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青春Double Side  作者: 南乃太陽
京助編
45/45

宇宙侍、罷り通る!

とんでもない奴がやって来た!

そいつは宇宙を移動し、時空を切り裂き、どんな奴も敵わない剣技を持っている!

今回のそいつのターゲットは我らがマグナアウルだ!

果たして京助はそいつに勝てるのか!

 この地球は多くの者から狙われている。

 外からの侵略はもちろん、地球内部で万年単位で雌伏していた強大な存在や、ずれた位相の異次元空間に潜む脅威、はたまた何かから唆された地球人によって狙われている。

 それは様々な知恵と力と勇気ある者達の不断の努力により防がれており、ここまで語られてきた真鳥市を狙うジャガックとの戦いもその一部である。

 その戦いには関係なしに〝それ〟は突然現れた。

 傍から見ればそれはただの隕石にしか見えないそれは、まるで意思があるかのように進路上にあるものを切り裂き押し退け、そうしてついに地球の大気圏を突き抜けた。

 多くの観測者が〝それ〟を観測していたが、不思議な事に突如上空で消滅してしまい、大概気のせいかと思って流してしまった。

 だが〝それ〟は確かにやって来ていた。天然の隕石を宇宙船のように使い、姿なきこの地球の大地を踏みしめていた。

「うむ……」

 煙立つ地球にはない素材で形成された大岩を背に、その人型は周囲を見回して厳かな声色で呟く。

「良き空気じゃ……ヌアァッ‼」

 空気どころか空間をも引き裂くような一閃の後、大岩は綺麗に一刀両断されていた。

「ここまで乗せてくれて感謝するぞ。そしてこの星に住まう強者よ……今度こそ、そなたが我が百万年に渡る未練を断ち切ってくれる事を期待しておるぞよ」

 主なき声は徐々に実体化し、モザイク状に乱れながら様々な姿を取ると編笠を被った浪人侍の姿に変わり、夜の山道に姿を消した。


 翌日、真鳥市の上空で一筋の流星が観測されたという話を小耳に挟みつつ、京助は久々に登校していた。

「おはよう諸く……な、なんだよ? どうした?」

 教室に居る全員が京助を見ている。

「……」

「……」

 沈黙の只中に刺さる視線が痛い。

「なんだよ、怖いよ……なんか喋ってくれよ」

 その沈黙を破ったのは、親友四人組の一人である弘毅であった。

「お前……本物か?」

「おう、俺は紛れもなく千道京す……」

「京助が帰って来たぞぉ~‼」

 弘毅の号令により、皆一斉に教室の入り口に居る京助に駆け寄った。

「おわっ! 危なっ! 転ぶ転ぶ転ぶ!」

「お前ぇ! どこ行ってたんだよ!」

「大丈夫だったの⁉ 何があったの⁉」

「ちょっと幹人呼ぶわ!」

 何だが話が見えないなか、ビデオ通話で繋がった幹人と対面する。

『オイオイ! マジか! お前本物なのか⁉』

「そうだよ、俺は紛れもない本物だよ……てかなんでみんなびっくりしてんの?」

「お前知らないのか?」

 曰く、京助は幹人への見舞いの後に誰とも連絡がつかず、半ば行方不明扱いになっていたとのこと。

(やっべぇ~! そうだった! すっかり忘れてた!)

 ウィッカーアウルや死徒の残滓に関するゴタゴタですっかり忘れていたが、あの後奏音や林檎以外の誰とも連絡を取っていなかった。

「あぁ……そのぉ……」

「記者会見開いてもらおっかな」

「え?」

 教卓に座らせられ、大量のスマホのフラッシュを浴びながら京助は困惑交じりの神妙な顔を浮かべてなすがままにされていた。

「え~、この度は様々な理由から皆様にご心配をおかけしたこと、大変申し訳ございませんでした……」

「今まで……どうされていたんですか?」

「えーっとですね、主に長年の持病から来る体調不良が原因で外に出れなかったり、人とやり取りする事が大変難しい状況が続いておりまして……最近になって回復するまで安静にしていました」

 原因については嘘は言っていない、死徒の残滓は殆ど病気みたいなものだから。

 持病というワードが出てきたことに皆一瞬動揺し、そこについて突っ込むのはやめようという暗黙の空気が形成される。

「今は大丈夫なんですか?」

「はい……え~懸命な看護をね、してくださった方のおかげでね……なんとかね」

「お相手の方は直江奏音さんですか?」

「はい、まあ色々な人が来てくれましたがその通りで……それ関係ありますか?」

 上手い言い訳を必死で構築している中で茶化された為、一瞬思考が停止する。

「お、逆切れかー?」

「名場面だ~! 撮れ撮れ!」

 その後滅茶苦茶にフラッシュを焚かれながら幼い頃に見た記憶がある号泣会見のマネをしていると、担任の阿澄が騒がしい事を注意しながら入って来た。

「こらこら、もうすぐ二分前着せ……ああっ⁉ 京助ェ! 京助じゃないか!」

「ああ、先生お久しぶりです、ご心配かけてどうもすみません」

「大丈夫なのか⁉ 怪我とか病気とかしてないか?」

「ええ、おかげさまですっかり良くなりました」

「ジャガックとかウィッカーアウルとの戦いに巻き込まれたりとかしてないか?」

「ああ、そのぉ……それに関しては奇跡的に免れたと言いますか……」

(ていうかウィッカーアウルってジャガックと同じ括りに入れられてるのかよ……)

 死徒の残滓によるものだとはいえ、一応自分がやった事であるため、なんだか自分が責められているような気がする。

「まあとにかく、持病のせいで連絡も取れないぐらいには臥せってたんですが、色々な人たちのお陰でここまで回復しました」

「そうか、良かったぁ……先生たち皆心配してたんだぞ」

「すみませんねぇ。まあこうしてまた行けるようになったんで、これからまたよろしくお願いします。お前らもよろしくな」

 歯を見せて笑う京助に男子衆は皆の友人が戻って来たという安堵感を、女子の一部は謎のときめきを覚えていると、教室の戸が開いて奏音が入って来た。

「ギリギリセーフ! あれ? なんでみんな京助の事囲んでるの?」

「あぁ~、みんな俺と久々に会えて嬉しいって」

 満面の笑みを浮かべてサムズアップをする京助に対し、奏音も「そっか」と言ってからサムズアップを返した。

(この二人には……)

