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青春Double Side  作者: 南乃太陽
京助編
44/45

超能力大作戦

本格的に仲間になったマグナアウルとクインテットは、共同作戦を開始する。

だがしかし早速無理難題にぶち当たり、六人は頭を捻る羽目に。

そんな中ひょんなことから京助は妙案を思いつく。

超能力大作戦とは一体どんな作戦なのか?

 人々が寝静まる深夜の真鳥市。

 もしも長時間その場に立っていようなら、静けさのあまり発狂してしまいそうな山道の中を、突如黒い塊が騒々しい音を立てて通過した。

 静寂を破って通過したものの正体は、二台の大型装甲車である。

「エエッ! セイッ!」

 二台のうち追う側の装甲車から本紫色の光の矢が放たれ、前方の装甲車に命中する直前、何かに弾かれたかのように矢が消滅してしまった。

「ダメです! フォースフィールド張ってます!」

「フォースフィールド持ちか……」

「ただの車にフォースフィールドつけるなんて、よっぽど重要なものを運んでるみたいね!」

 アフロダイと入れ替わりでイドゥンも上方のハッチを開けて外に出ると、腰のスイッチを三度押し込んでオーバーチャージを発動し、膝立ちになってロングライフルを放ってフォースフィールド表面を焼き始める。

「誰か物理の飛び道具行ける人と高火力叩き込める人!」

「物理は私しかいないね、ちょっと待ってて!」

「火力は私が!」

 ハッチから出てきたミューズとデメテルがイドゥンの横に立ち、三人で車の上に並び立つ。

「ウチが一点にフォースフィールドの出力を集中させる」

「薄くなったところに私が穴を開ければいいのね」

「そして私のロケットパンチで車を止める!」

「そう、んじゃ行くぜ! オオオ……セヤアアアアッ‼」

 イドゥンのロングライフルから放たれるビームの威力が爆発的に高まり、フォースフィールドの表面が徐々に厚くなっていく。

「よし、転送ッ!」

 ハルバードを取ったミューズは腰のスイッチを二度押し込んでフルチャージを発動し、回転刃にエネルギーを送り込んでマゼンタの輝きが夜闇を照らす。

「ハァァァアアアアアッ! シャァッ!」

 ミューズが渾身の力でハルバードを振り抜いた事で回転ノコギリ状の光の刃が飛んでいき、薄くなったフォースフィールドの部分に当たり、ついに僅かな隙間が出来た。

「デメテル! やって!」

「アンカーロケットッ! パァァァァァアアアアアンチッ‼ だあああああああっ!」

 渾身の突きと共にアンカーユニットが取り付けられたロケットパンチがジャガックの車両の下部に突き刺さり、四本のアンカーを射出して足止めを試みる。

「よし! 止まれ!」

 けたたましいブレーキ音をさせながら若干減速こそしたものの、すぐに馬力を増してアンカーに使われたワイヤーを切ってしまい、先程以上に速度を増して逃げ出してしまった。

「クソッ! これじゃ追いつけない!」

「このままだと逃げられるよ……」

『要は追ってる事悟らせなけりゃ良いんだな』

 突如通信に京助が割り込んできて、皆は一瞬驚いて手に耳を当てる。

「ちょっと! 私達戦ってるんですけど?」

「今どこに居るのさ?」

『え? どこって?』


 クインテットとジャガックの車両がチェイスをしている山の遥か上空。

 そこに透明化した無重力ジェットがホバリングしていた。

「上に居る」

『上!? わっ!』

 目の前で床が展開して膨大な風が京助の髪と服を撫で、つけているインカムに風の音が入り込む。

『どこに居るの⁉』

「安心しな、今から降りる」

 そう言うと京助は深呼吸して駆け出して展開した床に向けて飛び込み、重力に身を任せて山道へと落下していく。

「フッフゥー! やっぱ最高だぜぇ!」

『京助、敵を見失わないようにしてくださいね』

「わーってるっての……アレだろ?」

 京助は身体を翻してジャガックの車両に近づいていき、ルーフに足を向けて念力で勢いを殺しつつ、フォースフィールドとルーフを突き破って車両の中に侵入した。

「やあ、ぶっ殺しに来たぞ」

 いきなりルーフを突き破って後部座席に収まって、舐めた事を宣う人間にジャガック兵は襲い掛かり、京助はカウンターを叩き込む。

「ハッ! セッ!」

 殴り掛かってくるジャガック兵の頭を掴んで床に叩きつけ、ナイフで襲い掛かってくる者の顎をナイフごと蹴り抜き、京助は宙を舞ったナイフを取って運転手目掛けて思い切り投げつける。

『トト、例のブツは?』

『あちらに』

 高さが五十センチ程度の直方体の形状をした黒い金属製と思わしきケースを見つけた京助は、それに手を伸ばそうとするも首からナイフを生やした運転手がわざと大きくハンドルを切った為、車両が大きく揺れてドアに叩きつけられる。

「うおおおおあああッ! このっ! 余計な抵抗しやがって!」

 助手席に座っていたジャガック兵に振り返って銃撃され、京助は手を翳して念力でビーム弾を止めた。

「危ねぇなっ! くおおおおおっ!」

 再びハンドルを切った事で空中で縫い留めたビーム弾の制御が狂って襲い掛かって来たジャガック兵に命中してしまう。

「おい! 仲間に当たって……あっ」

 空中に縫い留めていたビーム弾のうち一つが運転手の頭を撃ち抜き、ハンドルが大きく切られて山道に投げ出され、京助とジャガック兵は空中に投げ出されてしまう。

「……招来ッ‼」

 空中に投げ出されながらアウルレットに手を翳し、次元断裂ブレードで周囲の空間を切り裂いて徐々にアバターを纏っていく。

「ッ! 何だ⁉」

 マグナアウルのアバターを纏った途端腕や全身に紫電が走り、一瞬全身が痺れるような感覚がする。

『大丈夫ですか?』

「……何でもない! ハッ!」

 マントを広げて姿勢を安定させたマグナアウルは、山肌に叩きつけられながらも空中を舞っている車両に向けて手を翳してケースを引き寄せると、安定した場所へと飛んでいく。

「フッ!」

 マグナアウルが着地すると同時に数メートル後ろで車両が地面に叩きつけられ、大爆発が起こった。

「ミッションコンプ……」

 爆発の中心で燃え残った物が音を立てて変形を始め、やがて爆炎の中から運搬に特化した中型戦闘オートマタが四体現れ、マグナアウルに向かって内部機構を軋ませながら〝咆哮〟した。

