれる」

「ロケットパックでの動きもですか?」

「スーツほど高くは飛べないけどガス圧(エアロ)パックで飛べるし、天井も高いから頭もぶつけないよ。よし! これで完了よ、頑張ってね」

「ありがとうございます」

 奏音はゴーグルをずらして目の位置にあてがうと起動し、いつものAR越しの景色が見え、目の前の麗奈はアフロダイの姿になって立っており、自分の腕を見るとスーツを纏っている状態であった。

「麗奈ちゃん、聞こえる?」

「はい、聞こえますよ」

「準備できてる?」

「こちらはいつでも」

 奏音が言う『連携を超えた連携』とは、五人のうち三人がガディ、ザリス、ジェサムに立ち向かい、あとの二人がサポートに回るという新しい戦法だったのだ。

 その際に主体となって立ち向かう三人に選ばれた者は、互いの戦闘時の癖や長所短所を熟知し普段以上のより密接な連携が求められる。よって三人のうちの一人は普段の戦闘から常にほかの四人の状態と戦況を見ながらサポートに回る林檎に抜擢された。

 そして残りの二人はガディとザリスとジェサムの持つ武器の相性を考えた結果、奏音と麗奈が抜擢された。

 だが奏音はどうやれば相手の癖を知ることが出来るのか、その答えを出せずにいた。

 そこで白波博士は二人で実際に戦ってみて直に癖や長所短所を見ればいいのではないかと提案し、結果仮想空間での一切手加減なしの手合わせを行うことになった。

「確認するけど手加減は……」

「分かっています、ストップがかかるまで手は抜きません」

「じゃあ……やろうか」

 奏音は専用のレプリカグリップを二分割して手斧と短剣に変え、それを見た麗奈もグリップの上下から柄を伸ばして振り回し、先端を向けて構えた。

「ええ、始めましょう」

 奏音と麗奈は勿論のこと、モニターしている三人も固唾を呑んで戦況を見守っている。

 始めは両者動かずに相手の出方を伺っていたが、徐々に二人は部屋の中をゆっくりと回り、戦況が動いたのはお互い四十五度ほどの地点に来た時だった。

 麗奈が即座に槍を弓に変え、速射で三発の矢を放ってきた。

「ッ!」

 奏音は矢を転がって回避すると、次の射撃を短剣で受け止めてエアロパックで跳躍して麗奈に斬りかかった。

「ふっ! せいっ!」

 弓のまま手斧の一撃を受け止めて至近距離から矢を放つも紙一重で回避され、奏音は回避した勢いのまま逆手に持った短剣で首を狙った。

「やあっ!」

「くっ!」

 姿勢を低くして転がって短剣の一振りを回避し、転がりながら弓を槍に変えて体勢を整えてから鋭い踏み込みからの突きの一撃を繰り出した。

「フッ! おおおおおっ!」

 奏音は穂先を回避して槍の柄に背を乗せると、手斧の回転切りを繰り出した。

(しまった首が! ……間に合えっ!)

 ギリギリのところで左手を槍から放して背中を逸らして手斧を回避し、そのまま地面を滑って離脱しようと試みるも奏音が穂先近くを踏んだ事で自身の得物が手を離れてしまった。

「槍が!」

「はっ!」

 丸腰の状態でも容赦なく突き出された短剣を回避し、腕の隠しブラスターで引き剝がしてもう一つのグリップに手を伸ばそうとするも手斧が飛んで来て取り落してしまった。

「……やるしかない!」

 麗奈は平手で構え、短剣を片手に迫ってくる奏音の腕を掴んで投げ飛ばし、この隙に落とした槍へ走って蹴飛ばして宙に打ち上げて掴むと、倒れた奏音に向かって槍を突き立てた。

「くっ!」

 突き立てた槍を転がりながら回避し、床に落ちていた先程投げた手斧を取ると短剣に連結させて一回り大きな刃を持つ両刃の戦斧に変えると、穂先を斧刃の部分で受け止めると足を払って立場を逆転させた。

