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青春Double Side  作者: 南乃太陽
遭遇編
8/17

三姉妹

 揺さぶられた意識の中でマグナアウルは今何が起こったのか瞬時に整理し、倒れたまま周囲の状況を見回した。

「……これはまずいな」

 周囲に倒れているクインテット達の鎧の一部が抉れて中身が見えている、このままでは命に係わるだろう。

「そんなものですか?」

「口ほどでもないですわね」

 起き上がったマグナアウルは首を鳴らして腕を伸ばして武器を生成する構えを取った。

 目の前には自分を吹き飛ばしたそれぞれ異なる武器を持った三人の女達。彼女らがクインテットを圧倒した上、マグナアウルを吹き飛ばしたのである。

「まあこれしきで倒れてもらっても困ります。これで倒れたらお姉様の目が間違っていたということになりますから」

イーグル(戦斧)……そうかそうか、でも実際お前達の姉ちゃんの目は曇っているな」

「フフフッ、マグナアウル、我々の前でお姉様を侮辱するとはどういう意味か分かっていらっしゃるの?」

「ああ、その上で言ってるんだ」

 倒れていたミューズが意識を取り戻し、何とか腕をついて立ち上がろうとしている時、ちょうど先程の会話が聞こえた。

「ダメ……やみくもに突っ込んで勝てる相手じゃない……」

「お前達の姉ちゃんが思ってる以上に俺は強い」

 三人の敵は笑みを浮かべ、各々の得物を構えた。

「ですってよ?」

「そう? 天狗の鼻を折るの……私大好きですわ」

「ではその自信たっぷりな言葉、本当か試してみましょうか?」

 マグナアウルは戦斧の柄を両手で掴んで振り上げるように構えると、双方構えた状態で膠着状態となった。

「……行くぞ」

 マグナアウルの目と装飾が青白く輝き、漲るように戦斧の刃が輝き始めた。

 この間までに一体何が起こったのか、そしてこの三人の女達は何者なのか、時計の針を戻そう。

 

「平和だね」

「ええ、そうですねぇ」

 ここしばらくジャガックの動きが見られず、奏音らクインテットの面々もしばしの安寧の日々が続いていた。

「あの工場ぶっ壊したのが効いたのかな?」

「どうやらあの工場は新技術の実験場でもあったわけですし、あそこが潰されたのは何かしら痛手だったのではないでしょうか?」

 珍しく奏音と麗奈が一緒にいる。というのも奏音は週に三回歌のレッスンを、麗奈は週に一回楽器のレッスンを受けており、今回偶々帰りで一緒になったため近くのモールのフードコートで何か食べようという運びになったのである。

「あー、ちょっとヤな想像しちゃった」

「ん? 嫌ってどんな想像ですか?」

「私達さ、この前の実験場と言わず最近ジャガックの施設を襲撃しまくってたじゃん」

「言われてみれば、ここ最近は作戦行動の妨害ではなく施設の破壊が主でしたね」

「もしかして今ジャガックが沈黙してるのって……私達とかマグナアウルへの対策をしてる最中だったりして」

 麗奈が大きく頷いて目を瞑り、ゆっくりとした低い声で答える。

「あるいは、財団の地下の基地を襲撃する計画を立ててたりしてる可能性も……」

「いー! ヤダヤダ! どっちも最悪!」

「実質的な休みとはいえ……なかなか心は休まりませんね」

 溜息をついて肩を竦める麗奈に奏音が更に畳み掛ける。

「基地への攻撃って怖いよね、万が一されたらスーツも使えなくなる可能性もあるし」

「そうなった場合は本社から応援が来ますけど、それまでが怖いですね。何があるか分かったものじゃない。それよりも対策練られて刺客を差し向けられる方がどちらかと言えば命の直接的危険に関わる気がします」