「……リートとは行かなかったみたいだな」

 自身の〝咆哮〟に全く怯まなかったと見るや、オートマタは四足で立ってマグナアウル目掛けて突進を始め、マグナアウルは持っていたケースを思い切り空高く放り投げて逆に相手側へタックルを仕掛ける。

「一!」

 瞬間的に音速を優に超す速度に達したタックルを受けて粉々に砕け散ったオートマタの破片を浴びながら、マグナアウルは残り三体の相手を見据える。

レイヴン(サブマシンガン)ブラックスワン(ショットガン)……黒翼乱舞‼」

 これにより一瞬で二体のオートマタを吹き飛ばし、マグナアウルはサイコエネルギーに耐え切れず自壊した銃を見ながら残る一体の方に意識を向けた。

「二! 三! ……あっ、おい! 待ちやがれ!」

 マグナアウルには絶対に勝てないと踏んだのか、残る一体のオートマタはマグナアウルが空中に放ったケースを取るべく飛翔していた。

「逃すか!」

 即座にマントを広げてオートマタを追いかけ、羽角から放つ電撃で行動を鈍らせる。

オストリッチ(強化装甲)! トドメ喰ら……あれぇ?」

 腕に装着した強化装甲で殴りつけようとした所、青い斬撃が飛来してオートマタを破壊してしまった。

 何が起こったか理解したマグナアウルは山道に降りると、後ろを振り返る。

「追いついたか」

「まあね、少しは残してくれても良かったでしょ?」

 肩に太刀の刃を乗せたルナを先頭に、クインテットの面々がマグナアウルに合流する。

「びっくりしたよ、急に上から来るんだもん」

「上に居るって言ったろ?」

 マグナアウルが指を鳴らすと、爆炎が消し飛び、残るは焼け焦げた金属の塊のみが残ってしまった。

「ミッションコンプリート?」

「いいや」

 落下してきた黒いケースをキャッチしたマグナアウルが、クインテットの五人にそれを差し出してから宣言する。

「これでコンプリートさ」

 クインテット全員がスーツを脱ぐのと同時に、マグナアウルのアバターが分解していく。

「フゥッ……初の正式共同任務大成功か?」

「そうだね、いきなり上から降って来た時はビックリしたけど」

「それにしてもあんな高さから落ちて平気だったなんて……超能力者って生身でも強いんだね」

「真似するなよ、超危険だ」

 超能力を駆使して戦う母から「上澄みの上澄みで、鍛えすぎてておかしいレベル」と言われていた事を思い出し、明穂は何となく自分も頑張ろうという気分になる。

「ん~なんだろ……」

「どうした?」

「な~んか違和感がすんのよねぇ」

「違和感って、なんかあったか?」

 林檎は頭に手を当てて何か考えていたが、突然目を見開いて手を叩いた。

「わかった! あんたが飛び去ってない!」

「はぁ?」

「あぁ、確かに」

「どういう事?」

 曰く、これまでだと戦闘後、皆はマグナアウルが飛び去るのを見届けるのが日課だったらしく、今回はそれがない事でどこか違和感を抱いたらしい。

「なんだよ、飛び立てって?」

「いや~そんな酷な事は言わんよ? けどさぁ……」

 五人がニヤニヤしている事に京助は少し不気味なものを覚える。

「な……何?」

「私達も空……飛んでみたいんですよねぇ」

 京助は大きく溜息をつくと、両手を皆の前に差し出した。

「俺と手を繋げ、五人全員安全に飛ばすのは流石にキツいから輪になってくれ」

 自分以外の異性と手を繋がれることに奏音は若干不満げだったものの、空を飛んでみたいという願望には抗えず、仕方なく気持ちを押し殺して京助の右隣を取る。

「よーし……輪になったな、絶対に隣の奴の手を放すなよ」

 京助は奏音と林檎の手をしっかり握ると、自分の周囲全体に念力を発動して夜空に向かって急上昇し、月夜に六人の高校生たちの楽しげな声が響くのであった。


「長らくお待たせをぉ、いたしました! ハイ始まりました~、ももラジオのお時間でござい~……ね、もうこの企画始めて八ヶ月になろうとしてるのが信じられないよね」

「もうそんなになったって? ねぇ、俺もびっくりだよ……さて、今日のももラジオは~リクエストフリー返信です! はい、皆さんからいっぱいお便りの方届いておりますからね……うわ、すんごいやこれ、めっちゃあの人の事取り上げてくれって来てるよ。まあ家来(リスナー)の皆もあの人が誰か薄々察しついてると思うけど……」

「え~っとどれどれ……うん、九割九分あの人の事です。もうリクエストフリーじゃなくて特集しちゃうかこれ! はい緊急特集~! おかえりマグナアウル~!」

「ねぇ、ずっと失踪してたマグナアウルがねぇ、帰って来てくれました! イェ~イ!」

「やっぱみんな嬉しいみたいだね、俺もやっぱ一人の真鳥市民として嬉しいもんね。どうですか僕の家来(リスナー)の方で真鳥市民の人、嬉しい?」

「嬉しい、嬉しい、嬉しい……やっぱ嬉しいみたいね。よし、じゃあ本題だな、リクエストボックス~オープンッ!」

「マグナアウルは何故失踪していたのか、ももたろー。さんの考察をお聞かせください……はいはいはい、うーんちょっと考えるね」

「あ~のさ、年末になんかデカい浮島みたいなの来たじゃん? そうそうそう島型宇宙船ってウィルマースの公式発表であったやつ」

「俺もあの戦い見てたんだけどさ、最終的に島型宇宙船が大きく揺れて黒い炎に包まれて消えちゃったんだよね」

「何回か宇宙船からはみ出したマグナアウルが見えたんだけど、どうもその時黒い炎を纏ってるのが見えてさ、多分あれマグナアウルの力だと思うんだよね」

「それを一気に開放して宇宙船を消しちゃったから……まあいわゆる〝ガス欠〟起こしてしばらく表舞台に出れなかったんじゃないかな?」

「マグナアウルがガス欠起こすわけないだろ……まあそうね、普段からあんな大立ち回りしてたらそう思うよね。だけどね、あの黒い炎って一回もマグナアウル使ったことないんだよ、多分切り札なんだよね」