「まだまだっ!」

 槍を弓に変えると寝転がった状態から弓を放ち、奏音は斧刃を盾にして矢を防いでいたが射線をずらした一撃が足を掠めて思わず膝をついた。

「そこだっ!」

 麗奈は即座に立ち上がってチャージを発動し、無数の拡散する矢を同時に放った。

「くっ!」

 奏音は側宙で矢を回避し、今持っている戦斧を牽制に投げつけながらもう一本のグリップを戦斧に変化させた。

「……なるほど、見えてきました」

 麗奈は一度槍を収納すると取り落したもう一つのグリップの半分を連結させ、より長い槍を生成して奏音に向けて変わらぬ速さで突いてきた。

 これも紙一重で回避したが、柄による横薙ぎの打撃を脇腹に喰らって蹲り、麗奈はその隙を見逃さず頭頂部を目掛けた打撃を見舞ったが、奏音は戦斧で柄を切断した。

「捉えた」

 切った柄を掴むと、麗奈ごと引き寄せて戦斧を振り下ろしたが、腕で柄をガードされる。

「……なんじゃこりゃ」

 奏音と麗奈の激闘を見ていた皐月、明穂、林檎だったが、もはや三人は感動すらしている有様である。

「すごいな……」

「あの二人こんなにポテンシャル高かったんだ……」

「まあでもあの二人って戦う理由が他者だからね、アキちゃんならわかるっしょ?」

 確かに戦う理由が家族である明穂は、最近その身をもって〝誰かを守る戦い〟の生み出す力を思い知った。

「確かにそうだね。死中の活とは違うけど、後に引けなくなるって言うか……そしたら力が湧き出るんだ」

「誰かを守るために必死なんだよ」

「だからああして激しくぶつかり合ってるのね……お互いを〝知る〟ことで次に活かす為に」

「……ねえ、こんなのナンセンスかもしれないんだけどさ、勝つとしたらどっちかな?」

「うーん、このまま距離を詰めれればカノちゃんの勝ち、離して突き崩せばレナミちゃんの勝ち……二人の気力と集中力がどこまで持つかで決まると見た」

「それを分けるのは……思いの強さって事?」

「そう言うコト」

 しばらく拮抗していた奏音と麗奈だが、奏音が掴んでいる槍を押して麗奈のバランスを崩させて再び足払いをかけ、戦斧の柄尻の短剣を突き立てようとするも、残ったグリップから短槍を生成して防御した。

「フッ!」

「……」

 奏音は両手で戦斧を、麗奈は長槍から取ったグリップで二本の短槍を生成して構え、戦いは再び膠着状態に持ち込まれる。

 そして構えた時、二人は自ずと次が最後になると察知した。

「多分次のフェーズで終わる」

「そうだね……体力的にもこれが最後になるよね」

 他三人が見守る中、予想より早く事は動いた。

 先に動いたのは麗奈で、武器が軽くなった分素早い突撃を見舞うも奏音は斧刃で穂先を滑らせ、第二撃のもう一方の短槍も柄尻の剣で弾いて防ぎ位置が入れ替わった。

「!」

 奏音は体勢を整えながらあることに気付き、後ろに向かって跳躍し、麗奈はそれを追ったが、奏音の足元から何かが飛んで来て地面を滑りながら回避した。

「でやあああっ!」

 奏音の戦斧が麗奈の首に迫ったその時、終了の合図となるブザーが鳴った。

「フゥ……フゥ……引き分けか」

「……ええ、そのようですね」

 確かに奏音の戦斧は麗奈の首を捕らえていたが、麗奈の短槍の先は奏音の胸にあった。

「はぁ~……」

 二人ともゴーグルを上にずらしながらマスクを取って一息つき、奏音は倒れたままの麗奈を起こして座ったままお互いの汗まみれの顔を見た。

「おつかれ」

「ええ、本当にお疲れさまでした……」

 部屋に入ってきた研究員から氷水の入ったボトルを受け取ると奏音は浴びるように飲み干し、麗奈は片手を口元に当てて零さないようにゆっくりと飲んだ。

「めちゃくちゃ緊張したよ」

 冷えたボトルを首筋に当てながら奏音はぶちまけるように言った。

「ええ、こうしてやってみると自分でも課題が見えてきましたね」

「麗奈ちゃんは足元だね。槍と射撃武器の性質上どうしてもベタ足になるからそこ狙われやすいかもね」

「奏音さんは隙の大きさと遠距離への対応でしょうか。武器の性質上振らなくてはいけないのでどうしても隙が大きく出来てしまうのと、遠距離になると武器の投擲ぐらいしか手段がないのでリスクが高まってしまいますね」

「じゃあさ……」

「はい」

「もう対策って見えてない?」

 奏音と麗奈はカメラ越しに林檎の方を見るのであった。

 

 翌日の学校にて、いつもの晴れやかな顔をしている奏音を見て、京助は安心したように声を掛けた。

「いつも通りに戻ったな」

「うん、何とか上手くいったよ」

「どっちが勝った?」

「引き分けだったよ」

「あちゃ〜まあ頑張った……と思う」

「まあこれ勝ち負けじゃなくて、競い合う事でお互いの長所と短所を見つけましょーっていうやつだからさ」

「ああそうなの? 上手く行った?」

 奏音は顔の横に丸を作り、京助はサムズアップを返した。

「まあこの後本番があるからまだ油断は出来ないかな」

「なんか発表あるの? 見に行っていい?」

「……もしかしてコレ歌のレッスンの話だと思ってる?」

「……違うのか⁉」

「そーなの、違うのよ。てか私ガチクラスじゃないからさ、発表とかやらないんだよね」

「そういえばそうだっけか」

 奏音が通っている歌の教室には二つのクラスがあり、趣味のクラスとプロを目指す人も参加するクラスがある。後者はガチクラスと呼ばれ、年に一度真鳥市のイベントホールで合唱を披露している。だが奏音はガチクラスではなく趣味クラスなので発表などには参加しない。