(敵わないなぁ)


 午前中で授業を終え、休んでいる間の追加課題も特に課されなかった為、京助はウキウキで帰ろうとすると、奏音と林檎に肩を掴まれた。

「おうおう、どうした?」

「シー……集合かかった」

「なんか起きたのか?」

「うん、まとめて動いた方がいいから、とりあえずついて来て」

 三人は調理科が使っている棟に向かい、使われていない教室に入ると、既に皐月と明穂と麗奈が居た。

「お待たせ、待った?」

「ううん、大丈夫」

 なんだか皐月と明穂と麗奈の制服姿を見るのはかえって新鮮な気がして、京助は物珍し気に三人の方を見た。

「コラァ! なんでジロジロ三人の方見てんのよ! ガード!」

 奏音が京助の目を手で覆い、京助はその手をどけて弁明する。

「いやさぁ、なんかこの三人の制服姿ってなんか新鮮でさ」

「あぁ~……確かに、私達ここしばらく会う時は私服だったもんね」

「私達も京助君の制服見るの初めてな気がしますね。えっと……ちょっと気になるんですが」

「ん? どうした?」

「普通科の男子の制服って、サスペンダーなんですか?」

 林檎は麗奈の腕を引っ張って耳元で囁くように言った。

「あいつね、ベルトが嫌いなんだよ。ベルト嫌いが高じて先生に直談判して許可されたからサスペンダー使ってんの」

「ベルト嫌いって……どういうことですか?」

「さあ、あいつ相当ヘンだし」

「全部聞こえてんぞチビスケ」

「おわっ! コラァ! 誰がチビスケじゃ!」

 腕をぐるぐる回してこちらに向かって来る林檎の頭を京助が抑えつつ、京助は耳を掻きながら言った。

「梟は耳が良いんだよ。ていうか相当ヘンってお前にだけは言われたくないわ!」

「はいはい、遊ぶのはその辺にしてね、さっき財団の人から連絡があったんだけどね」

 曰く、真鳥市内で地球にない組成の岩が見つかったという。

「地球にない組成の岩? それって隕石って事?」

「まだ分からないみたいですね」

「そーいや今朝真鳥市上空で流星が観測されたってニュース見たな」

「じゃあマジメテオって事?」

「そうなんだけど、その割に大きいんだよね」

 発見された隕石は、なんと直径五メートルだったという。

「直径五メートルだって⁉」

「う~ん……ごめんだけど、どれくらいヤバいのかよく分からない」

「大きく見積もって隕石の直径は形成するクレーターの二十倍とされているみたい」

「五の二十倍だから……直径百メートルのクレーター⁉ なんでニュースになってないの⁉」

「うん、そこが不思議なところのうち一つでして。その岩の周囲にはクレーターが形成されていなかったそうです」

「不思議なところの一つって……また何かあるの?」

「それが……」


 場所は変わって真鳥市の山中。

「なるほど……」

「こりゃ確かに……」

 作業中の財団職員たちの中で、制服姿でいる浮いた様子の六人の前に聳え立つは、五メートルの巨岩である。

「不思議だな……」

 ただし、その巨岩は真っ二つになっており、その断面はまるで鏡面を思わせる程美しかった。

「すみません、触っても良いですか?」

 周囲に指紋を付けないならという条件で許可され手袋を渡されたが、京助はそれを返してから右腕を左手で掴むと、目を瞑って深呼吸して腕に力を込めた。

「フンッ!」

 京助が気合を入れると右腕だけマグナアウルの装甲で覆われ、それを真横で見た林檎が興味深そうにその様子を見た。

「そんな事出来んの?」

「いや、今初めてやったよ。結構疲れるなコレ……あ、コレだと指紋つかないので良いですよね?」

 職員から許可を貰った京助は、真っ二つにされた巨岩の断面に顔を近づける。

「すごく綺麗な断面だな、表面が焦げてないから光学兵器でもない……一体全体何で斬ったらこうなるんだ?」

『超硬質の刃を持つ刀剣に、高周波を流して切断力を上げたもの……ではないでしょうか?』

「それだけじゃない、断面が全て均一だからこいつは一瞬のうちに斬られた可能性が高い……直径五メートルの岩だぞ?」

 この岩を斬った何かは、直径五メートルもの大きさの地球外の硬い岩石を、一瞬のうちに容易く一刀両断したことになる。

「まるで……空間ごと切ったみたいだ」

「じゃあこれも超能力案件?」

「空間ごと斬るって……そんな事出来るの?」

「それは分からないけど、もしも空間ごと何か物体を切ることが出来るような奴が現れても不思議じゃないね」

 京助はゼロアウルになった父がウィッカーアウルを放逐した時に、空間をアウルウィングで切り裂いていたのを思い出す。

「京助は出来る?」

「俺はやった事ないけど空間に干渉する系の能力なら、あらゆる物体を零次元にまで〝分解〟するのは出来るぞ」

 さらりととんでもない事を言ってのけた京助に、五人は若干引いてしまった。

「京助君……そんな事出来たの?」

「ああ、フィッシャーキングって覚えてるか? アレだよ」

「ああ~虹色のボウガン?」

「そう、アレ使うと結構エネルギー使って疲れるし、一発切りの虎の子だから滅多に使えないんだけどな」

 思えばフィッシャーキングは大侵攻とパラクスモウォートでのイダム戦でしか使っていない。

「もしも京助の予想が当たってるとして、硬い岩を空間ごと斬っちゃうような存在が……地球に現れたって事になるよね」

「うーむ……」

 ジャガックとの戦いとの最中、突如宇宙から現れた謎の存在。

「敵に回られると厄介だな……」

「おや……皆さん!」

 調査でモニターを見ていた財団職員が、六人に呼び掛ける。

「どうしたんですか?」

「ジャガックの襲撃が始まりました、我々の車両で向かってください!」

「そうなんですか、ありがとうございます!」

「次から次に厄介だな……ここでやっとくか?」

「そうだね、皆準備はいい⁉」

 奏音、皐月、明穂、林檎、麗奈が転送鍵を取り出し、最後に京助が右腕にアウルレットを出現させ、手を翳して次元断裂ブレードを出現させる。

「Vモードオン! GO! クインテット‼」

「招来‼」

 マグナアウルとクインテットになった六人は用意された車に乗り込み、急いで現場へ向かうのであった。


 数分後、空中に複数の輸送船と、その下で大暴れするジャガック兵達の只中に一台の車両が突っ込み、その中からクインテットとマグナアウルが現れた。

「まずはここ一帯のの片付けからだね」

「おう、任せろ……アイビス(護手鉤)