「幹部のクドゥリも同じ力使ってた? えーっと……あぁ~! なんか暴走して大暴れしてた時ね!」

「ん……待てよ……そういえばさ……あ、次のリクエストボックス開けます、諸事情でね、ドドン」

「ウィッカーアウルについてどう思ってる? ウィッカーアウルについて考察ヨロっす……はい、黒い炎ついでで思い出したんでねこっちの話もしておきます」

「僕さっきガス欠説唱えたけどこれ無しで、忘れて! ニューラライザーピカッ! はい忘れた、いいね?」

「はい、皆さんが忘れた所で、ちょっとマグナアウルとウィッカーアウルから離れて黒い炎についての話します」

「わかったわかった、ちゃんと繋がるって! 俺の灰色の脳細胞はいつもフル稼働ですよぉ……この黒い炎ね、共通点あるんだよね」

「皆使い手がほぼ全員ねぇ、暴走してるの。クドゥリでしょ? あと~……采姫様も現れた時に使ってたよね、あとイダムとかいう新しいの。これに関してはちょっと情報というか……目撃情報が少ないのでアレだけどさ、あとウィッカーアウルね」

「前から俺は采姫様超能力者説を支持してるんだけど、この説で行けばさ、黒い炎を使った超能力者ってみんな力に振り回されてるのよね」

「そーそーそー、なんか中二病っぽくなっちゃうけど、いわゆる闇の力~ってやつだと考えてんのよ俺は」

「んでさ……こっから繋がってくる」

「ウィッカーアウルってさ……マグナアウルなんじゃないの?」

「ヤバいヤバいめっちゃみんな困惑してるし荒れてるわ」

「やめろ! 俺に石を投げるな! やめろ!」

「まあうん、ネットとか世間的にはね? ウィッカーアウルとマグナアウルは別人で、前あった偽物騒動の時に出てきた奴と同じくくりにされてるけど、ちょっと紐解いていくとそうでもない可能性が出てきた」

「やめてぇ! チャンネル登録解除しないで! せっかく金のボタン貰ったばっかなんだから!」

「まあまあ落ち着いてください皆さん、そんなに興奮しないでください。今から根拠を言いますからね」

「ちょっと考えて欲しいんだけど、ウィッカーアウルが現れたのって今年の一月末じゃない? その間マグナアウルって何してた?」

「そう、失踪してたんだよね。んでウィッカーアウルが……なんかバケモノみたいになって退治された時に、入れ替わるようにマグナアウルが復帰した」

「そうなんだよ家来(リスナー)の皆さん、マグナアウルとウィッカーアウル、一度も同時に現れた事ないんだよ」

「まあまだ根拠薄いだろうから補足していくよ……はい、これウィッカーアウルとマグナアウルの写真の比較ね」

「やっぱ似てるよ。頭の所とか装飾は違うけど、輪郭は同じだもん」

「ももさん的にはあんな危険人物とマグナアウルが同一人物でも良いんですか? って……うん、まあここからは俺の考えなんだけどね」

「あんなに身を削って頑張ってくれてるマグナアウルもさ、一度は闇の力に支配されちゃった……彼もまた完全無欠のヒーローじゃなくて、やっぱりどこか人間らしいというか、それでも終始矛先はジャガックに向いていたのが凄いと思うよ俺は。危ない戦い方をしてたとはいえね」

「それでもマグナアウルは、闇の力に打ち勝って戻って来た。そう考えるとさ……やっぱり彼は最高のヒーローだと思うね」

「まあ彼は実在の人物だし、きっと一般の人物としての生活もあるだろうから、あんまりこんな象徴(アイコン)的消費の仕方をするのは良くないのかもしれないけど、俺達は彼のそう言う所に強く惹かれるのかもしれないね」

「今考えたろって? 当たり前だよ、俺一応オカルト考察系YouTuberだよ? 考察するのが生業ですから。いやでもさぁ、俺の中ではマグナアウルが強くて頼りになる最高のヒーローだってのは揺るいでないからさ」

「でも今回でさ、なんか彼の人間らしさが垣間見えて好感度結構上がったよね~」

「え~以上の事はあくまで僕個人の考察なのでね、事実とは限らないため話半分で聞いてくださいね……はい、皆は耳タコだろうけどこれちゃんと言っとかないと誠実ではないのでね。ハイ、次のリクエストボックスは……」