「もし敵の対策してたとして基準が私達じゃなくてさ……マグナアウルだったらと思うとホントに怖くてぇ」

「ですよねぇ。まあこの力の差と今の私達の力不足感は認めざるを得ません。もし相手が完璧なマグナアウル対策をしてきたのであれば……」

「なんかヤな想像させちゃったね、ごめんね!」

「いいんですよ、こういう話も滅多に出来ないですし」

「明るい話しよ! 前から気になってたんだけどさ、インターナショナルってどんな授業してるの?」

「うーんそうですね、先生方曰く〝実用英語〟を修得させるために特別なカリキュラムを組んでるらしくて……」

 英語の授業の違いに驚いたり、逆に普通科でやっていることをインターナショナル科ではやっていなかったりなど、その違いに驚いたり一喜一憂した。

「課題少ないんだね……羨ましい」

「こんなにやってて両立出来てるなんて羨ましい限りです」

「正直ギリギリ……でも最近は京助に手伝ってもらってるからちょっと余裕かな」

「彼氏さん、頭良いんですか?」

 奏音は人差し指を下唇に当て、上を仰いで考えた。

「だいたいテストの順位は学年で十位から二十位あたりを漂ってるらしいんだけど、人に教えるのが滅茶苦茶上手いんだよね、代々学者の家系だったからかな」

「なんかすごそう……確か一人暮らしでしたよね?」

「そうなの、ビデ通し放題、デヘヘ」

「確かに怒る相手も居ませんからね。その……」

「ん? なに?」

 麗奈が俯き加減に顔を寄せて囁くように言った。

「その……彼とキスとかその先って……もうしたんですか?」

 一瞬停止した奏音のニューロンが突如高速で処理を始め、すさまじい勢いで奏音の顔が赤くなった。

「……そのさっ⁉ そそそその先って何⁉」

「声が大きいですよッ!」

 立ち上がって大声を出してしまった奏音は二重の意味で赤くなり、まるで甲羅に籠る亀のように縮こまった。

「急に変なこと言わないでぇ~……」

「ご……ごめんなさい、でも実際の所はどうなんですか?」

「……まだしてない」

「一度も?」

「うん」

「幼馴染だったんですよね? だったら昔その……意味も分からずやっちゃったりとかは……」

「小学生の時……一回だけ……でも未遂なんだよな~!」

 麗奈は奏音の恋愛アガリ症ぶりに困った顔をして頷くしかないのであった。

「そのとき出来てたらまたハードルも変わってたんだろうけどなぁ……やっぱりそういうのって漫画とかの中でしか起こらないんだよな~」

「それで大丈夫なんですか? デートとかすることになったら……」

「で・え・と」

「あら? どうしたんですかいきなりそんな……」

 急に宙を見つめる猫のような表情になり、奏音はデートと短く数回呟いたのち、麗奈の方を見た。

「そういえばちゃんと付き合ってから……休みの日に一緒に出掛けたりとかしてないかも」

「そうなんですか?」

「うん、放課後一緒帰ったり家に行ったりはあったけど……ありがと麗奈ちゃん、超ファインプレーだよ」

 奏音は麗奈の手を取り小刻みに振って感謝の意を全身で現した。

「今度誘ってみる!」

「ファイトです! みんなで勝負服選んだりとかしましょう!」

「ホントに⁉ ありがとう!」

 気が付けば六時を過ぎていた、お盆と食器を返して階下へ向かうと、聞き覚えのある鼻歌が聞こえた。

「ん? この声……」

 二階のスーパーで、京助が軽やかな足取りでカートを押していた。

「かんとぅりーろぅーど……ていくみほぉーむ……とぅざぷれーいす……あいびらぁー……うぇすばじぃにゃー……まうんままー……ていくみほぉーむ……かんとぅりーろぅーど」

 店内のBGMとして流れていたカントリーロードを口遊(くちずさ)みながらチーズとバターを大量に買い込んでいた。

「いぇすたでーぃ……いぇすたでーい……お、サーモンが安いな。買いだ」

「何を人目を気にせず気持ちよさそうに歌っておるか!」

 奏音の手刀が京助の肩に炸裂した。

「いてっ! ……奏音! なんでここに?」

「まあ自分へのご褒美かな、ここよく来るの?」

「そう、ここの肉と野菜は安いんだ。してそちらさんは?」

「紹介するね、インターナショナル科の麗奈ちゃん」

 麗奈が丁寧にお辞儀をし、京助は呆気に取られた。

「初めまして、白波麗奈です」

「……白波」

 京助の脳裡に一瞬だけウィルマース財団の博士を名乗る男の名前が想起された。

「麗奈さんね。よろしく、俺は千道京助。それにしてもすごい丁寧だね」

「そー、麗奈ちゃん大金持ちで筋金入りのレディなんだよね。多分アンタと同じぐらい金持ちなんじゃないかな?」

「マジで?」

「そんなんじゃないですよぉ」

「すごいんだよぉ、高級マンションに住んでるんだ」

「へぇすげーな、マンションってどんな感じなんだろ」

「うわ、マウント? やだやだ」

「はぁ? マウントちゃうわ」

「郊外一等地の大邸宅に住んでるからマンションなんていらないもんね~」

「郊外一等地で学者の家系……千道って千道万路博士の?」

「ああ、俺その息子」

「そうなんですか⁉ 父が何度か話してましたよ」

「マジで? 聞かして! あんまりそういう機会無いから!」

「私も小さかったのであんまり覚えてないですけど、とにかくすごい人でずっと先の未来が見えている人と何度も褒めてましたよ」

「いやー、まさかこんな所で父さんの話聞けるとは思わなかったな。そっちのお父さんはどんな仕事を?」

「ウィルマース財団でいろんな技術の開発をやっています」

「あの財団ねぇ」

 おそらくあの時の白波博士は麗奈の父親だ。つまり麗奈の周囲を洗えばクインテットの正体が分かる。一瞬そんな風に考えたが別に敵対している訳でもない者の実態を無理矢理暴こうとするのと、何より自身の戦いの為に奏音の友人を利用するのは気が引ける。

「いや~ありがとうな、まさか父さんの話聞けるとは」

「いえいえ、京助さんの話をしたら父も喜びますよ。こちらこそ知り合えてよかったです」

 長いこと一つの場所で留まっていては迷惑だからと、奏音と麗奈は京助の買い物を手伝うことにした。

「いつも買い物してるんですか?」

「ん~毎日じゃないかな。でも一人暮らしだから大変じゃないと言えば嘘になるけど、でも空腹に苦しむよりかはマシだし」

「奏音さんお弁当とか作ってあげないんですか?」

「いや~私より京助の方が料理上手いんだよね……」

「課題も手伝って貰ってる訳ですからお礼として作ってあげたらどうです? きっと喜んでくれますよ、どんな味でも。ですよね?」

「どんな味でもって訳じゃないけど」

「そんなに不味くないよ!」

「それじゃ今度……ってか前もこんな話したな」

 会計を終え、三人でスーパーの外のベンチに座って話すことになった。

「ところでなんで一緒に居たの?」

「私今日歌のレッスンだったじゃん」

「そうだな」

「今日は私の楽器のレッスンでもあったんです」

「楽器? なにやってんの?」

「……」

 麗奈が口を押えてそっぽを向いた。京助が首を傾げると、奏音が困ったように微笑みながら言った。

「なんか恥ずかしいから教えたくないんだって」

「……」

 そのままこくりと頷き、それを見た京助は意地悪を起こした。

「……ギターやってる?」

「⁉」

 頬を赤らめた麗奈が目を大きく見開いて振り返った。

「え、当たり?」

「ぎぎぎぎ……ギターなワケないじゃないですか! ピアノですよ!」

「でも私がピアノって最初に聞いた時違うって言ってたじゃん」

「じゃあ……ヴァイオリンです!」

「じゃあってなんだよ」

「皐月がそれ聞いてたよ」

「管楽器! 管楽器ですっ!」

「明穂ちゃんがトランペットで林檎ちゃんがデジタルサックスって言ったら管楽器じゃないって」

「……うぐぎぎ」

「どうやら観念した方がいいようだな」

 大きく溜息をついて肩を落とし、消え入りそうな声で麗奈は聞いた。

「なんでわかったんですかぁ……」

「爪だな、右手だけ長かった」

「あ、ホントだ……京助って探偵向いてるんじゃない?」

「ん~ふふふふふ。私見たんですぅ、あなたの右手の爪が長ぁいのを……」

 昔再放送で見て以降すっかりハマった倒叙トリックの傑作ドラマに登場する主人公の探偵刑事のモノマネをして見せ、京助は二人を困惑させた。

「……まさか知らないのか?」

「なにそれ?」

「……ごめんなさい、分からないです」

「よし分かった今度ウチ来い、友達も呼べブルーレイボックスあるから。上映会やる! あのドラマを知らないのはマジで損だ!」

「京助って結構趣味の範囲広いよね」

「そうかな? まあ父さんと母さんの影響は確かに受けてるかも」

「まあともかく……この事は誰にも」

「言わないよ」

「言う訳ないよ」

 麗奈は安心したように上目遣いで微笑み、この日三人はその場で解散したのであった。

 