 二振りの護手鉤を生成したマグナアウルは刃を擦り合わせ、(ヘルム)の中でニヤリと笑う。

「そういうの、大得意だ」

「だろーね、んまぁ……やっちゃうか!」

 イドゥンがミサイルマシンガンを自分のライフルにマウンドして、各種武装を展開しながら武器を構え、それを合図に皆一斉に動き出す。

「そぉらっ‼ ご挨拶に持ってけぇぇええい!」

 イドゥンのライフルからミサイルとビーム弾が雨霰の如く放たれて直進上のジャガック兵は次々倒れていき、その空いた通路をルナが疾走して二つの刃で切り裂いていく。

「よっ! たぁっ! だあああっ!」

 蹴りと突きを繰り出して多くのジャガック兵を吹き飛ばしたデメテルは、トドメにドリルとハンマーが取り付けられたロケットパンチと高火力ビームで一掃し、アフロダイもナギナタを振り回して的確に敵を切り裂いていく。

「フッ! ハッ! セエエエエエヤッ‼」

「おおおおっ! やああっ!」

 護手鉤で相手を凄まじいペースで引き切り裂くマグナアウルの隣で、ミューズがハルバードの回転刃を用いて一度に多くのジャガック兵を片付けていく。

「マグナアウル!」

「おう!」

 呼びかけられたマグナアウルがミューズとデメテルの方へサイコエネルギーを送り込み、ハルバードの回転刃とナックルアームに莫大なエネルギーが発生し、巨大な刃と高火力ビームがジャガック兵を一掃する。

「俺もやるか、大裂旋‼」

 マグナアウルのマフラーが伸び、その場で高速回転しながらまるで竜巻のように移動し、多数のジャガック兵を護手鉤とマフラーでジャガック兵をミンチにしていく。

 そうして旋回しながら十数メートル移動し、クインテットの五人から離れた所で停止して護手鉤についた血を振り、武器を捨てて次の一手を考えながら、マグナアウルは何気なく振り返った。

「わぁおっ⁉ 何やってんだあんた!」

 振り返ったマグナアウルの真後ろに、何とも奇妙で酔狂な格好をした人物が居た。

 年の頃は三十から四十で、流し目が光る往年の名優に似ているその男は、編笠を被って和服を纏い、それなのに何故か日本刀ではない変な形状の剣を腰に差しており、あれだけ目の前で大暴れしているジャガック達を見て平然としている。

「なんで避難してないんだ……危ないから逃げてくださいね」

「……見つけた」

「あ?」

「そなたが〝そう〟なのだろう?」

「何言ってんだ?」

「儂には分かる、そなたこそ儂が求める男だという事がな」

 なんだか会話が通じないが、どうやらこの男は自分を探していたらしい。

「あのねお兄さん、俺達戦ってるの。危ないから安全な所に行っててくれる?」

「ふむ……」

 編笠を抑えながら顔を上げて上空のジャガックの船を視認した男は、まるでその辺の石ころを見るかのような調子で告げた。

「あれ、邪魔じゃ」

「あ?」

 何の感慨も無く呟いた言葉を残し、男は腰に差した剣を抜くとその場で跳躍して船の翼に着地すると、何をどうやったのか一瞬でそれらを細切れにして〝解体〟し、そのまま落下して地上に残っていたジャガック兵を一瞬で切り裂いてしまった。

「……はぁ?」

 この間、僅か二秒にしか満たず、この様子を全て見ていたマグナアウルはもちろん、一瞬で相手が消えたクインテットも困惑するしかなかった。

「え? 消え……えっ⁉ えぇっ⁉」

 地面に広がる滅多斬りにされて〝解体〟されたジャガック兵を見て、五人はただただ困惑するしかない。

『京助! 上!』

「んあ⁉ おお! ヤベェ!」

 マグナアウルは上空に手を翳して解体されたジャガックの飛行船のパーツを念力で縫い留めると、もう片方の手から青い炎を放って全て焼尽させてしまった。

「ひとまず安心かな……しかしなんだあいつは?」

 刃を翻して納刀すると同時に、男は一瞬でこちらへワープしてきて、編笠を抑えながらマグナアウルの方を見上げる。

「儂の名はジガル。強さを望むのであれば素顔を晒して儂の名を呼ぶがよい、そなたに我が命を賭して完成した奥義を授けよう」

「奥義!」

 ジガルはその場から消失し、マグナアウルはその場に立ち尽す他なかった。

「ねぇ……さっきの侍みたいな人誰?」

「分からん……ただ一つ言える事がある」

「え?」

 マグナアウルの脳裡に、あの巨岩の美しい断面が浮かぶ。

「あいつがあの隕石を斬ったんだ」

 僅か二秒で上空と地表を行き来し、その間に無数の船とジャガック兵を細切れになるまで〝解体〟して見せた技量があれば五メートルの巨岩を一瞬のうちに断ち斬るのは不可能ではない筈だ。

「あの隕石を斬った人が……ジャガックをああしたんだよね?」

「じゃああの侍さんは私達の味方?」

「分からない、ただあいつは宇宙から来たってのは確かだな」

「分かんない事ばっかだなぁ」

「俺だって何でも知ってるわけじゃない……ただ何か知ってそうな奴に心当たりはある」

 その〝知ってそうな奴〟には、五人も心当たりがあった。

「今から行く?」

「ああ、手を取って」

 六人はお互いに手を繋ぐと、何処かへとワープするのであった。


 クインテットの五人はスーツを脱ぎ、マグナアウルは京助の姿に戻ってから、森が深い場所に鎮座するこの場には不釣り合いな|スターインターセプター《個人宇宙船》の前に並び立つ。