「んあ! 何だよぉ」

 京助のワイヤレスイヤホンを奏音が取り、親指で向こうの方を指す。

「作戦会議始まるよ」

「ももラジオ聞き終わってからでいいか?」

「ンなもん聞くなってーの」

 何を聞いているのかと思えば兄のラジオだった為、林檎は少々ドキドキする。

「リアタイで聞くのが良いんだよユメリンゴ」

「アーカイブ見りゃ良いでしょーが、始めるよ」

「うん、始めるのは良いんだけどさ……」

 今更かと思いつつも京助はリビングに集った五人組の顔を見る。

「なんで俺の家でやるんだ」

「えぇ……だって広いしいいかなって」

「それ理由になってるか? この前俺が連れてかれたあそこで良いじゃん」

「あそこはさ……いわゆる女子更衣室みたいなものだし」

 よく分からない理論だが、彼女達は待機所にあまり立ち入られたくないらしい。

「まあその気持ちは分かるし、別に俺んち来てもらっても良いんだけどさぁ、お前さん達なんかある度にここに来るわけ?」

「いいよいいよ、送ってもらえるし」

「いいのか? ……うーん」

 よく分からないがいいらしい。

「アキちゃんがお菓子焼いてくれるってよ」

「えぇ……うん、別に作るのはいいけどぉ」

「わーったわーった、始めよっか」

 京助はソファーから起き上がり、五人の輪に加わった。

「財団の方から解析結果来たの?」

「ええ、あれは研究データとその試作品だったみたいですね」

「試作品かぁ……何の試作品?」

「ある種のエネルギー炉心だそうよ」

「あのサイズで?」

「そう、小型の補助炉心って所」

 あんなものを車の中揺らしたり、ホイホイ上に放り投げていたと思うと少々ヒヤリとした。

「そっか、じゃあこいつの後に来る奴は何?」

 ウィルマース財団の調査によると、回収したエネルギー炉心と同時に空路で何かが運び込まれるという情報が入っており、今回の作戦はその妨害が目的である。

 京助が聞いたのはその空路でやって来る何かについてであり、これまでの調査ではそれが何か分かっていなかった。

「研究データの方を解析したら、回収されたものの数倍大きな炉心が空路で運ばれてくるみたい」

「多分空路で来るやつを補助するためのものがこれなのかも」

「おーけー、これをぶっ壊せば良いんだな」

 五人が京助の方を一斉に見る。

「……あれ、なんかマズイか?」

「うん……非常にまずい」

「なんで?」

 曰く、もしこの炉心が空中で爆発しようものなら水爆を優に超える威力の爆発が起こるらしい。

「じゃあその周囲を念力で覆って、そこで破壊するのは? ああ、フィッシャーキングできれいさっぱりって手もある」

「財団側の意向でこっちの方も回収したいらしいから、今回は破壊は無しでお願い」

「うーん……」

 自分が入ってからいきなり注文が増えたような気がしたが、期待の裏返しと思う事にして、どうやったら妨害と回収が同時に出来るかを京助は考える事にした。

「無理難題言うよねぇ……白波博士もちょっと怒ってたみたいだし」

「無理難題言うぐらい重要なものなんじゃない?」

「うぅ……荷が重いけどやってみるしかないか……」

 自分が輸送機に転移して中のジャガック兵を一掃するのは容易い、問題は戦闘機の中の相手を倒した後である。

「どうしたもんかね……」

 間違いなくジャガック兵は真鳥市を道連れにしようとするだろう、地面に墜落するよりも早くどうにかしなくてはならない。

「でっかいクッションでもありゃ良いんだけどな、作れない?」

「無理です」

「だろうな……ん? クッション?」

 京助の脳裡に二つのクッションがお互いに弾き合う映像が浮かび、思わず立ち上がって手を叩いた。

Eureka(ユリイカ)!」

「おわっ! どうしたの⁉」

「良い作戦が思いついたんだよ……名付けて超能力ぅ~大・作・戦ッ‼」

 自信たっぷりに胸を張って言う京助に、とりあえず奏音と林檎は拍手を送り、皐月と明穂と麗奈は困惑しているばかりである。

「超能力大作戦なら……私達必要?」

「何言ってんだ、この場に居る全員は超能力者だろ?」

 そうだった、あまり実感はないものの、自分達は超能力者だったのだ。

「私達……そんなに強くないよ?」

「いいんだよ、皆にしてもらうのは基礎の基礎だからな」

 未だその基礎の基礎すら覚束ないのだが、京助は何故か自信満々である。

「大丈夫、まだ時間はあるからな……その間に」

 京助が指を鳴らすと、一瞬で鉢巻きを巻いてたすき掛けをした和装に変わり、皆に宣言してみせた。

「特訓だ」

 

 ひとまず地下室に移った京助達は、まるで教室のように先生と生徒の側に分かれてレクチャーを開始した。

 当然先生の側は京助である。

「超能力、主に世界に影響を与える力として最もスタンダードなのが、触れずに物体を動かす力。いわゆるサイコキネシスや念力と呼ばれる力だな……例えばこんな感じの」

 京助が軽く指を上に動かすと奏音達五人が座る椅子が机ごと動いて皆一瞬驚いた。

「いきなり来た!」

「ビックリした……」

「今回はこいつを修得してもらう」

「習得してもらうって……」

 次に本命の炉心が運ばれてくるまでには、あと一週間しかない。

「一週間で出来るの?」

「いいや、これから帰るまでには習得してもらう」

「かっ⁉ かか……帰るまで⁉」

「つまりは習得するまで帰さない。まあ仮に泊りがけになったとしても俺んちは住みよいと思うから頑張ってくれ」

(ス……スパルタ方式だぁ……)

 なんだか雲行きが怪しくなってきた事にどんよりしていると、その空気を感じ取ったのか京助は笑いながら手を顔の前で振って言った。

「安心しなって、夕方までに……遅くとも八時までには帰れるし、それ以上遅くなったら俺が送るから」

 史上最強クラスのボディガードが居るなら、たとえ夜道に熊が十匹まとめて出てきても安心である。

「まあとりあえず、やるしかないみたいだね」

「その意気だ奏音、いずれ超能力を使いこなすために通らないといけない道だからな、始めよう!」


 移動した先で六人は、数メートル離れた場所にあるたっぷりと水が入った五本分のウォーターサーバー用のボトルと、その後ろに置かれたタイマーに向かい合う。

「あれを念力で動かせばいいの?」

「そうだな一人につき一本やってもらう」

「まあやるのは良いんだけど、私達初心者だからさ、ちょっとお手本がね……見たいなーなんて」

「お手本?」

「やっぱ教える側がやって見せないと、ね? センセ?」

「分かったよ、そんなに言うなら見せてやる」

 京助は軽く指を上に上げるとボトルが五本まとめて一気に持ち上がり、空中で蓋が開いて中身が勝手に吸い出され、まるで生物のように宙を舞った後で花や動物といった様々な形を取り、再びボトルへ水が戻って元の場所に置かれた。

「……」

 口に出さずとも、皆思っている事は同じである。

(出来るかこんなん!)

「流石に今日ここまでやれとは言わない、俺も鬼じゃないからな。今日皆にやってもらうのは、あれを念力で動かして五十センチ以上の高さで三分間その場に保持した後、自分の傍に引き寄せる。みんなのポテンシャルだったらきっと出来ると思ってる」

「本当に出来るの?」

「今まで私達は超能力とかと無縁だったけど……」

「何事もやれるようになる前は出来ないんだよ、今日は出来るようになるための第一歩って訳。さあ、とりあえずやってみようか」

 いきなり振られてもどうすればいいか分からないが、とりあえず全員マグナアウルの真似をして数メートル先のボトルへと手を伸ばした。

「レイさんの話覚えてる? 上からの視点を意識してやるんだ、その視点を使おうとしていないだけで、皆はすでにそれを持ってるからね」

(そんなフワッとした感じで出来たら苦労はしないよ……)