「なーんかここ最近暇だよな」

 帰った後着替えもせず食卓に座り、自分で出した火であぶった魚の刺身を頬張りながらここ数日の事を思い返していた。

『動物実験場の破壊以降ぱったりと活動を見せなくなりましたね』

「探知システムも何も弾かねぇし、ここまで〝静か〟だった事はそうそうないよな」

『ええ、五年前にあなたが与えた大打撃で一年と少し沈黙して以降活動はかなり活発でしたからね』

「いっそのこと世界中の宇宙望遠鏡と衛星のシステムをいじくって奴らの本拠地を特定しようか?」

『ええとても良い案ですね、すべて正確に元に戻せるのならばの話ですが』

「……やめとこ……あ、これ味噌だれつけたら美味い!」

 マヨネーズごと炙ったサーモンに味噌だれを浸けたものを三十個ほど頬張り、明日の弁当の事を考えていると、ふと京助は呟いた。

「なんであいつらって沈黙してるんだ?」

『やはり何かあると?』

「間違いない、絶対裏がある」

『仮に戦力の補充の他の理由があるとして、何があるとお考えで?』

「うーん……」

 腕を組み唇を尖らせて考えてみたが大した案が思いつかず、その中で一番脅威性がある案を選んだ。

「そろそろ本気で俺を潰しに来るつもりなんじゃなかろうか」

『あなたを潰すと……』

「俺はなるだけ自分の情報を残さないようにしてきた、けど二年半も戦ってきたらそれなりに情報は溜まると思うんだよな」

『数々の〝いやがらせ〟をしてきましたからね』

「そうだな、どうやら俺専用の対策マニュアルも組まれてるらしいからな」

 コードブラックがジャガックの間でマグナアウルの出現を指すものらしいが、名前からして相当危険視されているようだ。

『少なくとも最初の一件は記録としてあるわけですから、そこからあなたの対策は立てられると思いますよ』

「基地吹っ飛ばしたのはやりすぎだったかな」

『大規模な侵略を抑え込む効果はあったので、一概には言えませんね』

「まあなんにせよやることは変わらないが、更なる強化を視野に入れないとな」

『どういった手段で?』

「うーん……まあその時はその時だ。とりあえずメニューの負荷を上げよう、重り増やしたりとかな」

 皿を念力で片付けた後、京助は自身を鍛えるべく地下へと向かうのだった。

 

 それから数時間後、地球の衛星軌道上のジャガック基地艦にて、クドゥリは自分の執務室で事務処理をしていたところ、机の上の内線ホロに通信が入った。

「ザザルからか」

 内線ホロを押すと、ザザルの本体のホログラムが投影された。

「私だ、どうしたザザル?」

『今手は空いているかね?』

「ふむ……」

 ちらりと残りの案件を見たが、それらを端に追いやって立ち上がった。

「空いている、あの場所だな?」

『そうだ、話が早くて助かるよ。待ってる』

 かけていた官帽を被って鏡の前で位置を整えると、科学部へ向かってある部屋の前に向かった。

「バーニャラ・クドゥリ様、お待ちしておりました」

「ここだよな?」

「ええ、ザザルバン部長がお待ちです。どうぞ」

 IDカードを翳して扉を開くとザザルが背を向けて待っていた。

「おお、早かったな」

 本体だけが振り向いて、クドゥリは帽子の鍔に触れて挨拶を交わした。

「ついにか?」

「そうだ、だから〝完成〟に立ち会わせてあげようと思ってね」

 ザザルの本体は水槽の中で一回転して前を向き、クドゥリはザザルの体の横に並んで三つの培養タンクの前に立った。

「少し遅れたが概ね君の要望が満たされるものを作れたと思うよ」

「そうかそうか……フフフ」

「では始めようか。培養液を排水しろ!」

 ザザルの指示で研究員がコンソールのスイッチを入れ、タンク内部の培養液が下へ吸い込まれていく。

「介助と仮の服の準備を、私の指示でリンクを切ってタンクを開けろ」

 六人の研究員がタンクの近くへ向かい、全身を覆うローブを持って準備を整えた。

「リンク切断! 〝出産〟だ!」

 タンクが開いて中から全裸の十代後半と思われる少女が三人倒れてきて、六人のうち三人の研究員が彼女らを支え、残りの三人が素早くローブを着せた。

「誕生日おめでとう、私の妹たち」

 培養タンクの中に居たのはクドゥリのデザイナーズクローンである、つまり物理的に血を分けた妹達と言っても過言ではない。

「外部の空間に適応するのに時間を要するだろうが、君のクローンだからきっとすぐだ。連れて行ってやれ」

 クドゥリの妹達はそれぞれ二人の研究者に抱えられて隣室に向かって行った。

「どうだ? 何か感想は?」

「妹とはいえ……三人ともあまり似てないな、私をはじめルガーノンは結膜が黒いが、彼女らは白だ」

「中期調整の段階で遺伝子に変容があったんだ。似せるべきだったかね?」

「そこは別に構わないが……髪の色も私と違うし顔の系統も違う」

「デザイナーズクローンにはよくある事だよ。整形させようか?」

「……結構だ、よく考えれば白い結膜は地球への潜入に便利だし、なにより三人とも可愛らしい顔をしている。まあ私の血を分けたからだろうがな」

 採血時に針を刺された場所を撫でて小さく笑いかけるとザザルの方を向く。

「見た目は気に入ったよ、あの子たちには名前はあるのか?」

「……名前」

 ザザルの本体は胸鰭を組み、口を曲げて何かを考えていた。

「そう言えば全く考えていなかった。便宜上真ん中を一号、右を二号、左を三号と呼んではいたが。そうだ! 君がつけるといい」

「いいのか?」

「そもそも君の妹であり、ある意味では娘だ。私が名付けるのもおかしな話だと思うしな」

 クドゥリは頤に手を当てながら宙を向いて思順し、故郷の惑星ルガーノにちなんだものにしようと考えた。

「適応が終わり次第私の部屋に来るよう言っておいてくれ。彼女らには直接伝えたい、私からの最初の贈り物だ」

「そんなに気に入ったか? 君の部下は地獄を見て、訓練だけでも死ぬことが多いと聞いたことがあるのだが」

 クドゥリはザザルを横目で見てくっと片方の口角だけを上げて不敵に笑いかけた。

「私が憂さ晴らしで部下を使い潰していると?」

「違うのか? 兵も減るし非効率だろう?」

「私は将、つまりジャガックの兵を束ねる女なわけだ。私の直属になるのならば生まれ変わってもらわねばならない、地獄を介して生まれ変わった者こそ〝本物〟だ。それを集めればおのずと兵の精度も上がり作戦や任務の成功率が上がるというものさ」