「じゃあ何やってんだ? 何を競ってるんだ?」

「いや……それは……そのぉ……」

 京助に電撃走る。

「奏音が……俺に……隠し事を」

 京助は教室の隅の角で膝を抱えてなにやらジメジメとした空気を発し始めた。

「そんな落ち込むことないでしょーが!」

 ジメジメした空気は一瞬で教室中に伝播し、クラスメート達もすぐに異変を察知して、幾人かは京助の方へ駆け寄った。

「お……おい京助ェ! 大丈夫か何があったァ!」

「クソ! なんだこのオーラ! 京助に近寄ると体が重くなる!」

「せ……千道君……何があったの?」

「京ちゃん……どうしたんだよ? らしくないぞ?」

 幹人と弘毅と圭斗、そして委員の樹は謎のジメジメオーラに阻まれて京助にまともに近づけない。

「待ってウケるんだけど、この謎オーラカメラに映るわ」

 愛優が京助から出ているオーラを撮影していると、トイレに行っていた林檎が帰って来た。

「あいしありとぅしるえっとおぶ……うわ何コレ⁉ キノコ生えるんじゃ……ってセンキョー! どうしたのよ!」

 実に二十六センチも身長差がある京助を林檎が抱き起し、なんとか自分の席まで運んで座らせた。

「口からエクトプラズム出てんだけど……おーい帰ってこい、顔叩いても起きないわ。カノちゃん協力して」

「こうなったの……私のせいなんだけど」

「いいから、ほらさなんか……センキョーが喜びそうなこと耳元で言いな。たぶんそれでこの事態は収まる」

 奏音はいろいろ悩んだ末、ついに決心して京助の耳元に口を寄せた。

「あのさ、京助にお願いしたいことがあるんだ」

「オネガイ」

「とってもいい事だからさ」

「トッテモ……イイ事?」

 口から出かかったエクトプラズムがスーッと元に戻り、ジメジメした空気が一気に消し飛んで、むしろ以前よりも爽やかな空気に変わった。

「うわ、なにこれ、めっちゃ気分良くなる気がする」

「なんか胸がスーッとなったな」

「なんか眠気も悩みも全部吹き飛ぶような」

「踊りてぇ、踊らずにはいられねぇ」

「待って教室に虹掛かってるんだけどウケる」

 こころなしか空も雲が少なくなったように感じる。奏音が困惑していると、京助が顔を寄せてきた。

「んで? 良い事って何? 教えて?」

「ああ……えっとぉ……今夜! 今夜言うから! 一旦……保留に出来……る?」

 再びジメジメオーラを発されるかと身構えるも、当の京助は歯を見せて微笑みサムズアップを返した。

「楽しみしてるぜ」

「はいこんにちは……おお、今日どうした? やけに空気が澄んでるぞ」

 英語担当のベテラン教師である大野先生も思わず笑顔を零し、この日の授業は和やかな雰囲気で進むのであった。

 

「やーしくったしくった……」

 帰宅後、京助は自室で一人頭を掻いた。

『危なかったですよ本当に。バレる寸前でしたよ』

「無意識で出ちゃうのね。俺も知らなかったから次から気をつけよ」

 あの時教室の空気が変わったのは京助の能力によるものである。自身の気分の強い浮き沈みで大気に影響を与えて空気を変えてしまう、完全に無意識下で発動する能力である。

『そもそもあの程度で塞ぎ込むとは、どんなメンヘラですか』

「いやまあ、なんかこう抗いがたい憂鬱な波が俺の心に押し寄せてきてな」

『奏音さんが人を、それもあなたを裏切るような人間ではないと他でもないあなたがよく知っているでしょう?』

「……そうだな、全くその通りだわな」

『これに懲りたら次からは……』

「てか思ったんだけど、これちゃんと制御できれば空気をいつでも綺麗にしたり湿気と乾燥を防げるんじゃね? ゆくゆくはちゃんとした天候操作を……」

『全く反省してませんね!』

 珍しく声を荒げたトトを無視しつつ、京助は椅子の背もたれを倒し、足置きを出してゆったりとした姿勢を取ってスマホを眺めた。

「奏音が言うお願いしたいことって何かな?」

『まあ……いい事とのことですので期待はしてもいいんじゃないですか?』

「なんだろう、家来てとかか? でも今更もったいぶる仲じゃねぇし」

 宙に浮いていた数学のノートを取ってパラパラと捲って内容を確認すると、念力で鞄を開けてそこに向けてノートを放り投げた。

「まあ夜の発表とやらを楽しみにしときますかね」

 複数の課題を同時にやりながらパソコンでインディーズのホラーゲームをやっていると、部屋の電気が弱まって隅の止り木の梟の彫像の目が輝き、天井に巨大な梟を模したマークを投影した。