 内心そうボヤきつつ、皐月は自分とボトルの情景を脳裡に思い浮かべ、ボトルが浮遊する光景を想像する。

「ハッ⁉」

 眉間の辺りから脳全体に何か閃光のようなものが駆け抜けていった気がして、反射的に指を動かすとボトルが数センチ後退して仰向けに倒れてしまった。

「わっ⁉ えっ⁉ ウソッ⁉」

「皐月ちゃん!」

「皐月! すごいじゃん!」

「おお、第一歩とはいかないが、歩き方の糸口は掴めたみたいだな、その調子で続けてみてくれ」

 いざ能力が発現したとなると強く困惑してしまったが、実際に出来たという事が自信となり、皐月は口を手で覆いながら思わず笑みが零れてしまう。

「なんか……やれそう!」

「実際にやってみて、なんかコツってありますか?」

「京助とレイさんの言う通りだよ、上からの視点が大事。実際に自分とサーバー用のボトルを上から見てるイメージをしてみると出来たかな」

 どうすれば上からの視点を得られるかという具体的な指標を得た他四人は、とりあえず目を瞑ってからそのイメージを浮かべて再び手を翳すと、時間差はあれど全員のボトルが動いた。

「あっ!」

「わぁ~っ!」

「おおぅ!」

「はぁっ……ははっ! 動きました!」

「いいぞいいぞ、けどその次が難しい。今度は持ち上げなきゃいけない、さあ! 誰が一番最初に出来るかな?」

 そう焚き付けられたら、なんとなく競争心が湧いてきた。

 皆一斉にボトルへ手を伸ばし、宙に浮かそうと試みる。

「ん……んんっ!」

「上がれ上がれ上がれ上がれ!」

「動けって言ってるんじゃないんだけどなぁ……上がってよぉ……」

「出来る……私なら出来る!」

「フゥ~……ハッ!」

 各々様々な方法でボトルをその場から上げようとするも、左右に動いたりふらふらと揺れたりするのみで、持ち上がったとしても五ミリ程度が限界で、すぐに机に落ちてしまう。

「あぁ~ダメだ! 上がらん!」

「大丈夫、いずれ上がる」

「本当に初心者でも上がるの?」

「ああ、出来る。とくに皆はあのアドバイスを受けてるんだ、だからきっと出来る筈さ」

「だいたいただでさえ一人で持ち上げるのにも重いウォーターサーバー用のボトルを念力で上げろって……結構困難なんじゃないんですか?」

「待て……重い?」

 麗奈の発言に京助が待ったをかけ、しばらく何か考えた後に、そうかと小さく呟いてその場に胡坐をかいた。

「ちょっと見てろ」

 京助はそう言って左手の小指を立てて、その指をあらぬ方向に向けると、しばらくして壁の脇からいつも京助が鍛錬で使っている「鉄人」が現れ、皆がその光景に息を飲む。

「……な、なにそれ」

「カンフー映画で見るだろ?」

「木人の事? でもこれ……金属だよ?」

「そう、俺はこいつを鉄人と呼んでいる。鉄の名を冠しているが、こいつの素材はチタン合金だ」

「え、そんなんに腕ぶつけたら痛くね?」

「ああ、こいつは硬いよ、それ以上に重い。さて皆、俺はそんな代物を今どうやって持ち上げてる?」

 宙に浮く鉄人から皆の視線が京助の手の方に移る。

「あっ……えぇ?」

「小指だ……」

「そう、利き手じゃない手の小指で俺は重い金属の塊持ち上げてる」

「重さは……関係ないって事?」

「その通りさ、重さは関係ない、重さという概念を頭から取り去るんだ。あらゆる常識や法則を超越した能力、それが超能力なんだからな」

 京助が小指を曲げると、大きな音と共に鉄人が落下し、皆はその様子を見て息を飲む。

「重さは関係ない……持ち上げる事だけを考えろって事ね……」

「重くない……重くない……重くない……」

 そう自分に言い聞かせ、皆は手をボトルへ翳す。

「……んん?」

 すると先程まではその場でぐるぐる回ったり、少しだけ揺れる程度だったものが、徐々に上に向かって上昇を始めた。

「おお!」

「上がった!」

 京助が見守る中、皆ボトルを自分の力で上げる事が出来た事に思い思いの反応を示す。

「いいぞ……よっ! 次は五十センチ上げた所で完全に保持だ」

 どこかからメジャーを引き寄せた京助は五十センチ分計ってから目安の場所を定め、皆もそこを目指してボトルをそこまで浮かせようと苦心する。

「いいか、三分間その場で保持って事の意味は完全に静止させるって意味だぞ。その場で揺れてたり回ったりしてたらダメだからな?」

「そうなんだ、気を付けます」

 色々と試行錯誤の末、ついに林檎が五十センチ地点に到達することが出来た。

「おお、行ったな?」

「ういよ!」

「じゃあ三分行くぞ。よーいスタート」

 タイマーがスタートし、三十秒経過するまでは良かったものの、急に重みを感じて腕が下がって同時にボトルも落下してしまい、林檎は思わず自分の腕を見る。

「何じゃこりゃ……急に重くなった!」

「ああ、それは物理的な重さじゃない。サイコエネルギーの出力に肉体が追いつかなかったんだ」

「えぇ? 運動しろって事?」

「高みを目指したいのならいずれはそうなる。でもこれに関してはすこしここら辺を意識して力を入れるだけで大丈夫だ」

 京助は自分の下腹部を指差してから、パンと腹を叩いて見せる。

「ああ、子宮……」

 林檎以外の四人の、とくに奏音の痛々しい視線が京助に集まり、京助は一瞬で青ざめた。

「いや、丹田か」

 林檎が言い直した事で極刑は免れたものの、合計八個の眼差しに貫かれた心が痛い。

「おい、お前今俺をドセクハラ野郎にしようとしたな!」

「それはマジでごめんて、とにかく丹田を意識するのね」

「うん、ゴホンゴホン……頭頂部から一直線に引かれた体の軸、特に丹田を中心にして全身に巡るエネルギーを意識すれば上手く行くぜ」

 京助に言われた通り、五人は深呼吸しながら下腹部に手を当て、そこに力を込めてから再び手を前方に翳した。

「おお……」

「おっ⁉」

「出来た!」

 全員が先程以上に能力の感覚が掴めてきた事に心躍り、林檎と明穂はすぐに五十センチ地点にまで持ち上げることが出来るようになり、それを見た京助は指を鳴らしてタイマーを始動させる。

(おお、すっげ……確かに少し意識すると全然重くならない。やっぱ経験者ってすげーわ)

(お父さんお母さんに見せたら驚くだろうな……早く上達しよっ!)