「これがサイの?」

「ああ、ゼバル号って言うらしい」

 そう言いながら京助は船の入り口を乱暴に叩きながら言った。

「おい! ジェノサイドカプリース! 開けろ!」

「えぇ……そんなんでいいの?」

「いいんだよアイツの扱いはこれぐらいでな。開けんかい! コラァ!」

 とうとう絶え間なく続く打撃音に辟易したのか、サイが寝惚け眼で扉を開けた。

「何だよ全く……寝てたのに」

「よう、皆で遊びに来たから入れてくれ」

「遊びに来たんじゃないでしょ……」

「なんだ……六人お揃い? 入ってくれ」

 てっきり追い返されると思ったが、すんなり入れられたことに五人は驚きつつも、初めてゼバル号に足を踏み入れる。

「中広いですね」

「結構綺麗にしてあるね」

「んね、もっとごちゃごちゃしてるかと思ってた」

「あのねぇ、こう見えてこの仕事移動が多いから整理整頓しないと命に係わるんだ……んで、君達は何の様でここに?」

「ああ、七人でトランプでも……」

「んっうんっ!」

「……ちょっと聞きたいことがあってな」

 サイが茶を淹れようと急須を持ち出して背中で答えた。

「聞きたいこと? ああ、そんな事なら……」

「ジガルって知ってるか?」

 陶器が割れる音がして、皆の視線が一斉にサイの方へ向く。

「え? 大丈夫? どうしたの?」

 サイはそのままの姿勢で固まっていたが、ゆっくりと後ろを向いたその顔は、驚愕と恐怖と好奇が入り混じって引き攣っていた。

「今……ジガルと言ったか?」

「ああ、なんかそんな名前の侍みたいなおっさんが俺に奥義を……」

「嘘だろ?」

 サイの顔は紅潮したり青ざめたりして、それを見る京助達はただただ困惑するばかりである。

「……ああ」

 サイは自分の顔を大きく多い、深い紅の髪を撫でつけて言った。

「もう君は逃げられない……どこへ行っても」

「はぁ?」

「ジガルに目を付けられた者は……もう逃げられないんだ」

「逃げられないって……どういう意味?」

「ついにジガルがここまで来たか……」

「そんなにヤバい奴には……まあ見えるか。でも敵には見えなかったぞ」

「君はジガルを知らないからそう言える、奴はとんでもなく恐ろしい存在だよ」

「……聞かせてくれ」

「良いだろう、アレは今から十万年前の事」


 ジガルの生まれはピートスという惑星であり、現在では煌びやかな都市に覆われた惑星だが当時は都会と田舎の差が激しく、ジガルはそこの農村で生まれ育ち、やがて三人の子宝に恵まれる。

 その頃のピートスでは都市開発により土地の地上げが行われており、ジガルの住んでいた村が目を付けられるのも時間の問題であった。

 立ち退かない農民達に痺れを切らした業者は、ついに乱暴な手段に訴え、農村を襲撃した。

 圧倒的な威力を持つ最新鋭の武器を駆使して村を襲う地上げ屋に対して、ほぼ何もできなかった村民たちは逃げるしかなかった。

 だが唯一人、ジガルだけは違った。

 泣き叫ぶ我が子の姿を見たジガルは、狩りの為に使っていた刃を手に疾風の如く向かって行き、なんと全ての武器をその刃一つで切り裂いてしまったのである。

 極限状態に追い込まれたジガルは、この瞬間時空に関する能力に覚醒したとされている。

 それから寿命が来るまでの間ジガルは村をその技で守り抜き、最期は六代後の昆孫達にまで看取られてその生涯を終えたという。


「……」

「……普通に良い話じゃねーか」

「これのどこが恐ろしいの?」

「まあ待て、これから恐ろしくなるから」


 だがジガルの肉体は滅んでも、魂は超能力者故かそのまま保たれていた。

 村を守り抜き、昆孫にまで看取られたジガルには未練もなく、そのまま宇宙へ還るものかに思われたが、ただ一つの未練を残した。

「我が剣技……このまま朽ちさせるのはあまりにも惜しいのう」

 ジガルは家族には一切戦わせようとはしなかった為、継承者が居なかったのだ。

 だが長年戦ってきて生まれた「戦士としての自分」が、このまま永遠にこの剣技を埋もれさせてしまうのは惜しいと囁き、ジガルはそのまま宇宙を彷徨う事になったのである。


「つまり、今のジガルは幽霊って事?」

「そうさ、十万年の間宇宙全体を彷徨ってる幽霊さ……肉体に縛られなくなった奴は様々な姿を取ることが出来る、人間の侍の容姿なのはそれが理由さ」

「それに京助が目を付けられたと……」

 そう聞くとなんだか恐ろしい話に聞こえなくもない。

「奴の恐ろしさの真髄はそこじゃない。奴の未練が引き起こした行動は……十万年に渡って奴の名をこの宇宙に刻みつけたんだ」

「何をやったんだ?」

「……奴は自分が強者と見定めた者へ奥義の伝授を行うと言い、まずその資格を問うと勝負を挑む」

「そして?」

「挑まれた相手は絶対に斬られて死ぬ」

「何だって?」

 それだといつまで経っても継承者が現れないではないか。

「その幽霊侍って矛盾してない?」

「ああ、見込みありとした奴を全員斬り殺してるからな……ボクも一度会った事があるが、奴の剣技は恐ろしかった」

「会った事あるのか? じゃあなんで生きてんの?」

「その時のボクはまだ子供だった、それに奴に見込まれたのはボクではない」

「子供の頃って事は、お前の……おやじさん関連のか?」

「ああ、何者でもなかったボクにサイという名を与え、技術を叩き込んだ暗殺者集団の頭領(おやじ)……その次男坊が奴に見込みありとして狙われ、奴に斬り殺されたのをボクはこの目で見た」

 今度は自分が狙われる番だと思うと、京助はなんだか一気に気分が重くなってきた。

「多分奴は自分の能力と技術を組み合わせ、斬りたいものを周囲の空間ごと斬っているんだ。それだけじゃない、十万年に渡る放浪によって奴は時空間の秘密に触れ、時間を斬ったり因果律に干渉することも出来ると考えられている」