「シゴトか、良いところだったのにな」

 ゲームを閉じると位置情報を確認し、どこに敵が現れたかを確認する。

「山の中か」

『幹部親衛隊の三人が現れた場所に近いですね』

「つー事はあの残念美女三人組がリベンジに来た可能性も高いわけだ」

『行きましょう、事は早い方がいい』

 電気を消すとテラスに向かい、右手首をトトに重ねてから前に伸ばす。

『アウルレット、召喚』

 出現したアウルレットに手を翳して次元断裂ブレードを出現させると、腕を大きく回して空に向かって突き出した。

「招来ッ‼」

『次元壁、断裂』

 周囲の次元が切り裂かれると同時に、京助の体にマグナアウルの輪郭が重なり、体の変化が完了すると同時に跳躍して夜空に向かって飛び立った。

「今日はいい月だな」

『約十夜ですね』

「五日後で満月か、覚えとこ」

 マントを閉じて急降下していると、あるものが目に入った。

「なんだあれ」

 マントを広げて勢いを殺し、木の上に掴まって目を凝らす。

「ウィルマースの車だ」

『どうやら彼女らをここまで運んだ帰りのようですね』

「そうだな、場所的には反対方向だもんな」

『ということは、どうやら先を越されたようですね』

「ふむ……」

 マグナアウルは(ヘルム)の額の辺りを掻き、しばらく何か考えていた。

『どうしました? 急がなくては本当に先を越されますよ』

「いや……そうなんだけどな、少し思うことがあってな」

『思う事ですか』

「あいつら前の戦いでボロ負けしたよな」

『ええ、装甲もひどい有様でした』

「そう、んで全員気絶、俺が来なけりゃ全員死亡。そんな感じだったろ?」

『そうですね』

「じゃあなんで来た?」

『さあ……彼女らもこれが仕事、あるいはこういった使命なんでしょうし』

「それもあるだろうが、流石に無策で挑もうとはしないだろう?」

『そうでしょうね、彼女らのバックは企業ですし何かしら作戦を立てるブレイン的な者が居てもいいはずですね』

「気にならないか?」

『……何が?』

「どんな作戦を立てたか、どんなに動きが見違えるか、そしてあの三人に……勝てるのか」

『あなたは気になるのですね』

「俺な、今回は隠れて観察することにした」

『いいのですか? あなたの手で倒さなくても』

「ああ。あいつらがどこまでやれるか、敵を殺すよりも今はそれが気になるんだよ。倒せるならそれで良し、倒せなかったら俺が出張ればいい」

『では早く移動しては? すでに始まっているかもしれませんよ』

「っといけねぇいけねぇ。急ぐか」

 木から木へ飛び移っていると、山道を歩くクインテットを見つけた。

「いた」

 その時、ライフルを持っていたイドゥンが立ち止まり、マグナアウルが潜む木の方を振り返った。

「⁉」

 すぐに動きを止め、息を潜めて必死に気配を消す。

「イドゥン、どうしたの?」

「……なんでもない、気のせいだったっぽい」

 再び歩き出した一行を見てしばらくその場で動かずにいたが、十数メートル離れた所で移動を再開した。

「前もそうだったけど……なんで分かるんだよ」

狙撃手(スナイパー)ですから勘が鋭いのでは?』

「俺に気付くって相当だぞ」

 距離を取りつつ、マグナアウルはクインテットを追いかけていたが、あるものが見えて思わず舌打ちした。

「建物かよ」

 どうやら今回の戦いの舞台はこの破棄された大きな倉庫の中になるらしい、よって木の上から戦況を見るのは非常に困難である。

『屋根の上に乗って透視してみては?』

「まあ見るとしたらそうなる感じかな、あいつらが入るまで待つか」

 