「……君の過去がそうさせるのかね?」

 クドゥリの口角が下がり、帽子の鍔を深くして続ける。

「バーニャラ家は〝本物〟が居なかった、故に私だけが生き残った。これでも私が味わった地獄よりはるかにマシだよ。私が見せる地獄で離れたり死ぬのならばむしろその方が幸せだ」

「あの三人を失った家族に重ねているのか?」

「……それもあるかもな、フフフ。まあじっくり育てていくとするよ」

 クドゥリは背を向けて研究室を後にした。

「調整が必要ならば言ってくれ!」

 後ろを向いたまま手を挙げ、クドゥリは去って行くのだった。

 

 二日後、財団の呼び出しを受けた五人はいつもの基地へ集合した。

「いきなり動いたね」

「たしかに、あいつらがいきなり動き出すのはいつものことだけどさ」

「ヤーな予感するな、今朝ウチの瞼の痙攣が止まらんかったんよね」

 林檎は朝起きた時の瞼の痙攣により、何かしら嫌な事が起こる事を察知できるのだ。

「今回は……少し妙なんだ」

 白波博士の言葉に皆首を傾げ、博士も顎を撫でながら続ける。

「十二時間前、ジャガックのものと思われる船が入星したのを確認した……んだが」

「だが?」

「普通侵入するときは何かしら妨害信号などを使って痕跡を残さないようにするものだが、今回は初歩的な隠蔽の痕跡すらなかった」

「だから一日もかからず位置を特定することが出来たのね」

「船の種類は中型人員輸送船だが、何かが出て行った形跡も確認されていないんだ」

 これは奇妙だ。皆が黙り込む中、奏音が一言ぼそりと呟いた。

「罠……」

 明らかに見え透いた罠である、それも早くここに来てくださいと言わんばかりの。

「そうですよね、もし罠だとしたら危険極まりないし、そうでないにしてもこれには何かあると思います」

「罠だとしたら、私達に出来る事ってなんだろ?」

 林檎がニヤリと笑い、指を鳴らした。

「結局、飛び込むしかないっしょ」

「うん、実際林檎の言う通りなんだけどさ、無策で飛び込むのはまた違う気がする」

「そうだね、素早い撤退が理想だよね」

 話し合いの結果現場付近へランデヴーポイントを設定し、危険と判断した場合即座にそこへ向かう手筈が整えられた。

「では大至急向かってくれ。この作戦で行くのならばスーツはこの場で装着するのが望ましいだろう」

 頷いた後で転送鍵を取り出し、スーツを頭上に出現させた。

「全員装着! GOクインテット‼」

 スーツを着たまま装甲車に乗り込み、沈みゆく夕日の中戦場へ向かうのであった。

「仮にミューズが言う通り罠だとしてさ、どんな罠だと思う?」

「ウチが一番危惧してるのは爆弾かな」

「開けたらドカン?」

「まあそこはウチのスコープで調べられるから大丈夫、それ以外だったら何かな」

「前さ、試作品の自律殲滅オートマタとかいうのと遭遇したじゃん」

「あったねぇ……滅茶苦茶強かった」

「完成した改良型のやつが出てきたらどうする?」

「あーそれは……キツいね」

「それも五体ぐらい出てきたらどうする?」

「最悪最悪最悪マジで最ッ悪」

「多分一対一で戦うことになりそうだね」

「悪夢通り越したスーパー悪夢だわ」

「装備かためて行こ、みんな拡張パックつけようね」

 背中にエネルギー拡張パックを取りつけ、各自手榴弾やロケットランチャー、またエレクトロサックや電磁スパイクを取り付けて事に備える。

「完了、とりま着くまでリラックスね」

 到着した一行はナビに従って山道を進み、開けた場所に一台の船があるのを見つけた。

「あれか、スキャンするね~」

 装着型アンテナスコープを倒して右目に位置を合わせ、感知機能をオンにして走査をかける。

「……爆弾は」

「爆弾は?」

「ナシです!」

「あぁ……」

「良かったぁ……」

「ただ妙なんだよね」

 スコープのダイヤルを弄りながら林檎は呟いた。

「何が?」

「船はあんだけデカいのに生命反応が三人分しかない」

「わざわざこの三人を運ぶために来たの?」

「多分自動操縦だ、この三人荷台に固まってる」

「ロボットじゃなくてサイボーグなのかな」

「ロボは……いない、三人だけね」

「どうする?」

「そりゃあ……やることはひとつっしょ」

 イドゥンは背中に担いだロケットランチャーを構えると輸送船に向けて狙いを定め、榴弾を放って船を爆破して半壊させた。

「よっし! 畳み掛けて! 包囲だ包囲!」

 全員走りながらグリップを取り出して武装し、半壊して燃え盛る船の前に立った。

「んっん! 貴様らは完全に包囲されている! 大人しく出てきなさい!」

 イドゥンが船の扉兼タラップに大型ライフルを向けて宣言するも、炎が立てる音以外はなんの音もしない。

 あまりにも静かすぎる故に、イドゥン以外の四人は顔を見合わせた。

「……間違いじゃないよね?」

「間違いないよ、今も居るし」

 状況だけ見れば、この三人は燃え盛る船の中で声一つ上げず平然としているのである。まさに異様と言う他ないだろう。

 自ずと五人の武器を握る手に力がこもっていく。

「開ける?」

「……お願い」