 ただでさえ周囲の空間ごと物体を斬り裂くというとんでもない剣技の持ち主が、時間や因果律にまで干渉してくるとはどんな悪夢だと京助は内心辟易してしまった。

「頭痛ぇ……なんで俺は宇宙ギャング(ジャガック)とか嵐を纏う傭兵(おまえ)とか変なのに目を付けられやすいんだ」

「おい、ボクをジャガックなんかと並べるな……まあでもジガルを引き寄せたのは間違いなく君の因果の渦だよ、これをどう生かすかは君が決めろ。一応今なら辞退って手もあるよ」

「いやいや、辞退一択でしょそんなもん」

「ストロンガー・オア・ダイなら……さすがに釣り合いませんよね」

「んね、ハイリスクハイリターンとは言うけど、流石にこれはリスクがデカすぎるわ」

『皆さんの言う通りですよ。命を最優先に』

 皆は口々に辞退を勧める中、京助は一言も発さず何か考え込んでいたが、しばらくすると立ち上がってゼバル号から出ると、大きく息を吹いこんで空を仰ぐ。

「おおおおおおいっ! ジガルゥッ‼ あんたの事を聞いた! 俺が未練を晴らしてやる! だから俺に!」

 息継ぎで肺胞全てに空気を送り込み、それを一気に開放しながら殊更大きな声で京助は空に向かって叫んだ。

「奥義を伝授してくれぇぇぇぇぇぇえええええええええっ‼」

 京助のあまりな突飛な行動に、サイやトトを含めた七人は唖然としてしまった。

「はぁぁぁぁあああっ⁉ 何を考えているのです⁉」

 鳥形態になったトトに頭を突き回されている間に奏音が大股で京助に近づき、ネクタイを掴んで顔を寄せる。

「バカなの⁉ 大バカなの⁉ レジェンド級のバカ⁉」

「いてててて、俺は至って真面目だよ!」

 奏音に続いて皐月と麗奈も捲し立てる。

「話聞いてた⁉ 因果律を操る相手だよ⁉」

「そうですよ! そんな相手とやり合って勝てる算段があるんですか⁉」

「いやその……ってぇ!」

 追いついた林檎の不意打ちカーフキックを喰らって、京助は片足で二歩後退する。

「バカ野郎が、ウチの攻撃すら見切れないくせに何トンデモない相手に向かって行こうとしてんだよ!」

「そうだよっ! 京助君相手でもこれは危ないって! 死んじゃうんだよ⁉」

「落ち着けよ、ちゃんと俺には俺の考えがあってだな……」

 京助が言い終える前に、衝撃と共に編笠を被った侍が現れ、編笠の鍔を抑えながらこちらを向き、京助以外の者は思わず全員後退りしてしまう。

「儂の事を知っておる者がおったようだな。どんな奴じゃ?」

 ゼバル号の出入り口から寝間着からいつもの服に着替えたサイが、紅蛇を持ってジガルを睨んでいた。

「おお、三万年前(いつぞや)童子(ボン)ではないか。あれから相当な手練れとなったと見受けるが、お主では儂の未練を叶えられなんだ」

「なんだと?」

「決してお主が弱いと言っている訳ではない、ただこの星ではこの者でないといかんのじゃ……そなたの名を聞こう」

「千道京助」

「もう一つの名は?」

大いなる梟(マグナアウル)

「良き名じゃ……では京助殿、剣を取るがいい」

 

 周囲の空気が一瞬で変わり、サイですらそれに気圧される中、京助はそれを真正面から受け止めつつアウルレットの次元断裂ブレードを振るい、十七次元の壁を断ち切った。

「招来ッ‼」

 マグナアウルとなった京助は剣を生成して刀身を半物質化させると、正眼に構えて正面からジガルを見据える。

「ほう、儂を正面から捉えたか……面白い」

 ジガルもあの奇妙な形状の剣を取り出し、向かい合った二人はしばらく硬直した状態で静止していた。

「これからそなたには儂の奥義を授けるに相応しいかどうか最後の試練を課す……準備は良いな?」

「ああ、覚悟はもうしてある」

「良かろう、そなたがやる事は儂が技を繰り出す前に一撃入れる事じゃ。ただそれだけで良い」

 てっきり技を完全再現しろと言われると思っていたが、案外あっさりした達成条件に拍子抜けしてしまったが、マグナアウルはすぐに気を引き締めた。

「では行くぞ……」

 高速移動でジガルの懐に飛び込もうとしたその時、マグナアウルの真横を風が吹き、気が付くとジガルの姿が目の前から消えていた。

「は?」

 剣を構え直そうと持ち上げると刀身がバラバラになっており、更に何故かアバターが解除されて京助の姿になっていた。

「……」

 恐怖を覚える前に、京助は感動してしまった。

 ジガルはこの一瞬で半物質で出来た刃をバラバラに解体し、その上で十七次元上にある京助の魂から送られるアバターの繋がりを断ち切ってしまったのだ。

「……宵まで時間をやる、儂に一撃を入れる方法を考えるのじゃ」

「……」

「次は儂から出向く、じっくり考えるのじゃ」

 バラバラになった剣の柄を握ったまま固まっている京助を残し、ジガルはその場を去って行った。


 場所は移って千道邸の地下。

 もはや京助を責める者は誰も居らず、どうすればこの状況を打破できるか、皆それぞれ考えていた。

「マグナアウルの剣ってさ、基本何でも斬れるよね?」

「そうそう、半物質だっけ? それすら斬っちゃったし……アバターを消しちゃったのはどんな理論?」

「多分だけど、高次元からの繋がりを断ち斬ったんだ。クドゥリが似た技を持ってるけど……ここまで洗練されたのはボクも初めて見た」

 サイを含めた皆が対策を話し合う中、京助は離れた場所で一人剣を構えてじっと前を見続けていた。

(一瞬だったが、確かに見えたんだ)

 ジガルの動きや太刀筋を何度も思い起こし、京助はそれを糸口にどう対抗するかを必死に考える。

 技術と力は圧倒的だったのは身につまされた、だが試練というだけあってジガルは分かりやすく前動作を入れていたのを確かに見た。

(あの瞬間……あの一瞬に……一瞬で……)