 一方マグナアウルに気付かないクインテットの五人は、何度も話し合った作戦会議の事を思い出し、高揚感と緊張感を胸に秘めながら今回の戦場に立った。

「準備はいい?」

「アイアイキャプテン」

 イドゥンとアフロダイが前に出て、後方でデメテルが連発式グレネードランチャーを構えた。

「よし、突入しよう」

「分かった、撃つね」

 連発式グレネードランチャーのドラムマガジンを外して薬室に特殊弾を一発装填すると、目の前の壁に狙いを定めて深呼吸の吐き出すタイミングと共に引き金を引いた。

 グレネードは壁を貫通して一秒後に爆発して壁に大きな穴を作り、そこに向かって皆一斉に駆け込んだ。

「……あ?」

 皆の予想に反し、ここには兵士の姿をした者達がたくさんおり、中で荷物の整理などをしていた。

「あいつら居ない?」

「ハハハハハハハッ!」

 聞き覚えのある笑い声に、イドゥンのライフルの銃口が素早く斜め右上を向く。

「そこに居たのね」

 ガディ、ザリス、ジェサムの三人はギャラリーの上に立っており、跳躍して五人の前に立つと、戦闘態勢に入りつつある周囲の戦闘員に指示した。

「お前達、下がっていなさい」

「手出しは無用、そしてワープして帰りなさい」

「この五人は私たち三人で十分、早く行きなさい。でないと……」

「私達がお前達を殺すわよ」

 三人から声を揃えてそう言われた戦闘員たちは一斉に姿勢を正して次々とワープしてどこかに消えて行った。

「……さてと、これで邪魔者は皆消えましたわね」

「来ると思ってましたわ。私達に甚振られ、無様にも殺されるためにね」

「先程私は十分と言いましたが、ごめんなさい訂正するわ。正しくは役不足ね」

 イドゥンが舌打ちしてライフルの銃口を向けようとしたのをミューズが制した。

「あら? なんで攻撃をやめさせたの?」

「私達の星の言葉にこんな言葉があるんだ」

「あなた達の星の事など……」

「弱い犬ほどよく吠えるって言葉なんだけど、知ってる? あるいは地元にそんな意味の言葉ない?」

 散々クインテットを嘲って笑っていた三人の目から笑顔が消えた。

「どういう意味か分かって言ってるのかしら?」

「いやさ、前回不意打ちしてまぐれで勝てたから調子に乗ってべらべら喋ってるんだろうけど、本当は自信無いからべちゃくちゃ喋ってるんじゃないかと思って」

「煽るねぇ」

 激励の意味でルナがミューズの肩を叩き、イドゥンは肘で小突いてからサムズアップを送った。

「……フフフフ」

「何が言いたいのかしら? ミューズ?」

「言わなきゃわからない?」

 腰からグリップを取り、二分割して手斧と短剣にすると短剣を逆手持ちし、手斧を向けて宣言した。

「能書き垂れてないでさっさと掛かって来い! そう言ってんのよ‼」

 三人はバイザーを下すと各々の武器を取り出した。

「どうしてやろうかしら?」

「じっくり甚振ってやるつもりでしたが、もうやめですわ」

「後悔する隙も与えない、叩き潰してやる」

 ガディが先の折れた大剣を振り上げてミューズに斬りかかったことで戦いが始まり、アフロダイが弓、ルナが二振りの小太刀を取り出して乱戦が始まった。

「まずは舐めた事をほざくお前から……くッ⁉」

 ザリスが鞭剣を振るおうとした所に紫色の光の矢が二本飛んで来てバランスを崩された。

「あなたの相手は私です」

「邪魔を……するなッ!」

 鞭剣を振り回してアフロダイに狙いを定めるも跳躍して回避され、更にもう二発光の矢が飛んできたため能力の射程圏内に入り次第空中で威力を軽減して回避した。

「……一つ分かったことがある」

「へぇ、わかった所で何になりますの⁉」

「あなた達の力の有効範囲はそこまで広くなく、なおかつ我々のエネルギー攻撃を完全に消すことはできない。そうでしょう?」

「知った風な口を! 利くな!」

 ザリスの鞭剣に薄紫色のエネルギーが迸って再びアフロダイを狙うも、アフロダイは弓を即座に槍に変えて鞭を跳ね飛ばし、二撃目の足元の攻撃を見切り、鞭剣を左足で踏みつけた。

「ハッ!」

 そのまま足を前転の要領で跳躍してザリスのバランスを崩し、空中で遠心力をつけて槍を脳天目掛けて叩きつけた。

「くうっ……」

 ザリスは何とか左腕で防いだものの、じわりと広がる痛みによって腕の感覚が喪失している。

「外しましたか」

「なかなかやるわね……フフフ」

「随分と余裕ですね、まだまだやれるという事でしょうか?」

 槍を構えたアフロダイの背後では、ジェサムがカービンライフルを構えていた。巧妙に立ち回る事でフェードアウトし、姉達二人の敵を撃とうとしていたのだ。

 ザリスにアイコンタクトを送り、いざカービンライフルを構えた時、銃口を光弾が掠めた。

「ッ!」

「ざんねーん、ウチが見逃すとでも思った? アンタの相手はウチでーす」

「ああそう、でも不利だと思いますがねッ!」

 イドゥンはジェサムの銃撃を回避しながら自分のライフルを仕舞い、背中に掛けていたツインドラムマガジンが装填されている専用ライフルに取り換えて隙を見て反撃した。

「グッ⁉」

 肩を撃たれたジェサムは自身の血を見て驚愕した。

「実体弾!」

「これアンタ専用に作ってくれたんだよ、感謝しな!」

 回復能力を加速させてライフル弾を無理に摘出すると弾頭がひしゃげており、その周囲に細かい金属片が纏わりついていた。

「弾も専用、ダメージがデカいように水銀弾とダムダム弾の合わせ技」

「残酷な発想だこと、悪魔ね」

「あらら、悪魔に悪魔認定されちゃったわ、うれしー……なっ!」

 ライフル下部に付いたスラッグ弾が装填されたショットガンを放ち、ジェサムも回避しながら単発強化光弾を放つ。

「どっちが銃士(ガンナー)として上か! 決めようじゃん!」

 