 ミューズがアイコンタクトしてイドゥンの後ろに自分とルナをつけ、デメテルとアフロダイに遠距離武器を向けさせた。

「じゃあ……開けるよ」

 イドゥンが扉に手をかけようとしたその時一陣の風が吹き、遅れて何かが叩き付けられる音が背後で響いた。

「……なに?」

 振り返った四人が見たのは月を背に立つ透明なバイザーが取り付けられたヘルメットを被った三人の女と、その近くで倒れているイドゥンだった。

「!」

 デメテルが連発式グレネードランチャーと右腕のビームキャリアを向けたのを皮切りに、皆一斉に三人の女たちに武器を向けた。

「何者⁉」

 三人のうち真ん中に居た女が顔を伏せたまま笑い、顔を上げてさらに笑みを深くして口を開いた。

「初めましてクインテットの皆様、私達はジャガック幹部バーニャラ・クドゥリ様の親衛隊」

「そして同時に妹でもあり」

「あなた達を排除するもの」

 四人は互いの間隔を少しづつ広げ、場を広く取って事に備えた。

「バーニャラ・クドゥリ?」

「前に暗殺部隊を指揮してた幹部かな、妹が居たとは意外だけど」

 各々が腰に提げた武器に手をかけ、それを抜きながら名乗り始めた。

「私はガディ、断つ者」

(わたくし)はザリス、震わす者」

「私はジェサム、穿つ者」

 ガディは折れた大剣、ザリスは細身の長剣、ジェサムはカービンライフルを構え、余裕綽綽といった様子で陣形を取った。

「では始めましょうか、どの程度やれるか見せてくださいな」

 ルナは正眼から八双に構え直て大きく踏ん張ってから直進方向に跳躍し、ガディに横から斬りかかるも大剣のフラーの部分で弾かれ、それを契機に全員が一気に駆け出した。

「セイッ!」

「ふっ!」

 先端が折れているとはいえ大きく重い剣では必然的に大振りになるだろうというルナの考えに反し、ガディの太刀筋はまるで舞のように軽やかであり、だがかといって剣の持つ重さを損なわない熟練者の剣であった。

 重さを伝える剣が幾度も自身の太刀にぶつかり、徐々に防戦一方に追い詰められていく。

「なかなかの太刀筋ですわ」

「どうもっ! 褒められたってなにも出ないけどっ!」

 ルナは剣を押し付けられて膝立ちにさせられ、ガディは上から抑えつけるような形で見下しながら嘲った。

「ええ、これでよくここまで来れたわね」

「あっそう……そういうの余計なお世話って言うの!」

 渾身の力でガディの大剣を押し返し、グリップを分割して二振りの小太刀に変えると、先程以上の猛攻でガディへ向かって行くのであった。

「だああああっ!」

 デメテルが連発式グレネードランチャーを乱射しながらザリスに近付くものの、それらを全て回避しつつザリスは自分の剣の刀身を掴んで引き延ばすと、細く不可視の鋼線に繋がれた刃が等間隔に離れ、鞭のようにしなって空中にグレネード弾を叩き上げた。

「鞭剣⁉」

「ええ、こんな芸当も出来ましてよ!」

 空中でうねっていた刃がまるで意思を持つようにデメテルの左腕に巻き付き、刃で装甲を削り取りながらグレネードランチャーを奪ってしまった。

「スーツが!」

 肩部アーマーと腕全体の装甲がズタズタにされ、一部は内部機構が丸見えになっている。

「気を付けて! こいつらこれまでとはまるで違うよっ!」

「今更気付きましたの?」

「そうであろうと! 退く訳には行きませんっ!」

 アフロダイが跳躍して矢を放ちながらザリスに近付こうと試みたが、滞空中にジェサムに撃たれて撃ち落とされた。

「くっ!」

 地面に転がりながら二発矢を放つも、ジェサムは一発目を避けて二発目を撃って無効化した。

「思ったより手ごたえがありませ……んっ!」

 思わぬ位置からの攻撃を感じ取ったジェサムは後退してその位置にライフルを向けた。

「ちくしょうが……いきなりぶつかって来やがって……」

 先程まで倒れていたイドゥンが、寝たままの姿勢でこちらに銃を向けていた。

「あら、お早いお目覚めですわね。いい夢は見れたかしら?」

「ああ、アンタら全員がくたばってる夢を見たよっ!」

 イドゥンが放つ複数の光弾を全て自身のカービンライフルで撃ち落とし、驚愕した隙を狙って肩と腹部を撃ち抜いた。

「ぐがっ!」

「イドゥン! ……アンタ!」

 ミューズがジェサムの銃撃を回避して斬りかかり、ジェサムは銃身を立ててバトンにするとミューズの手斧を受け止め、腹部を狙った短剣の突きも腕を掴んで止めた。

「ぐっ! くうぅっ!」

 掴まれた腕にかかる力がより強まっていき、スーツが嫌な音を立てて軋んでいく。

「気骨は認めますが、実力が伴ってませんわね」

「うる……さいなっ!」

 足のジェットを使ってジェサムを蹴飛ばし、伏せたミューズは叫んだ。

「デメテル! ビームッ!」

 跳躍したデメテルが両腕のビームキャリアから黄金の太いビームを放ち、ジェサムは回転しながら後退してその間素早くバトンを銃に戻してセレクターを操作し、赤いく太いビームを放って対抗した。

 しばらく赤と黄金のビームが拮抗していたが、デメテルの方にガディとの戦いに敗れて気絶したルナが飛んで来て、それに巻き込まれてデメテルはバランスを崩し、その隙に射線をずらされて両者共に被弾して吹き飛んだ。