 やがて明穂が真っ先にクリアし、それに続いて林檎と皐月が同時にクリア、二十三秒遅れて麗奈がクリアした。

「はい、麗奈クリアです。おめでとさん」

 こちらに引き寄せたボトルが足元に置かれるのを見て麗奈は小さくガッツポーズする。

「楽しいですね、超能力」

「ああ、いろいろ練習してた時の自分を思い出すよ」

 椅子に座って自分のスマホを浮かせて遊んでいる林檎を見ていると、後方から弱々しい声が京助の名を呼んだ。

「ん?」

「京助ぇ……」

 見ると奏音が涙目になりながらこちらを見ている。

「ど……どうした?」

「上がらないよぉ……」

 見れば奏音のボトルは三十センチ地点の辺りでふらふらと漂っており、京助は肩を竦めて奏音の方に向かった。

「よしよしわかった、俺が補助しよう。ちょっと失礼」

「んっ……」

 京助の右手が奏音の下腹部に、そして左手が頭頂部にあてがわれ、京助の手が自分の体に触れ、まるで抱き締められているような感覚に奏音は思わず真っ赤になる。

(ねぇ)

(いい、皆まで言わないでいい)

(言いたいことは一緒ですね)

(ウチらは何を見せられてるんだ……)

 他四人の視線に気付かず、京助と奏音はすっかり二人の世界に入ってしまった。

「感じるか? 今俺は奏音に俺の力を流し込んでる」

「……うん、なんだろう。体の奥が温まって来た気がする」

「いいぞ、使ってみろ」

 京助の補助を受けたまま再び手を伸ばした所、ボトルはその場から数メートル後退した上で素早く五十センチ地点まで上昇した。

「アハハハ! ちょっと俺の力をやりすぎたな」

「でも出来た⁉」

「そうだな、俺の補助は外すから元の場所に戻してからもう一度やってみな」

 京助が手を放し、奏音は深呼吸をしてから手を翳すとゆっくりではあるがボトルが浮き上がり、五十センチ地点まで到達してタイマーが起動する。

『なぜ彼女はサイコキネシスの扱いに手古摺ったのでしょうか』

『うーん、どうかな……誤差ではないとしたら考えられることは二つ。奏音は感知系とかの方に向いてて単に適性の問題なのか……』

 だがサイコエネルギーを送り込んだ感触的には決して適性が無いことはない筈である。

『あるいは、既に特化した能力を発現している……とか?』

 例えばサイは嵐から連想した風や水と氷、そして電気を操るのを得意とするが、逆に火炎を操る事は極端に苦手である。

 このように超能力は何かに特化したものを使いすぎると、別の能力が不得意になる事があり、もしかしたら奏音はどこかのタイミングで無意識のうちに能力を発動させており、その影響で念力をうまく操れなかったのかもしれないと京助は考えたのだ。

『今度機会があったら計測してみるか』

『ええ、他の四人のものを計測してあげると良いでしょう、それも彼女たちの為になりますから』

『ああ、そうだな。ここに関しちゃ俺が先輩だから、しっかりとバックアップしてやらねぇとな』

 トトと会話していると三分経過のタイマーが鳴り、喜んだ奏音がこちらにボトルを引き寄せた際に勢い余って京助にぶつかり、軽く吹っ飛んでしまった。

「ぐえぇっ!」

 吹き飛んですっ転んだ京助はボトルの下敷きになり、腹に十キロ近い重みがのしかかる。

「わっ! ごめん!」

「ハハハハハ! ちょっと奏音~! 先生にダイレクトアタックって!」

「だ……くふふっ! 大丈夫京助君?」

「オイオイ~ウチらのセンセがこんな攻撃避けられなくて大丈夫かぁ~?」

「どうやら予知能力は無かったみたいですね」

「お前ら……明日から覚えとけよ……」


 そうして五人は毎日京助の家に通ってひたすら念力の訓練を積み、ついにジャガックの輸送船がやってくる当日を迎えた。

「本当に上手く行くかな」

「確かに……実戦で超能力使うなんて初めてだから」

「大丈夫だ、俺も初めての実戦はちょっと緊張したけど大成功だったし、何より俺が直々に教えたんだから上手く行くに決まってる」

 腕を組んで空を向く京助に奏音が歩み寄り、組まれている手を解くとその手を取って京助の顔をまっすぐ見据える。

「……どうした急に」

「私達五人合わせても京助の方が強いのは分かってる。けどさ、今回みたいに頼ってくれてすごく嬉しいよ」

「お……おう、だってもう俺ら一つのチームみたいなもんだろ?」

「だから頼られついでにもう一個、もし危険だと思ったら……無理して深入りしないで。私にとっては京助は彼氏だけど、皆にとっては京助は友達なんだからさ、いなくなると悲しいし寂しいよ」

 奏音の後ろに居る皐月と明穂と林檎と麗奈を見てから、京助は笑って言った。

「分かったよ、あんまり危険な事は控える」

「うん、約束だよ」

 奏音は京助の頬にキスし、京助はそのままその場に固まってしまった。

「イチャイチャ終わった?」

「い……イチャイチャじゃないし! ちゃんと真面目な話してたの!」

 手の甲をキスされた頬に当てて固まっている京助を見て、四人はダメだこりゃと言わんばかりに肩を竦める。

「お、通信来た。……もうすぐ来るって!」

「そうか、じゃあ準備すっか」

 京助がアウルレットを右腕に出現させると同時に、五人も転送鍵を取り出す。

「招来ッ‼」

「GO! クインテット‼」

 五人の体にスーツが転送されると同時に、京助の体にマグナアウルのアバター体がオーバーラップし、肉体が完全に置換されると同時に全身に一瞬電撃が走る。

「ンンッ……よし、皆パーティー衣装に着替えたな」

「パーティー衣装て……あんたねぇ」

「これぐらいの心持の方が気楽に行けてかえって緊張解れるぞ……さてと」

 マグナアウルはマントを広げて準備を整え、財団からの連絡を待つ。

「目標圏内まであと五メートルだって」

「よぉし」

 マントを大きく展開しながら、マグナアウルはクインテットの仲間達の方を見る。

「行って来るぞ」

 その言葉と周囲に吹き荒れる膨大な風を残し、マグナアウルは空高く飛び上がって輸送船に向かって行った。

 