 ガディの先の折れた大剣が背を逸らしたミューズの顎を掠め、ルナが小太刀二本で剣を受け止める。

「デメテル! アフロダイの援護に行って!」

「うん! わかった!」

 グレネードを仕舞うと右拳を握りこんでナックルアームを生成し、走って鞭剣が舞う所へ向かって行った。

「そろそろ本気を出すか」

 手斧と短剣を連結させて両刃の戦斧に変えると、迫る大剣に叩きつけて弾き返し、首を狙って横薙ぎの一撃を見舞ったが、寸での所でフラーで防御される。

「どうやら口だけじゃなかったようですわね」

「当たり前でしょ、私達だってバカじゃない!」

 戦斧を振り上げて大剣を弾くと、柄尻の刃でガディを牽制しつつミューズは次々と攻撃を当てていく。

「なかなかやりますわね、いいでしょう。その腕を認めますわ、ではこういうのはどうかしら!」

 ガディの大剣の刃に薄紫色のエネルギーが迸り、より切れ味の増した一撃がミューズを襲った。

「くっ!」

 腰のスイッチを素早く押し込むとチャージによって戦斧の刃がマゼンタカラーに輝き、ガディの大剣と打ち合いながら激しい火花を散らした。

「フフフ……いつまで耐えきれるかしら?」

「いつまででもね!」

 

 実弾と光弾が飛び交うなか、イドゥンとジェサムは互いに物陰に隠れた。

(このマガジンの残弾数は二十三発……マガジン一個当たり百発、マガジンは残り二つ、ウチに残されたチャンスはそこまで多くない)

「普段のエネルギー供給式のありがたみが凄い分かるわ」

 そうわざと口に出しつつ、グリップ部分のショットガンを外してグレネードに付け替えた。

「……フゥー」

 いつもと違って残弾数を気にしなくてはならない、その緊張感がどうしても焦燥感を掻き立てる。だがこれはただの撃ち合いではない、心理戦であり気力勝負でもあるのだ。

(焦んなウチ……焦ったら負け、(はや)ったら負け、考えるな感じろ。感じるんだ、出来てたっしょ? 子供の頃は)

 あえて目を閉じ、まるで空間に自分を溶け込ませるようにして世界に体全てで繋がっていく。そうすると頭の中から靄が消えていき、今自分が何をすべきかはっきりとしてくる。

「よし」

 空になったマガジンを取り出してニヤリと笑うと、わざと大きく音を立てるように投げ出した。

「貰った!」

 案の定炙り出されたジェサムが飛び出して銃を乱射するもそこにイドゥンの姿はなかった。

「……まさか!」

 三発の弾丸がジェサムの肩と肘と腕に命中し、カービンライフルがその手から離れる。

「残念、ウチが貰った」

 現在装填しているマガジンに残った二十発を全てジェサムに叩き込み、大きく怯ませた隙にグレネードの引き金を引いた。

 榴弾の外装が割れて太いワイヤーが出現し、撃たれたジェサムを拘束してしまった。

「うぐっ! くぅっ!」

 痛みと拘束から身を捩って逃れようとするも、伸縮自在だったはずのワイヤーがまるで鋼鉄のように硬化していた。

「無駄無駄、この瞬間硬化エキスワイヤからはもう逃れられねーよ」

 イドゥンは素早くツインドラムマガジンを交換してスライドを引き、戒められて血を吐くジェサムに近付くと取り落したカービンライフルを蹴って遠くにやり、後ろに跨って頭に銃口を突きつけた。

「この……地球人の分際でッ!」

「そっちこそ侵略者の分際でこの星の空気をのうのうと吸うなっての」

「クソッ……クソッ……!」

 

 ジェサムの敗北を知ってか知らずか、ザリスの攻撃はより苛烈さを増していた。

「フハハハハ! 踊りなさい! もっと踊れ!」

 鞭剣が空気を引き裂き、アフロダイとデメテルを追い詰める。

「そろそろ決めなくては……」

「でもっ! どうやって⁉」

「考えがあります、注意を引き付けてくれますか?」

「……やってみる!」

 デメテルが跳躍して両手でロケットパンチを放ち、ザリスは瞬時に上空の対象に迎撃を仕掛けるも、ロケットパンチは左右に分散して鞭剣を避け、デメテル本人もロケットパックで回避しながら背後に着地してビームキャリアからビームを連射してきた。

「くっ! エエッ!」

 自分の周囲を飛び回るナックルアームと、絶妙なタイミングで飛んでくる高火力ビームを鞭で捌くのは至難の業である、ザリスは鞭剣を収納すると長剣に変え、デメテルに向かって突っ込んだ。