 ダメだ。

 あの一瞬があったとて、次の瞬間バラバラになっている自分が浮かぶ。

 一瞬の隙があったとしてもあの剣技の前では何も出来ないし、踏み込めたとしても首と胴が永遠の生き別れである。

 如何にマグナアウルが硬かろうと、どんなに頑丈にサイコエネルギーの障壁を組んで防壁にしたとて、空間ごと斬ってしまわれては完全に無意味だ。

「畜生ッ!」

 剣を床に突き刺して京助はその場に寝転び、突然の大声に奏音達は身を震わせる。

「もう……いきなり大声出さないでよ」

 奏音が水とタオルを持って来て京助に差し出し、京助はそれを受け取ってから起き上がった。

「すごい汗……全然動いてないのに」

「ああ、あんなの喰らうってイメージすりゃ汗も出るよ」

「責めてる訳じゃないんだけど、なんでジガルの奥義の伝授を受け入れたの?」

「まず俺はこれ以上ジガルの被害を食い止めるべきだって思っちゃったんだよな」

「うーん……」

「ちょっと考えてみたらさ、十万年もの間未練を引きずって、家族を守った技で多くの人を斬り殺しながら宇宙を孤独に彷徨い続けてるのって……なんだか哀れに思えてきてさ」

 一旦水を飲む京助を、奏音は少し恨めしそうに見る。

「まあ確かに自分が強くなるかもっていうのはあったよ? でもこれ以上ジガルの被害を食い止め、その未練を断ち切れるのは今俺しかいないって考えると、体が勝手に動いてた」

「そういう所が……」

 言いかけた所で奏音は言葉を呑み込んでしまった。

 京助が偶に見せる無私の精神に奏音は惹かれているのは事実だ、困っている者は放っておけない京助の事はかっこいいと思う。だが京助が命を賭してこの街を守っている存在であるのならば話は別である。

 強き者であるが故に、自分にしか出来ない事があると思ったのなら、京助は迷わず飛び込み突き進む。

 見ていて危なっかしくて仕方ない、これまでのマグナアウルの戦い方を振り返ると尚更である。

 そういう所が大好きで、大嫌いだ。

「……」

(私は何て……言えば良かったんだろ)

 もはや賽は投げられてしまった、転がる前にその賽を取って無効試合を宣言してやりたいが、自分では力不足だ。

「そんな顔すんなって」

「なんで私がこんな顔になってるか全く分かってないような口ぶりだね」

「それは……ゴメン。奏音の心情的にもあんまり気持ちがいいもんじゃないよな」

「そうじゃなくて……」

 もっと自分の心配をしろと言いたかったが、上手く言葉が出てこない。

「分かってるよ、奏音が言いたいこと。でも仕方ないだろ? 俺はマグナアウルなんだし」

「仕方なくなんか……ないよ」

「え?」

「あんたはマグナアウルである前に……千道京助でしょ」

 そんな事を言われるとは思っていなかった京助は、目を見開いてきょとんとした表情になる。

「強いからってさ、なんでもかんでも抱え込めるわけじゃないんだよ。そうやって京助は一回潰れちゃったじゃん、そんなふうに自分にしか出来ない事を何でも抱え込むと……また潰れちゃうかもしれないし、命が危ないかもしれない」

 奏音の声は平坦であるため、声に乗る感情を京助は推し量れなかった。

「京助ばっかり重荷を背負う事ないんだよ。本当に危ないと思ったら、逃げないと……いつか死ぬよ。京助が死ぬの、私は嫌だよ」

 それだけ言って奏音は立ち上がると、皆の元へ戻っていった。

「……そうか」

 結局の所、京助の内面はあまり変わっていなかったようだ。

『結局……俺の抱え込みすぎる性は変わってなかったみたいだな』

『そうですね、私も幾度となく矯正を試みましたが……五年かけても無理でした』

『良くねぇよな……分かっちゃいるんだよ』

『あなたのノブレスオブリージュ的精神は良い事です。その年齢でその力を持ちながら、自分を律することが出来ているのはとても素晴らしい。ですが自分を顧みないのは悪癖ですよ、心当たりがあるでしょう?』

『ヘヘッ……確かにそうだな』

 危険な状況でも必ず切り抜けてきた自負はあったが、事実何度かかなり危ない場面もあった。

『反省……したいところだが、それは後回しになりそうだな』

『ええ、日没までにあの剣技の攻略方法を見つけなくては』

 わざわざ前動作を入れたのだ、ジガル程の使い手であればそんなものは不要であるはず。

 意味ありげに入れられた動作にこそ、何か攻略の糸口があるように思う。

「ジガルは……敵じゃない」

 何気なく口をついて出た言葉に、皆一斉に振り返る。

「ちょっと……それどういう意味?」

「どう考えても敵ですよ、京助君の命を狙いに来てるんですよ」

「まあ落ち着けって、ジガルの真の願いは技の継承、本当は相手を斬り殺したくなんかない筈なんだ。だから本来は敵じゃない……今まで斬り殺された者達は、何か見落としていた可能性が高い」

「お前ッ! ああ……すまない」

「ごめんよサイ。お前の兄貴分を悪く言うつもりはなかった、でも俺は確かにジガルがヒントを残したのを見た。ジガルは剣技の継承を通して言いたい事、伝えたい事がある筈なんだ」