「うぅっ……はぁ……」

「デメテル、ルナまで……強すぎる」

 一瞬にして仲間たち三人が戦闘不能に追い込まれ、ミューズとアフロダイはお互いに顔を見合わせた。

「あら、一瞬で形勢逆転してしまいましたね」

 折れた大剣の先を撫でながら、ガディは嘲るような調子で二人を見下ろした。

「さて、あなた達をどう料理しましょう?」

 ミューズは手斧と短剣の柄を連結させ、もう一方のグリップを取り出して二振りの斧を生成しながら呟いた。

「聞かせてよ、なんであなた達は強いの?」

「そもそも私達は今まであなた達が戦ってきたような雑兵とは格も桁も違うのです」

「私達は戦うべくして生まれてきた存在であり、いと貴き遺伝子を受け継いだ存在」

「妹達……まさかクローン?」

「その通り、私達はお姉様の遺伝子から作り出されたデザイナーズクローン。そもそも土俵が違うのです」

 アフロダイは弓を槍に変形させながらミューズの隣に立った。

「土俵が違っても……意地でもしがみつきますよ」

「ええ、いい心がけですわね」

「ですが残念な事に……私達には慈悲はありませんの」

「はたき落とすのだぁい好き」

 まず先に仕掛けたのはミューズだった。ジェサムの銃撃を避けながら三人に近付き、まずはガディに斬りかかった。

「ハッ!」

 得物の大きさの違いを生かした戦法でガディの喉元まで食らいつくも、ザリスが横から刺して離されてしまった。

「残念でしたわねッ!」

 自身の剣を鞭に変えてミューズを打ち据えようとした所で、アフロダイが自身の槍先に鞭を絡ませて引き寄せた。

「残念なのはそっちですッ!」

 そのまま槍を弓に変形させてザリスに向かって矢を放つも、横から矢をジェサムに撃たれ、続けざまに腕と肩を撃たれた。

「くあっ!」

 撃たれた場所の出血を感じ取り、正常に動くかは分からないものの、治癒機能をオンにしておいた。

「うぅぁっ……フッ!」

 腕に走る火箸を刺し込まれたかのような痛みに耐え、槍を両手で掴んだアフロダイは腰のスイッチを二度押し込み、フルチャージを発動して穂先にエネルギーを集めて跳躍した。

「でやあああああっ!」

 空中で槍を回してジェサムの銃撃を跳ね返し、ザリスとガディの中間を狙って地面に槍を突き刺した。

「ミューズ! 今です!」

「よし来たっ!」

 力強く腰のスイッチを三度押し込むとオーバーチャージを発動し、両手に持った斧へ波打つエネルギーが送られ、振り抜くと同時に斬撃波がガディら三人へ叩き込まれ、そこへ畳み掛けるように斧を持ち替えて下側についていた刃を重ね合わせてビームを放った。

「散れぇぇぇええええっ!」

 過剰に溢れたエネルギー全てを出し切るまでビームを撃ち切り、疲労感に思わず膝をついた。

「はぁっ……フッ……フゥ」

「今のは中々効きましたわ」

 背後からした声に振り返る間もなく、背中に強烈な打撃を加えられ、数メートル先まで地面を何度もバウンドしながら宇宙船の残骸に叩きつけられた。

「あぐっ! ……うぅ……」

「ミューズ! うぐっ!」

「人の心配をしている暇がありまして?」

 ザリスがアフロダイの首に巻き付けた鞭を引っ張ると体が宙を舞い、落下地点にを見計らってガディが剣のフラーで叩き飛ばし、そこにジェサムが炸裂光弾を放って木の上に叩きつけた。

「うぅあっ……く……う……」

 何とか手放すまいとした意識も、痛みと脳の揺れによりホワイトアウトしてしまう。

「これで全員……」

「つまらないですわね」

「所詮未開惑星の技術と言ったところで……」

「あああああっ!」

 残された体力を振り絞り、ミューズが斧の柄に着いた短剣を振り下ろすが三人ともに紙一重で回避され、二撃目の横薙ぎも回避されて腕を掴まれた。

「しぶといですね、ですがもう……終わりよ」

 ジェサムが放った銃撃を至近距離で喰らい、ミューズは吹き飛びながら頭を打ち、今度こそ意識を失った。

「なかなか骨のある三人でしたけど、私達の方が遥かに強いですわね」

「あるいは幸運を使い果たしたと言うべきでしょうか?」

「ですが悲しい事にこの世界は運の尽きが同時に命の尽きでもあるのですわ」

「残念ですけれども、あなた方五人にとっては今日がその日のようですね」

「これまで生きてこれたことを感謝なさい」

「尤も、もう聞いてはいませんでしょうが」

 ジェサムが一番近くに倒れていたイドゥンに狙いを定めたその時、三人の耳がある音を捉えた。

「ねぇジェサム、聞こえるかしら?」

「ええガディ姉さん、確かに聞こえましてよ」

「私も聞こえますわ、何でしょうか?」

 まるで空を切り裂くかのような超高音。位置を特定してそこを見た三人は反射的に飛び退き、わずか一秒もかからず爆音と共に何かが地面に着弾してクレーターを作った。

「なっ!」

「今のは……何ですの!?」

「隕石……」

「じゃない」

 クレーターの中心から低い声と共に強烈な殺気が発せられ、恐る恐る近づいた三人は思わず不敵な笑みを浮かべる。

「とうとうお出ましね!」

「私達の本命……」

「マグナアウル!」

 クレーターから出たマグナアウルは周囲を見回してぼそりと言った。

「今日はやけに調子が悪そうじゃないか、いつもとまるで違うな」

 クインテットの面々が倒れているのを見たマグナアウルは冗談めかしてそう言った。青いの(ルナ)緑の(イドゥン)あたりが言い返してくるだろうと考えていたのだが、自分の言葉に一切反応しない。

「寝てるのか?」

「ええ、我々が寝かしつけましてよ」

「ほぉ……」

 マグナアウルは倒れているクインテットメンバーをよく観察すると全員装甲がどこかしら破損していた。

 これまで自分が見てきた中でここまで目立った破損は無かった事を考えると、どうやらこの三人は相当なやり手らしい。

「私はクドゥリお姉様の親衛隊が一人。ガディ!」

「同じくザリス!」

「そしてジェサム!」

「我々はマグナアウル、あなたを倒すために作られた」

 名前など覚える気にもならないが、とりあえずこの三人は比較的強いようだ。

「そうかそうか、こればかりは同情するよ。無理難題を生まれながらにして押し付けられたわけだ。可哀想に」

「それはどうかしら? 私達の力を甘く見ない事よ」

 先端の折れた大剣、細身の長剣、カービンライフル。それぞれの得物を確認したマグナアウルはどう仕掛けるか素早くプランを練った。

「そっちこそ俺を甘く見ない事だ」

 初期動作を全く見せない動きで三人の後ろに回り込み、三本の鉤爪で周囲を薙ぎ払ったが、三人とも即座に回避して反撃してきた。

「ハッ!」

 ガディとザリスが各々の剣を用いてマグナアウルに斬りかかり、それに被せるようにジェサムが銃撃してきたが、それらを全て避けて念力で二人を吹き飛ばした。

「なるほど、口だけではなさそうだな。スワロー()ウッドペッカー(ハンドガン)