「セイッ!」

「はっ!」

 再生成したナックルアームから五層の電磁シールドを展開して防御するも、ザリスは自身の長剣に赤いエネルギーを流し込んでからニヤリと笑った。

「実体シールドにした方が良かったんじゃなくて?」

「あっ!」

 電磁シールドの色が薄くなって明滅し、徐々に刃が食い込み始めた。

「迂闊だったわね」

「そうだね、でもそっちよりマシじゃないかな?」

「何ですって?」

 背後の気配に気づいたザリスが振り返ると、アフロダイの槍の柄が眼前にまで迫っていた。

「ウッ!」

 咄嗟に長剣を向けて柄を防いだが、槍によって姿勢を突き崩されて後退させられ、突きと二度の大振りの攻撃により防戦一方に追い込まれる。

「調子に……乗るなァッ!」

 跳躍からの鋭い横薙ぎの一撃もアフロダイは冷静に槍を反して防御し、下向きになった穂先を踵で蹴り上げてバランスを崩させると同時に想定外の上からの攻撃にザリスが姿勢を低くした隙を見逃さず、へし折る勢いで足払いを掛けた。

「ああっ!」

 姿勢を低くした事が仇となり、ザリスは完全に地面へ倒れ、アフロダイは彼女の長剣を踏みつけて武器を封じて自身の槍を首元に突きつけ、デメテルも念のため武器を持つ腕をロケットパンチで拘束した。

「こんなッ……こんな事で!」

「すべてはあなたの慢心が招いた事、私達を舐めたからです」

「ぎぃぃ……」

 

 残るはガディのみである、太刀一本に切り替えたルナと戦斧を使うミューズを同時に相手取りながら互角の戦いを繰り広げていた。

 ザリスやジェサムとは異なり、ガディはシンプルかつ力強い武器を使っているが故に、ミューズもルナもなかなか完全攻勢に移るタイミングを計りかねている。

「ハッ!」

「うくっ!」

 ルナが蹴り飛ばされ、ミューズとガディ一対一の戦いとなる。

「ここまでやってきたことは褒めてあげますわ。でももうすぐ……限界が近いんじゃなくて⁉」

 更に攻撃のスピードを上げ、フェイント等も交えてミューズを更に追い詰めていく。

「……」

 ミューズも辛うじてこの激しい攻撃について来てはいるものの、防戦一方で明らかにじりじりと追い詰められている。

「隙ありっ!」

 上段からの力強い振り下ろしに、ミューズは斧刃で防いだものの思わず膝をついてしまった。

「フフフフ……ハハハハハ!」

「くっ……ああっ!」

 斧刃の裏側を腕で押し返して何とか立ち上がろうとするも、ガディは剣をしっかり掴んで離さない。

「あなたはこれまでよく頑張りましたわ、そこは本心から認めます。ですがもう打つ手なしですわね」

 互いの得物を握る手にかかる力が更に強くなり、薄紫とマゼンタの刃が激しい火花を散らす。

「次の一撃で終わらせてあげましょう。諦めなさい!」

「諦める? ハハッ……アンタ面白いこと言うね」

「何が可笑しいのかしら? 追い詰められておかしくなったの?」

 次の瞬間、自身の剣がほんの少し押し返されたことにガディは妙な不安を覚えた。

「私さ、好きな人が居るんだ」

「ハァ?」

「昔からの付き合いでね、お調子者ですぐふざけるけど、賢くて優しい……そんな人」

 徐々に押し返されていく自分の剣に、ガディの心に焦りが広がって額を汗が伝う。

「私はあんたらみたいな理不尽から! そいつを守りたい! 守り抜きたい! そのために!」

 ついに立ち上がったミューズは一層力を込めて叫んだ。

「何があっても諦めない! 戦うのを止めない! それが私の! 地球人の意地だッ‼」

 ついにガディの大剣を弾き、バランスを崩した所に顔面目掛けて斧刃を叩きつけて大きくよろけさせ、ルナが足を掬ってガディを地面に倒した。

「みんな! トドメだ!」

 イドゥンがジェサムを倒れたガディの方へ放り投げ、そこへロケットパンチに引っ張られたザリスがやって来た。

「行くよ!」

「了解!」

「うん!」

「待ってましたァ!」

「いつでも行けます!」

 五人同時に腰のスイッチを三度押し込んでオーバーチャージを発動し、溢れ出た色鮮やかな光のエネルギーが夜の倉庫を煌々と照らした。

「今だッ! 叩き込め!」

 ミューズの戦斧とルナの太刀の光刃が飛び、デメテルの高火力レーザーにより威力が強化されたロケットパンチが炸裂、ダメ押しにイドゥンとアフロダイの光弾と光の矢が降り注いだ。