 武術は何のための技か、何を目的としている技なのかという理論が大抵定められており、それを通して心身を鍛える。

 だから我流とはいえジガルの剣技にもそれがある筈なのだ。

「成程、君の言いたいことは分かった。我流とはいえあれも立派な武術だからね」

「剣技を通してジガルが言いたいこと……ですか」

 小学生の頃まで薙刀道をやっていた麗奈は、少し思い当たる節があった。

「麗奈ちゃん、何か分かるの?」

「ええ、昔薙刀を」

「え、そうなの⁉」

 アーチェリーに薙刀にギター、麗奈のバイタリティーは凄まじいものがあると京助は感服せざるを得ない。

「まあ結構前にやめちゃったんですけどね……話を戻すと、京助君の言うジガルが言いたいことは、彼の人生を振り返ってみるとそれがあるんじゃないかと思います」

「となると……あの剣技は守るために生まれたものって事だよね」

「守る為……か」

 誰かを守るために生まれた剣技なのだから、その心構えにこそあの剣技を攻略する糸口があるに違いない。

 では守るための剣技に対抗すのに必要なモノは何か。

「守る為の戦い……」

 自分に置き換えて想像しよう。

 とはいえこれまでの戦いも半ば守るための戦いであったが故に、想像するのは容易かった。

 守る為の戦いにおいて、絶対に許されないのは敗北である、誰かを守るには勝利しか許されない。

 負けというのは守りたいものを取りこぼすことを意味する。

「クソゥ……ますますわっかんねぇ」

 置き換えた所で分からない、京助は思わず頭を抱えてしまった。

「あんたさ、スペースサムライが明らかなヒント残してたって言ってたけど、それ実は罠って事は無いん?」

「……まあ有り得るかな。でも俺は殺意を感じなかったんだよな」

「うーん、だったらやっぱ本心から継承してほしいんかな?」

「殺意を感じる前に終わっちゃったって事はないかな?」

 明穂の言う通り時間にすら干渉する力を持つジガルならば、殺意すら感じさせずに行動を起こせるだろう。

「でも二人って最初睨み合ってたよね」

「そっかぁ……すごい気迫してたもんね、そこで殺意を感じなかったなら実際殺意はないのか」

 様々な対策を話し合うものの、結局良案は浮かばず時間だけが過ぎていった。


 とうとう日は沈んで月が出た頃、千道邸の庭にジガルが現れ、京助とそれを見守る六人の方を向く。

「そなたの家か」

「ああ」

「広き所があって良かった、ここなら存分に技を振るえるのう」

 ジガルは庭を見渡して笑うと、編笠の鍔を触れてから京助の方に向き直る。

「それで、儂に一撃入れる方法は思いついたか?」

「……いいや、まだ分からない。色々と考えてみたけどな」

「そうか、しかしそれもまた定めよ……」

 ジガルは剣を抜き、京助はマグナアウルとなって剣を生成し、剣を構えながら互いの姿をしっかりと捉える。

 月光の下で睨み合う京助(マグナアウル)とジガルを見て、奏音は思わず手を伸ばしそうになってしまう。

「今度は斬るつもりで行くぞ、しかし最後まで諦めるでないぞ」

「ああ、分かってるさ俺だって命は惜しいからな」

 なんとなく口をついて出た言葉だったが、それを切っ掛けにマグナアウルの頭に何か天啓が降って来た。

(なんだ、俺は何を思いついた⁉ ジガルが守っていたのは家族の命……守るのは命! 勝利の末に勝ち取るのは命!)

 迫り来る死を前にして、マグナアウルの脳の回転は飛躍的に上昇していく。

(命は……そうか!)

 ジガルの刃が一瞬翻り、一陣の風が庭を駆け抜けた。


 突然吹いた風に奏音が思わず瞑った目を開けると、そこには予想外の光景が広がっていた。

「……あっ!」

 刃を振り抜くジガルの真横に膝立ちになったマグナアウルが、その喉元に刃を突きつけていたのだ。

「ああっ! やった!」

「おお……勝った!」

「センキョーが勝った! 生きてるよ!」

 マグナアウルの勝利に湧く奏音達をよそに、両者は暫くそのままの姿勢で睨み合った状態で硬直していた。

「聞こう」

「ああ」

何故(なにゆえ)……逃げた?」

 ジガルの問いに対して、奏音達の頭上に疑問符が湧く。

「逃げた?」

「どういう意味?」

 皆が困惑する中、サイは首を振って口を開いた。

「ジガルの言う通りだ、アウリィは確かに逃げた」

 サイ曰く、ジガルが一瞬消えて再び現れる前にマグナアウルは真横に超高速で数メートル移動しており、ジガルが再び現れたのを確認してからジガルの首元に刃を突きつけていたという。

「アウリィはジガルの剣技を受けようともせず技から逃げる事を選んだ……一体何故だ?」

「逃げた理由を、儂に教えてはくれぬか?」

 マグナアウルは剣を突きつけたまま、大きく息を吐いてから質問に答えた。

「命が……惜しかったから」

「何故命が惜しい?」

「俺に死は……許されないから」

「何故そなたに死は許されない?」

「守るべきものがあるから……」

 マグナアウルの答えを聞き、真顔だったジガルは僅かながら口角を上げる。

「何故守るべきものがあると死が許されないのだ?」

「俺の死により、これ以上誰も守れなくなるから」

 ジガルは完全に破顔し、満足そうな顔で最後の質問を投げかけた。

「これを通し、そなたは何を学んだ?」

「俺の命は……俺一人のものではない事」

 それを聞いたジガルは笑い声を漏らし、構えを解いてマグナアウルの方を見た。

「天晴じゃ! よく辿り着いたな! そうじゃそうじゃ、儂が伝えたかったのはそれよ!」

 こちらを称賛するジガルを見て、マグナアウルはアバターを解いて京助の姿に戻る。

「儂はただの農民で、戦うのは家族を守る時だけ……それ故に守るための戦いをする者、それが出来る者にこの技を継がせたかったのじゃ」

「俺にその資格があったか?」

「ああ、そなたは合格じゃ、よくぞ誰かを守る戦いにおいて最も必要なものに気付いた……長かった、これに気付く者が現れるまで本当に長かった」

 ジガルはついに現れた継承者を前にして、感動の笑顔を浮かべていた。

「一つ教えてくれ、なんであんたは資格がない者を斬って回ってたんだ?」

「これは儂の考えじゃが、守るべき物がない強大な力はいずれ大きな災厄を齎す。例えば儂の村を襲った奴らのようにな。だから儂が出した問答に答えられぬ者は、大きな災厄を齎す前にあらかじめ斬っておくに限る……という理由じゃ」