 マントで風を切って音速の数倍の速度で飛行していると、すぐに目視で輸送機を確認することが出来た。

「あったな……うおっ⁉」

 輸送機から防御用の機銃が放たれてマグナアウルはギリギリで回避するも、よほど近付かれたらまずいのか、一斉射撃を開始する。

「この野郎……トト、ブツはどこに?」

『機体後方の積荷エリアにの七割を占めています』

「そこ以外なら良いんだな! よっしゃ!」

 マグナアウルはマントを体に巻き付けてドリル状になると、高速で旋回して機銃のビーム弾を全て弾きながら輸送機に近付き、正面衝突する寸前に複雑な軌道で撹乱して上から輸送機の中に突っ込んだ。

「ようクズども、テメェらの下らねぇ人生に引導渡しに来てやったぜ」

 いちいち癪に障るキンキン声にしか聞こえない宇宙言語を喚きながらジャガック兵は大慌てで武器を取り出し、マグナアウルへと向かってきた。

「おい待て馬鹿が! フッ!」

 後ろに火気厳禁の炉心があるのにも関わらず、ジャガック兵達はお構いなしにライフルの一斉掃射を放ってきたため、マグナアウルは積荷エリアにサイコエネルギーのバリアを張ってから敵陣へ向かって行く。

イーグル(戦斧)!」

 刀身が半物質化した戦斧を思い切り相手に振り下ろし、一振りあたり五人屠っていく。

「うおっ⁉」

 船体が大きく傾いで揺れ、明らかにパイロットが操縦桿を切ったと分かる。

「もう生きて帰る気は無いってか!」

 パイロットを含めて生き残った七人のジャガック兵はマグナアウルの前にやって来て、空気圧式のシリンジを取り出して首筋に打ち込んでそれを投げ捨てると、まるで苦悶するかのように体を丸めて捻じり始めた。

「ハァ? 何してやがる⁉」

 謎の薬品を点滴した七人のうち三人はそのまま倒れ伏して死亡し、残り四人は身体に変化が現れた。

「ヘッ、ドーピングで筋力増強したとて無意味さ」

 明らかにパンプアップした四人をさっさと倒して軌道修正しようとマグナアウルは考えるも、ここで全く予想外な事が起こった。

「うおっ⁉」

 なんとこちらに向かってきたジャガック兵のうち一人が自分を押して壁に叩きつけたのである。

「なんだこいつ⁉ 急に強くなりやがった!」

 壁に押し付けられたマグナアウルは顔面を掴まれて思い切り叩きつけられ、船体がへこんで穴が開きそうになる。

「クソッ……セイッ!」

 一気に四人を倒す方法を考え出したマグナアウルは、まず爪先に備わった刃をソリッドレイで覆ってからジャガック兵の体を一刀両断して蹴飛ばし、フェザーダーツを後ろに居た三人の急所に向けて正確に投げつけて小規模の爆発を起こして一掃する。

 これですべて倒したかに思えたが、なんとその全てが回復しているではないか。

「なんだこいつら……パテウか?」

 あり得ない、パテウ・シャローは死んだはずである、それも自分の手で殺したのだ。

 となると秘密はあのシリンジの中に入っていた薬品だろう。

「どうやら持って帰るモンが増えたみてぇだな」

 再び殴り掛かって来たジャガック兵の拳を回避して、即座にカウンターを叩き込むも予想外の硬さにマグナアウルは思わず苦悶の声を漏らしてしまう。

「硬さも再現してんのか! シュライク(投槍)! オストリッチ(強化装甲)!」

 強化装甲を取り付けた足で一番近くに居たジャガック兵の頭を蹴り潰し、羽角からの電撃で残った体を焼き尽くしながら半物質化した投槍で二人纏めて刺し貫き、残った一人には足から腕に移した強化装甲の連打をぶつけ、トドメのひと蹴りで内部に蟠った衝撃を一気に活性化させて内側から破裂させてしまった。

「よし……最後の仕上げだ!」

 しっかりシリンジを七本すべて回収した後で、投槍に刺し貫かれた二人を引きずってマグナアウルは外に出ると、火を吹くエンジンに力いっぱいその二人を叩きつけ、圧倒的な熱で焼き尽くしてしまった。

「ここまでやりゃ復活しねぇだろ……さてと、いよいよ本番だ!」

 マグナアウルは今この船がどこに居るか把握するべく、船体に張り付いて千里眼を発動した。

「やべぇ! あのクソパイロットめ!」

 大きく操縦桿を揺らしたせいで大きく船が傾いており、それにより墜落するだろう地点は目標地点から大きく離れていってしまっている。

「こうなったら……こうだ!」

 マグナアウルは輸送船にチェーンを巻き付けると飛行形態に変化し、船の進行方向とは逆の方向に向かって飛んで位置を調整する。

「うおおおおっ! クソッ、これじゃ間に合わねぇ! こいつも喰らいな!」

 大型ミサイルが生成されて射出され、中からサイコエネルギーで動く無数のスラスターが現れて輸送機の軌道を変える。

『軌道修正完了です、しかし速度は未だ……』

「速度は何とでもなる! 前に張り付くぞ!」

 チェーンを断ち切って旋回し、飛行形態から通常形態に戻り、マグナアウルはマントを広げて輸送機の前方に張り付いた。

「エンジン止まれ‼」

 機械干渉能力によって輸送船のエンジンが停止し、慣性の法則でしばらくの間そのままの勢いで船は進み続ける。

「しばらくは……微調整だ!」

 輸送船の先端に張り付いたマグナアウルは念力を駆使して高度を微調整し、徐々に目標地点にまで迫っていく。

「なあトト」

『なんでしょう?』

「ちょっとスピードの事甘く見たって言ったら怒るか?」

『……五人に賭けるしかないでしょうね』

「俺の体潰れないかな?」

『潰れた所ですぐに再生しますよ。死徒の力による再生阻害とダメージバックファイヤももう起こりませんから』

「そうかいそうかい……だと良いんだけどな!」

 そうしてついに目標地点まで数百メートルまで辿り着き、マグナアウルは全力でテレパシーを飛ばした。

『皆! やれ!』


 テレパシーが飛んで来た事を感知したクインテットの五人は顔を見合わせて頷くと、両手を挙げて一斉に念力を発動した。

「フルパワー行くよ! あああああっ!」

「うおおおおおっ!」

「フンッ……だああああああっ!」

「しゃああああっ!」

「おりゃああああああああっ!」

 一週間でみっちり鍛え上げた念力波が空へと放たれ、やがてマグナアウルと輸送船の付近にまで届き始める。

「よしよし来た来たァッ! せやあああっ!」

 マグナアウルは全力で念力波を放ち、クインテット五人のものとぶつかり合った。

 そう、超能力大作戦とはマグナアウルとクインテット五人が別々の地点から念力波を放ち、念力波がお互いにぶつかり合う反発力を利用して輸送船のスピードを削ぐという作戦なのだ。