「くぐぅ……ああああああっ!」

 最初こそ抗っていたものの、戦闘での消耗と無数の攻撃に晒されたことで威力低化も追いつかなくなり、ついには建物を大きく揺らすほどの爆発が起こった。

「……よっしゃ」

 この戦いに全力を出した反動か、思わず膝をつくミューズをルナが支える。

「あんま援護できなくてごめんね」

「いいのよ、いいところに援護くれるから実はめちゃ助かってた」

「さっきの結構カッコ良かったじゃん。痺れたよ」

「そう? ありがと」

 抱き起されたその時、床に空いたクレーターから怨嗟の声が聞こえてきた。

「認……めない!」

「!」

「こんなのは……認めない!」

 ボロボロの防護服と火傷だらけの体で三人はクレーターから這い上がり、悍ましい目つきでクインテットを睨めつける。

「絶対に認めない!」

 イドゥンが即座に前へ出て、ライフルを実弾の方に持ち替えて銃口を向けた。

「絶対に絶対に認めない! 今からでも私達と……」

 その時天井が崩れて黒い影が現れ、クインテットと三姉妹の間に割って入った。

「……ヒッ!」

「マグナアウル!」

 マグナアウルは持っていた拳銃を三姉妹に向けると、こうつぶやいた。

「無様だな」

「なん……ですって⁉」

「往生際が悪すぎる、これは明らかにお前達三人の負けだ。慢心と対策不足が招いた愚かで下らん敗北だよ」

「さっきから聞いていれば! ……ッ!」

 首元の二本のマフラーがひとりでに浮遊して三人の方へ向く、よく見れば同じ拳銃がマフラーの先端には巻き付けられていた。

「これ以上やるつもりならば俺とやれ」

 ガディは唇を嚙みながらマグナアウルを睨みつけ、ザリスは怯え、ジェサムは睨みつけはしたものの覇気は長姉ほどは無く足は震えていた。

「誰一人向かってこないとはな、何が親衛隊だ。呆れたものだ、上司の程度が知れる」

 ガディの噛み締められた奥歯が砕け、唇の端から血が流れたのを無視してマグナアウルは続けた。

「まあなんだ、せっかく無駄に生き延びた命だ、条件付きで見逃してやろう」

「誰がお前なんかに慈悲を!」

 空いた左手でガディを引き寄せると首根っこを掴み、マフラーの拳銃を目の至近距離に、右手の拳銃を腹の辺りに突きつけた。

「慈悲だと? これ以上俺を怒らせるなよ、今心の底から湧き上がる殺戮衝動を俺は抑えてやってるんだ! 俺の心の窓を破ろうと奴はギーギー引っ掻いてるんだ! そいつを解放されたくなければ俺の言う事を黙って聞け!」

 さすがのガディにも恐怖の相が浮かび、無言で頷いた。

「一度しか言わない、拒否したら問答無用で殺す。よく聞け」

 投げ捨てられたガディを慌てて二人が支える。

「次来るときは、バーニャラ・クドゥリとやらを連れて来い」

「なっ!」

 三発銃声が響き、それらは全て彼女ら三人の目を掠めた。

「やるのか? やらんのか?」

「……」

「返事は?」

「わかったわ……」

「〝わかったわ〟? 礼儀も知らない阿呆だったか」

「……わかり……ました……わ……必ず……ぐぅっ……」

「お姉様を……お連れして……」

「この星へ……来ます……」

「気が変わらんうちに消えろ、目障りだ」

 三人は互いに支え合いながら、負傷と屈辱に塗れた体を引きずり、倉庫奥のワープゲートへ消えて行った。

「さてと、なかなかの戦いぶりだったじゃないか」

「……見てたの?」

「ああ、上からな」

「ずっと天井に張り付いてたワケ?」

「正確には屋根だ。散々やられたお前達がどうあいつらに立ち向かうか興味があったのでな」

「そんな理由で……ずっと屋根に居たんですか」

「ンだよウエメセで感じ悪ぃな……まあアンタほど強ければそういう考えにもなるか」

「あとそこのお前、ピンクの」

「私? てかこれマゼンタね」

「お前の覚悟と意地、良いじゃないか。共闘なんてこれからも無いが個人的には嫌いじゃない。これからも頑張っていけ」

 予想外の言葉に五人は呆気に取られた。

「どうして……そんなこと?」

「……俺も似たような所があるとだけ言っておこう」

 マントを広げると、マグナアウルは月が覗く天井の穴から飛び立って行った。

「頑張っていけ……か」

 マスクの中で奏音は微笑み、小さくなっていくマグナアウルの影に向けて拳を掲げて叫ぶのだった。

「言われなくてもやるよ~だ! アンタの方こそ頑張れよ~‼」


 帰ってきたらもう十一時になろうとしていた、諸々の家事等を済ませた京助はベッドに飛び込んでスマホの通知を確かめた。

「来てねぇ」

『奏音さんはまだ決心がつかないようですね』

 夜食のレア気味に焼いた牛肉の細切れを食べながらホイッスラーを眺めていると、通知が一件届いた。

「来たな」

『ギリギリ明日になりませんでしたね』

 恐る恐るバナー通知を押すと、ショートメッセージアプリが開かれ、短い文がひとつだけある。

「……休みの日にデートに行かない?」


To Be Continued.

奏音覚醒、一途な女の子は良いものです。

結構本格的にアクションに力を入れてみました。

そして最後に京助へ奏音から送られてきたメッセージ、次回はどうなるのでしょうか?

感想コメント、Twitter(現X)のフォローよろしくお願いします。

ではまた来週!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