 それを聞いた京助は、もしも最後までジガルの意図に気付かなかった場合の事を想像してゾッとしてしまった。

「良かったぁ……俺生きてる……生きてるよ奏音!」

 持っていた剣を月夜に掲げた京助を見て、奏音は大きく頷いて見せ、サムズアップを返して見せる。

「良かった! ……二つの意味でね」

 京助が生きている事、そして何より京助が出した「自分の命は自分だけ者ではない事」という結論に、この上ない事安堵してしまった。

「フゥ……一時はどうなる事かと」

「全くだよ、ボクも結構ヒヤヒヤした」

「待て待て、何を勘違いしておるお主ら」

 ジガルが笑いながら手を振り、京助の肩を叩いた。

「これは試練の始まりに過ぎぬ、京助殿はこれから儂の持つ技を全て継承してもらう」

「ああ……そーいえばそーだった」

「準備は良いな」

「ああ、せっかくだし頼むぜ」

「よし……せっ!」

 ジガルが刃で空を切ると空間が切断され、異次元の位相に繋がる。

「ここは時の流れが非常にゆっくりになっておる、ここでじっくり手取り足取り儂の技を修得してもらうぞよ」

「ああ、お手柔らかに頼むよ」

 ジガルと共に異次元に向かおうとした時、奏音が前に出て京助を呼び止めた。

「京助!」

「おう?」

「頑張って! 待ってるからね」

 京助は笑ってサムズアップを返し、異次元の位相へジガルと共に向かって行くのだった。


 ジガルと京助が異次元の位相へ消えてから約十分、サイが帰ったのを皮切りに帰る準備を始めた皐月、明穂、林檎、麗奈をよそに、奏音は一人庭の虚空を見ていた。

「奏音、帰らないの?」

「うーん……うん、そうね」

「もう遅いよ? 十一時なっちゃうよ」

「でも放っとけないし……せめて私ぐらい迎えてあげたいなって」

 林檎は敵わないとばかり首を振り、奏音の横に腰かける。

「じゃあウチもカノちゃんと待とっかな。あいつとウチはいちおー戦友(ダチ)なんだし」

 誰が言いだすわけでもなく、皐月と明穂と麗奈も奏音の周りに座った。

「そうだね……帰るなんてひどいよね」

「京助君、今も頑張ってるんだし」

「仲間である以上に、友達ですから」

 揃って共に京助を待つという選択をしてくれた友人達に胸が熱くなった奏音の顔に、穏やかな笑みが浮かんだ。

「あれからどれぐらい経った?」

「十分ぐらいかな」

「果たしてどれぐらいで帰って……」

 そう明穂が言いかけた所、突如虚空から腕が現れ、それが引っ込んでから二本の腕がせり出し、その腕が空間を無理矢理押し広げて何もない所から京助が現れた。

「フッ! フーッ! 娑婆の空気だ!」

 京助は思い切り息を吸い込むと、半ば倒れ込むように奏音にもたれ掛かって来た。

「わっ! ちょっと……やあっ! 変な触り方しないで!」

「うぅ~ん、気持ちいいふ・と・も・も……」

 奏音は京助を離そうとするも、まるで強力な磁石のように京助は奏音の太腿に吸い付いて離れない。

「触るというより弄ってるね」

「やあっ……ダメ……皆居るからっ!」

「おいセンキョー、カノちゃん困ってるでしょーが」

 ようやく離れた京助だが、首を鳴らして文句を垂れ始めた。

「だって仕方ないだろ⁉ 三年間近く俺はあの自由人過ぎるオッサンと二人きりだったんだぞ!」

「三年間⁉」

「いいえ。厳密には十四年、十ヶ月、二十五日間です」

「だってさ……」

「十五年って……まだあれから十分ぐらいしか経ってないですよ」

「マジかよ……まあ無事に俺は全ての技を修得し、こうして帰ってくることが出来ました。敬礼!」

 皆にまた会えたことが余程嬉しいのか、京助は敬礼のポーズを取り、皆もそれに対しておずおずと敬礼を返した。

「ジガルには感謝だな……おかげで俺はまた強くなれた」

 そういえばジガルの姿が見当たらない。

「そういえばジガルはどこ行ったの?」

「ああ……あいつはな」

 京助は懐から刃が朽ち果てた剣の柄を取り出して皆に見せた。

「全ての技を俺に継承した後、心の底から満足そうな笑顔を浮かべて消えて行ったよ。あとに残ったのは……これだけ」

 この奇妙な形の剣は、きっとジガルが生きていた頃から使っていた剣なのだろう。

 十万年の間主人の魂と共に朽ち果てなかった剣は、主人の未練が果たされた事でその役目を終えたのだ。

「そっか……成仏出来たんだね」

「ああ、ジガルは宇宙に還ったんだ」

 京助はジガルの愛刀の柄を夜空に浮かぶ月へ掲げ、しみじみと言った。

「あんたの技で……俺はもっと多くの人を守るよ。安心して逝きな」

 京助は勿論奏音達も、この街を守っていく決意を固めるのであった。


 その日の夜、京助は明晰夢を見た。

「なんだここは、また俺の心の中の世界か?」

 時間の感覚がほぼ無かった異次元では眠ることが無かったため、かなり深い眠りに誘われた為久々にここへ来たのだろうか。

「でもなんか違うよな、俺の心の世界は夜空の森だった筈」

 京助が歩いている所は真鳥市に似ているが、以前潰れた店があったり、妙にメルヘンチックな装飾の建物があったりとなんとなく細部が異なっている。

「どこだここは」

「ここは夢の中の真鳥の地じゃ」

 鈴を転がすような美声が背後からして京助が振り返ると、打掛を纏った艶のある美しい黒髪をした美女がそこに立って居た。

「采姫様⁉ なんで?」

 采姫は頬を膨らませており、どうやら何かにご立腹らしい。

「妾がそなたを呼んだ……こやつのことでな!」

 采姫が指さした先にはカフェのテラス席があり、そこにはなんと見覚えのある編笠姿の侍が居た。

「ジ……ジガル⁉」

「おうおう、京助殿さっきぶりだな」

「梟よ! 何なのじゃこやつは! 勝手に妾の領域に上がり込んで来よった!」

「いやこいつ……宇宙に還った筈なんですけど……」

 ジガルは優雅に紅茶を啜ると、笑って頷きながら言った。

「いやなに、儂はすっかりこの星の事を気に入ってなぁ。自由になった記念にしばらく居る事にしたのじゃ」

 ジガルの生粋の自由人ぶりに、京助は思わず笑いが込み上げてきてしまった。

「何を笑っておるのじゃ! 他人事だと思いおって!」

「いやいや良いじゃないですか、一人で居るより楽しいでしょ」

「こんなのと一緒に居れと言うか⁉ 何とかしろ~!」

 京助は采姫に体を揺らされながら、ジガルと共に大いに笑うのであった。


To Be Continued.

変人キャラを書くと楽しいですね。

ですがこれ、今後の京助に必要な事なんです信じてください。

新たな力を得た京助は、どんな戦いをするのか。

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ではまた来週お目にかかりましょう。

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