 ジェサムの銃撃を剣で撃ち返し、二発目以降はハンドガンによる連続射撃で押し返した。

「がはっ! うぐはぁっ!」

 射撃に押し負けたジェサムに容赦のない弾丸の雨が命中し、胸から大量の血を流して後ろに倒れた。

「ジェサム! なんで⁉」

「くっ! よくも可愛い妹を傷つけてくれましたわねっ!」

 ガディが軽やかに大剣を振るって斬りかかり、マグナアウルはハンドガンを捨てて剣をもう三本生成すると、うち一本を手に取って四本の剣でガディの剣を押し返すと、更に追加で四本剣を生成した。

「安心しろ、じきお前もああなる」

 六本の剣が回転しながら空中を舞いながらガディに迫るも、ザリスが自身の剣を鞭に変えてガディに迫った剣を追い払った。

「鞭になるのか」

 面倒だと内心で毒付きながらマグナアウルは新たな対策を考えたが、途端に面倒になり剣を投げ捨てた。

ウッドペッカー(ハンドガン)レイヴン(サブマシンガン)ブラックスワン(ショットガン)アルバトロス(クロスボウ)シュービル(対物ライフル)

 空中に無数の銃器が生成され、ガディとザリスは目を見開いた。

「二十秒耐えたら褒めてやる!」

 マグナアウルはマントを広げて自身に巻き付けて球体になると、自身の頭上で展開される無数の銃声に聞き入り、きっかり二十秒後に銃撃を止めて起き上がり、一丁のショットガンのみを残して全ての銃器を消失させた。

「流石に跡形もなくなったか?」

 ショットガンのレバーを操作しながら振り返ると、全く無傷な三人が背後に立っていた。

「……そう来たか」

 繕いはしたが、マグナアウルは内心かなり驚いている。ガディとザリスは全て避け切ったとして、ジェサムは何故無事でいられたのか。

「凄まじい攻撃でしたわ」

「お姉様があなたを危険視する理由がよく分かる」

「それに私達の能力も通じない」

 ジェサムは撃たれた箇所を撫でながら言う。

「能力だと?」

「ええ、私達三人は超能力者なのですよ」

「どうやらあなたと同じ力を持っているようですね」

「同じ?」

 スピンコックでショットガンのエネルギーをチャージしつつ、マグナアウルは三姉妹の言葉を鼻で笑った。

「ああそうかもな、力は同質のものかもしれない。だがその力量と練度の差はまさに比べ物にならないぞ」

「我々が……劣っていると?」

 レバーに手をかけたまま銃本体を跳ね上げてエネルギー三発分をエナジーチェンバーに送り込みながらマグナアウルは続けた。

「その通りだ、まさに月と鼈だな!」

 三発分のエネルギーをチャージされたショットガンが火を吹いて地面を抉り飛ばし、それを回避した三人は空中で加速し、マグナアウルに攻撃を仕掛けた。

「ハッ!」

「ヒュッ!」

 ザリスの鞭剣がマグナアウルに向かって伸び、マグナアウルはフック付きチェーンをそれに絡ませて鞭筋をずらし、ザリスの隣に居たガディの体を切り裂いた。

「ガディ姉さん!」

「うぐっ……ああああっ!」

 首と左半身から血を流しつつ、殆ど千切れかけた左腕で大剣を叩きつけるもマグナアウルはそれを紙一重で躱し、ショットガンで撃ち抜こうとするも剣のフラーで弾かれた。

「……ん?」

 よく見ればガディに負わせた傷に対して傷口が明らかに狭まっている。

「成程、あいつが無傷で復帰したタネはそれか」

 あの動物実験場に居た巨獣と同じ瞬時の治癒による超再生能力。おそらくあの巨獣を経てこの三人に組み込まれたのだろう。

「気付かれてしまいましたか」

 剣を地面に突き刺したまま血を拭う様に腕を撫でると、骨まで断たれて千切れかけていた腕が完全に繋がっており、首の方も完全に傷が消えていた。

「我々は永遠に倒れる事はない」

「強いのは当然のこと、死ぬこともないのです」

「あなたに私達が倒せまして?」

「ああ、だったら死んだほうがマシと思わせてやる」

 マグナアウルは投げ捨てた剣を引き寄せながら跳躍し、ザリスの鞭剣に巻き付けたままのチェーンを伸ばしてガディの斬撃やジェサムの銃撃を回避し、三人の体の一部が全てチェーンに巻かれてるような形にした。

「離しな……さいっ!」

 ジェサムが銃で撃ってもガディが刃に叩きつけてもチェーンの鎖素子は一切毀れず、マグナアウルは立てた人差し指を左右に揺らしてチェーンを手に取った。

「何秒耐えられるかな!」

 強烈な電流がチェーンに流し込まれ、三人は苦悶の絶叫を上げた。

「ぐぅああああああっ! ガディ姉さん! ジェサム! 意識を保って! ぐぐぐ……やるわよ!」

 何かを企んでいる事を察したマグナアウルは更に電流の威力を上げた。

「くっ……はああああっ!」

「おおおおおおおおおっ!」

「せやあああああああっ!」

 ガディとザリスとジェサムに流れていた三人分の電流がチェーンを通してマグナアウルに逆流し、手甲が煙を吹いて腕が爆ぜて裂けた。

「ぐあっ!」

 急いでチェーンを断とうとするもザリスが自身の鞭剣を引っ張ってバランスを崩させた。

「まず……どぅあっ!」

 バランスが崩れた隙を見計らいガディがマグナアウルを蹴り飛ばし、その上剣を叩きつけてさらに空高く打ち上げる。

「ジェサム!」

「分かってますわザリス姉さん……喰らいなさいっ!」

 赤く太いビームがマグナアウルの頭に直撃し、世界が白く染め上げられる。

「がっ……ぐっ! ごはっ!」

 地面に叩きつけられ、揺れる意識を辛うじて繋ぎ止めたマグナアウルは煙を吹いて裂けた左腕と周囲に倒れているクインテットを見た。

「……これはまずいな」

 おそらくクインテットの面々は今の攻撃をまともに喰らった、それも自分の装甲を破って意識が揺れる程の攻撃を。

 もしかしたら命の危険があるかもしれないのだ。

「ずいぶんと手古摺らせてくれましたけれど結局の所……そんなものですか?」

「口ほどでもないですわね」

 三姉妹の言葉を浴びながら、今危険な状態のクインテットをどうするかについて頭を回し始める。

(抜かった……何でそこまで頭が回らなかったんだ? バカやらかしたな)

『ご安心を、生命反応は全員分グリーンゾーンです』

(そうか良かった、怪我の度合いは?)