「おおおおおおっ! いいパワーだぜ! 俺が潰れそうだ!」

 事実マグナアウルの体が徐々に輸送機へとめり込み始め、装甲が徐々に剥がれ落ち始める。

「ヤバい……マジで……潰れそう……」

 ついにノーズが完全に潰れ、地面も徐々に近付いていく。

「少し余裕が出来たな! 皆! 全力(フルパワー)だ!」

 テレパシーを受け取った五人は更に出力を上げ、それに伴い輸送船の装甲がはじけ飛んで剥がれていく。

「ヤバい! 目標過ぎたよっ!」

「うううううっ……すごい反発!」

「皆……踏ん張れっ!」

「反発力を……最大にっ!」

 やがてクインテットの方も地面にめり込み、マグナアウルの腕の装甲も剥がれ始める。

「さっさと……」

「早く……」

「もう限界だから……」

「アタマ痛ぇからっ……」

「これ以上は危ないからっ……」

「いい加減に……」

「「止まれぇぇぇぇぇぇぇええええええっ‼」」

 六人の声が重なると同時に双方の念力波の放出が最高潮に達し、上空約七百メートル地点というギリギリでようやく静止する事が出来た。

「ハッ……ハッ……ハッ……止まったか?」

『ええ、一キロ地点で停止という目標を三百メートルも過ぎましたが』

「そうか……でも止まった」

『ええ、少々危なかったですが、炉心は無事です』

「あとは降ろすだけだな」

 マグナアウルは炉心を包む輸送船の残骸を持ち上げると、マントを広げて徐々に降下を始めた。

「よぉ~」

 合流地点で待機していた疲れ切っていた五人の方に徐々に近づいていく。

「ハァ……ハァ……無事に……運べたのね!」

「ああ、バッチリこの通りさ」

「良かったぁ……一時はどうなるかと思ったよ」

「一週間の厳しい訓練の……成果がありましたね」

「それにしても疲れたわぁ」

「ハハッ、よく頑張ったな。お疲れ……」

 そこまで言いかけた所で、突然マグナアウルの装甲全体に紫電が走り、全身に痺れが駆け巡った。

「さんッ⁉」

「マグナアウルッ⁉」

 急激に脱力したマグナアウルは二十メートル地点から落下して地面に叩きつけられ、輸送船に押しつぶされてしまった。

「何々どうしたの⁉」

「炉心がヤバいかも! 数値計って!」

「もうやってるっての!」

 イドゥンのスコープが輸送船全体をスキャンし、異常がない事を確かめる。

「大丈夫! 炉心は爆発しない」

 一安心した後五人は下敷きになったマグナアウルを助けるべく慎重に輸送船へ近付く。

「わっ⁉」

 地面からいきなり腕が現れ、かなり疲れた様子のマグナアウルが這い出てきた。

「ハァ……何なんだ全くよ……」

「大丈夫?」

「何があったの?」

「……分からない……いてて!」

 大の字になって寝転がるマグナアウルをミューズが抱き起し、イドゥンとルナが近くに控えて損傷個所を確かめる。

「どこか痛む所ある?」

「うわ……腕がボッコボコ」

 念力波の激しい衝突により発生した余剰波がマグナアウルの腕に伝わり、装甲を凹ませるに至ったのだ。

「それに傷だらけだよ」

「なに、大丈夫だって。このぐらいしばらくすればすぐに……」

 この何気ない会話の中で、ミューズは殆ど無意識のうちにマグナアウルの胸に手を乗せていた。

 するとマグナアウルの装甲表面の傷や汚れがあっという間に消え去り、同時に余剰波でボコボコに凹んだ腕の装甲はすっかり元通りな綺麗なものになっていた。

「おお……おお! すっかり元通りだ! それにもう痛くない!」

「マジで⁉ ミューズやるじゃん!」

「え、私⁉ ……今私何かしたの⁉」

「もしかして……」

 マグナアウルには一つ思い当たることがあった。

「回復能力に特化してたから最初の方に念力が上手く行かなかったんじゃないか?」

 ミューズにも思い当たる点がある、クドゥリとの戦いの時、スーツのエネルギー機能を停止させられたが、その時自分の分だけ一瞬機能が戻った事があった。

 他にも戦闘中吹き飛ばされたりすることが多くあったが、皆そこまで酷い怪我を負ったことは無かった。

 それは無意識下で自分が回復能力を発動していたからではないのか?

「確かに……そうかも!」

「ちょっと待って、スピードのルナでしょ? パワーのデメテル、アフロダイは予測、んでウチはサポでオールラウンダーが居て、んでもってミューズが回復……これもはや無敵の布陣じゃね?」

「間違いないですね」

「私ヒーラーだったんだ……へへっ! なんだか成長が楽しみだな」

「おう、俺もワクワクしてきた」

 マグナアウルは立ち上がると大きく伸びをし、念力で輸送船の船体を剥がして炉心を露わにする。

「炉心も無事に回収できたし、超能力作戦成功かな?」

「いいや……」

 マグナアウルは京助の姿に戻りながら、五人の方を向いて言った。

「大成功さ」

 京助の笑みは、中天の太陽よりも輝いていた。


To Be Continued.


 ウィルマース財団報告書、一部抜粋。


 今回マグナアウルが回収したシリンジに残されていた薬品には、ジャガック幹部のパテウ・シャローと同一の遺伝子が検出されており、約六十二パーセントの確率で点滴した者にパテウと同じ能力を発現させる効果があると発覚。

 今後、同様の薬品を用いた敵兵が出現すると考えられる。


 また、クインテット及び協力者マグナアウルによって回収された炉心は超大型の飛行船等に搭載されるものと推測される。

 試作途中であるからなのか、はたまた別の理由からか、増幅装置に当たる部分が見当たらない。

 炉心内部の人間一人分が入れるサイズの空洞と合わせて、詳しい調査が必要である。

初の正式な共同作戦にして久しぶりに明るい感じのストーリーが戻ってまいりました。

やっぱりこういう感じの雰囲気がこの六人には合う気がします!

共に戦う仲間であり友人っていいものですね。

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ではまた来週会いましょう!

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