『それぞれこのような感じです。あとマゼンタカラーの鎧の彼女はもう少しで目覚めます』

 この状況を打開するとっておきの秘策を思いつき、マグナアウルは爆ぜた左腕の傷を回復させると、何を生成するか考えながら腕を前に出した。

「まあこれしきで倒れてもらっても困ります。これで倒れたらお姉様の目が間違っていたということになりますから」

スワロー()、いやイーグル(戦斧)だ……そうかそうか、でも実際お前達の姉ちゃんの目は曇っているな」

「フフフッ、マグナアウル、我々の前でお姉様を侮辱するとはどういう意味か分かっていらっしゃるの?」

「ああ、その上で言ってるんだ」

 ここで今まで倒れていたミューズの意識が戻り、まだ靄のかかる意識のまま目の前に立つマグナアウルと、それに相対するガディとザリスとジェサムが見える。

 驚くと同時に痛む身体を堪えながら、手を伸ばして必死に声を絞り出した。

「ダメッ! ……やみくもに突っ込んで勝てるような……相手じゃない!」

 マグナアウルはミューズを一瞥するもすぐに向き直り、なんとも大胆不敵に宣言した。

「お前達の姉ちゃんが思ってる以上に俺は強い」

 ガディは背後の妹達を振り返り、怒りを含んだ嘲笑の声を上げた。

「ですってよ?」

「そう? 天狗の鼻を折るの……私大好きですわ」

「ではその自信たっぷりな言葉、本当か試してみましょうか?」

 マグナアウルが戦斧の柄を掴み、刃部分が青白く光ったのを見て三人の方も各々の武器を取って臨戦態勢を取る。

「行くぞ」

 その宣言と共に第二ラウンドが始まり、ガディの斬撃をスライディングで回避すると戦斧を振り回して衝撃波を発生させ、ジェサムを弾丸ごと吹き飛ばした。

「ぐはっ!」

「ふっ!」

 ザリスの鞭剣がマグナアウルに伸びるも、これも戦斧から発せられる衝撃波によりあらぬ方向に飛んで行った。

「まだまだっ!」

 腕を翻して今度は突くような形で自身の背中から鞭剣を射出させるも、マグナアウルは剣を二本生成して鞭剣の進路を弾いた。

「よしっ」

 空いた方の手を翳すとこれまでの戦いで投げ捨てた剣が宙に浮き、それぞれ独立して三人に襲い掛かって来た。

「くっ! このっ!」

「小細工とは! 見下げたものね!」

「小細工ぅ? 笑わせるなよ」

 戦斧による衝撃波とそれぞれ独立して飛んでくる十本の剣を避けながら、戦いはますます激しくなっていく。

「はっ!」

 ジェサムの素早い銃撃でも追いつかない程に剣が次々と飛来し、ガディは何とかマグナアウルに肉薄して刃を三度程交えたが、すぐに剣が飛来してきて気を散らされる。

「チィッ!」

 ザリスもザリスで自身の得物の性質上、障害物があるとなかなか対象に攻撃を当てるのが難しい、よって飛んでくるマグナアウルの剣から自身や姉妹たちを守る事しか出来ず、マグナアウルに攻撃を加えることが出来ずにいた。

「そろそろだな、はっ!」

 左手のみで印を結ぶように手を動かすと、十本の剣が動きを止め、すぐに向きを変えて等間隔に地面に突き刺さって円を作った。

「何のつもり?」

「まだ想像つかないか? セイッ!」

 戦斧の柄を地面に叩きつけると地面に刺さった剣の装飾が発光し、それぞれが空中にビームを放って十角錐の光の屋根を形成した。

「まさか!」

「私達を閉じ込める気だったの!?」

「すぐに脱出を!」

 発生しつつある不可視の壁を乗り越えるよりも早く、マントを広げたマグナアウルが三人より高く飛んでいた。

「爆雷嵐ッ‼」

 振り下ろされた戦斧の衝撃波が雷電を伴った竜巻となり、壁を乗り越えようとする三人を引き寄せ、剣の作り出す牢獄に閉じ込めてしまった。

「マグナアウルッ! ……マグナアウルゥゥァアアアアアアアアアアアアアアッ!」

 

 怒りの絶叫を背にマグナアウルは飛行を続け、五組のチェーンを射出してクインテット全員を包み込み、そのまま空中で飛行形態に変化して飛び去ってしまった。

「ここいらか……よっ!」

 数キロ先で飛行形態を解き、マグナアウルは細心の注意を払いながらチェーンで出来た袋を地面に横たえ、五人を楽な姿勢にして寝かせた。

「マグナアウル……また、助けられたね……」

「なんだ起きてたのか、いいからじっとしてろ」

 右手に緑色の光の塊を出現させ、それをゆっくりと押し出すように翳すと、ミューズの体に蟠っていた痛みと怠さが嘘のように消失した。

「……治ってる⁉」

「あくまで応急処置だぞ、向こう五時間は安静にしていろ」

「待って、あの三人は?」

「話を聞いていないのか? あいつらなら俺が閉じ込めた、早くても十二時間は出れないだろうな」

 全員の治療を終えると、マグナアウルは立ち上がってマントを広げた。

「警告しておく。今後あいつらと戦うのはお前達の勝手だが、それなりに対策を立てておけ。いつでも俺が来るとは限らんぞ」

 それだけ言うと礼を言う隙も見せず飛び去ってしまった。

「……」

 スーツを脱がず、ヘルメットだけを取った奏音は傷だらけの自分のもう一つの顔に額を当てると、地面に拳を叩きつけた。

「絶対に……絶対にリベンジしてやる。私だって……私達だって……やれるんだ!」

 月明かりが照らす森の中、奏音は一人闘志に燃えるのだった。


To Be Continued.

ついに幹部の一人のクドゥリが動き出したぞ~!

自分のクローンを三人生み出して向かわせてきました。

クインテットボロ負け、マグナアウルは逃げに徹しました。

果たしてガディ、ザリス、ジェサムには勝てるのでしょうか?

感想コメント、Twitter(現X)のフォローよろしくお願いします。

それではまた来週。

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